リリカルガーデン   作:青桜

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第六話

 

 

「それで、一体全体どうなっているのか分かるか? ヒサト」

 

 次元航行艦の片隅にヒサト、ハルト、ショウの三人は集まって、ひそひそと話し合っていた。

 

「……現状分かっているのは、俺らの任務は古代遺物管理部の一課に随伴する武装隊として、第一級捜索指定ロストロギア『闇の書』の回収に当たるということ。こうして管理局が動くきっかけとなったのは、何者かからの匿名による情報提供があったという事だな」

 

 ショウの問い掛けに対して、ヒサトは部隊長より受けた説明を復唱するようにして答えた。

 その表情は相変わらず考え込むように複雑であった。

 

「そもそも誰なのかな、その匿名の通報者は」

「転生者だろうな。それよりも私としては匿名なんて胡散臭い情報源に対して、端から中隊規模の人員をアルカンシェルを搭載した艦と共に派遣する本腰の入れように驚くよ」

 

 ハルトの率直な疑問に対して、ショウが自分の意見を述べた。

 気合の入れように関しては、それだけ闇の書に対して時空管理局が危険視しているのだとヒサトは考えているが、それでも確かに匿名の情報提供者の素性について気になる。

 もしかすると、件の人物は管理局関係者の身内なのかもしれないと彼は思った。

 

「まあ、十中八九は地球在住の転生者さんの一人が情報提供者だろ。この時期に闇の書が管理局に発覚する要因なんてグレアムおじさんがドジやらかすか、転生者等のイレギュラーによるものしか、今ある情報では考えが付かない。その他の“もしも”については憶測にしかならんから、考えても仕方ない」

 

 ヒサトはハァ……、と深いため息をつきながら、そう己の考えを述べた。

 

「それに加えて、わざわざジュエルシードが地球に落ちるだろう、この時期を見計らったかのように情報を流したわけだ。少なくとも管理局のことを知っていることから、この世界について何も知らん輩という線も無いな。通報者は明らかに管理局を一連のジュエルシードに関する騒動に初めのころから巻き込む算段と思われる。闇の書はそのための餌だと俺は考えるのだけれど、二人はどう思うかい」

 

 ヒサトの問い掛けに、ショウとハルトは思案顔になる。

 少し経ち、ハルトが尋ねるようにして、口を開いた。

 

「僕はあくまでヒサトやショウから聞いたこと以外は分からないけど――」

 

 ハルトはそう前置きした。ヒサトはそれで構わないという風に頷いて、続きを促す。

 

「今回みたいに、知っている先の未来を崩すことのメリットというか、早期に時空管理局を介在させることの利点ってどれぐらいあるの」

 

 ハルトの質問に対して、まずヒサトが答えた。

 

「今回のケースにおける管理局の早期介入によるメリットは、やはり一番は地球が滅びる可能性の減少が挙げられるかな。闇の書にしても、ジュエルシードにしても下手すれば世界を丸ごと滅ぼし得るものだ。闇の書なんか、まさにその最たるものだしな」

 

 その言葉にショウは“確かに”と言いたげに相槌をうつ。

 ハルトもそれに納得したように頷いた。

 

「地球に転生者が複数いるという前提ではあるが、他としては、混沌とした事態に対して、外部勢力による収拾を望んでの事とも考えられるな。……そんなケースは正直言って私は御免だし、そうだとすれば更なる混沌を引き起こす未来しか想像できんがね」

 

 続いてショウがそう意見を述べた。

 ――そんな所に突っ込むのは俺も御免だ。ヒサトはショウの言に対して、心の中で思った。

 

「まあ、向こうの様子が判明しない以上、大まかに言えるメリットはそんなところだろうな。

 ほぼ確実な平和を得られるのは確かに魅力的ではあるが、『原作』を知る身としてはリスクを避けすぎてリターンが少なくなる可能性についてどう思っているのかが心配だがな。――己の安全に勝るもの無し、ってものだろうかね。それなら理解できるが」

 

 そう言って、またヒサトはため息をついた。彼の顔は先よりずっと変わらなかった憂鬱そうな表情から苦笑いした表情へと変わった。尤も、どちらも微妙な表情であるのは変わらない訳だが。

 

