シロクロ!   作:zienN

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こんにちは。
今回はおまけ回です。
読まなくても差し支えはないので暇な方はお付き合いください。


Extra:4月末のある日

チャイムの音で目がさめる。

今日は土曜日。そして時間は朝7時。誰だ。こんな時間に家のベルを鳴らすものは。

 

「ん…。すいません、俺、低血圧だし、親もいないので、セールスはちょっと…」

「何言ってんだ?」

「ん…?」

 

聞き覚えのある声に寝ぼけ眼をこする。

ぼんやりとしていた輪郭がはっきりし、見たことのある逆立った頭が目に映る。

 

「よっ」

「…敦也。こんな朝早くに、どうしたの?」

「ん?聞いてないのか?ハルからお呼びがかかったんだよ。今日遊びに来いって」

「え?」

 

何も聞いてないんだけど…。

その時、階段をドタバタと忙しそうに駆けおりる音が俺の寝ぼけた頭を刺激する。

 

「あつやくん、おはよう!今日は負けないからね!」

「そーか。クロ、とりあえず上がるぞ」

「…え?」

 

寝起きでかみ合わなかった俺の頭の中のネジが締められ、ゆっくりと歯車が回転を始めた。

 

 

 

 

 

「勝負?」

「そ。どうしても戦いたいって。ユウキを通して誘われたんだよ」

 

敦也はそういうと、ショルダーバッグを外し、パーカーのチャックを少し下げ、パタパタと仰ぐ。

 

「ちょっと待って、優希君から?」

「ああ。あいつも来るらしいな」

 

まじかよ。

まじかよ…!

 

「悠。聞いてないんだけど」

「言ってないからね〜」

「いや、言えよ」

「どうして?」

「どうしてって…。はあ、もういい」

 

いや普通、友達呼ぶときはいうでしょ。

女友達とか呼ぶ時、「お兄ちゃんリビング来ないでね」とか、そういうのあるでしょお年頃なんだし。

まあ、それはそれで兄としてはショックなんだけど…。

 

「それじゃあ早速、デュエル、スタンバイだよ!」

「よく知ってるなそんな古い言葉。その前に、朝早いし、朝飯食ってからでいいだろ。クロも食ってないだろ?」

「あ、うん」

 

そういえばまだ朝なんだった。

俺の触覚が何本も生えたような寝癖を指差し、敦也はキッチンに向かった。

 

「お客さん、今日は何を作りましょうか」

「うん、お任せで」

「私も!」

 

カウンター席に座り、バーのマスターのように腕をまくってフライパンを取り出す敦也はそこそこ様になっている。

まあ、一応料理はできるからな。

 

「それじゃあ今日はもうすぐ4月も終わるけど、春らしい料理、作っていきましょうか」

「お、いいね。俺、一回着替えてくるよ」

「おう、ついでに寝癖もなおしとけよ」

「分かってるって」

 

ATSUYA'S Kitchenは見れなくて残念だが、まあ最後の仕上げくらいは見えるだろう。

そう思い、俺はひとまず自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

「それで、何これ」

「いや、4月と言ったら、出会いの定番じゃん。ってことで、トースト」

「フライパンは使わなかったのか!?」

「うん、演出」

 

演出って。

敦也は4月をテーマにした料理として、食パンにマーガリンを塗っただけという、シンプルな献立を考えたようだ。

しかし言いたいことはわかる。遅刻しそうでトーストくわえながら曲がり角で美少女とぶつかってあたたたた、その子はまさかの転校生で、そこから始まる王道ラブストーリー!って感じだろう。

残念ながらこの俺、一条玄人にはお目にかかれそうにないシチュエーションだ。

 

「まあ、食えよ」

「…いただきます」

「いただきま〜す!」

 

火傷しないようにトーストの端をつまみ、一思いにかぶりつく。

サクッと口の中で音を立てて、その音に少し遅れてマーガリンの焼けた香ばしい匂いが口いっぱいに広がる。

決して濃くなく、かと言って物足りなさを感じさせない風味。

 

「うまいな」

「ま、こんなの誰でも作れるけどな」

 

そう言って敦也もトーストを食べ始める。

案外シンプルなものでもうまいものだな。

久しぶりに食べたトーストは、俺の中に謎の感動を生み出してくれた。

 

 

 

「うわ、また負けた!」

「やっぱりまだまだだな。ハル、弱すぎ。ヨワヨワのヨワだわ」

「ううぅ〜!もう一回!」

 

朝食後、こうしてゲームに興じているが、敦也の無双っぷりは相変わらずで、接待用に弱いキャラを使っているにもかかわらず、悠はほとんど手も足も出ない。

 

