「…」
夕焼け空がオレンジ色に街を染め上げる中、俺、一条玄人はようやく見慣れた教室で一人、この手紙の差出人を待っていた。
「い、一条、君」
教室の窓を開け放ち、静かな街を眺めていると声をかけられた。
振り向くと見知らぬ女の子が俺の目の前に立っていた。
少しの間手を結んでは開いてを繰り返していたが、
「あ、あのね!私、一条君のことが…!」
敦也。涼香。シロ。
十字高校のみんな。
俺、ついにリア充になります。
「一条君のことが…す」
「うわああああぁぁいたいいぃぃぃ!」
「…」
妙な断末魔にはっと気づくと夕焼け空も教室に佇む物憂げな女の子の姿もなく、毎朝見ている自室の天井が視界に映るだけだった。
「…夢か」
本当に最悪。
一生覚めなきゃよかったのに。
それか正夢になってくれ。もう女の子の顔思い出せないけど。
「ごめんなさいごめんなさい話しの流れでついいだいいいぃぃぃ!!」
俺のかけがえのない時間を台無しにした断末魔は今も鳴り続けている。
まあ大体予想はつくんだけど。
「ふわあ、おはよう。敦也」
玄関まで行くと敦也が
「よお、クロ。起こしちゃった?」
「うんまあ。毎度早いねえ」
「あああぁぁ!われるうぅ!あたまがわれるよあつやくうん!!」
敦也の指の間から苦悶の表情が覗き、女の子があげるそれとは思えないほどの叫び声のおかげで漸く頭が動き始めてきた。
「上がってよ。後、本当に頭割れたら大変だからそろそろ離そうね」
「悪いね。お邪魔します」
「…」
悠。お兄ちゃんのせいでごめんな。
敦也に解放され、無言で頭を抑えてうずくまる悠を気の毒の思いながらも、俺は心の中でとりあえず謝っておいた。
「お待たせ」
「おう、今日も決まってんな」
寝間着から着替えてリビングに着くなり、俺の服を見て敦也はそう言った。
ボーダーに白いスキニーパンツ、そしてテーラードジャケット俺のお気に入りの組み合わせだ。家の中なのでジャケットはまだ着ていないが。
「敦也は相変わらずパーカー好きだね」
対する敦也はグレーのパーカーとジーパン。特に洒落ているとは言えないが、酷いとは言えない程度の服装をしていた。
こういうと敦也は決まってこういう。
「クロさんみたいにモテるの意識してないから、最低限でいいんですよ」
平常運転ですね。
いつも通りの返答、ありがとうございます。
「朝ごはん食べてきた?まだならなんか作るけど」
「今日はいいかな。どうせすぐに昼になるだろうし」
時計を指差し敦也がいう。
時刻は8時。一条家はこのくらいに朝食を取るのが休日の定番なのだが、時たま敦也が遊びに来るときは一緒に食べることがある。今日はいらないようだ。
「そっか。じゃあ俺と悠の分だけ作るよ。腹減ったらキッチン使っていいから」
「ありがとう。僕はハルと遊んでるよ」
「あまりいじめるなよ…」
「もう説教は終わったよ。ままごととか適当な遊びでもしとくよ」
中学生相手にままごとはレベルが低すぎる気がするが…。
敦也を見送って、俺も朝食を作るべく冷蔵庫を漁った。
「いただきます」
「ハル、腕あげたな」
「でしょ!?あつやくんもそのうち超えちゃうんだから!」
「へえ〜、それだけ言うなら一回くらい勝って欲しいね」
「んー!食べたら続きやるんだから!」
両親抜きの3人で囲む一条家の食卓。
こうして食卓に敦也が座るのも珍しい光景ではない。
大抵遊びに来る日は朝早いからな。
正直ほとんど帰ってこない親より食卓を囲む頻度が高い。
まだ幼い悠にとって敦也はいい兄貴役で、こうしてゲームとかで遊んでくれるから寂しさをあまり感じさせずに生活できているようだ。
「後聞いておきたかったんだけどさ…。それ、どっか怪我してんの?」
「え?あ、これ?」
包帯と眼帯について尋ねる敦也に対し、触れてくれたことが嬉しそうな悠。
「はあ、とりあえず怪我とかじゃないらしいよ」
「ふっふっふ…。カッコいいでしょ!」
「…」
顔を覆って落胆する敦也。
次に顔を上げた時、いつもの鋭い目は死んだ魚のような目をしていた。
「ハル。一応聞いておくけど、学校にはそれ巻いて行ってないよな?」
「え、行ってるけど?」
「…いつから?」
「えっと。2年生に上がってからかなあ」
「…」
奥歯を噛み締めて、敦也が辛そうな表情を浮かべる。
「あ、敦也?」
「いや、何でもないんだ。ちょっと昔を思い出して」
「ごちそうさま!さ、早く続きやろ!」
「ああ、わかった…」
そう言って連れられる敦也に、なぜだか先程までの生気は感じられなかったが、ただ腕は落ちていなかったようで、悠に対しては容赦のないコンボを繰り出し、悠の操るキャラクターを場外に弾き飛ばしていた。
明けましておめでとうございます。
今年も皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
最後まで読んでいただきありがとうございました!