「……デメリットにも言及すべきなのかな。俺が考え付く限りでは、第一に高町なのはが魔法に関わらない可能性。魔法の存在を知る事だけならば、彼女の才能を考えればそれほど難しくはないだろうが、この先において関わり続けるだろう保障は確約できんよな。レイジングハートをユーノから託されなかったり、うちの上司たちが彼女の協力を断ったりする可能性は十分に考えられる。別に彼女は魔法に関わらなくても不幸になる事は無いだろうと俺は思っているし、俺らの知る未来における彼女の身体的酷使などを考えると、必ずしも魔法と関わり続ける事が彼女の幸せなのかについては一考の余地がありそうだしね。まあ、俺たちみたいなイレギュラー要素を加味しても、高い魔法素養を持つ彼女が管理局に入ってくれないと後々困ったことになりそうだけどねぇ」

 

 そう言ってヒサトは続けてこれから先、起こり得るデメリットについて語り出した。

 彼の語る事はあり得なくもない、とショウも思い、やや困ったような思案顔になる。

 

「――で、第二に八神はやてがどうなるのか。……現状一番心配なのが彼女についてだ。下手すれば冷凍して虚数空間にポイというのもあり得ないとも言いきれないしな。……メシア」

 

 ヒサトはさらに続けて自らの考える第二の問題点について述べる途中で、メシアを呼ぶ。

 彼の呼びかけに、緑の長髪の妖精が現れ出た。

 

「はい、マスター。ご用件は何でしょうか」

「率直に聞く。闇の書こと夜天の書が抱える諸問題を君は解消できるかい」

 

 メシアに対して、ヒサトは尋ねる。問いかける形でありながら、彼の目は有無を言わせぬがごとき真剣な眼差しであった。

 

「出来るとお思いですか?」

「出来ると確信しているから聞いたんだ。はぐらかすからには気が進まないと見えるけど、申し訳無いがその時は頼まれてもらいたい」

 

 メシアの質問に質問で返す言葉に、ヒサトは珍しく彼女に対して我を通す。

 何だかんだでいつもこれまで彼女の事情を慮ってくれていたヒサトのそのような様子にメシアは驚く事は無かったが、何やら思案した後、言葉を発した。

 

「分かりました。全てはマスターのご随意のままに……。ただ、先に申し上げておきますが、私が対処することにもリスクはあります」

「具体的には?」

「対処の際、闇の書にアクセスする必要性がある為、何かしらの悪影響を向こうから受ける危険性があります。最悪の場合、私は自己消滅機能を構築して発動する必要があるかもしれません。その場合、私は勿論のこととして夜天の書も巻き込んで消滅すると考えられます。尤も、端から夜天の書を消滅させるつもりであれば、それ以上のリスクは無いですし、私も書の主も安全ですが」

 

 ――まあ、確かにそうだろうな。

 ヒサトはメシアの言葉にそう納得をする。彼女の懸念は確かに考えられるものだ。

 ヒサトはメシアを信じている。彼女なら上手くやってくれると信じている。彼女の力量を疑っていない。希望的観測を持っている。

 だが、そんなヒサトにメシアは投げかけた。――自分ならば上手くやれる、やってくれると? 自らをご都合主義存在足り得るものだと思っているのか、と。

 

 ――是である。ヒサトはメシアの事を信頼している。ショウからはそのあまりの盲信ぶりに洗脳を示唆された事もあるが、別にそんな事はないとヒサトは思っている。

 彼女が色々と隠し事をしているというのはこれまでも述べてきた事だ。だがヒサトはそんな彼女に対して、信用されていないともどかしく思う事はあれども、彼女が裏切る事は無いと心の中で結論付けている。

 そこに証拠なんてものは無い。只、ヒサトとメシアが魂の奥底で繋がっているからとしか言いようがないのだ。

 メシアはヒサトを裏切らないし、ヒサトもメシアを裏切る訳にはいかない。二人はそういう関係なのだ。今回の件にしても、決して無茶振りでは無く、純然たる彼女の能力を考えての判断である。

 

「出来る範囲のことをしてくれればそれでいいよ。欲をかいて十全の結果にこだわりはしないし、そもそも俺らの考えてる前提条件が通じない事も有り得る。今は対処法があるのが分かっているだけでも心強い」

 

 ヒサトはそう言ってメシアに不敵な笑みを浮かべる。その後、また彼の表情は考え込むようなものに戻ったのだが、それは心なしか落ち着いた感じに見えた。

 

「他にも多々あるが、大まかにはそんなところかな。レイジングハートの強化フラグも心配か」

「いや、それよりもフェイト・テスタロッサの事に言及すべきだろうが。もしかして君、彼女の事嫌いなのかね」

 

 ヒサトが話をまとめ出したところに、ショウがそうつっこんだ。

 

