「とまあ、前世の知識に基づく『シュテル』という人物の情報はこんなところだ」
シュテルが本局1256航空武装隊へと転属をして来たその夜、ハルト達三人はヒサトの部屋に集まり、――これまでも定期的に度々集まっていたのだが――ゴロゴロと駄弁りながらとりとめのない話をしていた。
その中でも一番の話題は、やはり本日より仲間に加わったシュテルのことであった。
ショウより『
――ちなみに三人の、前世の知識と照らし合わせて、おそらくこの世界の原典、あるいはモチーフとなるであろう物語、『魔法少女リリカルなのは』について三人が有している知識量は、ヒサトは『StrikerS』まで大まかに。ハルトは、主人公が魔法でビーム砲撃して活躍する話ということ。ショウは二人に説明をすることが出来るほどかなり詳しく知っている。
だがしかしだ。これまでのショウの言動を鑑みると、ヒサトとハルトはどうにも彼が只のアニメ好きとは思えない。勿論、彼がリリカルなのはのファンであろうことは否定しないが、二人が抱くショウの前世への疑問、――いや興味と言った方が良いだろうもの。それはショウが以前、ヒサトに対して、組手に付き合ってほしいと申し出てきた時のことだ。ヒサトはそれに了承し、武術的心得は多少知識として持っているだけのヒサトはショウより学ぶつもりで始めた。
しかしヒサトが掴みかかろうとしたその刹那、ショウはあっという間にヒサトの腕を捻りあげ、地面へと組み伏せた。
その時見せたショウの、まるで機械のごとき冷徹な顔は、ヒサトに今も印象深く残っている。
他にもこれまでショウはその言動の端々に前世がとても普通ではないと二人に感じさせるものを含ませることが有った。
前世のことについては本人が進んで語ること以外はお互い追及し合うことは無い三人であったが、ショウのおそらく特異でないかとおぼしき前世について、ヒサトとハルトは一度遠回しに本人に訪ねたことがあった。その時ショウは前世が一般的なものでなかったことは否定しなかったが、その中身について語ろうとはしなかったし、二人もそれ以上は聞かなかった。
ともかく、ショウはこの世界の知識にとても詳しいことやおそらく地の性格だと二人が思ってる愉快な性格とは反対に、前の人生はどの程度かは分からないがヒサト達より死と硝煙の香りが近いものであったのだと思われる。あるいは彼の内には、ヒサトの内よりもさらに冷たい、敵を捻じ伏せる機械装置のような一面も存在する可能性が有るのかもしれない。
「えーっと、結局のところ彼女は何者になるのかな」
「……そんなの私が知りたいさ」
ハルトの質問に対し、ショウは肩をすくめながらそう返した。
ショウの説明だと、紫天の書なるモノのシステム構築体ということらしいが、今日一日だけとはいえ互いに色々と話を交わした中にそれっぽいことを匂わせたり、嘘をついている気配は感じられなかったというのは三人共にほぼ一致した見解だ。
「少なくとも俺が見聞きしてデータ照会した範囲では、彼女の経歴は虚偽で無い筈だぞ」
「ふむ、では未来から来た説も苦しいな。で、実際これはどういう事なのか我々に説明が欲しいものだね、メシア君」
そう言ってショウは、ヒサトの内にいるメシアへと問いかける。
ヒサトの体より湧き出るライトグリーンの粒子が緑の長髪の30cmほどの小さな妖精を形作り、三人の前に現れる。
「そのご質問にお答えしますと、私の知る限りの情報では、彼女は極々一般的なこの世界に生きる人物でございます」
「そう判断するに足りる情報ソースを教えて貰いたいものだね。こう言っては悪いが、彼女はあまりに私が知る登場人物に酷似しすぎている。我々の影響であると説明づけて貰う方が余程すっきりするのだが、そこのところはどうなんだね。流石にこれは神の介在を疑わざるをえない事態なのだが、出来れば君の上に存在する創造主とやらの回答が欲しいものだね」
ショウは『お前の言葉じゃいまいち信憑性が無い、もっと上の奴を出せ』と要求した。
