シロクロ!   作:zienN

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またまた番外編です。
今回はバレンタインデーの一ヶ月後の話です。


お返し戦線、異常アリ

「…よし」

 

今日は俺にとって特別な日。

因縁か宿命か、それとも運命だったのか、俺はついに、今まで参加することのできなかったイベントへの参加を許された。

 

3月14日。

そう、ホワイトデー。

 

「さ、敦也、作戦タイムだ」

 

学校に着き、教室に鞄をおくなり敦也を少し離れた空き教室へ呼び出す。

呼び出された敦也は少しだけ不満そうな顔。

 

「いや、作戦タイムったって…」

「敦也、今日が何の日かは当然わかるだろ?そう、ホワイト…」

「そんなのはわかってるよ。そうじゃなくて…」

 

俺を遮って続けようとする敦也をさらに遮る。

 

「話が早くて助かる。それじゃあ本題に入ろう。前に俺がチョコをもらったのは覚えてるだろ?それでお返しをしたいんだけど、タイミングがわからなくてさ。敦也に意見をもらいたい」

「…話はわかった。でもなあ」

 

敦也は不機嫌そうに立ち上がると、携帯を取り出して俺に見せる。

見せられたのは涼香からのメッセージ。

 

『あつやくんとくろくんどうしたの?もう授業始まってるよ?(・・?)』

 

「いくらなんでも、授業サボることはないだろ」

 

時刻はすでに9時近く。

一時限目が始まっている中、俺と敦也は授業をサボり、空き教室に潜んでいた。

 

「教室戻るぞ。今から行けばまだトイレ行ってたとか適当な理由で何とかなるから」

「いや、待って!本当に待って!今日だけは!今日だけは俺のために!頼むよ、なあ敦也ぁ!」

 

椅子から立ち上がり教室を出ようとする敦也の足にすがりつき、決死の思いで引き止める。

俺の恋愛戦線はここを逃したら負け確定だ!

なんとしても、今日は一時限目は絶対に休ませる。

 

「おい、やめろ。離せって」

「頼む!何でも言うこと聞くから!」

 

数分の抵抗を見せた結果、ついに折れた敦也が大きく息を吐く。

 

「…はあ、もうわかったよ。貸し一つだからな」

 

敦也が制服を脱ぎ、さっきまで座っていた椅子の背にかけると、黒板の前に立つ。

 

「要するに、平和(ひらわ)にバレンタインの時のチョコのお返しをしたいんだよな」

「うん、そう」

 

俺は一番前の席に座り、教卓に立つ敦也に向き合う。

閑散としすぎてまるで廃校寸前の学校みたいだが、そんなことは気にしない。

コツコツとチョークを黒板に突き立て、敦也がへいわちゃんこと平和実(ひらわみのり)の特徴を黒板に書き出す。

 

「カースト上位、料理研、料理が得意、明るい、男女の壁がない。バカ…あとなんかあるか?」

「笑顔が可愛い!人気者!」

「なるほど。まあわかってたけど…」

 

それらを書き終え、敦也は一つの結論を出した。

 

「ただのリア充だな。クロ、まじでお返しするつもり?」

「もちろん!俺は彼女に、最高のシチュエーションでお返しがしたいんだ!」

 

せっかくのホワイトデー初参加なんだ。男として、万全の態勢で臨みたい。

 

「なるほどね…最高のシチュエーション、か」

 

敦也が時間割を書き出し、その間の休み時間をピックアップする。

 

「よし、今日は6時間授業がある。で、休み時間は午前は10分休憩が3つ、昼休みが1時間。そして午後は5、6時間の間に休憩がある」

「うん」

「まず午前の休み時間。ここは多分クラスの仲の良い連中が適当に板チョコとか市販のクッキーとか渡すだろうな。フレンドリーに返すならここら辺がベストなんだが、最高のシチュエーションってそういうことじゃないんだろ?」

 

流石敦也、話がわかっているじゃないか。

そう、俺の求める最高とは、ロマンスを感じさせるような良い雰囲気で、ときめくような綺麗な言葉で、友人関係から恋愛関係に一気に格上げされるような。俺が求める最高はそこにある。

 

「ああ、俺は、彼女を落とす気でいく。だからそうなるように少しでも良い場を整えたい。できるか、敦也?」

 

敦也なら何とかしてくれるのではないか。

そう思って俺は今日、こうして敦也に相談をしているのだ。

 

「…お前、痛いなぁ」

「え?」

『五十嵐先生、至急職員室に来てください。五十嵐先生、至急職員室に来てください』

 

