リリカルガーデン   作:青桜

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第十話

 

 

「どーぞ自分のウチやと思って、ゆっくりしてってな。部屋は一人分足らんけど、二階の三部屋をつこうてもらってください」

「ええ、ありがとうございます」

 

 はやての申し出に対してシュテルが感謝の意を示した。

 

 あの後、ヒサトたち第五分隊の面々は全員招集をかけられ、その時に改めて八神はやてを保護監督するようレイファラ部隊長より指令を受け、再びヒサト達四人は八神家の中に足を踏み入れた。

 ショウはこの家の内部構造を把握するためなのか、しきりに周囲をチラチラと眺めていたが、そんな人の家の中をキョロキョロと見るような失礼とも取れる行いをヒサトは咎めることなく、何やら面倒そうな雰囲気を僅かに滲ませながら玄関を上がった。

 

 ……まあ、ヒサトが不機嫌そうなのも致し方無し、とショウは心中苦笑しつつ思う。

別に彼は原作に関わるのが嫌だとか、そういった主義なのでは無い。ヒサトとて己が利になるのなら、決まっているだろう未来を変えるとしても横槍を加えたりだとかして女の子の前でカッコつけるのもやぶさかでは無く、奔放な振る舞いにもそれなりに魅力は感じるそうだ。

只、自分以外にも同じような条件の人物、つまり複数の転生者がいると分かっているならば話は違ってくる。人数やその人柄も考慮すべきだが、わざわざ出る杭が叩かれるのが分かりきった状況で目立つ行為をするのはリスクとリターンのつり合いが取れていないだろう、というのが彼の弁だ。

 ショウも地球へと行く途中で語られたその言い分には、概ね同意するところであった。

ヒサトの言うように面倒な輩に目を付けられるのが分かっていて眩い輝きに近付くのはあまり頭の良い行動では無い。だが、逆に露骨に輝きを避けるのもそれはそれで不自然で目立ってしまう振る舞いだと彼は思うのだ。ヒサトもそれは頭では理解していると思うのだが、実際にそういった事態に陥ると、そうした理屈よりも感情が先走ってしまうのだろう。

 

 ……まあ、事態は既にその段階は超えてしまっている訳なのも確かだ。“八神はやて”という光の傍で己が身を晒し続けなければならないという事態にこの先の展開への不安が募り、それが彼にとって予想以上のストレスになっている訳だ。只、指揮官たる彼がそうした感情を表に出してしまうのはよろしくないだろう。

 ショウは不機嫌そうな雰囲気を滲ませるヒサトに声を掛けようと、彼に近寄る。

 

「ヒサト、部屋割は君とシュテルが一部屋ずつで最後の一部屋が僕とショウで相部屋って事でいいかな?」

「……ああ、そのへんは君の好きにすればいいと思うよ」

 

 ハルトの提案にヒサトは関心が無いかのように、テキトーな返事を返していた。ショウはそんなヒサトの肩をポンと叩き、彼の耳元に囁いた。

 

「不安なのは分かるが、指揮官がそれを表に出すのはあまり良くないぞ。悪い展開を想定するのもいけなくはないが、君一人では無く、私やハルト、シュテルや部隊長以下1256航空隊の面々もいるんだ。ここまで来たら悠然と構えていよう」

 

 ショウにそう諭されたヒサトはハッとする。そして彼はバツが悪そうに玄関の観葉植物に目を逸らした後、着ている服をピンと伸ばして居住まいを正しながら気持ちを切り替えると、逸らしてた目をショウへと向け直した。

 

「……そうだな、君の言うとおりだ。俺は一人じゃない。頼れる仲間がいて、そして俺はその頼れる仲間に指示する、指揮官の立場だ。そんな俺が不安な顔してたら良くないよな」

 

 そう言ってヒサトはまだ硬い表情が抜けきっているとは言えないが、先ほどに比べると柔らかい表情でショウに答えた。

 

「ありがとう、ショウ。……いやはや、君には要所要所でいつも助けられてるな」

「いえいえ、どういたしまして。ま、私も好きでやってるところが多分にある。……面倒事を君にやらせようとしている立場上でも、これくらいはするべきだしね」

 

 ヒサトからの感謝の言葉に、ショウは肩をすくめて、『どうってことない』と言外に含ませるようにして答えた。

 

 

 

 

