「シュテル・フェンリッヒと申します。どうぞ、よろしくお願いします」
「……さっき名乗っていたから知ってると思うけど改めて名乗らせて貰うと、ヒサト・クラフトだ。よろしくお願いするよ」
そうして二人はお互い自己紹介をし合う。
二人の初対面の感触がまずまずの印象の良さであったことに満足したのか、部隊長は微笑ましい様子でうなずいていた。
――しかし“シュテル”か……何か聞いた覚えがあるな。ヒサトはシュテルを見つめながら、ふと頭に湧いた疑問について考えた。シュテル……ダークナイト・シュテルってのがリュー○イトにいたよな、確か。
いやそうじゃない。この世界に関する前世の知識の中にも何か引っかかるものがあったはずだ。
……ショウの方がずっとこの世界について詳しいし、おそらく何か知っているはずだろうから、後でショウに聞いてみればいいか。
そうヒサトは新しい仲間となる少女の名前に僅かな引っかかりを覚えたが、詳しいことを知っているだろう友人がいることを思い出し、生じた疑問を先送りにした。
「可愛い子が仲間になって嬉しいのは分かるが、あまりじろじろ見るのは失礼とは思わないかな、ヒサト君」
コホンと咳払いをしつつ、部隊長はそう述べた。
そう言われて気付いたのか、ヒサトは居心地が悪いのか、はたまた恥ずかしがっているのか何とも判断のつかない表情をしているシュテルから慌てて目を横へと逸らした。
「まあ、あまり焦らないことだ。ヒサト・クラフト三等空尉、この後は彼女を他のメンバーへ紹介と、ついでに君の昇進と副隊長就任の報告もしにいくと良い。ああ、それと訓練終わりの後でいいから私のところに来るようにリオハルト曹長に伝えておいてくれ。……私からの話は以上だ」
二人はレイファラ部隊長がいる執務室から退室し、ヒサトが少し前を歩く形で他のメンバーがいるであろう訓練場を目指す。
「……つい先ほどは申し訳なかったね、初対面の女の子をじろじろ見るなんて」
「いえ、別に怒っていませんよ。けど……」
振り返ってそう謝罪をしたヒサトに対して、怒っていないとは言いつつもシュテルは何故か言い淀んだ。
「けど、何……かな」
「じろじろ見て評価するのではなくて、きちんとお話をし合ってお互いを知り合いたい。そう思っただけです」
そうヒサトに言ったシュテルは、ヒサトの気のせいでなければ僅かに微笑んでいるように見えた。
――そんな言い方はずるくないか。
照れているだろう自分の顔を誤魔化そうと取り繕う努力をしつつ、ヒサトはそう思った。
「ああ、うん。その通りだね。第一印象で決め付けるのではなくて、話し合わなきゃ分からないことはたくさんあるよね」
「ええ、そうです。……クラフト三等空尉は魔導師ランク空戦SS+とお聞きしましたが本当ですか」
「事実だよ。最も、ハルト……同じ分隊のリオハルト空曹長には模擬戦で負け越してるけどね。
まあ、その人物の今のランクと実力が必ずしも等号で結ばれるとは限らないってことだ。
……別に俺がランクだけ高い見掛け倒しだというわけじゃないからね、分かっているだろうけど、そこは勘違いしないでくれ」
シュテルの質問に対して、ヒサトは少しバツの悪そうな表情で言い訳をする。
尤も、この話をハルトが聞けば、『そんなの昔の話で、ここのところ君に勝てた覚えが無い』と否定をしただろうが。
ヒサトも自分で言ったが、別に彼がただ単に魔力が高いだけの戦闘経験やセンスが無くて弱いやつということは決して無い。若くて未熟というのは彼の年齢を鑑みるとあり得なくは無いのだが、それはハルトにしても条件は同じであり、むしろヒサトの方が必死に修練を積んでいる時間が多い。
それならば何故ヒサトがハルトに模擬戦で、あくまでこれまでの通算とはいえ、負け越しているのか。
そこには相性の問題も確かにあった。事実、ハルトとの戦いにおいてヒサトは自分の長所を生かしづらい戦いを強いられることが多かった。
いや、底知れない程の高い魔力量と優秀な相棒たる存在による情報処理能力の高さや自身の才と努力。それらを背景とした優れた防御力と高機動の両立や高威力のミッドチルダ式魔法、特に射撃戦を得意とするオールラウンダーと言ってもよいヒサトであれば、本来多少優れた程度の相手ならばハルトの十八番たる近接戦闘なんぞさせる前に勝負を付けられるのだ。
