シロクロ!   作:zienN

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file6:裏方の戯れ

「それでね、一応台本は用意するんだけどね、お便りの方を…」

 

「…」

 

横で話し合いを続ける友人たちの声に半ば耳を傾けながら、目の前のノートに短く横たわる数式に、まるで手や足をつけるかのように沢山のイコールをつけて数字を並べていく。

やがてたどり着いた短い答えに勢いよく下線を引いて、隣で甘い菓子を頬張る先生、涼香に視線を投げる。

 

「…うん、正解!これだけできればバッチリだよ!」

「数学もこれで一通り終わりか。涼香、いつもサンキューな。そのうちなんか奢る」

「えへへ。期待してるよ?」

 

上目遣いで僕を見上げる涼香の言う期待という言葉に、どんな価格のスイーツを奢ることになるのだろうかという疑問が瞬時に頭に浮かんだ。

涼香のリクエストは毎回僕の予想の範疇を超える。馬鹿でかいクレープ、馬鹿でかいシュークリームなどなど、この街には規格外という言葉を欲しいままにしたスイーツが多いからな。

最近は毎日このクレープで勉強してるってのもあるし、今月もまた出費がかさみそうだ。

 

「クロくんたちも、頑張ってるね」

「そうだな」

 

隣のテーブルで話し合う3人を僕たちは外野から見守る。整った顔の割に何故か冴えないしモテない友人のクロと、相談を聞く部活の部長の癖にコミュニケーション不足のシロ、そして今回の相談者である六嘉美佳。このテスト期間、こいつらは校内放送に向けて毎日準備を進めている。

テスト期間でもこうして勉強もせずにいられるのは、シロもクロも日々勉強に励んでいるから直前で準備する必要がない、いわゆる勤勉な生徒なのだろう。六嘉は知らないが。

涼香もそうだけど、僕の周りは頭のいい奴しかいないな。

勉強においては僕が全体の平均を下げてる感があるな。テスト勉強の面倒見てくれてるからまだマシな方だとは思うけど。

 

「敦也くん。私たち、暇になっちゃったね」

「そーか。テスト前の高校生とは思えない発言だな」

「むー、なんか意地悪な言い方!」

 

上目遣いもするし、頰を膨らませたり、いちいちあざとい感じがするが、これが狙っていないことは今までの付き合いで分かっている。

でも確かに、暇になったのは確かだな。

ふと隣のテーブルで話し込む友人たちのテーブルの端に積まれた紙の山に目がとまる。

 

「涼香。これ、お便り的な何か?」

「うん、そうだよ。これだけ集まってるなんてすごいよね〜。1年生のリクエストもあったんだって!」

 

隣のテーブルに積まれたノートの切れ端や可愛らしい封筒に入れられたものなど、合わせて10数枚の手紙を見つめながら、涼香が感嘆の声を上げる。

 

「へー」

「そうだ!」

 

思いついたように手を叩いた涼香が、僕のノートに何かを書き始めた。

キュッキュと音を立て、ペンを置くと、自信に満ちた顔で僕に見せてくる。

 

「じゃーん!」

「おい、それ僕のノート」

 

太字のマーカーで僕のノートのページ一杯に書かれた『DJ敦也のお便りコーナー』という文字。

それを掲げてドヤ顔を決めてくる涼香がかわいく見えた自分が情けない。

ごまかすために話題をそらして、くそ甘いクレープを口に運ぶ。

甘すぎて歯が溶けそうだ。

 

「…んで、それ何?」

「このコーナーはですねー、この私、四季涼香と当番組の看板である敦也さんと一緒に、リスナーさんが抱えるお悩みをずばずばっと、解決していくコーナーですっ!」

「…」

 

なんか勝手に始めてるし。

それにこのセリフ、聞いたことあるようなないような。

去年の放送部の真似か…?