「ここの二部屋の手前が僕とショウ、奥側がシュテルでいいかな? ヒサトはあっち側にある奥の部屋でお願いしていい?」

 

 八神家の二階へと上がり、はやてに言われた部屋の検討を付けたハルトが他の三人に尋ねる。

 

「まあ、妥当な判断だろう」

「気を遣わせてすみませんね」

 

 ショウとシュテルはハルトの差配に異議を挟むことなく了承した。ヒサトもとりたてて口を出すようなことも無かったので、『了解』と一言同意の言葉を口にした後、ハルトによって割り振られた、階段上って真っ直ぐ突き当たりの部屋へと足を進めた。

 扉を開けて部屋の中に入ると、日当たりのよさそうな大よそ8畳程度の部屋の奥にベッドとタンスが一つずつと、扉の傍に本棚があるだけの質素な様子だった。尤もそんなのは、彼女の両親が亡くなってからこれまでこの家に住んでいたのがはやてだけなのだから当然と言えば当然であるのだが。

 ヒサトは入ってすぐ脇の本棚に指をツーっとはしらせて、うっすら僅かに埃が付いたのを確認すると、ポツリとつぶやいた。

 

「思ったよりは綺麗だけど、やっぱり一度きちんと掃除はしなくちゃいかんか」

 

 さしあったってすべきことを見いだしたヒサトは部屋の奥にある小窓らしきものが気になって、つかつかとそこまで歩んで行くと、小窓の外の景色がどうなっているのか首を突っ込んで確認した。

 ……どうやら下の部屋への吹き抜けになっているらしい。彼が下を覗くとベッドが置いてあるのが確認できた。

 ――ああ、この下が八神はやての部屋なのか。……そうなると部隊長への定期報告をこの部屋でするのは少々拙いのかな? 報告には彼女に聞かれると差し障りがあるかもしれない内容が含まれる可能性もあり得る訳だしな……。

 部屋を変えて貰うべきかとヒサトは思案して、他の三人へ打診に向かおうかとした矢先、彼の携帯端末に通信が入った。

 

『――やあ、ヒサト君』

 

 通信はレイファラ部隊長からだった。ヒサトはサッと自分の周りに結界を展開して、外部からの音を遮断した後に返答する。

 

「レイファラ部隊長、何かあったんですか?」

『いやいや、たいした事では無いけど、実は先ほど一つ伝え忘れていたことがあったのを思い出したから連絡したんだよ』

「……なんでしょうか?」

 

 面倒事じゃ無ければいいな、とヒサトは失礼にもそう思いつつ部隊長に尋ねた。

 

『そちらでの滞在における活動資金っていうか、先方への家賃だとか食費などを含めたそっちの現地通貨についての受け渡しについてなんだが、今日中に手配して、明日渡すからそのつもりでよろしく頼むという話だ。で、今そこに八神はやて嬢はいるかい?』 

「……下の階に降りればいると思いますが」

 

 そう言ってヒサトは床の方へ目を向ける。

 

『そうか、なら後で君から彼女に伝えておいてくれ。“君達の滞在中の諸事の生活費は全額、経費あるいは君達の給与より差し引いて負担する”とね』

「えっ、……わ、わかりました」

 

 部隊長の『給与より差し引いて』という言葉にヒサトは一瞬ギョッとした表情で驚いたが、少し考えれば別に給料なんぞこれまであまり手を付けた事も無いし、いざという時の貯蓄もあるのを思い出すと、気を持ち直して返答した。

 

『よし、話はそれだけだ。すまんな、言い忘れてしまっていて』

「いえ、問題無いかと思われます」

『そうか、では君にとってこれまでとは少々毛色の違うかもしれんが、よろしく頼んだぞ』

 

 部隊長はそう言うと通信を切った。

 ……まあ、報告の際は今みたいに結界でも張ればいいか。出鼻を挫かれる形となったヒサトは、さっきのようにあれこれと難しく考え過ぎるのはよそうと思い直し、とりあえず掃除から始めるかと、意識を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

 

 滞在中に寝泊まりする部屋の掃除やら、急に増えた居候に振る舞う為の食事の買い出しなどで時間は慌ただしく過ぎ、日もとっぷり落ちた八神家。そんな滞在初日の夕食は、鶏肉と春野菜がふんだんに入った鍋であった。

 