ならばどうしてハルトに勝てなかったのか。それはハルトの能力がある意味反則じみたものであるというのが大きな理由だろう。
ハルトが有する力は『風を操る力』と『高い治癒・再生能力を持つ、やや対魔法性能に優れた結界っぽいもの』の二つである。
ハルトの能力について知った時、ショウとヒサトは二人とも『なんかどこぞのセイバーっぽくない? 』と思い、実際ハルトにもそう感想を述べたところ、彼曰く『風をコントロールできる精度と範囲が段違いに大きいし、そもそも聖剣とか出せないよ。まあ、僕が所持するデバイスは剣、それも両手剣のバスタード・ソードみたいな形状だからあながち違うともいいきれないかな』とのことである。
ちなみにショウとハルトの二人は、自分の力がどういったものなのかメシアに教えてもらわないと把握できていないヒサトと違って、何となく自らの力を理解しているらしい。
それはともかくとして、ハルトの力は嵐を巻き起こすことなど朝飯前なのをはじめ、広範囲の探知、ステルスなんでもござれの能力に加えて、なんかよくわからないけど並大抵の魔法攻撃ではダメージを与えられないし、物理攻撃にもそれなりに耐性をもつ。そして本人が疲れているところを全く見たことないという、欠点が見当たらないものである。
さきにハルトは近接戦闘が得意と述べたが、実際は遠近両方ともえげつない実力を発揮できる訳であり、近接戦闘が得意と言うのはあくまで手に持った得物の関係上といった部分が大きいのも確かである。
「まあ、自分達の実力のほどはお互いこれから確かめあっていけば良いと思うよ」
少々考え込んでしまっていた自分の頭を切り替えてヒサトはシュテルにそう付け加えて言った。
彼のその言い分も尤もだと思ったシュテルはハルトという人物への興味を芽生えさせつつ、話題を切り替えることにした。
「……他の方、特にランクSS+の貴方をして強いと言わしめるリオハルト空曹長のことも気になりますがそれについてはこれから知ることにしまして、今はクラフト三等空尉本人のことをお聞きさせてもらいたいです。で、クラフト空尉のご出身はどちらですか」
「出身か。えっと、士官学校出身だよ。……えーと、出身地ってことなら、一応アルハザードということになってるよ」
正直なところ、出身地に関しては発見された場所でいいんじゃないかとヒサトは常々思っているのだが、どうもそういうことになっているようなので仕方ない。
ヒサトの言葉に怪訝な表情になっているシュテルに対して補足説明の必要性を感じ、慌てて彼は言葉を続けた。
「実際そうなのかはわからないけどね。まあ、単にとある遺跡の奥でカプセルの中で眠っていたのを発見、保護されたって背景があるだけだよ。……いや、そんな地雷を踏んだって顔することはないよ。別にそんな気にするほどのことじゃないよ。ちょっと変わった生まれってだけで、ぶっちゃけた話、陰口とか叩かれなければ困ることも無いしな」
ヒサトは、あからさまに拙いことを聞いてしまったという思いが出た顔になっているシュテルに対し、なんでも無いような感じでそう言った。
実際、ヒサトは自分の現在の境遇について、さほど悲観した気持ちは抱いていない。自らを庇護してくれる存在たる両親が不在というのは確かに残念であるし、ふと寂しくなってしまう時ももちろんあった。しかしながら仮にもヒサトは前世の記憶を持つ転生者であり、普通ならば精神的に不安定になっても仕方ない両親の不在という状況でも平静でいられるのである。
もっとも、せっかく転生してもう一度子どもになったんだから、子どもらしくはしゃいだり、親に甘えたりしたかったなと残念に思う気持ちも存在していたわけでもあるが。
「で、君の生まれとか諸々も聞かせてほしいな」
ヒサトは気まずくなりそうな空気を払拭するために、にこりと笑顔を作りながらシュテルへと話を振った。
「私はミッドチルダの生まれです。家族は父と姉が一人います。管理局員だった母は私が幼いころに亡くなったと聞いてます。ちなみに父と姉は二人で家の花屋を切り盛りしています」
