リリカルガーデン   作:青桜

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第八話

 

〈そうか、了解した。諸君らの働きに感謝する。で、すまないのだがその書の現在の保有者である八神はやてをこちらに連れて来て欲しいんだ。直接話もしたいし、諸々の検査や、調査やらもきちんと行わなければならないからね。もちろん任意だ……と言いたいところだが、何とか言いくるめて絶対にこちらに来る事に同意させるように。ヒサト二尉、頼んだぞ〉

 

 報告の返答として返って来たレイファラ部隊長のありがたいお言葉を受け、ヒサトは夜天の書を持ってこちらを見ているはやての方へと向き、見つめ返すようにして話しかけた。

 

「今、上司に報告をしたんだけど、是非、君と直接話をしたいんだって。現状出来る事はしたし、既に問題は半分以上解決したようなものなんだけど、やっぱりきちんと問題が無いか軽くは検査する必要はあるんだ。そういう訳だから、俺達と一緒に付いて来て欲しいんだけど……大丈夫?」

「はい、かめへんですよ。私も是非ヒサトさん達や部隊長さんと、もっとお話ししたいなぁと思ってましたから」

 

 窺うかのように尋ねるヒサトに対して、はやては気負うことなく笑顔で了承した。

 彼女のその春の木漏れ日のような優しくも眩しい笑顔を見て、ヒサトはホッと顔を綻ばせた。

 

「そうか……。そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。じゃあ、転移魔法で向こうまで行くから、心の準備をしてくれよ」

「えっ、そんな事も出来るんですか、ヒサトさん達は」

 

 ヒサトの言葉にはやては驚いて目を見開くと共に、感嘆の声を上げた。ヒサトはそれを見て得意げな表情になった。

 彼の自慢げな様子を見たショウは口元に笑みを浮かべて、何やら微笑ましげな目でそのまま眺めていた。シュテルとハルトの二人も任務がひと段落ついてホッとしたのか、はたまたショウのようにヒサトの様子に思うところがあるのかは分からないが、嬉しそうな表情であった。

 

 

〈部隊長、今からそちらに八神はやてを連れていきます〉

〈うん、こちらはいつでも良いぞ〉

 

 次元航行艦にいる部隊長に同意が得られた旨をヒサトが伝えた後、はやてやショウ達はヒサトが展開した転移魔法の陣へ、ヒサトを中心に集まった。

 はやてを含めた四人が自分の周りに集合した事を確認したヒサトは転移魔法を発動させる。

 薄緑の光が一瞬眩しく光って消えた、その後の八神家のリビングには、空になった湯呑みが四つテーブルにある以外、誰もいなくなっていた。

 

 

「うわぁー、すごいなぁ。私、パッてテレポートしたり、こんないかにもSFチックでハイテクな場所を生で見るんは初めてやわぁ。ヒサトさん達って魔法使いってゆーより、むしろ宇宙人っぽいんやなぁ」

 

 部隊長達が居る艦内へと転移し、次元航行艦の内部を一目見てからのはやての第一声はそのような感想だった。

 

「まあ、それはそれで間違いでは無いよ。俺達の使う魔法は、どっちかと言うとデジタルでサイエンスな代物だしね」

 

 ヒサトはその感想に困ったような笑みを浮かべつつも、同意を示した。実際、ヒサト自身も自分達や管理局の存在は、なんちゃってSFかつ似非ファンタジーじみたものであると思っているのだ。

 別にそれが悪いとは今も昔もヒサトは思っていないのだが、この世界に対する見方が、どうにも昔読んだ物語でよく問題として描かれていた魔法社会の悪面である実力主義や血統主義、それと未来SF社会モノの小説で描かれる現代と比較した際の倫理観の欠如、具体的には人体改造やクローン実験などの、ファンタジーとSF両方の悪い点に目がいってしまうという事が多々ある。

 つまり両方のいいところを取ろうとした結果、いい所だけでなく悪い所も付いてきたという訳だ。

 ……まあ、当たり前の話かもしれないが。

 

 ヒサト自身はこの世界の魔法について、プログラムやテンプレートなどの科学的な単語で表現されてはいるが、根っこの部分は個人の才能がモノを言うファンタジー要素の強いものだと認識しているし、ショウやハルトにこの話をした際も、二人はその点に関しては概ね同意をしてくれた。

 