「改めてまして、よーこそ八神家へ」

 

 食事の準備も終わり、さて皆で頂こうという前にはやてがそう切り出した。

 

「こうしてみんなで食卓を囲んでご飯を食べられる事を私は嬉しく思うてます。皆もこの家を自分のウチやー思って、遠慮せんとゆっくりしていってください」

 

 彼女は傍から見ても嬉しそうな顔で言った。ヒサト達四人も思い思いに頷いたり、同意の言葉をはやてへと掛けた。

 鍋からは熱く、食欲をそそる香りを含んだ湯気が立ち上っていた。

 

「それじゃあ、話はこれぐらいにしといて、食べましょか」

 

 はやてのその言葉を受けて、各々は鍋へと手を伸ばした。箸を端から易々と使いこなすヒサト、ショウ、ハルトの三人に、一人だけ箸の使い方に慣れていないシュテルがジトっと睨んで問いかける。

 

「……どうして三人はそうも易々と、このハシとやらを使いこなしているのですか」

 

 彼女のその問いに対して、ヒサトが何でも無いように不敵な顔で答える。

 

「理屈じゃ上手く言えないが、頭に刷り込まれてるからじゃないかな?」

 

 ヒサトのその回答に、シュテルは『ずるい』と思ったのか、それとも悪い事を聞いてしまったと感じたのかはヒサトからは判らないが、何とも言えないような微妙な表情になった。

 はやては彼の回答の意味が解りそうで今一つ理解できていないのか、何か言いたげにヒサトの方をチラリと見ていた。

 そんなはやての様子に気付いたヒサト達三人は互いに顔を見合わせ、念話で互いの了承を得た後、ショウが口火を切りだした。

 

「私とヒサトとハルトの三人は少し変わった出生でね、とある世界にあった遺跡の奥よりカプセルに入った状態で発見されたのさ。私達は目覚めた時から、その年代の子どもには不相応な知識量と大人びた所作、そして何より珍しくて強力な力を各々その身に宿していた。そんな私達三人を畏怖してなのか、ふざけてなのかは判らないが“アルハザードの捨て子”と呼ぶ者もいる。まあ、そんな感じの背景が私達にはある訳だ」

 

 はやてが疑問に感じているであろう事、――ショウ自身を含めた三人を知る上での前提となる、自分達のルーツをショウは語った。

 

 それを聞いたはやてと、そもそもの発端となる事を聞いてしまったシュテルは少々バツが悪そうな顔になった。

 

 そんな事態にも関わらず、ヒサトは白米をガツガツとかきこんで咀嚼していた。

 ――ふっくらしていて、舌触りも良い。うん、旨いご飯だ。

 別にこれまで食べた白米が美味しくないという訳でも無いはずだが、前世の故郷たる日本で再び食べる事が出来たという思い出、いや、思いこみ故の補正で特別なものにヒサトは感じた。

 そんな呑気に食事に没頭している彼に、ショウは横目で視線を向けながら念話を送った。

 

〈ヒサト、君は第五分隊の隊長だろ。呑気に飯食ってないでこの空気をどうにかしてくれないかね〉

〈ん? ショウならこのぐらいの状況、何とか出来ると思っていたから呑気に飯食ってたんだがな。……ヤレヤレ、駄目だろうがショウ。女の子にこんな顔させちゃあ〉

〈おいおい、ある意味この状況は君が蒔いた種だろう。それにそもそも今更そんなことを言うのならば、先ほどの確認の際に反対しておきたまえよ〉

〈ハハハ、解ってるさ。ちょっとからかっただけだ〉

 

 ショウから『何とかしろ』と念話を送られたヒサトは、そうしたやり取りをした後、口を開いた。

 

「えーと、気持ちは分からなくも無いけど、そういった目で見られる方が傷つくよ。……ま、この話はここらへんで止めにしてご飯食べようよ」

 

 ヒサトのその言葉を受けたはやて達は『あっ……』と先にも増してバツが悪そうな表情になったが、彼の言うようにこれ以上悪い空気を引きずるのは良くないと思い、止まっていた手を動かし始める。

 

 

 

〈ヒサト、ヒサト。そんな言い方はどうかと思うよ〉

 

 ヒサトが再び美味な食事に没頭しようとした矢先に、今度はハルトが念話でそうヒサトを咎めてきた。それに対してヒサトはさも何でも無いようにしれっとした顔のまま返答をした。

