シロクロ!   作:zienN

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第9話 甘い禁句

「すぅ…」

 

なんとなく本棚のそばのパイプ椅子に目がいく。

その上には学生ならこれだろうというテンプレート的な学生カバンが鎮座していて、窓から吹き込む風にカーテンがひらひらとなびく。そしてそばには長テーブルが一つ。

そしてその椅子に、少女が一人、寝息を立てて眠っていた。

 

「んん…」

「…」

 

当然眠っているのは部長候補の二神さん。

放課後になってからすぐにいなくなったと思ったら、まっすぐここにきて、すぐに寝たのか。なんというか、余程退屈だったんだろうな。

 

「ええっと、涼香。入っていいぞ」

「うん。失礼しま…って寝てる!?」

 

教室に入ってテーブルの上の二神さんを見てすぐに、涼香は最速のツッコミを入れる。

 

「とりあえず紹介するよ。こちら、二神優白(にかみやしろ)さん。同じクラスなんだけど、知ってる?」

 

失礼だが俺は知らなかった。昨日も涼香のおかげで盛大な遅刻をし、ついた頃には俺たち三人以外の自己紹介は終わっていたからな…。

しかしそんな俺と違い、涼香はおー、と感嘆の声をあげる。

 

「もう一人って、二神さんだったんだ〜」

「ん?涼香、もしかして知り合い?」

「んー。名前だけだけどね。昨日敦也くんが言ってたんだ。『今年のクラスの奴らは名前読みにくいのばっかだな、特にこれとか』って。それで敦也くんが読めない名前の人をリストアップしたんだけど、くろくんの名前の近くに、二神さんの名前があったんだよー」

「なんで俺の名前もリストに載ってるんだよ…」

「よいしょっと、おとなり、失礼しま〜す」

 

近くの椅子を持っていって二神さんの隣に座った涼香は、その寝顔を覗き込む。

 

「仲良くなれるかなあ」

「二神さんも新しい友達欲しいらしいから、きっと仲良くなれるよ」

 

 

 

ピロリン。

チリーン。

 

 

 

突然俺と涼香のスマホが同時にメッセージの通知を知らせる。

噂をすればなんとやら、差出人は敦也から。

 

『ごめん しばらくそっちに行けそうにない』

『どうしたの?(・・?)』

『いやなんか。泣き止ませて適当に話したら帰ろうと思ってたんだけどリサ姉の愚痴が始まってさ。終わりがみえないんすよ』

 

どうやら敦也は先生に縛られているようだ。

敦也の話を聞くはずだったはずなのに…。

先生も色々と溜まってるんだろうな。

 

 

『面倒だから適当に切り上げて出ようとしたら、また泣きそうな顔して止めてくるから全然逃げられないしつらい 助けて』

『よくそんな状況でスマホいじってるな笑』

『ばれないように上手く隠してやってるんだよ ばれたら多分とられるからな』

 

 

「敦也くんすごいね。先生とお話ししながら私たちにメッセージ送ってるなんて」

「ばれてないのがまたすごいよな」

 

涼香とそんなことを話していると、また俺たちのスマホは連続で音を上げて数度震える。

 

 

 

『あ』

『やべばれた』

『たのむはやkyきてくれすまほとらr』

 

 

 

それ以降、敦也からメッセージが送られてくることはなかった。

 

「敦也、ばれたな」

「そうだね…」

 

 

 

『たのむはやkyきてくれすまほとらr』か。

 

 

 

 

頼む、早くきてくれ。スマホ取られる。

 

 

 

 

おそらくこう言いたかったんだろうな。

ローマ字打ちの敦也の字の乱れを見て、最後に足掻きながらも、俺たちにメッセージを送ったことがうかがえる。

 

「敦也のためにも、早いとこ二神さんの名前と部活名書いて、敦也を助けに行こう」

「了解です!」

「んん。ふあぁ…」

 

その時ちょうど、タイミングよく眠っていた二神さんが体を起こした。

眠そうに目をこすり、両手を広げて伸びをする二神さんと目が合う。

 

「ん…。あ、一条くん。こんにちは。遅かったですね」

「あ、うん。こんにちは。二神さん、とりあえずこれ、名前と部活名書いてもらっていい?」

「あ、はい。わかりました…」

 

寝ぼけているのか、目をこすりながら申請用紙に名前を書く。

 

「よし。とりあえず、四人集まったし、同好会ってことで申請するよ」

「んー。えっと、4人?」

 

首を傾げて俺を見る。

 

「うん。俺、一条玄人と」

 

自分を指差して、それから二神さんに手を向ける。

 