「あ、ミスった」

「やった、当たったぁ!」

 

ただ敦也は優しいところもある。

ばれないようにわざと操作を間違え、悠に勝ち筋を提供している。

本当に上手い奴ってのは、相手にわからないようにわざと負けることができるやつのことを言うのかもしれないな。

 

 

 

 

「お、お邪魔、します!」

「いらっしゃい」

 

それから少しして、優希君が来た。

 

「あ、ゆうきくん。おはよう」

「一条さん!お、おはよう!」

 

緊張しながらも、優希君は悠に挨拶をした。

いつもの俺ならばこんなに甘酸っぱくて微笑ましい雰囲気は好きなんだが、相手が妹となると、なんとも喜び難い。

 

「おい、シスコン。そんな顔すんな」

「し、シスコンじゃないよ!」

 

顔に出ていたのか、敦也にいじられ、動揺が隠せない。

敦也は俺にコントローラーを押し付け、テレビから離れたカウンター席に座る。

 

「ちょっと疲れたから交代。クロ、頼む」

「ああ、うん」

「よし、ユウキ、ちょっとこい」

「は、はい!」

 

優希君は敦也に呼ばれ、俺と入れ替わる形で敦也の元へ行く。

 

「悠とタイマン、久しぶりだなー」

「最近は全然やらなかったからね〜」

 

俺が選んだのは中距離型の剣士キャラ。

中学校の頃ハマってたゲームのキャラだ。

リーチの長い剣を振り回し、どんどん悠のキャラを追い詰めて行く。

 

「あ、うう!」

「よし、もらった!」

「あ!」

 

必殺技が直撃し、悠のキャラは画面外に吹っ飛んだ。

手加減もせずに勝ってしまったが、まあ、兄貴としての威厳もあるし、なんとなく、負けてはいけない気がした。

 

「お兄ちゃん、強すぎるよ〜」

「まあ、敦也に仕込まれてるから」

 

敦也との勝負で鍛えられていることもあり、そこそこの腕はある方だと自負している。

その理屈で言えば、優希君も敦也仕込みで腕が上がるはずなのだが…。

 

「悠、ちょっと一人でやっててくれ」

「うん、わかった」

 

後ろで何やら話している二人の様子を伺いに行くと、優希君の手には携帯ゲーム機が握られていた。

 

「ん、これ、同じやつ?」

「ああ。僕が持って来たやつでね。今、ユウキがどれくらい上達したか見てるんだけどさ」

「うう、あ!」

 

敦也の表情が曇っているのを見て画面を覗き込むと、優希君の操るキャラクターはレベルの低い相手にさえフルボッコ状態にまでいじめられていた。

やっぱ初めて数週間程度じゃ難しいよな…。

そんな時、悠が優希君へ爆弾を投下した。

 

「ゆうきくん、どうしたの?そんなとこにいないで、一緒にやろうよ!」

「ううぇえ!?ちょっと待ってて!」

 

絶望的な状況だ。

間違いなくこのままやれば優希君が弱いことがバレてしまう。

 

「ユウキ。このままじゃハルに嘘がバレるぞ。どうする?」

「ど、どうしましょう!?どうすればいいですか、玄人さん!」

「いや、俺に聞かれても…。なんかないの、敦也?」

 

敦也が少し難しそうな顔をして、優希君を見る。

 

「うーん、一応あるけど。ちょっとずるいぞ」

「それでもいいです!嫌われるよりは…!敦也さん、お願いします!」

「わかった。今回はクロにも手伝ってもらうからな」

「うん、わかった。どうすればいいの?」

 

 

 

 

 

 

「うわー!また負けたー!」

「どうだハル。ユウキ、強いだろ」

 

カウンター席からテレビ画面を見る敦也が、悠にわざとらしく声をかける。

 

「うん、強い!あつやくんが天才って言ってたの、本当だったんだね!」

「あ、あはは。僕も敦也さんに鍛えてもらってるから…」

 

ぎこちなく笑いながら、優希君は答える。

今の戦いで悠の5連敗だ。

本当なら連敗するのは優希君の方なのだが、全く敦也も姑息なことを考えたものだ。

 

「もう一回、やろ?」

「う、うん。どのキャラにしようかな…」

「私はこのままで!」

 

悠が選んだのはこのゲームの製作会社の看板と言っていいほどの人気がある真っ赤な帽子の配管工。

悠は愛用している。

 

「じゃあ、僕はこれにしようかな」

 

優希君は対戦が始まるまでどのキャラが出るかわからない、いわゆるランダムセレクトを選んだ。

少しの読み込みの後、対戦が始まった。

 