「ふむ、そうなのか。君の家族がどんな人なのか興味あるな」
「父は優しくて頼りになる人です。姉も抜けたところがありますが面倒見の良い、自慢の姉です」
そう誇らしげに自分の家族について語る彼女をヒサトは少し羨ましげな表情で眺める。
――家族。それはヒサトの今生において、目覚めて此の方未だ存在しないもの。いや、ある意味ではショウとハルトは兄弟のような存在と言っても良いかもしれないが、あの二人は幼馴染の悪友という方がやはりしっくりくるだろう。
ならば、メシアはどうだろうか。彼女は確かにヒサト自身にとって最も身近で、いつも傍にいる存在だ。家族と言っても差し障りは無いように思える。
だがしかし、ヒサトがメシアに対して信頼や親愛の情を抱いていたとしても、彼女がヒサトに対して家族としての情を持っているのかは甚だ疑問なのである。
メシアはあくまでヒサトの相棒たる存在であり、親兄弟のように無償の愛情を注いでくれると盲信するには拙い関係であるし、彼女はヒサトに対して色々と隠し事があり過ぎる。あるいはむしろ“そういう存在”であるのかもしれない。だが、それでもヒサトはメシアのことを頼れる存在と認識している。家族の間に隠し事があってはならないとか、そんなふざけた妄言をヒサトはするつもりは無いが、やはり現状を踏まえて考えるとヒサトとメシアはパートナーという関係なのだろう。
(そういえば、せっかくだから先にメシアを紹介しておいてもいいかな)
家族についての話題で何とか家族に含められる存在は自らの周りにいないか考え、自らのパートナーならば実際のところはそう言って良いか少し怪しいが、対外的にそう言うのは問題ないだろうとヒサトは思い、他のメンバーと共に紹介する予定を繰り上げて、自らの相棒を呼びだした。
「なら俺も頼れる相棒を紹介させてもらおう。こいつの名前はメシア。ちょっと人見知りする奴だが俺ともどもよろしく頼むよ」
シュテルはヒサトの左肩後方付近にいきなり現れた緑髪の小人に驚いて目を見開く。
そんな彼女にメシアは悪戯が成功したことが嬉しいようにも見える笑顔をして、シュテルに
『よろしく』と挨拶した。
「えーっと、もしかしてユニゾンデバイスなのですか」
いまだ驚いたような表情を残しながらも興味を含ませた調子でシュテルは、面白いものを見れたという顔をしたヒサトへ、そう疑問を投げかけた。
「いや、彼女はユニゾンデバイスじゃないよ。扱いとしては俺のレアスキルだ。まあ、珍しさではユニゾンデバイスと同じようなものだけどね。しかし――」
その質問に対してヒサトも始めはこれまでそう聞かれた何時ものように返事をするが、今回はそれに続けて言葉をかける。
「しかし、ユニゾンデバイスなんてもの、まず拝めないのに良く知っているな」
「いえ、私も知識でしか知りませんよ。……メシアさんのことをデバイス扱いしてしまって申し訳ありません」
そう言って、シュテルは目を細めどこか困ったような、申し訳ないような表情をして頭を下げた。
そんな彼女に慌ててヒサトとメシアは自分たちは何も気にしていないことを告げ、むしろこちらが気を遣わせてすまなかった、と逆に謝罪した。
そうこう話しているうちにハルト達のいる修練場まで二人(あの後メシアは引っ込んだ)は辿り着き、ヒサト達が来たのにいち早く気付いたハルトから声をかけられる。
「ヒサト、部隊長に呼ばれたってカラント隊長から聞いたけど。……後ろの女の子は誰なのかな」
「ああ、今紹介するよ――」
尤も気になるだろう質問をしたハルトと、なぜか彼女を驚いた表情のまま何も言わずにプルプルと小刻みに震えながら凝視しているショウに対してシュテルのことを紹介しようとしたヒサトの言葉に割り込んで言葉が発せられた。
「先に部隊長から君に聞かされたであろう、例の件への返答を私にも報告してもらいたいな」
ヒサトの発言に被せるようにして発せられた陰気な声色の主は、ヒサト達が所属する第五分隊の隊長、エリンケ・カラント一等空尉であった。