 尤もショウから言わせると、現在は魔法から科学への過渡期のようなものであり、そう遠くない未来にはSF的な面が強くなる、詰まる所は倫理感のボーダーが低下することによる身体の義体化や誰にでも扱える兵器などの後天的な力の添付に寛容になるだろう。むしろならないと世界的な発展が既に頭打ちになりつつあるこの状況を打破できないだろうとのことである。

 

 正直、ヒサトとしては新暦75年以降に起きる、違法兵器の魔力無効という開発思想の主流化とそれに対抗するための兵器色の強まった武装端末の興隆というものをショウより聞かされもしたが、どうにも現状を見るとピンとこないのだ。

 確かにショウの言うように魔法の先天的資質に頼る面が大きい現状のあり方はかなり限界に近いものであるし、質量兵器に関しても拳銃などの個人所有の範囲内に収まるようなものであれば、許可さえ取れば持てる程度には寛容なのである。それに違法な存在と言われる戦闘機人などにしても、作る事を咎める風潮はあれど、何だかんだで存在そのものを忌避されてるような描写は薄かった。

 だが、結局のところ将来的に管理局の魔法至上主義的傾向がそうそう変化するようにヒサトは思わないし、魔導兵器の興隆は歓迎すれども、後天的才能添付技術の容認などの倫理観の低下は絶対にあってはならないと感じている。

 なぜならばこの世界のバランスはかなり危ういものがあるからだ。ロストロギアなんてやばいシロモノで世界が意外と簡単に滅びちゃうこともあるし、高ランク魔導師の使う魔法にしても、非殺傷設定というものが世の中に存在すれども殺ろうとすればできないわけじゃあない。そんなのそうそう無い、希少存在とは言えども個人の持つには大きすぎる力であり、それなのにどうにかなっているのは、何だかんだでこの世界の人々の大半が一線を越えないだけの高い倫理観を持っているからだとヒサトは思っている。

 ……最高議会とかスカリエッティだとか、諸々の違法な研究とかに今は敢えて言及しない。

 今重要なのは、この世界において個人による戦略級の虐殺事件が起きていないという事だ。

 現状、寡聞にしてそのような話をヒサトは聞いたことが無い。そのような事件があったとしても、それを隠ぺい出来るとはヒサトには思えない。故に、少なくとも自分よりこの世界の大半の人々は良識を有しているとヒサトは信じているし、時空管理局はそうした良識有る人々で構成されていると思いたい。――繰り返すが最高議会は忘れろ。彼らも昔は良い人だった……はずだ。

 ともかく、ヒサトは必ずしも平和という訳では無いが、自分の知る前世よりも良識の有る人が多いであろうこの世界の在りようには好感を抱きつつある。だから例え人材不足であったとしても、その解決方法を身体の義体化やクローン技術などに求めるような、そんな冷たい社会になってほしくはないと願っているのだ。

 

 ――それにだ、神様が力と才能をお与えになっているのは、こんな他人を思いやれる子みたいなのばかりだ。……自分みたいな碌でもないやつに過ぎたる力を与えるようなのもいるけど。

 ヒサトははやてを見つめながらそんな事を考えていた。

 

「あのー、じーっと私を見つめてどうしたんですか」

 

 口元に笑みを浮かべながらじっと自分を見つめているヒサトに対して、はやてはキョトンとした様子で尋ねた。

 

「もしかして、一目惚れというやつかね」

 

 いつの間にか現れたレイファラ部隊長が茶化すようにしてヒサトに言った。

 ……何を言っているんだ、この人は。ヒサトは一瞬呆気にとられたが、気を持ち直して慌ててそれを否定しようとした。

 しかし、その言葉をヒサトが発する前に、遮るようにして言葉がかけられた。

 

「私の事は遊びだったんですね」

 

 その言葉の主はシュテルだった。

――いや、君も悪ノリをするのはやめてくれよ。ヒサトはあからさまにわざとらしく“私は傷ついています”とでも言いたげな表情の演技をしている彼女に抗議するような目線を向ける。

 

「いや、君とはそれなりに打ち解けた間柄なのは否定しないけど、あくまで上司部下ではあってもだな、……そもそも二人っきりでデートをしたことも無いし、現状そういった男女の関係といった事実は無いだろうが」

 

 ヒサトはそう言って反論する。周りの人間は皆、その様子をニヤニヤと見ているばかりであった。

 

「ヒサト、君が惚れっぽいのは仕方が無いかもしれないが、女性に対しては真摯であるべきだぞ」

 

