読みにくいかも知れませんが、今話も何とぞよろしくお願いいたしますm(__)m
黒ウサギがニティアを回収してからさらに十分後。
先程のユニコーンに再会し、十六夜の情報も手に入れることに成功した黒ウサギは、再び髪を赤く染め、これ以上なく急いでいた。
聞くところによると、十六夜は水神の眷族にゲームを挑んだらしいのだ。
「あーもう!本当に問題児様ばかりなんですから!」
急ぎつつも、黒ウサギは呼んでから数時間で色々やらかす問題児たちに怒り心頭だ。
「いやー、申し訳ない」
黒ウサギの胸元から、黒ウサギの不満に対する応答の声がする。
別にこれは、新手の腹話術でも、黒ウサギのイマジナリーフレンドでもない。
先程、鬼から貰った小槌―『打出の小槌』で小さくなったニティアである。
「そう思うなら自粛して頂きたいのです!」
「あはは、流石に好奇心には勝てないよ」
「やっぱりニティアさんも問題児じゃないですか!っと確かこの辺りのはず」
「あれ、お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」
恐らく十六夜が居ると思われる所に着くと、後ろから忌々しい問題児の声が聞こえる。どうやら無事らしい。
「もう、一体何処まで来ているんですか!!」
「“世界の果て”まで来ているんですよ、っと。まあそんなに怒るなよ」
十六夜は小憎たらしい笑顔でそう言う。
「あれ?十六夜くん、さっきよりずぶ濡れになってるね」
「ん?んん?もしかして、黒ウサギの素敵な胸に挟まってるのはもしかしてニティアか?」
「そうだよ!私は黒ウサギほど速く走れないから、こうして小さくなってここに挟まってるんだ!」
「ほう、で?居心地はどうだ?」
「とても柔らかくて温かいね!ここで寝たら気持ちいいだろうなぁ」
「それは俺も是非一度やってみたいな」
十六夜はそう言いながら、黒ウサギの胸を凝視する。黒ウサギはその視線から逃れるように、身体をよじりながら腕で胸を隠す。
「さ、させませんからね!そんなこと!…って違います!そんな話じゃありません!」
「そうか?しかし良い脚だな。遊んでいたとはいえこんな短時間で俺に追いつけるとは思わなかった」
「むっ、当然です。黒ウサギは“箱庭の貴族”と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが」
黒ウサギが言葉につまり、首を傾げる。
(黒ウサギが……ニティアさんを捕まえていたとはいえ、半刻以上もの時間、追い付けなかった…………?)
黒ウサギの身体能力は生半可な修羅神仏では手が出せないほどに高い。
そんな彼女から逃げおおせてる事から、十六夜も相応に凄まじい身体能力を持ってることになる。
「ま、まあ、それはともかく!十六夜さんが無事でよかったデス!水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」
「水神?――ああ、アレのことか?」
え?と黒ウサギは硬直する。十六夜が指した川面には白くて長いものがうっすらと浮かんでいたからだ。
黒ウサギがそれを理解する前にその巨体が鎌首を起こし、叫ぶ。
『まだ……まだ試練は終わっていないぞ、小僧ォ!!』
「わお!随分と大きい蛇だね!」
ニティアが大きい蛇と称したそれは――まさしくこの辺り一帯を仕切る水神の眷族だ。
「蛇神……!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!?」
「なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか、上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ。俺を試せるかどうかを試させてもらったのさ!結果はまあ、残念な奴だったが」
『貴様……付け上がるな人間!我がこの程度の事で倒れるか!!』
蛇神が叫ぶと同時に、風が巻き上がり水柱が上がる。どう考えても人が受けて無事でいられる威力じゃない。
「十六夜さん、下がって!」
黒ウサギは庇おうとするが、十六夜はそれを拒む。
「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺が売って、奴が買った喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」
十六夜の放つ殺気は本物だった。黒ウサギもゲーム自体が始まってしまっているため手を出せないと気付いて、歯噛みした。
『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば勝利を認めてやる!』
「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ」
『フン――その戯言が貴様の最期だ!』
蛇神が叫びをあげるのと同時に嵐のように川の水が巻き上がる。竜巻のように渦巻く巨大な水柱は計三本。
それぞれが生き物のように十六夜に襲いかかる。
「十六夜さん!」
黒ウサギが叫ぶも、十六夜は不敵に笑っている。