カラント隊長は戦術眼に優れ、指示も的確という点では良き上官だ。……ネチネチと小言がうるさいのに目をつぶれば、であるが。
ショウに言わせれば、やつは嫌味で人を見下してる、アイツの言うことは間違っていないがその態度が気に食わない、そんな感じのとにかく面倒くさい上司扱いである。
ヒサトやハルトの二人もその小言の多さやそのねちっこさに疲弊することはある。しかし、ヒサトは戦術等の学ぶべき所は心に留めるようにしておき、ネチネチと長いだけの小言は蛙の面に水の如く適当に受け流すようにしているし、真面目がうりのハルトは言ってることは間違いでは無いのだからといつも真剣に聞いている。
その為、内心どうなのかはともかく、大抵の場合はショウを諫めたり、愚痴の聞き手に回ることが多い。
そんな優秀だが少し残念な隊長のカラント隊長の方へとヒサトは向き直り、敬礼と共に報告する。
「はい、副隊長指名の件と来月からの話、両方とも承知いたしました」
「結構。尻の青いガキの貴様が一端の指揮官としてやっていけるよう、これからの一月は今まで以上に厳しく指導させてもらう。貴様は言われたことをその日中にきちんと理解して実践できるようにしろ。これは指揮官としての義務だ。分かったな」
「イエス、サー」
隊長のありがたくも厳しいお言葉に対して、ヒサトは即座に了承の返答をする。
無茶振りとも言える言葉であるが、指揮官とは部下の命を預かる立場であり、その責任は重大である。これから先はそんな立場となる以上、その場その場の適切な判断を下すことは正に指揮官の
義務であり、最大限の努力を持ってこなさなければならないのだ。
尤も、先ほどレイファラ部隊長に言われたように、一人で抱え込む必要は無く、頼れる友や優れた上司も存在しているし、ミスは仲間で補い合うこともできる。
だがしかし、何時までも人にフォローしてもらう訳にもいかないだろうし、やはり一番良いのは自らがきちんと適切な判断を下して指示することであるのは言うまでもないことだろう。
その意味では隊長の言葉も無茶では無いし正しいものであろう。
「返事だけはいつも一人前だな。まあ、精々励むようにしろ」
そう言いながらカラント隊長はフンッと鼻を鳴らした。
〈おい、もしかしなくてもカラント隊長が今月いっぱいでいなくなるのか。そしてお前が後任というわけでオーケーだよな。マジだよな……。ヨッシャー! キタコレ。後、うしろのシュテるんについて詳しく〉
〈そうだがおちつけよ、ショウ。彼女については俺も聞きたいことが有るんだが、その様子だと知ってるんだよな〉
秘匿の念話でショウからそんなハイテンションな調子で聞かれたヒサトは、常日頃の様子と違う彼をなだめながら、こちらからも聞きたかったシュテルのことについて何かしらの情報を有していることを確信し、ちょっとした違和感が解消できることにホッとする。
なお、ショウの変なテンションについては今まで彼との付き合いの内での動言を鑑みると、おそらくこちらが彼の地の性格なのではないかというのがハルトとヒサトの共通見解である。
「まあ、何だ。そういうことになったからショウとハルトの二人はこれからもよろしく頼むよ。ああそれに加えてついさっき昇進させられたから」
「えっ、そうなんだ。おめでとうヒサト」
「おめでとう。それより早く彼女を説明して貰えないか」
ヒサトの報告に対して、二人は祝いの言葉をかけた。……ショウはそれよりもヒサトと共に来た少女のことが気になって仕方がないようだが。
ヒサトはそんな友の様子に内心では多少呆れつつも期待に答え、新たなメンバーを紹介しようと彼女の方へと目を向ける。
「それじゃあ紹介しよう。昨日、ロギュシェ副隊長が戦技教導隊へと転属され、カラント隊長も今月いっぱいで前線を退き、後方勤務に移られる。そのため人員が足りなくなる第五分隊へと新しい隊員が加わることになった訳だ。彼女が新しい隊員となるシュテル・フェンリッヒ一等空士だ」
「只今ご紹介にあずかりましたシュテル・フェンリッヒです。魔導師ランクは空戦AAA+で、歳は今年で11歳になります。どうかよろしくお願いします」
そう言って彼女は初めてヒサトに挨拶した時と同じように、ぺこりと軽くおじぎをした。