「お、こいつは使ったことあるな」

 

敦也が近くにいる俺にだけ聞こえるくらい小さな声で呟いた。

 

「いまだ!」

「ええ!?」

 

悠の攻撃をやすやすと躱して、優希君は容赦のないガチ勢レベルのコンボを決め、一気にダメージが蓄積する。

 

「…っ!優希君、演技うまいなあ…!」

「本当にね」

 

携帯ゲーム機を操りながら、敦也が向こうで戦っている二人に聞こえないように答える。

もしこの場に涼香かシロが入れば一発で気づくだろうが、実は現在プレイしているのは敦也だ。

敦也は現在いじっている携帯ゲーム機が、テレビゲーム機と無線で通信をすると、コントローラーとして使用することができる点を利用した。

簡単に言うとゴーストライターならぬゴーストプレイヤーだ。

優希君の代わりに敦也が戦い、その動きに合わせて優希君が話すという、悠が後ろを振り向けばバレそうな狡くて脆い作戦だ。

優希君は適当に手に持ったコントローラーをガチャガチャ動かし、たまに言葉を挟む。

敦也はその後ろで悠の苦戦する様子を見ながら、こうして俺の後ろで悠を追い詰める。

 

腹話術師もびっくりするような二人羽織プレイは、滑稽すぎて俺の笑いのツボを押すのは十分なわけで。

 

「ぷっ!くくっ!」

「クロ、バレる…!」

「ふふ、ごめんごめん」

 

俺は俺で笑いをこらえながら、仁義もスポーツマンシップも無いこの戦いを見守っている。

俺の役目はいたって簡単。悠が振り向いてもバレないように、敦也の前に座って壁になるというもの。

ただこうして笑いを堪えるのが、俺にとって何よりも苦痛だ。

 

「それ!」

「わぁ!」

 

そしてまた悠の操る配管工が吹っ飛び、これで6連敗。

 

「ゆうきくん強いね〜!全然勝てないよ〜」

「い、今のキャラは僕の得意なキャラだったから。変なキャラじゃなくてよかったよ」

 

そこから二人の会話がどんどん加速する。

 

「ゆうきくん!このキャラのコンボってどういうのがあるの?」

「えっと…」

「掴みからの空中連撃で一発場外コンボだな。ユウキ、確か前にやってたよな」

「あ、ああ、そうですね!」

 

悠の難しい質問に対しては敦也が代わりに答え、うまく間を取り持つことでいい雰囲気になってきている。

よかったな悠。

お兄ちゃん的には反対だけど、とりあえず応援はしとくからな。

何気なしに時計を見るとそろそろ昼が近いので、キッチンへ歩き出す。

ちょうどその時、悠の言った言葉がこのいい空気をぶち壊す。

 

「ねえ!ゆうきくんとあつやくんが戦ってるとこ見せてよ!」

「え!?」

「もちろん、この前やった、勝った方が負けた方になんでもいうこと聞かせられるルール付きで!」

「…昼飯食ったらな」

 

これはやばいやつです!

優希君の目がそう語る。

うん、これはまずいやつだな。

敦也の目も少し険しい。

のっそりと敦也が立ち上がった。

 

「クロ、今日はチャーハン作ろうぜ。材料あるか?」

 

含みのあるその笑顔が意味することを察し、俺は冷蔵庫を覗き込み、間抜けな声を出す。

 

「あ、いっけねー。卵と野菜切らしてたー。これじゃあチャーハンがただの色付きご飯になっちゃうよー。ちょっと買いに行ってくるわー」

 

もちろん嘘だ。

冷蔵庫の中には卵は1パック、開けていないのが冷蔵庫に入っているし、具になりそうなネギやピーマンや、トッピングの紅ショウガまで完備されている。

 

「お、マジか!じゃあ僕もついていくわー。おいユウキ、お前確か人生で一回もコンビニ行ったことなかったんだよな!?僕とクロがコンビニの礼儀作法ってのを伝授してやるよ!」

「え、あ、はい!いやあ、コンビニ、楽しみだなあ!どんなところなんだろう!」

 

少々無理がある気もするが、敦也と優希君がうまく乗ってくれた。

 

「あ、みんないくなら私も…」

「というわけで悠、お前が好きなあのたっかいアイス買ってきてあげるから、留守番頼んだよ」

「本当!わかった、行ってらっしゃい!」

 

 

 

 

 

悠をどうにか言いくるめ、俺たちは迅速に家を出て、コンビニへと歩く。

外はもう四月の終わり。春の陽気と花の匂いが心を落ち着けて、雲ひとつない青空に浮かぶ太陽が、俺たちを見下ろす。

 

