翌日。
「それじゃあまずは役割を決めよっか」
六嘉さんは来るなりそう言って、部室を見回す。
「あの二人は?」
「科学部に用事だって。もうすぐ来ると思うよ」
「そ。まあいっか。とりあえず誰が何をやるか決めようね」
ノートに書き出したのは簡単に「声」と「音響」という項目。
本当は難しい名前とかがあるんだろうが素人の俺たちを気遣ってこう書いているんだろう。
「簡単に説明するね。役割は話す人と後ろでBGMを流したりする音響かな。多分話すのは三人、音響は二人もいれば十分かな」
「ふーん」
「私は話すところに入るから、そっちの方で二人ずつ決めて欲しいな。音響もやり方は私が教えるから、心配しなくて大丈夫だよ」
「じゃあ僕たち音響で」
開いていた扉からぬっと顔を出し、敦也と涼香が入ってくる。
「優白ちゃん、スマホ直ったよ!」
「えっと、私、音響がいいんですけど…」
「スルーされたっ!?」
涼香と敦也も座る。
「ラジオなんだから部活動の代表者が喋ってくれ。それにラジオ番組のタレントなんて、話のネタになるだろ。友達作るにはちょうどいいって。クロはまあなんでもいいだろ。てことで頑張れ」
「ええ…!?」
俺の理由雑すぎない?
まあ、こうなるとは思ってたけどさ。
「そういうことで、役割は今言った通りで頼む」
「うん、じゃあ次はどんな感じにするかっていう話だけど、大まかな流れは昨日書いてきたんだ。一条君たちとのコラボだから、放送前に集めたお便りから匿名で相談とか質問するコーナーを中心にしようと思うんだけどどうかな?」
「おお〜、なんかそれっぽいね!」
確かいつか放送部がやってた時は毎回テーマに沿ったあるあるネタとか大喜利みたいなことやって、それについてトークしたりしてたっけ。
今回は相談内容がお題みたいな感じか。
「相談ボックスは私が生徒会に許可を取って設置するから任せて。みんなはそれよりも本番までに基礎をしっかり身につけようね!」
六嘉さんは親指を立てて俺とシロにその輝く視線を投げかける。
昨日のしょげた顔とは打って変わって、なんかリア充って感じだ。
「大まかな内容はこれで終わりだけど、なにか質問はある!?」
「…じゃあ、ちょっと質問。本番っていつ頃やる予定なの?」
「来週の金曜日くらいかな!」
全然時間ないじゃん。早いな…。
「えーっと、ちょっと早すぎない?」
「やっぱりそうかな?できるだけ早くやりたいと思ってたんだけどね…」
「…どっちにしろ今月は最後の一週間以外は無理だろ」
「どうして?」
首をかしげる六嘉さん。
敦也は昨日配られた一ヶ月の予定が載ったスケジュール表を取り出して、俺たちに見せた。
「二週間後はテストだ。つーことで二週間前はテスト勉強期間で部活動休止。だから終わってからじゃないと無理だな。そして明日かららしいな、テスト期間」
「えっ。あっ」
短い悲鳴が、部室に響き渡った。
テスト期間に入り、部活動は活動休止となった。
日々青春の汗を流す運動部の生徒も、ひっそりと自らの創作活動に勤しむ頭のおかしい文化部員も、今日からしばらくは帰宅部同然の放課後を過ごさなければならない。
それは俺たちにも当てはまるわけで…。
「涼香、この問題の公式の使い方がわからないんだけど」
「これはね〜?」
商店街にある規格外の大きさのクレープを扱う涼香行きつけの店。
そこで俺たちは、こうして再び集まっていた。
「なるほどね。サンキュー。涼香先生」
「えっへん!」
「えーっと、一条君?」
「ん?」
「私、一緒にきてよかったの?」
メニューとにらめっこするシロを見ながら、六嘉さんは問う。
「何いってんの。六嘉さんいないと、俺たちだけじゃ何もできないじゃん」
「でも、テスト期間だし、二人は勉強してるし…。一条君たちの勉強の邪魔になっちゃうし…」
丸いテーブルで並んで仲良く勉強している敦也と涼香を見る。
「大丈夫だ。僕以外はめちゃくちゃ頭いいから、そっちはそっちでやっといてくれ。こっちも平均点取れるくらいの対策したら話に混ざるからさ」
「そうなんだ…」
自慢じゃないが普段から勉強してるしな。
涼香もシロも俺よりも頭がいいからなおさらだ。
敦也は大体平均付近をさまよっているから成績は普通。
ただ、うちの部の偏差値が高いせいで相対的に敦也が劣っている気がして少し不憫な気もする。
「美佳ちゃん、もしかしてテスト勉強に集中したかった?無理言っちゃったかな…?」
「あ、いや全然!そんなことはないんだけど…。いいの?」
まだ遠慮気味な六嘉さん。
そりゃそうかもな。
単に相談相手にすぎなかったはずの俺たちが、テスト期間なのにこうしてわざわざ学校外で彼女のために集まっているというのだから。
「六嘉さん。自分の勉強のことはともかく、俺たちのことは気にしなくて良いよ」
「でも…」
「俺、いや俺たちさ。あの放送すごく楽しみにしてたんだ。だからできることなら力になりたい。あんなにいい放送、諦めちゃ駄目だよ」
「一条君…」
敦也、そんな目で見るな。
俺だって恥ずかしいことを言ってる自覚はあるんだ…。
そしてシロ、ずっとメニュー見てないでさっさと決めろ。
「それに、今回の校内放送は俺たちにとっても一大イベントだしね!去年の放送を超えるくらいの、いい放送をしよう」
「…うん。ありがとう…!」
納得してくれたのか、六嘉さんは笑顔を見せる。
これで少しは俺たちに遠慮をせずに接してくれるといいけど…。
「よっしゃ、対策終わり。僕たちも混ぜてくれ」
「え、敦也くん、まだ終わってな…」
「おーっとそうだ。勉強教えてもらったのにお礼なしってのは礼儀がなってなかったな。ほら、涼香、好きなの頼めよ」
敦也が空気を読んでか、勉強の途中のはずなのに教科書を閉じた。
お前、何気にいいやつだよな…。
ただそれ、自分の身を削ってるってことに気づいてるか?
「ほんとに!?じゃあじゃあ、このキングクレープDX!一緒に食べようね!」
「え!?あ、おう…」
その引きつった笑顔とは正反対に、六嘉さんは屈託のない笑顔で握り拳をあげる。
「じゃあみんな。今月中に放送できるように、よろしくお願いします!!絶対成功させようね!えいえいおー!」
「おー!!あ、すいませーん、店員さーん!キングクレープDXお願いしまーす!」
ただじっとメニューを見つめる者、運ばれてくる甘味に目を輝かせる者、その甘味に思わず笑顔がひきつる者、これからの活動に希望を抱く者。
各々の思惑は様々だが、こうして俺たちのコラボ企画への準備は、つつがなく始まりを告げた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
もうすっかり桜も満開ですね(もう散ってるかな?)
そして場所によっては30度近い気温も出始めていたりと、夏の訪れも伺えます。
今年の夏は涼しくあってほしい…。
さらにさらに、もう少しでゴールデンウィーク、それまでがんばって乗り切りたいところです。
それではまた、次の話でお会いしましょう!