「まあ、こんなもんか」
埃だらけだった教室で掃いて拭いてを繰り返し、時計の針が5時を指す頃には、我が部室はまだ埃が舞ってはいるが比較的居心地がよくなった。
「ふー。お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。喉乾いてない?ジュース買ってこようか?」
「ありがとうございます。今日はお茶があるので大丈夫です」
「そっか」
水筒を取り出して長テーブルの上に置く二神さん。
俺も一息つこうと、椅子を引っ張ってきてその隣に座る。
ちょうどその時、長テーブルに置いていたスマホが振動してうるさく音を立てる。
「おっと。あいつらか」
『新しい駅前のじゃんじゃんぼしゅーくりーむだよ!くろくんも今度一緒に行こうね(*'▽')』
『まじででかすぎ、もう頼まねえ』
涼香と敦也のグループトークが始まっていた。
二人の発言の後、画面に現れるどでかいシュークリームを前に目を輝かせる涼香と戦慄する敦也のツーショット写真。
涼香の自撮り棒のせいか、少し上から撮られていて、通りかかる人も巨大なそれに目が釘付けになっているのが見える。
『これシュークリームじゃないよね。シュークリームだったとしても普通サイズのやつを遠近法ででかくしてるだけだよね?』
『そんなわけないじゃん(; ・`д・´)くろくんも今度一緒に行けばわかるって!』
『クロ 僕も引いた。主にそのでかさと値段に』
『値段なんて気にしない♪青春の1ぺーじだよ!』
それからしばらく敦也と涼香の二人の発言でトークが盛り上がる。
ってかお前ら今一緒にいるんじゃないのかよ。
一緒にいるのにわざわざトークするとか、何?俺に気遣ってんの?
ピロリンピロリン。通知音の嵐が鳴りやまない。
シュークリームの話は、いつの間にやら青春とは何かという、実に哲学的な話題になった。
「はは。話題飛びすぎだろ」
「…」
「ん?うわっ!!ど、どうしたの二神さん!?」
気づくと二神さんは俺と密着するくらい隣にいて、俺のスマホの画面を覗き込んでいた。
反射的に仰け反って椅子から落ちそうになるのをぎりぎり堪えて、二神さんと距離を取る。
「…一条君は友達がいて羨ましいです」
「あ、ああ。でも、俺もこの二人くらいしか友達認定できるのいないよ?」
スマホを二神さんの前まで向けて、先ほどのシュークリームの写真を見せる。
「一人でも二人でも、いないよりはいいじゃないですか」
「…」
言葉が詰まった。
友達がいないってのは少ないとかじゃなくて本当に一人もいないのか。俺も一年の時友達いなかったけど、やっぱ辛いよな。
相変わらず羨ましそうに二神さんは写真を覗いている。
「それにしても、この二人、どこかで見たような…」
「あら、随分綺麗になったわね〜」
その時、硬い靴をならす音とともに五十嵐先生が、ノックもせずに我が部室へと入って来た。
「先生。ノックくらいはしてくださいよ」
「いいじゃない。突然入られて困るようなこととかしてるわけじゃないんだし」
正論に聞こえるような気がするが、あなた教師ですよね?そういうところはしっかりしましょうよ。
「それはそうですけど。それで、どうかしましたか?」
「あ、うん。さっき言い忘れたことがあってね」
先生は抱えていたバインダーから一枚の紙を取り出して長テーブルの上に置いた。
俺たちは寄り添って用紙を眺める。
それには『部活動・同好会申請書』と見出しに大きく書かれていた。
「さっき思い出したんだけどね。部活動の設立には顧問の他に五人の部員が必要なのよねぇ。後三人、部員を集めて欲しいんだけど…」
「5人ですか。多いですね」
「…」
横で固まる二神さん。まあ、二神さんには当てがないのは俺も先生もも承知の上だ。
ただ後三人となると俺も正直…
「俺、三人集めれるほどそこまで仲良い友達いないですよ?」
「うーん。じゃあ後一人でもいいわ。三人なら同好会ってことで、活動は認めて貰えるから」
後1人か。
それなら俺も一応誘えるかもな。
「わかりました。それじゃあ明日、あたってみます」
「ありがとう♪あ、でも入るって言っても、一回私のところに顔合わせに来てね?」
「え、なんで?」
「だってぇ」
カツ、と床を踏んで俺の顔の横まで先生が前かがみになる。
ふわっと甘い香りとともに、先生の囁き声が耳を撫でる。
「二神さんとうまくやれる子か確かめないといけないじゃない」
「っ!そ、そうですね!」
平静を保ってどうにか答える。
危ない。一瞬ときめきかけた…
「それじゃあそういうことで!後これ、ここの鍵。どうせ使わないから、どっちかが持ってて良いから。今日は帰って、明日からちゃんと活動頑張ろう!」
先生は星が飛び散るのが見えるくらい可愛くウインクをすると、俺たちの返事を待たずに出ていった。
「本当に嵐のような人だな。俺たちも帰ろうか」
「一条君。部員の話なんですが、私…」
帰り支度の途中、二神さんが真っ青な顔をする。
「大丈夫、わかってるから!俺も一応、二人くらいならあてがあるからさ。駄目でも、そいつに名前だけでも貸してもらうから、気にしないでいいよ」
「う…。ありがとう、ございます」
まだ肩を竦めていた二神さんだったが、それでも少しは安心したようで、顔色は良くなったように見えた。
「うん。後、鍵は二神さん持っててよ」
「わかりました」
机にあった鍵をとって、二神さんが鍵を閉めるのを待ってから、一緒に部室を後にした。
部活棟から長い道を経て昇降口へと着く。
新しい自分の下駄箱に靴をしまう中、俺のところと近い下駄箱から靴を取り出す二神さんに違和感が。
「一条君?どうしました?」
「二神さん下駄箱近いね。隣のクラスなのかなー…」
下駄箱に貼られた所属する教室の記されたシールを見てはっとする。
二神さんのところに貼られた『2-C』という、俺と全く同じのシール。
「って、同じクラスじゃん!!」
「知らなかったんですか!?」
知らなかったよ。
今日一のびっくりだよ。
俺たちの叫びは、人気のない昇降口を響かせ、こだまさせるのに十分な声量だった。
「それじゃあ、俺こっちだから。帰り道気をつけて。明日からよろしくね」
「はい。また明日」
橋を渡ったところで二神さんと別れ、夕日を反射しながら道路を走る車を見ながら俺は今日の出来事を思い出していた。
「なんか、久々にイベントの多い一日だったな」
清く正しく登下校をしていた帰宅部の俺にとって、今日の部活動加入というイベントは珍しいビックイベントだった。
「とりあえず、部員集めないと、か。敦也と涼香、入ってくれるかなぁ」
ヴヴヴヴ。
うるさすぎて途中からマナーモードにしていた携帯が制服のポケットの中で蠢く。
「うわ、なんだこれ」
ずっと見ていなかったグループトークはスクロールしても中々底が見えないほど議論をしていたみたいだったが、ついに二人の結論が出ていた。
『結論。青春とは、理由が無くても共にいられる友人と過ごす時間が、さも当たり前に感じられる期間のことをいう』
『青春とは、シュークリームだ☆』
恋愛とか関係ないとこが敦也らしいな。
涼香は…なんつーか、ノリで言ってそう。
俺も俺なりの考えを書いて、スマホをしまって歩き出した。
『いや、どっちもこじらせすぎだろ。青春とは情熱的な恋愛だ』
よく思いますが、部室があるっていいですよね。
私は結構入り浸って、グダグダやってたので、校内にプライベートスペースがあることに感動を覚えたものです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。