「いや、別にそんな事は無いよ。俺も彼女の事は好きだよ。うん、フェイト・テスタロッサについてか。高町なのはとの関係やハラオウン家との関わり方がどうなるかが分からなくなりそうなのは心配だね。プレシア・テスタロッサについても考えるべきなのだろうが、それは今はおいておこう。まあ、フェイトについては余程の事が無い限り、管理局に入る事になるだろうね。けど、もしもなのはやハラオウン家との関わりが無いという事になれば、彼女の人生は俺たちの知るものよりビターなものになる可能性はありそうだな。

 ……まあ、必ずしも彼女の心の拠り所が高町なのはやハラオウン家である必要は無い訳だが、その他イレギュラーについてを現状で語るのは止めておくべきだろうし、とりあえず彼女について俺の考えられる事は以上になるかな」

 

 ヒサトはそう締めくくる。

 

「つまり、彼女は問題ないと?」

「むしろ、他に考えられる問題が多すぎるだけさ」

 

 そうだ。そもそもあちらがどうなっているのか分からんのが問題なのだ。そもそもこうした推論をすべきなのはこの世界に詳しいショウであって、俺がさも物知り顔でペラペラと持論を述べるのは柄じゃ無いはずなのに……。ヒサトは今更ながらそう思った。

 

「俺の考えは細々した部分を省いて粗方話したぞ。二人も何か意見を述べてくれよ」

 

 自分ばかりは不公平だと、ヒサトは二人に対して意見を求めた。

 

「では、意見というかメシア君への質問になるのだが、むこうに転生者はどれ位いるのか教えてもらいたいのだが」

 

 ショウはメシアに対して問いかける。何時ものごとく、彼女に問うその目は険しいものであった。

 

「最低数で九人ですね」

 

 メシアはさらりと答えた。

 あまりに呆気なく答えたものだから、常のように答えないと思っていたショウもおもわず口が半開きになってしまった。しかし、すぐに我に返ると続けて尋ねる。

 

「この根拠や内訳などは?」

「我が創造主が選びし者の数がマスターと貴方たちを合わせた三人プラス一人の計四人であり、それが三者の内で一番少ない数だからです。ちなみに残りの一人と他の二方が選んだ者たちは全てが海鳴市及びその周囲に生まれ落ちているはずです」

 

 メシアは質問に対してまたもやさらりと答えた。

 ――以前、同じことを聞いた時は誤魔化したのに、である。

 

「前に聞いた時はその質問には答えてくれなかったのにどうして今は答えてくれるんだ」

 

 湧き出た疑問をヒサトは素直にぶつける。

 彼女は珍しくバツの悪そうな顔をして自らのマスターの疑問に答えた。

 

「それは、えっと……、何と言いますか、ええ、つまりは想定外という事になりますかね。

 信じていただけるかは分かりませんが、我が創造主の予定では、マスター達がこの時期にこうして地球へ行く事はほぼ無いはずと言いますか、あちらで起こり得る諸事の争いから遠ざけておいて各々の意思の自由に任せてのびのびと成長させるのが黒き創造主陣営の基本方策だったのです。

 故にマスター達には私からも情報を与えないようにといった指示があった訳なのですが、この度の事態を受けて、流石に情報の出し渋りは良くないと判断した次第といいますか、もしもの場合の指示として言い含められたものであります」

 

 メシアはアハハと乾いた笑いをこぼした。

 

「じゃあ、俺の能力について詳しく」

「それについて詳しくお答えはできません。ただ、既に何となく分かっているとは思われますが、マスターの力は単一能力の付与では無く、何かしらの元になるモチーフが存在する、いわゆる人物スペックの付与であるとは申し上げておきます」

 

 ヒサトの質問に対して、詳しい事は相変わらず濁しつつもそう答えた。

 

「それは有りな……有りなのか。で、俺自身が自分の力を把握していない件はどうなの」

「有りです。一応お一人様一つだけという制限は存在するらしいですが、上位存在たるお三方にとってそのあたりはどうでも良いみたいですよ。別段、競っている訳でもありませんし。

 マスターがご自分の力を把握なさっていないのは仕様です。既に大方原因を察していると思われますが、その辺は今後も私を信じて頂きたいです」

 

 続けざまの質問に対しても、彼女にとってどうでもいいような裏事情を聞けた以外はそれほど益にならない言葉で誤魔化されるばかりである。

 結局のところ、ヒサトの力について語りたくは無い様子だった。

 

 

 その後もヒサト達はこれ幸いとばかりにこれまでの疑問をメシアへとぶつけ、彼女から向こうの様子を推察できる情報を得ようと躍起になるのだった。

 

 

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