 

〈こういうのを上手く収めるには、喧嘩両成敗的な感じで手打ちにしておくのが良いんだよ〉

〈……そうなのかなぁ〉

 

 彼の言い分にハルトは納得がいかないのか首をかしげた。対するヒサトは場の空気を良くするためなのか、はたまた自分には関係ないとでも思っているのか、ニコニコとした表情で美味しそうに食事を続けているであった。

 

 ――他人の傷を思いやれる心は大切だが、気を使われるのもそれはそれでその気遣う視線が心の傷に突き刺さって痛くなってしまうものだな。……まあ、少なくとも俺はそういうのはもう、どうでもいいんだけどね。

ヒサトは内心でそうつぶやいた。

 

 

 少々気まずい場面もあったがすぐに持ち直し、その後八神家での初めての夕食は楽しく過ぎていった。

 その後、少し家の周囲を散策したり、風呂で一日の疲れを癒したりしてヒサトは過ごした。

そして夜も更け、子どもは寝るような頃にヒサトは一人屋根の上に登り、ボーっと空を見ながら物思いにふけているのだった。

 ――改めて今の自分の状況を振り返ると、なんとまあ、大変な境遇になったものである。戸籍上の年齢はもうすぐ十二になろうとしているが、実際は目覚めて九年。そう、まだ十年にも満たないのだ。なのに次元世界を股に掛ける組織で、二尉の分隊長やっているなんて、昔の自分から見れば何とも冗談みたいな話である。尤も、歳云々に関しては前世持ちのなんちゃって十二歳で、この世界における出自も特殊な部類の自分を一般的な子どもと同じように考えらえるかは微妙だと思うし、管理世界は個人の自主性を重んじる風潮が強いというか、実力主義的な面があるのも確かだ。

 

 ――そもそも、どの道力を発揮するならば周囲からある程度浮くのは仕方ないと端から割り切っていた訳だしな。……いや、元は逆か。特異な出生に周囲から浮くのが避けられないから、むしろ進んで力を得て、それで一部でも良いから認められるようになろうと躍起になったんだっけか。

……まあ、何にせよ当時の俺達三人には時空管理局に入る道を選ぶのがベストだったと思う。もし、あのまま保護施設でぐーたら過ごしていたら、そのうち研究施設にでもさらわれて体を弄繰り回される危険もあった。よしんばうまくそれを回避できても、結局のところ自分はいずれ自らの内にある力に依存し始めただろう。

そう考えれば犯罪者になる芽を摘む意味合いでも管理局に入った事はそれほど間違いではなかったと思う。……トップがアレである事を考えると、今後においても絶対安全とは言いきれないが。

 

 

 

「星を見ておいでですか、マスター」

 

 そんな事をぼんやりとヒサトが頭の中で考えていると、メシアが話しかけてきた。

 

「あー、星っていうか、ボーっと空を眺めていたんだがな。……まあ、星もいい」

 

 ――いつも、何事にも動じずにじっと同じ場所で瞬き続け、俺達を見守ってくれている。ふとそんな言葉がヒサトの頭をよぎった。

 そして、いつも空を飛んでいるのに、久しく自分はソラを見ていなかったとヒサトは気がついた。別に特段空を見るのが趣味であった訳じゃ無いが、こうした輝きを見ずにこれまで過ごしていたことに、自分の余裕の無さを突き付けられたようで、彼は少し苦々しく思った。

 

 ……ジュエルシード、落ちて来て欲しくないな。

 

 

 とある少女が魔法に出会うきっかけだとしても。

 アレがここに落ちてくるのは必然にして定められた運命だとしても――

 

 ヒサトは今この時は、何事も無く平穏な未来が訪れる事を願うのだった。

 

 

「……そろそろ、俺達も寝よう」

「イエス、マスター」

 

 屋根の上から降り、天窓より二階へとヒサトは戻った。

 

 

 

「ヒサトさん」

 

 さて、本日の報告も部隊長に送った事だし、寝ようかと思っていたヒサトに下の部屋より声が掛かった。

 

「何? どうかしたのか」

 

 ヒサトは下の階にいるはやてに対して、声だけで返事をした。気にする必要は無いかもしれないが、あまり人を見降ろすのは良い気がしないというか、彼女に対し何となく気恥かしい気持ちがあったからだ。