 

「それじゃあ敦也さん、よろしくお願いします!」

 

でもまあ試験勉強も終わったし、暇ということに違いない。

それに何より、面白そうじゃん。

 

「おう、ずばずばっと、解決するぜ。よろしく!」

「それでは、第一のリクエスト、お願いしまーす!」

「おうけい。六嘉、ちょっと借りるぜ」

 

六嘉の返事を待たずに隣のテーブルの紙の山をすべてかっさらい、僕はその中から一つを選び出し読み上げる。

 

「ええっと、ペンネーム野球青年一号さん。野球部の練習がきついです。野球部って高校生活じゃクラスでの立場もトップになれるしモテるんじゃないかと思ってノリで入ったんだけど間違いでした。上下関係は厳しいし廊下で挨拶しないだけでしばかれるのもしんどいです。唯一の救いはマネージャーが可愛いことくらいです。きつい練習の後でもあの笑顔を見たら疲れなんてふっとびます。どうすればいいでしょうか?っと…」

「部活動の悩みですね〜。どうでしょうか、敦也さん!?」

 

期待を目に宿らせてアシスタントの涼香は僕を見る。

 

「ああ、そうっすね…」

 

高校生の悩みってのもこんなもんなんだな。

まあ僕も高校生だけどさ。

 

「とりあえず、部活はやめたいならやめろ。どの部活に入ってるから偉い、モテる、ってわけじゃない。クラス内の立場だってスポーツ以外にも、顔が良いやつ、面白いやつ、勉強ができるやつ、後、普通に良いやつ、だいたいこの辺がいい位置にいるし、モテる。スポーツできればモテる時代なんて小学生と中学生までだ。つまり結論、やめたいなら、やめちまえ。以上」

「お、ズバッと解決しましたねっ!なんだかんだでマネージャーの方については触れないあたり、流石だと思います!」

「ああ、野球部のマネージャー、可愛いよな。それだけ。がんばれよ。はいつぎー」

 

高校生活、色々あると思うが、流れに身を任せず芯をもって生きてくれ。野球少年一号君。

 

「はい、それじゃあ次のお手紙読んでいきましょう!次は、これ!」

 

適当につまんで涼香がそのまま読み上げる。

 

「ペンネーム匿名希望さん。『最近、隣の高校では七不思議が流行ってるみたいです。その高校の友達から聞いたのですが、トイレのよしこさんとか音楽室の幽霊とか、どれもこれも聞いたことのあるようなものばかりでちょっとがっかりでした。それで、うちの学校でも何か七不思議があったりするのでしょうか?もしないなら、何か作ってみてください。』」

 

もう悩み相談とかじゃないじゃん。

 

「それじゃあ敦也さん。七不思議、一緒に考えていきましょうか!」

「まあ七不思議なんて十字高校にはないもんな」

 

といってもなあ。

やはりすぐには思いつかない。

 

「すまんリスナーのお前ら。僕には瞬時に7つの不思議をでっちあげることができるほど頭がよくなかったようだ。だからこの話は次回のテーマにしようぜ。今度、みんなで七不思議を作ろう」

「ありゃりゃ、残念…」

 

すまん涼香、お前の期待には今日は応えられそうにない。

視線を泳がせていると、ふと隣のテーブルで話をしているクロと目があった。

 

「?」

 

ああ、そうか。

あるじゃん、七不思議。

 

「でもこうして終わらせるのは腑に落ちないだろ?だから一つだけ、僕からの不思議を提供するぞ」

「おお、その不思議とは!?」

「十字高校のある生徒の話だ。顔はそこそこのイケメンだし、頭もいい。なんでもできて、大抵のことは玄人レベルでこなせるんだけどさ」

「あれ…。それって…」

「天は二物を与えず、そんな完全無欠に近い男にも唯一の欠点がある。それは…」

「あ、敦也くん…クロくんが…」

「絶望的にモテないんだよ…。っとまあ、こんな感じで七不思議完成まで後6つだ。次回の放送で完成させたいから、みんなの不思議、待ってるぜ!」

「待ってるぜじゃないよ。勝手に俺のこと七不思議にしないでくれる?」

 

あ、聞いてたのかよ。

横を見ると六嘉もシロも僕を見ていた。

 

「敦也君、キミ面白そうなことしてるね〜」

「えー、ただいまマイクに関係のない音声が紛れてしまいました。申し訳ない」

「ええ、スルー!?」

「涼香さん、それじゃ次、いきましょう」

「はい!それじゃあ次は…これ!」

「続けるんですね…」

 