敦也は険しい顔をして何か言ったが、ちょうど放送で先生の呼び出しがかかり、うまく聞き取れなかった。

 

「ま、わかった。じゃあ午前の休み時間は全部無理だ。平和は沢山配ってたはずだから、お返しが殺到するかもな。昼休みには他のクラスの奴らもくるはずだから、昼休みもダメだ」

 

次々と休み時間に×がつけられる。

残る休み時間は午後の一つだけ。

 

「最後だ。この時間になるとそろそろお返しをする奴はいなくなって来るだろう。ってかいないだろ。そういう意味では呼び出しても差し支えないと思う」

「じゃあ、そこの時間に…!」

 

しかし敦也は何も言わずに×をつけた。

 

「残念だが、今日は避難訓練がある。表向きは6時間だが、6時間目は飾りらしい。5時間目の途中から避難訓練開始だ」

「な…!」

 

はあ!?飾りってなんだよ!

しかもまた避難訓練かよ!

この学校、バレンタインとホワイトデーを災害だと思ってるんじゃないか!?

 

「じゃあ、もうだめなんじゃ…」

 

脱力する俺。しかし敦也は希望を捨ててはいなかった。

 

「まだ時間はある。放課後だ」

 

俺の心に火が灯った。

 

「放課後!そうだ放課後があったじゃん!」

「ああそうだ。夕暮れの教室。二人だけの空間で、お前のできる最高のシチュエーションで渡してやれ。うまくいけば、ちょっとは意識してもらえるかもな」

 

夕日が差し込み赤く染まった空と教室。

高校生にとってこれ以上にロマンスを感じさせる場面はないだろう。

 

「平和には放課後、僕が教室に来るように料理研の部室までアポを取りに行くよ」

「敦也…!」

 

持つべきものはやはり親友だ。

俺が敦也と出会えたことは、高校生活で一番の幸運だったのかもしれない。

 

「もう授業も終わりだ。そろそろ教室戻るぞ」

 

ミッション開始時刻は放課後。

このチャンス、絶対にモノにして見せる!

 

 

 

 

「へ〜。くろくん、(みのり)ちゃんに放課後にお返しするんだぁ」

「ああ」

 

どうでもいい午前の時間を乗り切り、俺たちは再び屋上にて昼飯を食べていた。

 

「はい、この前のお返し!」

「わっ、ありがとう〜!」

 

ベンチに並んで座って飯を食うカップルのなんと羨ましいことか。

俺も来年の今頃には、ああいうことしてみたいなあ。

 

「お待たせ。よっと」

 

そんな光景を眺めていると、敦也がレジ袋を持って屋上の扉を開けた。

 

「敦也くん、お昼ご飯買ってたの?」

「平和に放課後の予定聞いてたんだよ。一応部活はあるけど、少しなら抜け出しても大丈夫だってよ」

「あ、じゃあ、放課後は空いてるんだね!」

「らしいな。部活中に呼び出すか。涼香、悪いけど、一緒に残ってくれ」

「了解です♪」

 

そして昼休みも終わり、午後の授業も無事に中断され、避難訓練。

 

「ええ、みなさんが揃うまでに…」

 

キイィィィィィン!

校長のこのマイクのハウリングも苦すぎる初恋の思い出も今の俺にはなんて事はない。

 

勝負の時間は、刻々と迫っていた。

 

 

 

 

放課後。

 

「さてと、料理研の部室はここか」

 

恋に恋する面倒な友人、一条玄人に付き合い、僕はこうして部活棟に侵入する。

一階に位置する料理研の部室の前で立ち止まる。中からは女子の楽しそうな話し声が聞こえる。

その中には僕の知る、平和実という、本日のターゲットの声も聞こえた。

ノックをすると、はーいどうぞー、と気の抜けた返事が返って来たので、遠慮せずに中に入る。

 

「およ、昼休みぶりだね」

「よ、平和。今暇か?」

「ぜーんぜん!今は仕分けでそれどころじゃないのだよ〜」

「仕分け?…ああ、なるほどな」

 

山のように盛られたお返しの山を見て察した。

確かにこれは、処分に困りそうだ…。

 

「義理にお返しとは。みんな律儀だな」

「そんなつもりであげたんじゃないけどね…。こほん。それで何の用かな?ワトソン君。君にチョコをあげた覚えはないのだが?」

 

僕はいつからお前の助手になったんだ。

そう突っ込むと話がそれそうなので、本題に入れるように言葉を返す。

 

「まあそうだな。でも貰ってなくても、男が女に贈り物をする風習も、ホワイトデーには一応あるんだぜ?ホームズ?」

「はえ?…あ!それっ、え!?」

「ま、とりあえず、暇になったら教室に来てくれ。それだけ」

 