ヒサトもそうしたショウのいつも以上にメシアに不審を見せる有様を感じ取り、彼女に対して、詳しい説明を願うような目でジッと見つめた。
「……フム。マスター、魔力の方を拝借させていただいてもよろしいでしょうか。此度の件については確かに何らかの釈明を頂いた方がよろしいと私も判断しました」
彼女も流石に現状の説明では問題が多いと思ったのか、あるいは自らのマスターの珍しく懇願する様子に折れたのか、自らの生みの親たる創造主に伺いを立てるという提案をした。
「勿論いいけど、それは問題ないのか。介入は無し的な決まりのうえで」
提案には了承しつつも、それを疑問に思ったヒサトは彼女に聞く。
「ええ、マスター達が直接言葉を交わされるのは、我が創造主や他のお二方の指示や意図が受けることに繋がる恐れがあります故、問題です。しかし私が魔法によって何らかの情報をこの世界の外部にアクセスして探し、そこから情報を得る形ならばおそらくは問題無いかと。
もし、仮にそれも駄目だと創造主を含むお三方が判断したならば、その時は申し訳ないですが諦めてください」
「君が代弁するのでは、結局それが嘘で無いかどうかは分からない訳だが」
「勘違いなされては困りますが、あくまで私にとって重要なのはマスターが納得なされるかどうかです。そもそも私は言うべきでないことを言わなかったり、黙秘を貫くことはあれども、明確な虚偽を申した事は生まれて此の方、今も昔も一度たりともありません。嘘をお疑いになること自体ナンセンスです」
「君に裏切りは無いと? 」
「……何をもって裏切りと判断なされるのかは分かりかねますが、都合の悪いことを隠しているという意味ならば、申し訳無いですが背信はしていますね」
メシアはショウの追及に対して涼しい顔でそう答えた。
何やら怪しい空気になり始めた場に、ハルトは落ち着かない様子でショウとメシアへ交互に目線を彷徨わせた後、ヒサトの方へと助けを求めた。
「ショウ、先ずはとにかく神の見解とやらを聞こう。その情報の真偽とかはその後であっても、いくらでも話し合える」
そう言ってヒサトはいつになくメシアへと凄みを利かせた猜疑の目を向けるショウをたしなめた。
彼はヒサトの言葉を聞くと、目を閉じながらゆっくりと座ったままで体をそらし、気持ちを落ち着けるかのように伸びをした。
「ま、確かに君の言う通りだね。聞いてから判断しても遅くはない」
ショウはちらりとメシアを一瞥した後、そのまま何も言わずに口を閉じた。
「では、始めます」
――マスターの知識、及び我が保有せしデータと能力より検索。
――該当技術をピックアップ。
――『外』へのアクセス手段の構築。
――アクセス。
――返答を受信しました。状況を終了します。
「お返事、頂きました。伝えさせていただきます。『このたびの疑問に対する特例としての返答。彼女、シュテル・フェンリッヒに関しては通常では世界に一人しか存在し得ないだろう、並行世界における同一存在が、世界をまたぐことなく二重に存在しうるといった、極めて稀な事態である。尚、この件に関しては我々の意図は全く介在しておらず、彼女はこの世界において、君らの知る存在に対する並行世界的な同一存在、つまり“IF”的にオリジナルな存在であると断言する。また、君らの知識として知る“シュテル”との関係に対しても“ほぼ等しい”ものとしての処理であるからして、未来について現状は確定していないが、彼女に関して同一存在が二人存在することでの統合・修正処置をすることは、少なくとも我々には無いし、その他介在もしない』とのことです」
「つまりまとめると? 」
「同一世界に極めて近しい“オリジナル”と“IFオリジナル”が同時に存在する。
上位存在は介在していないが、極めて珍しい事態である。……そんなところです」
――ショウの言う『シュテル』とはこの世界においては彼女を指す筈だが、同時に彼の言う『マテリアルとしてのシュテル』も存在し得る可能性があるってことか?
