シロクロ!   作:zienN

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第4話 最果ての教室

ぶち壊された空気のまま、二神さんのカウンセリングは始まる。

 

「へえ、友達がいない、か」

「私、初対面の人と話すのが苦手で…それで、高校に入ってから、ずっと一人で…」

「それで、いつの間にか、ここの常連になっちゃったのよねえ」

「先生…」

 

どんな生徒に対しても、この人は毒舌であるようだ。

こんなのでよくカウンセリングが務まるものだ。

 

「それで、今日も友達、できなかったのか」

「うぅ…」

 

低く唸る二神さん。

 

「困ったな…」

 

去年、敦也と仲良くなる前、俺に言った言葉が頭を過ぎる。

『一つ教えてやるよ。学園生活における人間関係っつーのは1日目の午後1時までにほとんど決まると言っても過言じゃないんだぜ?その証拠に、僕を見ろよ。入学式初日に学校休んだせいで、今やクラスじゃ有名なぼっちだ』

よく堂々とあんなことを言っていたもんだ。

敦也の理論は一理あるが、本人が今ぼっちではないので、自分によって論破されているのだが。

 

「それで、先生。俺たちはどうしたらいいんでしょうか?」

 

俺個人には荷が重すぎるので、ここは大人である五十嵐先生の意見を聞くことにした。

きっと先生なら、何かしらの結論を出してくれるはず。

 

「んー。とりあえず一条くんの悩みは無理ね。運命の出会いにかけるしかないわ」

「えっ」

「二神さんの方も、本人が頑張るしかないわよね。一歩を踏み出す勇気が必要よ」

「それができないから今の状態なのに…」

 

大人の意見というのは、時に残酷であり、子どもである俺たちに無理難題を押し付ける。

恥を忍んで相談にきたというのに、こんなテンプレート以下の答えで片付けられたことへの不満が湧き上がってきた。

 

「わかりました…それじゃあ、俺は運命の出会いにかけます。失礼しました」

「え、一条くん?」

 

もう少し真面目に取り合ってくれると思ってたのに。

こんなとこに来た俺が馬鹿だった。

二神さんを置いて、俺は席を立つ。

 

「二神さんも、頑張って。また機会があったら、よろしく」

 

鞄を持ってドアに手をかける時、後ろから五十嵐先生に呼び止められた。

 

「はあ。待ちなさい。最近の子は、冗談もわからないのかしらねえ。ちゃんと考えてあるから、拗ねないの。ほら、二神さんも、ついて来なさい」

 

立ち上がった先生が俺より先に外に出て、廊下を一人歩き出す。

 

「一条くん。先生も悪い人じゃないので、そんな怒らないであげてください」

「…ごめん。行こうか」

 

自分の子どもさを痛感しながらも、俺は二神さんとともに先生の後を追った。

 

 

 

 

 

北校舎1階の保健室兼カウンセリング室から、五十嵐先生に連れられ、俺たちは今南の部活棟3階へ続く階段を登っている。

吹奏楽部の演奏と軽音部の低いベースの音が混ざり合って奇跡的に一つの音楽を形成しているかのように調和していて、同じ部屋でやってるんじゃないかとさえ思えてくる。

 

「とうちゃーく」

 

普段上がらない階段を上がって軽音部、オカルト研究会などの部室の前を通り過ぎ、一番奥の扉の前で、先生は立ち止まった。

その扉は部活棟にもかかわらず、他の教室のように部活動の名前の書かれた看板や飾り付けもなく、外から見たら完全に空き部屋にしか見えなかった。

 

「ここは…?」

「ほら、入った入った」

 

先生はその扉をノックもなしに遠慮なく開け、俺たちを手招く。

中に入ってみると思った通り、生活感も清潔感も感じられない、完全な空き教室だった。

部屋には長テーブルが斜めに置かれていて、2脚のパイプ椅子が無造作に鎮座している。入ってすぐ目に入った棚はどれくらい手入れがされていないのか、一目で分かるほどに真っ白な埃を見にまとっていた。

 

「なんですかここ…埃がすごいな」

 

口を制服の袖で覆いながら窓まで歩き、窓を限界まで開ける。

外から吹き込む風は教室の中を一巡りして、所々で眠っていた埃は宙を舞った。

 

「ごほっごほっ!わあ、埃が…!」

「あらら、やっぱり汚いわねぇ。一旦、外に出ましょうか」

 

教室の窓を全て開けきって、その不健康極まりない教室から脱出する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、新しい部活?」

 

外に出て換気をしている間、五十嵐先生は俺たちをここに連れて来た理由として部活を始めろと言い出した。

 

「そう。二神さんと一緒に、ここで部活動をしなさいっ」

「えぇ…!?」

二人とも、今のところ帰宅部でしょ?2年生から新しい部活を始めるなんて事はないし、大丈夫よね?」

 

肩をビクッと跳ねさせて驚く二神さんの横で、先生は勝手に話を進め始めた。

 

「まあ、取りあえず部室はこんな感じだから、まずは活動できるように掃除から始めましょうか。それと部活動を作る上でわからないことがあったら…」

「ちょ、ちょっと待った!」

「何?」

「何、じゃないですよ。なんで部活なんて始めないといけないんですか?」

 

いきなりこんな最果ての地まで連れていかれて、その上部活なんて。

先生はもしかして、問題の解決ではなく、発散を促そうとしているのであろうか。

 

「ああ、そうよね。いきなりすぎたわよねぇ、ごめんごめん」

 

ごほん、とかわいく咳払いして、先生は説明を始めた。

 

「えーっと、それでね、私が思うに、レッテルをはがすには、一条君と二神さんで部活動を始めればいいと思うの。活動としては、そうね、ここで生徒の相談を聞くなんてどうかしら」

「生徒の相談を聞く?」

「そう。それでね、一条君は人の悩みを聞いてくれるこの学校の相談窓口っていうレッテルで、彼女がいないっていうレッテルに上書き!二神さんは人と話す練習をして、コミュニケーションのとり方を学ぶっていう作戦よ!」

 

語尾を強調して、先生は両手を交差して変なポーズでカッコつけてみせた。

 

「ふむ、なるほど、確かにその作戦は素晴らしいかもしれないですね。ってかそこまで考えてるなら、もったいぶらないで最初からそう言ってくださいよ」

「ふふ、こういうのは、サプライズがいいんじゃない。ね、二神さん?」

「あ、はい」

 

サプライズねえ。

二神さんちょっと引いてるように見えるんだけど。

 

「とりあえず、今日は掃除して、明日からちゃんと使えるように綺麗にするだけでいいかしらね。後、部活動設立なんだけど、明日までに申請用紙もらってくるから、良い部活名考えといてね。私は保健室に戻るから。それじゃ、青春しなさい」

 

カツカツと床を鳴らす音とともに俺たちから先生は遠ざかる。

残された俺たちは、ただ先生の後ろ姿を見送る。

 

「嵐のような人だ」

「あはは…。とりあえず、掃除しましょうか」

「そうだね」

 

新しい部室を再び開け放ち、二神さんが中に飛び込む。俺もそれに続いた。

換気をした甲斐あって、先程と比べて空気が綺麗になったことが分かる。

 

「まずは、何から始めましょうか」

 

夕暮れの空き教室、まだ宙を舞う埃を窓から差し込む夕日が反射してできた光の粒が舞う中、手を後ろに回して俺に向き合う二神さんは、ただ綺麗だった。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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