珍しくテンパる平和を待つのが面倒だったので、それだけ言って扉を閉める。

背を向けて歩き始めてすぐ、料理研の部室から女性特有の甲高い叫び声が廊下に抜けてうるさく響いた。

 

 

 

 

 

「全く、お菓子の山に群がっているかと思えば、次はいきなり奇声を上げて、まるで動物園の猿みたいだな」

「…」

 

なんだろう、なんか青春っぽい。

 

「さて、そろそろいい時間だろ。教室、行ってこいよ」

「…教室の前まで、一緒に来てくれない?」

「はあ、いいよ」

 

敦也は笑いながら息を吐くと、黙って席を立った。

やっぱり持つべきものは親友だ。

内心で感謝しながら教室に着く。

 

赤く染まった教室に佇む、一人の女子高生。

窓から差し込む夕日が、その茶色い髪を照らし、キラキラと輝く。

遠目からでもその姿は写真に収めて壁紙にしておきたいくらい、美しい絵になっていた。

 

「さ、僕にできるのはここまでだ。頑張れよ」

「敦也、ありがとう。俺、決めてくる…」

「たかがチョコのお返しでここまでするのもどうかと思うけど。まあ男らしく決めて…。おいクロ。お前それなんだ?」

 

ポケットから取り出した箱を見て敦也が問う。

俺はきっとドヤ顔をしていたと思う。

箱を開け、中身を見せてやった。

 

「女子高生の間で人気のメーカーのネックレスだ。これならきっとへいわちゃんも喜んでくれるはず!じゃ、決めて来る!」

「あ、おい!待て!」

 

教室に向かった途端、敦也が俺の恋路を塞ぐ。

 

「 敦也、なんだよ!俺は今から、これでへいわちゃんを落とすんだよ!」

「いやいやいや!重い重い、重すぎるっての!たかが義理チョコのお返しでネックレスとか、何考えてるんだ!」

「え、義理?」

「あれが本命なわけないだろ!?明らかにおこぼれだっただろうがよ!」

「ちょっと待って」

 

義理?

いやいや、そんな、夕暮れの教室でチョコくれたんだぞ。

あれが義理なわけ…。

記憶を探る。

茜色に染まる教室。

佇む俺と敦也と涼香。

悲しみにくれた矢先、現れた一筋の光。

泣き顔の俺に、チョコを差し出す彼女。

 

そして彼女が一言。

 

『最後の一個、余っててどうしようかと思ってたんだけど、一条君いてよかったよ〜。じゃ、私、お先に帰るから!じゃまたした!』

 

『余ってどうしようかと思ってたんだけど』

 

『余っててどうしよう』

 

「あ」

 

『余り』

 

「…余り?」

「今まで本命だと思ってたのか…」

「あ…え?」

 

思わず全身から力が抜け、俺は廊下にだらしなく座り込んでしまった。

余り、だったのか…?

手作りのチョコをもらったことが嬉しすぎて、義理との分別がつかなかった俺は、ここで重大な勘違いと、今の状況を察した。

 

「どうしよう、俺、こんなの渡したら、気持ち悪がられて、明日からいじめられるかも…!」

 

本命だったとしても、付き合ってもいないのにネックレスをプレゼントする、それだけでも重いのに、義理で放課後に呼び出して貴金属のお返しなんて…!俺が女だったら怖すぎる!

 

俺は察した。

ネックレスを買った時から、俺はこのイベントの負けが確定していたことを。

 

真っ赤な夕日は今やロマンなんて感じない。

地獄の入り口が大きく口を開けているようにしか見えない。

そしてその地獄への扉はもう、すぐ目の前。

 

「終わった…。俺の高校生活…」

 

口から出たのは、心の底からの、絶望の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…すまん」

 

敦也が何かを呟いた。

力なく顔を上げると、そこには俺を見下ろす親友の笑顔。

 

「ほら」

「え?っと、これは?」

「それ、渡してこい。教室で待ってる」

 

投げられたのはプレゼント用に綺麗に包装された封筒だった。

 

数分後。

 

「あ!これ、ダッツのギフト券!」

「え?」

「一条君、私がこのアイス好きなの知ってたんだあ!」

「え、ああ、うん」

「いやあ、今日一番のプレゼントだよ〜。感謝感謝。じゃあ、また明日!」

 

にゃははと笑うと、へいわちゃんは教室から出て行った。

二人の待つ教室に戻ると、二人はトランプで遊んでいた。

 

