シロクロ!   作:zienN

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中二病的エピローグ

部室へ帰る途中、敦也の携帯が震える。

 

「ふーん」

「どうしたの?」

 

敦也は通知画面を俺に向けた。

差出人は、見たことのある画数の多い名前。

 

「ユウキから連絡だ。おすすめのキャラ教えてくれって」

「あ、連絡先交換してたんだ」

 

沢渡優希。

敦也に届いたメッセージの主の名前を見て、少しだけ驚いた。

 

「まあ。こまめに教えとかないと、あいつ上達しないだろうから」

「そっか。それにしても考えたね。中二病を治すために、別のもので上書きだなんて」

「ハルだからできたことだ。他の身近じゃない子だったらできない」

 

敦也の作戦は単純かつ明快なものだった。

中二病をやめさせるため、敦也が悠に挑んだのはゲームでの賭け。

ゲームはうちにあった全年齢対象の人気格闘ゲーム。敦也と悠がよく遊ぶゲームであり、様々なゲームから参戦したキャラの豊富さと相手を吹っ飛ばした時の爽快感が魅力であるそのゲームで、敦也は悠に賭けを挑んだ。

賭けの内容は、勝った方が負けた方になんでもいうことを聞かせられる権利を得るという、結構グレーな賭けだ。

賭け事が嫌いな悠がそれに乗るとは思ってなかったが、勝てば敦也に何でもいうことを聞かせられると聞いた途端、いつになくやる気を見せ、一も二もなく勝負に乗った。

しかし相手は敦也。その格闘ゲームの強さにおいては群を抜いていて、俺も一度たりとも勝ったことがない。

悠は敦也の接待プレイのおかげで勝つことがあるが、本気のメインキャラは一度だって見せたことはない。

負けるわけにはいかない敦也は本気とまではいかないがそれでも使い手であるキャラのうち一体を使い、敦也が操る緑色の恐竜は可愛い奇声をあげながら悠を完膚なきまでに叩きのめした。

そして勝った敦也が提示した条件。

それはもちろん、敦也の中学時代の写真の返還と、健康状態での包帯眼帯の着用の禁止。

ここまでが中二病の荒治療。そしてここからが優希君との接点を作った要因。

落ち込む悠に敦也が最後に言った言葉。

 

『またそのうち賭けに乗ってやる。ただ今のままじゃどうせまた負けるだろうから…そうだな。お前の友達の沢渡優希に教えてもらえ。あいつはこのゲームにおいちゃ天才だからな』

 

その言葉が決め手となり、悠はこのゲーム一層はまった。以降優希君は悠と共通の話題を持つことができ、中二病を晴れて卒業できたというわけだ。

 

「結構来てるねー。優希君も真面目だなあ」

「まああいつ、本物の初心者だからな。嘘がバレたら、僕もハルに怒られる」

 

優希君はゲームを持っていなかったため、少ないお小遣いで新しくゲームを買って、敦也に教えてもらいながら姉と一緒に勉強しているようだ。

敦也と優希君のトークルームの吹き出しの数を見ればわかる。

姉からは全然連絡はなかったから姉の方でいじめの問題が解決したのかは今日まで分からなかったが、弟からはこうして度々の連絡が来ていたから、敦也は優希君のことに関しては解決したと思っていたんだろう。

 

「でもそのうち優希君が敦也を超えたら、悠の代理で優希君が敦也と戦うことになりそうだな」

「はっはっは」

 

なんてことないかのように、敦也は感情も込めずに声だけで笑う。

 

「負けるわけないだろ」

「あはは、確かに」

 

 

 

 

部活棟に着くと、階段を上がるごとに、吹奏楽部の管楽器や打楽器の音が流れて来る。

さらに上がると、軽音楽部から聞こえるアンプに繋いだギターの歪んだ音や胸を震わせる低いベースの音も合わさって、違う曲なのに妙な一体感を奏でていて、放課後の校舎に不器用だが心地よい、若々しい音楽を奏でる。

毎日この音楽を聞くたびに、青春の聖地にいるんだという実感が湧く。

 

「敦也」

 

自分もその青春の一部にあると言う感動と、心の奥底から湧き上がって来る高揚感を抑えられず、最後の階段を駆け上がって、ポケットに手を入れながら歩く敦也に振り向く。

 

「俺さ、今、一番青春してるかも!」

 

敦也は何食わぬ顔で階段を上りきると、一度だけ俺を見て、短く「あっそ」とだけ言って、俺の前を通り過ぎる。

 

「ま、いいんじゃねえの」

「敦也、これからも、よろしく頼むよ」

「…ああ」

 

ニッと口を引き伸ばして笑った横顔を見せて、部室の扉に手をかける。

俺も敦也に続いて部室に入ろうと近寄るが、敦也はいつまでたっても俺に横顔を見せたまま部室に入ろうとしない。

 

「敦也?」

「…」

 

ガチャガチャガチャガチャ!

騒がしくドアノブを弄り倒した後、扉から手を離し、背を預けて座り込む。

やれやれと言った感じで両手を上げ、敦也はため息をついた。

 

「鍵、かけていきやがった…!」

「…」

 

まじか…!

今の流れは、敦也が扉を開けて、一緒に部室に入って、

『俺たちはこれからもこの部活動で、甘くて楽しくて、賑やかな時を過ごしていく。そう、4人で』

とか俺のモノローグで締める展開じゃないの!?

シロぉ、空気読んで鍵あけといてくれよ…!

台無しだよお…!

 

敦也が、バカにしたように言う。

 

「言いにくいけど今のやりとり、台無しだな」

「やめろ」

「俺さ、今、一番青春してるかも」

「やめてくれ」

「敦也、これからも、よろしく頼むよ」

「ああああああぁぁぁ!!!恥ずかしいだろ!?やめろって!!」

 

なんだ!ちょっと、いやちょっとじゃない!スッゲーはずかしい!何だこの例えようのない恥ずかしさは!

辛い!今すぐ帰って枕に顔を埋めたい!バタバタしたい!

 

「クロ」

 

廊下の上で身悶える俺を、ニヤニヤしながら敦也が言う。

 

「クロ、中二病の特徴覚えてるか?後になって自分の行いが恥ずかしくなって、思わず枕に顔を埋めたくなるような、突発的に訪れる羞恥心。そう、これこそが…」

「何だ…?うわ、何この人…」

 

俺の声に驚いたのか、同じ階で部活動をしていた生徒たちが部室の扉を少しだけ開けて顔を覗かせ、その若干、いやかなり引いた視線が、俺をさらに痛めつける。

 

「これこそが、拭い去れない記憶。黒歴史だ…!」

「あああぁぁぁ…!」

 

もう、色々と、台無しだよ。

後日、「モテない一条玄人」、「三馬鹿の一条玄人」に続き、文芸部の奴らに「廊下に恋したヤバい奴」と裏で呼ばれるようになることを、この時の俺はまだ知らない。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
やっと彼らの4月が終わりました(長かった…。)
次は5月に入りますが、まだ付き合ってやるという方はお付き合いください。

それではまた、次回、お会いしましょう。

P.S.お気に入り10件ありがとうございます。
これからも頑張りますので、よろしくお願いしますm(_ _)m
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