 

「えっと、ちょっとヒサトさんとお話したいなーと思うて。良かったら降りて来てくれませんか?」

「……もう十時を過ぎるころ、寝不足は良くないと思うけどな。まあ、良いけどね」

 

 はやての頼みに始めは少し渋ったヒサトだが、最終的に了承の言葉を発すると、小窓より身を乗り出して、魔法で下にゆっくりと降りた。

 

「お邪魔させてもらうよ。で、どんな話をしたいのかな」

 

 水色の寝巻き(部隊長から指令を受けた後、最低限の着替えなどは隊の宿舎まで転移して持ってきた)を纏ったヒサトは、部屋のベッドに転がっているはやてにそう言葉を掛けた。

 

「あー、今日会ったばっかりの人にこんなこと聞いたら怒られそうやけど……」

 

 そう言って言葉を濁した彼女に、ヒサトは黙ったまま続きを待つ。

 ――まあ、このタイミングで聞かれるような事は二三の候補に心当たりが絞られるだろうが。そう思いながら。

 

「ヒサトさんは、その、両親が居ない事を辛く思ったりしますか」

 

 ……確かに今日会ったばかりの人間に対してはつっこみ過ぎた問い掛けだろう。……その情報を初対面の人間にさらっと話す方も話す方だろうが。

 

「フム、確かに今日会ったばかりの人に聞くにしては少々つっこんだ質問だけど、そうだな――」

 

 少し頭の中を整理して、ヒサトは言葉を続ける。

 

「勿論、と言っていいかは判らないが、色々と辛く思う事はあるさ」

 

 そう言いながら、ヒサトはある想像をした。

 ――もし、今自分の持っている力を一切合財捨てれば前世の自分に戻れるとするならば、自分はどちらを選ぶか?

 

 ……今の生活は面倒やら危険はあるが充実したものだし、自分はこの世界に対する愛着を持ちつつもある。対する前世は、これもまた幸せだった。何故死んだのか覚えて無かったり、昔つまらん事で躓いてそのまま駄々をこね続けたような俺ではあるが、それ以外は間違いなく悔いの無い、幸せな人生だと胸を張って言える。今を捨ててやり直せるならば、それはそれで良いかもしれない。……温かくて優しい父さん母さんや、両親や俺に反発していたけど根はまっすぐな妹に、もう一度会いたいな。そう考えると、急に薄れかけていた前世の家族への未練が心の奥より泉のように湧いてきて、前世の家族にもう会えない事が、昔と同じように悲しくなった。

 だが、そんな事を気取られないように、ヒサトは強がるようにフッと不敵な笑みを浮かべ、続けて答える。

 

「だけど、総じて俺のこれまでの人生は幸せだったね。親は居ないけど、友は居るし、あくまで俺が力を持っているからとは言え、何だかんだで面倒見てくれた人とか、チヤホヤしてくれるやつは居たからね。何でもって訳にはいかないけど恵まれてる方だと思うよ、俺」

 

 ヒサトはそう言い切る。

 もしも、なんて考えてもどうしようもない。今を生きる、それが自分の道なのである。

 

「……そうか。ありがとうヒサトさん、変な事聞いたのに答えてくれて」

「いや、特に問題無い。……ま、しかしさっきも言ったが、そろそろ寝た方がいい。話はここらで切り上げよう」

 

 はやては何かを得心したようにして、ヒサトに礼を言う。

 ヒサトは彼女が納得したのを見ると、そう言って自分の部屋へと戻った。

 

「お休みなさい」

「うん、お休み」

 

 

 

(今日は色々と有った)

 

 ヒサトはベッドにポフリと倒れ込むと今日一日を思い返すと、自分の身の回りの環境が大きく動き出している事を自覚せざるを得なかった。そしてそれはこれからが本番である事も。

 

 八神はやてが思った以上にすごく可愛い子だったなーとか、地球の転生者にメンドクサイやつが居ませんようにとか、ユーノと会うの楽しみだな、仲良くなれたらいいなとか、そんな事を目を閉じて考えているうちに、ヒサトの意識は眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 ――歓喜、焦燥、諦観、欲望、その他様々な感情がこの地に渦巻く中、願いを叶える宝石と魔法少女の物語が今まさに始まりを告げようとしていた。

 

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