「あ、くろくんおかえり〜」

「よお、どうだった?はい、あがり」

「ああ〜!!負けた〜!!」

 

何食わぬ顔でカードを引く敦也。

 

「なんか、すごい喜ばれた」

「そか。じゃ帰るか。涼香、ちょっと片付けとくから先に昇降口に行って待っててくれないか」

「うん、わかった!」

 

涼香の足音が聞こえなくなったあたりで、敦也が切り出した。

 

「なあクロ。バレンタインは強制参加、でもホワイトデーは任意参加だ。お前みたいにクラスのみんなに配るような量産型の義理に対してお返しをしなければいけない義務なんてない。大体チョコ渡すやつなんて普通に良いやつか、点数稼ぎの二択がほとんどだから、お返し目当てでチョコ作るくらいなら、食い放題の店でスイーツ漁った方が断然安い。お返しは来たらラッキー程度のもんなんだよ、義理は。適当にありがとうですませりゃ良いんだ。今回の件でよくわかったろ?」

「う、うん」

 

いつもと違い、優しく笑う敦也。

笑っている反面、一瞬影を落としたその顔には、どこか寂しさを感じさせた。

 

「ま、平和の場合はめちゃくちゃお返し来てたから、あいつの人望に関しては本物だな」

「敦也、もしかしてあのギフト券、あれって…」

「お、そういえば、貸し、あったよな。ここで使わせてくれ」

「え?」

 

 

 

 

「ただいま〜」

「おにいちゃん、おかえり〜」

 

リビングでくつろぐ我が妹、悠に箱を投げる。

 

「何これ?」

「ホワイトデーのお返し。お洒落したくなったらつけてみなよ」

 

箱を開けた悠が目を丸くする。

 

「ええ!なにこれ、高かったんじゃないの!?」

「ま、いい勉強代になったよ」

「え?」

「何でもないよ。さ、夕飯作ろうか」

 

結局、今日も普通の一日とあんま変わらなかったなあ。

ホワイトデーって、こういうものなのかもな。

でもとりあえず結論。

多分ホワイトデーほど、そこまで盛り上がらないイベントもそんなにないかもな。

 

 

 

 

そろそろ、家に着いたか?

先に帰れなんてことに貸し使うのも安すぎる気がするけど、ま、いいだろ。

あいつも混ぜると、いつもと変わらないからなあ。

僕はクロを先に返し、涼香を連れて、涼香が好きなクレープ屋に足を運んでいた。

 

「ごめんな。お返し、用意するの忘れてた。これで我慢してくれ」

「ううん。いいよ。これはこれで嬉しい、から」

 

もじもじして巨大なクレープを見つめながら言う涼香。

やっぱ、それを待ってるんだよな…。

 

「…涼香。あのな、なんというか、その…」

「うん?」

「…チョコ、うまかった。さんきゅ」

「っ!うん、よかった…!」

 

やっぱりクロを先に帰らせといてよかった。

こんな恥ずかしいの、他の奴には見せられないな。

 

「じゃあ、一緒に食べよっか!」

 

目の前に置かれたとてつもなく大きいクレープを、さっきまで涼香は遠慮気味に眺めていたが、いつの間にその表情は消えていて、目を輝かせてクレープが幾重にも重ねられたミルフィーユ状の、とにかく見るだけでお腹がいっぱいになりそうな物体Xをすくい上げる。

 

「は?いや、僕は」

「はい、あーん」

「…」

 

差し出されたクレープの切れ端は、見ているだけで胃もたれをおこしそうなほど、クリームやらイチゴのソースやら、色々と飾り付けられていて、早く食えと言わんばかりに、涼香が目の前にスプーンを近づけてくる。

 

ああ、やっぱりこうなるのか…。

 

「はあ…。わかった」

「ふふ、どう?甘い?」

「うん、甘いよ。色々と」

 

結論。

こんなに甘すぎるホワイトデーは、僕には似合わなすぎる。

涼香の嬉しそうな顔を見ながら、呆れ気味に笑うと、目の前のクレープなのかケーキなのかわからない物体に、僕はフォークを突き刺した。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
ホワイトデーなんて大して特別でもないと言う方もいるとは思いますが前回もらったままでお返しが無し、と言うのもあれなので書いてみましたが思ったより長くなってしまいました…。
さて、ホワイトデーと言うことでお店にもそういったお菓子なども取り揃えてはいるようですがバレンタインデーほどの盛り上がりはなかなかみられないですね。
この差はなんなのか、興味深いですが長くなりそうなのでこの場で予想をするのは遠慮しておきます。
次こそ、5月編に入ります。
それではまた、お会いしましょう。
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