「クロ、ユウキ。ナイス」

「なんとかうまくごまかせたな…」

「でも、これからどうするんですか?」

 

焦りが隠せない優希君が敦也に意見を求める。

ここでバレたら、今まで裏でやってきたことが全部無駄になりそうだからな。

 

「そうだな…」

 

 

 

 

 

 

『3、2、1、Go!』

 

ゲーム画面からネイティブアメリカンレベルの英語が聞こえると同時に、優希君と敦也のキャラが動き出す。

悠はその二人の後ろでソファに座って観戦をしている。

 

「…」

 

俺はキッチンからテレビを眺め、横でフライパンを熱しながら、料理するふりをして、敦也から借りたゲーム機を必死に操作する。

 

敦也の考えたことはさっきと同じ、ゴーストプレイヤー(俺)が優希君に代わり戦うこと。

リビングとダイニングとキッチンが一体となった、いわゆるLDKという間取りであるために二人の対戦を眺めながら料理をするふりをして、ひたすらに敦也との熱戦を繰り広げる。

 

父さん母さんありがとう。

この間取りにしてくれたおかげで、悠の恋路の役に立ってるよ。

何度もいうが俺は認めないけど。

熱戦を繰り広げること数分、玄人レベルの腕前で敦也に食いついていたが、だんだんと押されていく。

 

「よっしゃ」

「おあっ!?」

 

最後の一撃をくらい、思わず声が出てしまった。

 

「あっつ!油入れすぎたなー」

 

油がはねたことにしてごまかしたが、悠は俺のことは気にしていなかったようで、終わると同時に歓声をあげた。

 

「すごい!やっぱうまい人がやると、キャラが生きてるみたいにくねくね動くね!」

「そうだろ…?」

「あはは、やっぱり敦也さんは強いや…」

 

こうして災難は乗り切った。

遅れを取り戻すように急いで野菜を刻みにかかる。

 

「クロ、やるじゃん」

 

敦也が俺の切った野菜を集めてフライパンに乗せ、いつの間に取り出していたのか卵を混ぜてご飯とともに炒め始める。

 

「流石だね。やっぱ勝てないや」

「ま、良くも悪くも、クロは玄人(くろうと)だからな」

「うまいこと言ってるつもり?」

「まーな」

 

調味料を入れてフライパンをせわしなく動かしながら、敦也はリビングで話し込む二人を見た。

 

「いいねえ、青春っての?」

「いや本当に、羨ましいなあ」

 

微笑ましく、甘酸っぱい光景を眺めていると、敦也が小突いて呟いた。

 

「妹と自分を比較すんな。大丈夫、そのうちクロにも真っ青な春が来るはずだからさ」

「…そうだね」

「よし、お前ら、飯の時間だ。今日は僕とクロ特製の、店よりうまいチャーハンだ。後、ユウキ、お前負けた罰として、今日からハルのことは名前で呼べ。いつまでもそんな距離置いてんじゃねーぞ」

「ええ!?」

 

 

 

 

 

 

それから昼飯を食べた後、ゲームやらボードゲームやら、4人で賑やかに騒いでいると、すっかり日は傾いていた。

 

「じゃあ、お邪魔しました」

「お邪魔しました!」

「ゆうきくん、また遊ぼうね!」

「うん、また!」

 

二人を見送って、片付けをする中、悠が感慨深く声を上げる。

 

「ああ、楽しかった〜!」

「よかったね。また遊べるといいな」

「うん、今度はあつやくんに勝ってみせるんだから!」

 

目を輝かせてそういう悠から、優希君の名前は出てこない。

 

「あはは…。優希君は?」

「ゆうきくんよりあつやくんだよね!あつやくんの方がずっっっっと強いもん!」

「そっか…」

 

敦也、もしかしてだけどさっきの試合、負けた方が良かったんじゃないか…?

しかし優希君の片思いはまだまだだというにもかかわらず、少しだけ安心する俺もいるわけで。

 

「今日からまた、頑張らないとね!」

 

やっぱり、シスコンなのかなあ。

 

悠の張り切る姿を眺める中、敦也に言われたシスコンという言葉が、いつまでも俺の頭の中でぐるぐると渦を巻いていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
おまけ回ということで書いてみたのですが、思ったより長くなってしまいました(汗)
おまけなのでゲームの話も入れていて、ちょっとわかりにくいところもあったかもしれないです…。申し訳ない…。

さて、次回からはやっと5月に入ります。
次はちょっと空気だった優白に出番を…。

それでは、次の回でまた会いましょう。
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