「――ハッ――しゃらくせえ!!」
突如、水柱が弾け散る。
十六夜の一撃で嵐のような激流を凪ぎ払ったのだ。
「嘘!?」
「おお!流石だね」
『馬鹿な!?』
十六夜の所業に驚愕の声と感心する声がする。蛇神は全力の一撃が通じなかった事に放心する。その隙を十六夜は見逃さなかった。
「ま、中々だったぜオマエ」
大地を踏み砕くような蹴りを胴体に打ち込まれ、蛇神は空高く吹き飛び、川に落下した。
「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代くらいは出るんだよな黒ウサギ」
「…………」
「あれ?どうしたの、黒ウサギ。……ダメだ反応が無い」
「シカバネのようだ、ってか?仕方ない胸とか脚とか揉んでおくか」
「え、きゃあ!な、ば、おば、貴方はお馬鹿です!?二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」
「二百年守ってきた貞操?うわ、超傷つけたい」
「お馬鹿?!いいえ、お馬鹿!!!」
「ダメだよ、十六夜くん。そういうことするならちゃんと責任とらなきゃ」
「そうです、そうです。貞操を傷つけるならちゃんと責任をとらなければ…って、それは大事ですが、黒ウサギが言ってるのはそこじゃないのです!」
「そうだな。ちゃんと責任とらなきゃダメだよな。じゃあ、責任とるからいいか?」
「ダ メ で す!!」
「そうか。ま、今はいいや。後々の楽しみにとっとこう」
「さ、左様デスか」
もしかしたら彼は私の天敵かも知れない、と黒ウサギは遠い目をした。
「ねぇ、黒ウサギ。戻してもらっていい?」
「え?ああ、はいはい。よいしょっと、じゃあいきますよ?大きくなあれ!」
「ふう、もどった!」
黒ウサギはニティアを胸元から出し、打出の小槌を振るう。
するとニティアはたちまち元のサイズまで大きくなった。
「ん?もしかしてソレ、打出の小槌か?」
「はい。先程ニティアさんが鬼とのギフトゲームにて得ました。いやぁ、コミュニティとしてはとても大助かりです」
「…ふーん」
「と、ところで十六夜さん。その蛇神様どうされます?というか生きてます?」
「どうもしねえよ。戦うのは楽しかったけど、殺すのは別段面白くもないしな。“世界の果て”にある滝を拝んだら箱庭に戻るさ」
「ならギフトだけでも戴いておきましょう。ゲームの内容はどうあれ、十六夜さんは勝者です。蛇神様も文句は無いでしょうから」
「あん?」
黒ウサギの提案に十六夜は怪訝な顔で見つめ返す。
「神仏とギフトゲームを競い合う時は基本的に三つの中から選ぶんですよ。最もポピュラーなのが“力”と“知恵”と“勇気”ですね。力比べのゲームをする際は相応の相手が用意されるものなんですけど……十六夜さんはご本人を倒されましたから。きっと凄いものを戴けますよー。これで黒ウサギ達のコミュニティも更に力を付ける事が出来ます♪」
そう言うと黒ウサギは蛇神に近づこうとする。けれど十六夜が不機嫌な顔で黒ウサギの前に立つ。
「――――――」
「な、なんですか十六夜さん。怖い顔をされていますが、何か気に障りましたか?」
「……別にィ。オマエの言うことは正しいぜ。勝者が敗者から得るのはギフトゲームてしては間違いなく真っ当なんだろうよ。だからこそ不服はねえ――けどな、黒ウサギ」
十六夜はふっと真顔になり、確信を持って黒ウサギに尋ねる。
「オマエ、なにか決定的な事をずっと隠しているよな?」
「……なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」
「いやいや、まだ話して無いことがあるじゃない」
今まで沈黙を守っていたニティアが黒ウサギに言った。
「例えば――私達を所属させようとしているコミュニティのこととか」
「箱庭に着いてから教えようとしていたのです。基礎の説明を全て終えてから言おうと」
「そうか。じゃあ今度は俺からの質問だ。黒ウサギ達はどうして俺達を呼び出す必要があったんだ?」
十六夜の問いはニティアの問いよりも核心を突いたものだ。表情には出さないが、黒ウサギそうとう焦っている。
「それは……言ったとおりです。十六夜さん達にオモシロオカシク過ごしてもらおうと」
「うーん、確かに最初は純粋に好意か遊び心で呼び出したのかなって思ってたよ。他の人たちも特に不満は無さそうだったし、全員、箱庭に来る理由何かしら理由があったんだとも思う。
だからあんまり気にしてなかったんだけどね、黒ウサギ。貴女からは必死になってる人と同じ雰囲気を感じるの」
「そうだな、黒ウサギの言動には所々、必死さが見え隠れしている。
これは俺の勘だがな。黒ウサギの属しているコミュニティは事情の知らなず、しかも戦力になるような奴らを異世界から呼び、それに頼るしか存続の道がない程の零細コミュニティなんじゃないか?」
「なるほど。確かにそれなら今までの黒ウサギの言動にも納得がいくね。そして、あわよくばコミュニティに入れてから状況を説明しようとしたってところかな?」
「っ……!」