ヒサトはそう解釈した。
「でも、彼女がオリジナルとして扱われるならば、そもそもショウの言うマテリアルの方の彼女はこの世界においては存在が危ういんじゃないか」
「まあ、それこそ超越的存在概念については我が創造主でもその一端は知り、繰ることは出来ようとも全貌を理解し得るには足らない訳ですしね。まあ、この場合の『介在しない』という意味合いは、生まれないのを分かっていてほっとくというのではなくて、生まれる可能性について消去しないと解釈して問題無いと愚考いたします」
自分なりの解釈の上での疑問をヒサトはメシアにぶつけると、彼女は自らの見解を優しく語る。
「……難しい事は考えないでいいと思うよ。どの道、彼女は彼女だし、小難しい事を言っててもしょうがないさ」
どうにも難しく考え過ぎる友人たちに対して、ハルトは困ったような顔で言った。
「まあ、一応納得のいく説明は貰ったという事にしておこうか」
ショウは内心はどうかは不明だが、メシアの言葉を受け入れるそぶりをとる。
「うん、彼女に関しては大丈夫と信じていいんだよねメシア」
「イエス、マスター。ショウさまがご説明なされた事と貴方が見聞きした彼女、どちらも間違いではないです」
ヒサトも特に不都合はない事を自らの相棒に念押しのように尋ね、納得した。
「そう言えばヒサト。君のデバイスはまだ出来ていないのかい」
ハルトはそう尋ねた。
「……もしかして、私が余計な口を挟んだせいで開発が難航しているのなら、あの時はすまない事をしたと思っている」
「いや、別にショウが謝るような事はないさ。あのアイデアは確かに良いものだと自分も思ったし、実際先を見据えれば必要だろうしね。……何よりロマンがあって素敵だよ、あの発想は。
別段急ぐ必要もないし、まあ技術部と顔を繋いでおくつもりでのんびりと開発に付き合うつもりさ」
「そう言ってもらえると助かるが、実際のところ、開発状況はどうなってるんだ。根幹部分だけ先にロールアウトしてもらう訳にはいかないのかい」
「うーん、ものがものだからねぇ。……詳しい事は説明できないが、その件に関して管理局の技術部は俺らの予想していた以上に本腰を入れて取り組んでくれているみたいだよ。具体的にいつ、とは言えないが現在も試行錯誤を繰り返しているから、意外と早くお目見えできると思うよ」
――良かった。そうショウは思った。自分が余計な嘴を挟んだせいで優秀な才能を持つ友人のデバイス開発計画そのものがお流れになったり、ヘンテコなものが出来上がったりしたら申し訳ない。
――優秀。ショウから見てもヒサト、そしてハルトは実際優秀だ。ドライというか、自分本位的な言動を、自分やハルトの前ではさもそれが自分の本質と語る事が多いし、事実としてそれは的を得たものなのかもしれない。ここで言う『的を得ている』とは彼個人ではなく、人間というものは突き詰めれば誰もが自分本位だという事だ。そもそもショウからしてみれば、人は誰しも結局は自分の価値観というものを信奉している。表面上はさも他者の言う事が真理のように語る奴もいるが、それにしたって『他人の言葉を信じる自分の価値観』であろう。
そうした事を踏まえれば、とりたててヒサトの人としての本質は他者とそう違いは無いとショウは思う。
尤も、そのような斜に構えた偽悪的物言いは世間からさも害悪のように白い目で見られるだろうし、彼自身も前世は思春期の子供のようにそれを周りに吹聴して回る事は無い、世間というものを弁えた年齢だったのだろう、襟元開いた限られた者にしかそんな態度を現わす事は無いし、彼自身の口からも『こんな事を言うのは君たちだけだ』と言われた事がある。
ヒサト、そしてハルトもそうだが、彼らが優秀と言う事について『神から授かった力のおかげ、それが無ければただの凡人』というものもいるだろう。ショウ自身も以前、そうした問いを投げかけた事があるが、その時ヒサトは『自分の手足をもぎ取られる心配をする人はまずいない。そうした神から力を授かった癖に云々というのはそれを傍若無人に使う輩へのやっかみであって、これこれ何とかを成し遂げるために力を授けるという契約を交わしたならともかく、自分の持ってるものをどう使おうが自己責任の勝手だろう。そもそもずるとかチートだというけど、才能なんてものは大抵そんなものだ。どこぞの天災とかロールバッハも言ってただろ、“世界は平等ではない”と。俺が言いたいのはそんなところだ』と、いつになく饒舌に語ってくれた。
まあ、それ事態が『選ばれた者故の傲慢』ではあるのだろうが、彼の言葉に関してショウもケチをつける必要性は感じなかったので、素直に感心したものである。