涼香も空気が読めてるな。

偉いぞ。

 

「ペンネーム恋する盗塁者さん!最近うちのマネージャーが可愛くて仕方がありません。むさくるしい男だらけの我が部になんで入ったのか不思議でなりません。なんでだと思いますか?」

「なんでって…。んなこと知るかよ。ってか悩みじゃないじゃん。次」

 

名前からしてまた野球部か。次だ次。

しかし、引いた紙にも同じような内容。

 

「はい、ペンネームマネージャー大好きっ子さん…。もう読むまでもないよな。競争率高いけど頑張れ、以上。涼香、尺もないし最後の手紙よろしく」

「はい!本日の最後を締めるのはこの方!ペンネーム、マネージャーが好きすぎて夜も眠れませんさん!最近…」

「なんも考えないで歯磨きして寝ろ!終わり!」

「はい、ということです!野球部の皆さん、これからも頑張ってください!」

 

くいくいと涼香が袖を引く。

締めの挨拶をしろといったところか。

 

「それでは名残惜しいですがお時間がきてしまいました。次回の放送は未定ですが、次回のテーマは最近の悩みと十字高校の七不思議です」

「皆さんの応募、待ってまーす!」

「本日の放送は涼香さんと、私敦也の二人でお送りいたしました。次回のゲストは一条玄人君と、二神優白さんです」

「え、俺!?」

「私もですか!?」

「おーっと次回のゲストのお二人が別番組の打ち合わせが終わってスタジオに遊びに来てくれたようです。あーでも、もう時間がないので今日はこの辺で。それではまた来週、ばいばーい」

「ばいば〜い!」

 

それっぽくヘッドホンを外す仕草とマイクの電源を切る動きを涼香と同時に行い、こちらに身を乗り出していた3人に視線を投げる。

 

「六嘉、サンキューな。いい暇つぶしになった。多分ないだろうけど、使えそうなとこあったら台本の参考にしてくれ」

「え、あー、うん。二人とも、なんかこういう経験したことあるの?」

「ううん、なーんにも!」

「帰宅部だしな」

「そうなんだ…」

 

さて、本当にすることがなくなってしまったな。

残ることと言えばこのテーブルに残されたでかいクレープの山だが…。

 

「よし、じゃあ僕はやることやったし帰る。涼香、行こうぜ」

「あ、うん!じゃあ、また明日ね!」

 

正直食べたくない。

勉強道具を片付け、鞄にしまいこみ、残ったクレープの山を隣のテーブルに移し、僕と涼香は店を後にした。

 

「敦也くん、今日はどうだった?」

 

道すがら、涼香が僕の顔を見上げながら問う。

僕は顔を動かさず、空を見上げながら呟くように言う。

 

「思ったより楽しかったな」

「本当に?じゃあ、またやろうよ!」

「おう。また、気が向いたら」

 

テストまで後1週間。

今日の夕日も、もう沈みかけていた。

 

 

 

 

店を出て行く敦也と涼香の背中を見つめ、俺は心の底から思ったことがある。

 

「あれ…。もしかして俺たち…」

「多分一条君と同じことを考えたんですが…」

「うん、私も」

 

「もしかして、人選間違えた?」

 

積まれた紙の山とでかいクレープの山を見つめ、俺たちのつぶやきは虚しく響いた。




お久しぶりです。
↑なんか毎回言ってる気がしますね。
色々と忙しくてやることやってたら夏になってました…。
いいペースで投稿していきたいものですね…。
さて、今回は敦也と涼香の謎ラジオ回でしたがこのコーナーは恐らく今後もやっていくと思います。
基本投稿者の相談はフィクションですが、もし「日頃の悩み、愚痴を聞いてほしい」、「七不思議ネタこんなのどうかな」という方がいらっしゃいましたらメールで送っていただければ本編で彼らに取り上げてもらえるかもしれないです。
(あくまで十字高校の生徒の投稿として取り上げるので投稿内容に制限はつきますがよろしくお願いします)

それではまた、次回でお会いしましょう!

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