「なあ、俺ってどうして彼女できないの?」
「春休み入る前から玄人くんは変わんないねえ。よくもまあ同じセリフを飽きもせずに言えたもんだ」
始業式翌日の昼休み、机を囲みながら、進級しても同じクラスの友人、
「俺、自分で言うのもアレだけど顔は普通だし、勉強もそこそこできる、それにコミュ力もあって悪いとこないと思うんだけど。ねえ敦也、どうしてだと思う?」
「はいはい、なんでだろうね」
いつものように適当に流す敦也もパンの封を開ける。
「冷たいなー。もうちょっと真面目に考えてくれたっていいじゃんかー」
「はあ、クロ。めんどくせえな…」
敦也は口が悪い。
その上目つきも鋭く、髪を染めてピアスでもつけようものなら見た目だけでもこの学校の番長にでもなれるだろうが、反面で一人称が僕ということに、初めは少しギャップを感じていた。
「大体、今まで何十回も討論して、なんの成果も得られないんだから、こんな議論、不毛にもほどがあるだろ?」
「ぐぅ!まあそうだけどさ」
こんな感じで、正直な面もあるので中学の頃は色々あったと言っていたが、それは今でも変わらないようだ。
「まあまあ。クロくんの場合はさ、もう名物になっちゃってるからさ」
聞き覚えのある可愛い声が、後ろから飛んでくる。
「ん、涼香。購買のパンとは珍しいな。今朝遅かったのは寝坊だったのか」
「えへへ。今朝は待たせちゃってごめんね…」
隣の席に座り、指先で髪の毛を弄びながら申し訳なさそうにするこの三つ編みJKも俺のもう一人の友人、
「うーん!あかないや…」
「ちょっと貸してみ。…ほらよ」
「おー、あっつやくん!さっすが!ありがとう!」
こいつらは仲良いな。
リア充かよ…!
いや、でもまだ、リア充予備軍だな。
「おう。でも、涼香も、さすがにパンの袋くらいは開けれる程度には鍛えようぜ?」
「き、今日はたまたまガッツのある袋のパンを取っちゃっただけだよっ!」
「なんだそれ…」
「いただきま〜す!」
普段はこんな感じで少しバカ、失礼。少し抜けたところがあるが、顔も頭もいい、寝坊しない限りは弁当もお手製だ。
一本の三つ編みを肩から垂らし、眼鏡をかけて授業を受ける様は一年の時はクラスの委員長を差し置いて委員長らしさを醸し出していた。まさしく高スペック系女子である。
一家に一人嫁又は彼女に欲しい。
そんな涼香は、一年のある時に仲良くなってから、女の友達が少ないのか、俺たちとの縁が未だに続いている。
こんな感じで毎日一緒に飯を食う仲だ。
「それで、俺が名物だって?意味がわからないし、それがどうして彼女ができないことに繋がるんだよ」
「あれ、クロくん知らないの?敦也くん教えてないんだ?」
「ああ、今日もおにぎりがうまいなあ」
敦也は聞いてるのか聞いてないのか、それだけ言って黙々と口を動かす。
涼香は一つ咳払いをして話し始めた。
「クロくんさ、一年の時から彼女彼女って、とにかく言い回ってたじゃん。最初はみんな引いてただけだったんだけど、それでも止まらないクロくん見てたら、みんなそれが当たり前みたいになっちゃって。それで、クロくんといえば彼女がいない。彼女がいないことで有名な十字高校の一条玄人、って感じで、もう学校じゃ相当な有名人なんだよ」
「え?」
涼香の説明を受けて俺の中で時間が止まる。
一年の時はみんな引いてた?
途中から当たり前になった?
いや、そんなことはどうでもいい。
それよりも。
「えっと…俺、彼女いない有名人なの?」
前に座る敦也を見ると、なんだ、今更か(笑)とでもいうような顔で頷く。
「おい敦也、まじか」
「なんだ、今更か」
意味ありげにニヤつきながら、(笑)を語尾に意識させるように敦也は言う。
「うわああああぁぁぁぁぁぁ!」
「っ…。おい、クロ、うるさいんだけど」
俺の叫びを耳に指で栓をしながら軽くあしらうの敦也の肩を掴んで目いっぱい揺する。
「敦也あ!どうして教えてくれないんだよおおぉぉ!知ってたんなら教えてくれよおぉ!俺たち友達だろう!?」
友達ってのは、包み隠さないものじゃないのか、敦也よ。
敦也はいつもの悪戯心を抱く子どものような笑顔を浮かべ、
「いや、本人が気づくまで見守るのが友達ってやつだろ?」
と、揺さぶられながらも、平然と返してくる。
「なんなのそのいらない優しさ!お父さんか!?お前は俺の父ちゃんなのか!?」
「そんな感じで名物になっちゃってるから、誰も『彼女がいない』っていうレッテルを剥がしてはいけないって、暗黙の了解が発生してるってわけ」
「なあっ!?」
涼香が止めの一撃を俺に差し込む。
彼女いない名物。
独り身のレッテル。
付き合っちゃいけないという暗黙の了解。
「お、終わった…」
がくり。
脱力して机に突っ伏す。
「俺、もう彼女できないこと確定してんじゃん…」
「ま、あと2年の我慢だ。大学行ったらなんとかなるだろ」
「大丈夫、くろくん面白いから、きっといい人見つかるよ!」
よくわからない励ましのような言葉が左から右へと抜けていく。
「涼香、それ褒めてんのか?」
「あはは〜」
俺は、目の前が真っ白になった。
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