「私、二神優白」

「後もう一人、後でくるのと」

「私、四季、涼香ですっ!」

 

涼香が身を乗り出して二神さんの視界に入る。

 

「…」

 

数回瞬きして、固まる二神さん。

 

 

「えっと、四季りょ…」

「…ええあああああぁぁ!?」

 

 

 

突然、二神さんが逃げるように椅子から飛び落ちる。

 

「ええちょっとまなんでどうしていつからそこに!?」

 

色々と驚きすぎて言葉が選べないのか、色々な言葉を混ぜた発言とともに目一杯の感情を放出する。

 

「ええっと、最初からいたんだけど…。二神さん寝てたからさ」

「ああわわわわ…」

 

二神さんはパニックを起こして、後ずさりしながらせわしなく視線を泳がせる。

まさかここまで驚くとは。

こんなので友達できるんだろうか…。

 

「ええっと、あのさ…」

 

 

 

「落ち着いて!」

 

 

 

その時、涼香が叫んだ。

怯える二神さんを、涼香が歩み寄って抱き寄せる。

 

「…っ!」

「大丈夫。大丈夫だから」

「うぅ…!」

「まずは落ち着いて。それから、お話ししよう、ね?」

「…はい」

 

涼香が髪を撫でながら、優しく諭す。

二神さんも少しずつ、落ち着きを取り戻したようで、大きく深呼吸して呼吸を整える。

 

「ありがとう、ございます」

「うんっ!それじゃあ改めて、四季涼香です。よろしくね?」

「…二神優白です。よろしくお願いします」

 

二人は視線を合わせて、どちらともなく笑う。

 

 

どうやら俺の杞憂だったみたいだな。

仲良くできそうだ。

ダメそうだったら俺が仲を取り持とうと思っていたが、今回は俺の出る幕はないようだ。

大人しく、見守るとするか。

 

 

俺もそこらへんに散らばる椅子を持ち、テーブル付近において腰を下ろした。

 

 

「でも、四季さん。どこかで見たことある気が…」

 

 

 

「あ」

 

 

 

何かを思い出した二神さん。

なんだろう、俺の勘がこれ以上言わせてはいけないと叫んでいる。

 

 

 

 

 

「昨日、もしかして、一条くんが見せてくれた写真に写ってた、シュークリームの…」

 

ピクッ。

 

絶妙なタイミングで風が止み、教室が静まり返る。

 

 

--ああ、忘れてた。

 

 

涼香は自分の好きな甘いものの話になると…。

 

 

 

「そう、シュークリーム!二神さんも知ってるの!?あそこ最近できたシュークリーム屋さんなんだけどあそこのシュークリーム屋さんはとにかく種類が多いところがいいよね!生地もカリッとしてて食べ応えあるのとかふんわりしたのも選べるけどそれだけじゃなくてカスタードと生クリームの配分ができるから普通のシュークリームでも自分好みのシュークリームにできるのもいいかな。ジェラートシューも種類がいっぱいあって飽きないし暑い日も冷たくて美味しく食べられるなんてもう最高!季節限定で変わった味も出すみたいだから楽しみだなあ。あ、これだけでも全然良いんだけど何と言っても目玉はジャンジャンボシュークリーム!こーんなに大きくて夢がいっぱい詰まったシュークリームを贅沢に一人で食べれるんだよ!あ、一人もいいけどみんなで食べるのもいいよね。昨日早速食べてみたんだけどあれはもう格別で…お腹いっぱいシュークリームが食べれるなんてもう夢のような時間でね!それから…」

 

 

 

気づいた頃にはもう遅い。

涼香のスイーツトークが始まってしまった。

 

 

「え、えぇ!?」

 

涼香の機関銃のような言葉の雨は同年代の生徒と話し慣れてない二神さんには荷が重く、あうあうと口を開いて閉じてを繰り返している。

 

涼香は甘いものになるとすごいからなあ。

俺たちの間では甘いものに関する発言は禁句になっていたのに…。

始めに言っとけば…って言っても、そんなタイミングはなかったしな。

 

「い、一条くん…!」

 

ふと、思い出したように俺の方に視線を向けると、二神さんはどうにかしてくれと言わんばかりに俺を涙目で見つめてきた。

 

「ああ、もう、しょうがないなあ」

 

 

前言撤回。

 

 

やっぱ俺、出る幕あったわ。

 

涼香を納得させる理由を考えながら、俺は椅子から立ち上がり、床の上で繰り広げられるスイーツトークの切れ目に全神経を集中させることにした。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
涼香さんのお菓子の話についていくために、色々と横文字のお菓子の名前を知らないといけないということに気づいて戦慄しています。
それでは、また。
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