……話がずれたが、ハルトとヒサトの二人は、傍から見ても、今の人生にとても真剣に向き合っているように思えるし、それが結果にも結びついている。
彼らのそうした何かに打ち込む様子はショウの目には眩しく映るのだ。
まあ、それは決して前世の自分の境遇だけが不遇であったという事でもないだろうが。
特にヒサトはこれまでの言動を踏まえると、おそらく前世で何かしら心に傷を負う事態があっただろうことは想像に難くない。尤も、それはショウ自身にも当てはまる事でもあるし、真面目で純真に見えるハルトにしても、心に何か抱えるものがあるように思われる。ここで重要なのは不幸の度合いではなく、皆それぞれ何かしらを抱えているという事なのだ。
ハルトに関しても、ヒサトは彼がいわゆる『良い子病』であることを示唆したし、実際ハルトはもっと自分を誇っても良い筈なのに、いつもどこか不安げである点から見ても、可能性としては高い事をショウは理解していた。本人にそれを指摘すべきかどうかもヒサトはその時、ショウに相談してきたのだが、正直なところ普段は偉そうな事を言っていても、思った以上に根が深いであろうハルトの心の問題にはすぐさま対処できる自信は無い為、ヒサトに対してもフォローはするが、焦ったところで結果は保障できない、とその時は言ったのである。
現在、ハルトに関しては、余程の事で無い限り彼を肯定し、彼の在りのままを認めるという了解が二人の間で交わされている。これは抜本的解決にはならない訳であるが、だからといって彼の心に踏み込むのも現状、二人には躊躇われた。ヒサトが二人の前だけで心の内の闇を吐露するのも、或いはそれとなくハルトに対し自分のありのままをさらけ出すことを促すという意図が、もしかするとあるのではないかとショウは思う時がある。
「ショウ? 今も言ったが、君が気にする事は何もないさ。むしろ、その知識と先を見据えた慧眼には感謝している。俺なんか今が良ければそれでいいとすら思ってたのに。……本当にあの案についてわざわざ手間暇かけて資料を作ってくれたり、分かりやすく説明してくれて助かった」
「あ、ああ。……言いだしっぺが働かないのはよろしくないしね。あの案を気に入って自分のデバイスに組み込むように提言してもらえて、此方こそありがたかったよ」
何か思い耽るようなショウにヒサトはまだ気にしているのかと考え、念を押して自分もあの件に肯定的である事を述べた。
「しかし、僕たちも短い間で随分と偉くなったものだよね」
「そうだな、前世の記憶持ちの転生者で、いくら特別な力があるといっても、入局四年半ほどで三等空尉の分隊指揮官になるなんて思ってもなかったな」
「その点だけは、色々と勉強を見てくれていた妖精君にも感謝していいだろうな」
三人は、これまでの二度目の人生を振り返って心から思う、濃い日々であったと。
これでまだこの先、次元世界を揺るがす出来事が待ち受けているのかと思うと、三人は人生というものの重い価値に改めて気付かされた。
尤も、この世界における一連の騒動、いわゆる『原作』に関われるかというと、その見込みは薄いだろうなと、この世界に関する知識を一応持ち合わせているヒサトとショウの二人は考えている。
未来に起こり得るだろう事柄の知識にしても、現状、明確に益に出来そうな見込みがあるのは、JS事件に関する情報のみであり、それに関しても扱いを間違えれば、火傷では済まない事態を引き起こす。まあ、地球に生まれなかった以上は素直に管理局員ライフをエンジョイしようぜ、という事で話は終わっている。
――それにヒサトは現状にホッとしているところがある。
運良く未来に起こるだろう事を知っているのに、その知識を生かせないだろうことは残念だし、両親がいないというのは二度目の人生とはいえ、いやむしろ二度目の人生だからこそ辛いものがあった。けれども、もし地球に、海鳴市に生まれていたとしても、ヒサトは多分精神的に辛かったのではないかと思う。勿論、ヒサトやショウ、そしてハルトも男の子である。可愛い女の子に好かれたいだとか、デートしたいといった、ごく普通に下心を持つ男だ。
実際のところはどうだか分からないが、きっと高町なのはは可愛くて一目で好きになるような女の子なのだろう。……そう言えばシュテル・フェンリッヒ一士は高町なのはにほぼそっくりな容姿だった。うん、すごく美人だよな。