「僕はリオハルト・リクスナー。空戦AAランクの空曹長です。こちらこそよろしく」
ハルトはニコリと爽やかなイケメンスマイルを浮かべながらスッと手を出し彼女へ握手を求める。
シュテルもそれに答えてハルトに右手を差し出して『よろしくお願いします』と言いながら握手を交わした。
そんな二人の様子を何の気なしに見ていたヒサトであるが、ショウの様子が何やらおかしいことに気付き、声をかけようとしたまさにその時――
「エッ、マジでシュテるんですか。マジなの。ヤッター」
……おもむろにショウは奇声をあげだした。そんな彼にハルトとシュテルはポカンと呆気にとられた様子になり、カラント隊長は怪訝な顔をしつつも、我関せずな態度で見守るばかりであった。
ヒサトもいきなりのことに呆然としていたが、このまま放っておくべきじゃないと我に返り、おかしくなったショウの頭をペシンとはたいた。
〈オイ、いきなり変な声出すなよ。見てみろ、完全に引かれてるじゃねーか〉
念話でそう言ってヒサトが目線を向けたその先では、シュテルが怪訝な顔をしている。
いくらこれが地の性格なのであろうが、もうちょっと自重ができるタチであるはずなのになぁ、とヒサトはあまりのショウのタガの外れっぷりを訝しみながらも、このまま彼に対する第一印象が悪いままではこの先良くないだろうと考え、シュテルへとフォローをする。
「すまない、彼の持病の発作が起きてしまったようだ。普段は理知的で頼れるやつなんだ。こんなのでもいい友、いやいい仲間だから今さっきのことは無かったことにしてくれるとありがたい」
フォローはともかく、心の病を捏造したり(ある意味発作的なものであろうことは違い無いだろうが)、こんなやつと友達に思われたくないと、友から仲間へと距離を離した関係に言い替えるあたり、何気にヒサトも酷い気がするわけだが、そこに追及をする人物はこの場にいなかった。
彼女はまだ多少ショウに対して不快に思いつつもヒサトに免じて何も言わないことにした。
そんなこんなで互いの紹介とヒサトの報告を終え、シュテルを新たに加えた第五分隊での朝の鍛練を始めることになった。
普段通りならば軽く体を動かした後、基礎練習を行うというのが朝練の内容である。しかし実際のところはその後にヒサトがロギュシェ副隊長、時にはカラント隊長に頼んで、指揮官としての勉強や魔力運用について教えてもらう、いわゆる居残り訓練のようなものをしてもらっていた。
それに真面目なハルトが加わり、二人がやってるなら自分も付き合うかとショウも参加するようになり、いつしか本来はヒサトが隊長たちの時間を割いてもらってやってた居残りの訓練も含めて通常の訓練となっていた。
だが、今日は新しく来たメンバーであるシュテルとヒサト達のお互いがどの程度の実力なのかを知るために模擬戦をしよう、とハルトが言い出し、それにシュテルやショウも乗り気になった為、なし崩しに模擬戦をする運びとなった。
――ちなみに隊長は普段の口煩さとは打って変わり、黙ってヒサト達を見守るばかりであった。
ヒサトも別にお互いの実力を知ることに異存は無いので特に反対する気はなかった。
「それで模擬戦をするのはいいとして、どういった形でやるんだ」
「……クラフト空尉、私と一対一で本気の勝負をしてもらえませんか」
模擬戦をするということに場の空気が決まったのを見て、ヒサトはルールはどうするのかをメンバーに聞くと、シュテルがヒサトとの一騎打ちを希望してきた。
ヒサトとしてもシュテルと自分たちは今日が初対面なのだから二対二のコンビ戦は出来ないだろうし、先ほど彼女と話したことを考えるとハルトか自分を指名するだろうことはまあ、予想の範疇であった。故に――
「よし、やろう」
ヒサトは彼女の提案を快諾した。
部隊の模擬戦用の修練所へと移動した後、二人はお互いに自分の力への自信、そして相手の力への興味をたぎらせた目つきを隠すこともなく、ヒサトは悠然と、シュテルはグッと内に闘志を漲らせて互いにデバイスを構える。
「開始!! 」
――ハルトの声と共に二人による模擬戦の火蓋が今、切って落とされる。