畳み掛けるように交互に放たれた言葉は黒ウサギの目論見を殆んど言い当てていた。この段階でそれらを見破られるのは余りにも手痛い。
「んで、この事実を隠していたってことはだ。俺達は他のコミュニティに入ることも出来るんじゃないか?ちゃんと包み隠さず話さないなら、他のコミュニティに行ってしまおうかな」
「や、だ、駄目です!いえ、待ってください!」
「ああ、いいぜ?だからちゃっちゃっと話せ」
「ゆっくりでも私は大丈夫だよ」
十六夜もニティアも近くの手頃な岩に座り聞く体制をとる。
そして、黒ウサギは覚悟を決め話を始めた。
「まず、今から話すことを黙っていたことを謝罪させていただきます。すみませんでした。
では、話を始めます。まず、私達のコミュニティには名乗るべき名も、誇るべき旗も存在しません」
「ふぅん?それで?」
「それどころか、コミュニティに所属している122人中、ゲームに参加できるようなギフトを持っているのは黒ウサギとリーダーのジン坊っちゃんだけで、後は10才以下の子供ばかりなのですヨ!」
「うん、正に崖っぷちって感じだね!」
「ホントですよねー♪」
ウフフと答えた黒ウサギは膝を付かずにはいられなかった。話すなか、自分達のコミュニティの崖っぷちさ加減を再認識してしまったからだ。
「それで?どうしてそんなことになってんだ?見たところ黒ウサギの戦闘能力はそこの蛇神より強い。そんな奴が居るコミュニティがどうして落ちぶれたんだ?」
「奪われたからです。名も、旗も、仲間達でさえも、全て奪われてしまったのです。箱庭を襲う天災――魔王によって」
「へえ?そんなものまで箱庭にはいるのか」
「Yes。魔王は“主催者権限”という特別な権限をもち、それを悪用する修羅神仏のことを指します。彼らにゲームを挑まれた場合、断ることが出来ないのです。私達のコミュニティもゲームを挑まれました。
そして負けて全てを奪われてしまいました」
黒ウサギ達に残されたものは、何も実らない不毛の地となってしまった土地とギフトゲームにも出れないほど小さな子供達だけ。
「自分を表せるものが何もないって言うのは辛いね。でも、コミュニティを新しく立ち上げることできなかったの?」
「それは可能でした。けれど、それはコミュニティの完全解散を意味します。……それではダメなのです!私達は仲間達が帰ってこれる場所を残しておきたいのです!」
黒ウサギは、例え不義理な真似をしてでも人材を確保しようとした理由を叫んだ。
「いつの日か、名も旗も仲間も全部取り戻したいのです!でも、今の私達には無理なんです!あなた方のような強力なギフトを持ったプレイヤーに頼るしかないのです!
お願いします!不義理な真似をしたことも謝ります!だから、だからどうか!私達のコミュニティのために力を貸してください!」
「いいよ」「いいぜ」
「……え?」
「どうした、黒ウサギ?そんな呆けた顔して。それとも他のコミュニティに行った方が良かったか?」
「い、いえ、そういうわけではないのです!で、でもどおして……」
「私もそうやって頼み込んだ覚えがあるからね。黒ウサギの気持ち、少しはわかるよ。だから力になれるならなってあげたいなって思ったんだ。十六夜は?」
「こんなオモシロオカシイ世界に呼び出してくれた礼だよ。それに、魔王に挑むっていうのは面白そうだからな。あと、箱庭に戻ったら残りの二人にも後腐れないようちゃんと説明しろよ」
「――はい!ありがとうございます!」
二人からの承諾を受け、黒ウサギは目に涙を溜めながらも笑顔でお礼を言う。
「ふふ、黒ウサギはやっぱり笑顔が似合うね」
「ああ、同意するぜ。ん?そろそろ日が暮れてきそうだな。ほら、もう話が終わったんなら蛇神からギフトを貰ってこい。いい加減時間がない」
「は、はい!」
黒ウサギは跳ねる気持ちを押さえきれないまま、蛇神のもとに向かっていくなか、残してきた二人とジンの方のことに意識を回した。
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「うわぁ!これは凄いね!」
「確かにこれは凄まじいな!」
蛇神から水樹のギフトを受け取った後、ニティア達はトリトニスの大滝に来ていた。
その巨大な滝は夕焼けの光を浴びて朱色に染まり、跳ねる水飛沫が幾重にも重なる虹を作り出していた。
「横幅は約2800mもあるトリトニスの大滝です。こんな滝、他の場所には無いのでは無いのではないですか?」
「ああ、確かに無いな!ナイアガラの滝の約2倍とはおそれいった!」
「私は滝自体、初めて見るからとても感動しているよ!」
「ふふ、そうでしょう、そうでしょう」
一行はトリトニスの大滝を暫く眺め、ゆったりとした時間を過ごした。
《打出の小槌》について
皆さまご存知、使用者の願いを叶える小槌。
日本神話では大黒天が所持していますが、童話《一寸法師》では鬼が所持していました。
また、室町~江戸地代の絵巻にもごく僅かではありますが、この小槌を持った鬼が描かれているそうです。
そのため、この小説では《打出の小槌》が複数存在する前提で書いています。
※プロローグを差し替えました。出来ればそちらもご覧ください。
それでは、感想待っていますm(__)m