まあ、実際に今の自分も彼女に対する憧れの気持ちはある。しかしだ、もしも自分が海鳴市で生き、彼女に出会い、好きになったとしても、おそらくそれはすなわち、他の転生者との醜い争いの引き金であっただろう。別にそれは彼女が悪い訳じゃない。昔から男は、美しい女性をとり合って戦いをする馬鹿であるのは変わることがないと分かりきっている。そもそも転生者という事だけで互いに疑い、機が有れば排除しようとする話など事欠かない有様である。もしそんな事になれば、きっと自分は今以上に高慢で己の闇に蝕まれ他者を顧みないやつになっているか、或いは自分以上に強い輩に息の根を止められている事だろう。
勿論、そんなある意味救いようのない馬鹿らしい人生ではなく、ショウやハルトのような素晴らしい友人に恵まれた生活や、平凡だが両親からの確かな愛情のある温もりがある暮らしが出来るやもしれない。だが、ヒサトは急に暴力を得た人間というものに楽観視をしないし、自分自身、身を持って力で他者を捻じ伏せれる事の悦喜を知っている。
人の善性に対しての淡い憧れも確かにあるし、人は他者に思いやりを持てる。だが、人というものは自己の許容を越えた不利益、あるいは些細な利益を理由にして、どこまでも利己的で残酷になれる事も知っている。
そんなヒサトが、ショウとハルトを友として信じれるのは傍から見れば不思議に思う事かもしれない。勿論、初めは打算や欺瞞によって成り立った関係だった事もあながち否定はできない。だが、ヒサトは二人に対して早い段階から打ち解け、あまり褒められたものじゃない心の内をさらけ出した。そこにはおそらくメシアの存在やハルトの抱える問題をヒサトがどうも気にしてしまったせいがあるのだろう。ショウにしては何となく馬の合うタイプだった訳なのだが、ハルトに関しては、そのどこか痛々しい無理をした感じが前世での自分の子どもの頃にダブって見えてほっとけなかったのだとヒサトは解釈していた。だが、実際のところはハルトならばヒサトを拒まないという思いも有ったのだろうとも今にしてみれば考えられるわけであるが。
メシアにしては、もう根拠も無く、何となく信じていいと思えるだけである。
先ほどのようにショウは彼女を度々疑う態度を取るし、ヒサト自身もショウの態度が間違っているとは思っていない。けれども彼女は前に彼女自身が言っていたように『ヒサトの魂の片割れ』であり、その内を現わさないところや、逆に忌憚のない言い方をする、ある意味ヒサト自身をよく表す存在だとヒサト自身が感じているのだ。秘密主義なのも、その内容はともかく、理由はおおよその推測は立っているし、それはほぼ間違いないと確信もしている。
それが神の故意の差配によるものだとしても、自らの掛け替えのない友と頼れる相棒に巡り合えた事に大変感謝しているし、大事にしたいと願っている。
故に、今の危険と隣り合わせで組織というものに半ば束縛されている、おおよそ前世においては子どもらしくは無い日々にも、親の愛情というものは全く無かったこれまでの生活にもあまり不満は無かったし、むしろ最近は、愛は無くとも確かな友情が存在するという事や、そこに各々の思惑はあれども他者に認められている自分が存在している事に、確かな誇りと充足感を感じている自分がいることをヒサトは自覚しているし、そんな自分を大切にしてみようという心が芽生え始めてもいた。
ハルトは思う。ヒサトとショウの二人は、きっと世間の荒波にもまれ、傷つきながらも生きたのだろうと。弱い自分を隠し、他人から悪く見られないよう、目立たないよう、傷つけられないように無理をして偽りの仮面をかぶる自分とは違い、二人は傷ついた状態から立ち上がろうと、今現在も苦しみもがいているのだろう。
間違いなく、自分というものを見失っているハルトの内面に二人は気付き、その上で見守ってくれているだろう事に、ハルトも気が付いている。お互いの前世について、あまり深くはこれまで聞き合わなかったが、少なくとも前世の年齢はハルトが一番年下で、子供だという事を二人は分かっているだろう。それを分かっていながらも二人は自分の事を只、友人として、自分たちが大人ぶることもなく対等な立場と認めて接してくれている。そのことにハルトはとてもありがたく感じている。
――いつか、少なくとも二人の前ではありのままの自分をさらけ出せる様になりたい。
そうハルトは願う。
三人はそれぞれが己を振り返り、誰からとなくお互いの今後の健闘と、絶えぬ友誼を願ってコブシを突き出して合わせあう。そして、ヒサト、ショウ、ハルトの三人は用意してあったコップへと改めてオレンジジュースを注ぎ、乾杯をした。
「これからの平穏を願い」
「これからの繁栄を願い」
「これからの健康を願い」
『乾杯』
また一日は終わる。
彼らの運命は既に刻一刻と動き始めており、静かな平穏のその有様を変えていく。