 ――ショウ、お前もか。自分に対して事実無根のレッテルを重ね張りしようとしてきたショウに、ヒサトはギロリと刺すような抗議の目線をシュテルの方より移した。

 こういう事は普通、ハルトが担当するポジションだと思うんだが。ヒサトは悪ノリしている周囲に憤懣遣る方無いような表情で抗議の意を示しながら、そんな事を考えた。

 実際、ハルトはヒサトやショウに比べ、今は背丈がやや低めではあるが、その整った顔付き、澄んだ青い瞳、短めに切り揃えられた黄金のように輝く金髪、そして真っ直ぐな性格、どれをとっても間違いなく女性にモテる男としての資質を備えているのだ。

 世の中に対して斜に構えたような胡散臭く、かつ濁った目をしているヒサトとショウなんぞとは比べるまでも無い。ショウにしても、ヒサトからすれば彼の濃緑の瞳は理知的でミステリアスな印象を相手に与えられると思うのだ。

 別に色恋に興味が無いだとか、自分は誰かを好きになったり、あるいはなってもらったりする資格が無いだとか、そんなあからさまに気取った事をヒサトは言ったりはしない。むしろ、相手の善意だとかにつけ込むのは、昔の自分のある意味で本分みたいなものだったのだ。

そもそも今の状況にしても、むきになって抗議せずに、何でも無いかのようにしれっとしているべきだった。そうヒサトは思った。

 とはいえ、今更後悔しても過去をどうこうできる訳では無いので、ヒサトは気持ちを切り替えると、ムスッとした顔からいつもの、やや冷めたさまにも見える表情へと戻った。

 そして、場の空気を変えようとコホンと一つ咳をしつつも、ヒサトがチラリとはやての方に目線だけを向けて盗み見ると、彼女はニコニコと楽しそうに笑っていた。

 そんなはやてや相変わらず愉快そうな顔をしているシュテル達から部隊長へとヒサトは目を向け、口を開いた。

 

「戯れはこれまでにして、それよりもさっさと本来の用事に移りましょうよ。時間も決して無限というわけじゃないのですから」

 

 ヒサトはそう言って部隊長を急かした。レイファラ部隊長は仕方のない奴だとも言いたげにヒサトへ苦笑をしつつ肩をすくめたが、これ以上ヒサトを苛めるのも酷だし、確かに彼のいう事も尤もだと思い、はやての方へと顔を向けた。

 

「さて、挨拶が遅れたね。私はそこのヒサト君達の直接の上司である、マーガレット・レイファラ一等空佐だ。ヒサト二尉、彼女に我々時空管理局の説明はどの程度したのかね」

「時空管理局が次元世界の治安や文化を管理・維持し、質量兵器やロストロギアの規制とそれらや魔法を用いた犯罪の取り締まり、そして災害の防止などを行なっている治安維持機関であること。それと、管理局の理念とそのあらましを軽く触れた程度ですかね」

 

 部隊長は先ず自らの素性を紹介しつつ、ヒサトに対して管理局の事を彼女にどれほど話したのかを確認する。

ヒサトは部隊長のその問いに対して、淡々とした表情で答えた。

 

「ふむ、これから君には諸事の検査を受けて貰う訳なのだが、その前に君の持つ闇の書、いや、ヒサト君達からの報告によれば本当は夜天の書だったかね。まあともかくそちらの方の説明はしてもらったかい」

「部隊長、そちらも説明をしましたし、むしろ現状では彼女自身とメシアの方が詳しいかと思われます」

 

 レイファラ部隊長がはやてに対してした問いに、ヒサトは割り込むようにしてそう答える。

 当のはやてもヒサトの言に対して同意するように頷き、それを見た部隊長も納得し、『よし』と一言つぶやきながら微笑んだ。そしてその後、夜天の書を持ったはやてを伴い、部隊長はヒサト達の前より去っていった。

 別にそのまま部隊長の後に付いて行っても良かったかもしれないとヒサトは思った。しかしながら、ヒサトは報告を優先した為にまだ詳しくは尋ねてはいなかったが、メシアには是非とも聞いておくべきことがあったので、一端ハルト達に休息の指示を出した後、あまり人目につかない場所へと移動してからメシアへと言葉を掛けた。

 

「さて、メシア。先ほども言ったけど、君のおかげで少なくとも八神はやては救われただろう。俺のわがままを聞いてくれてありがとう」

 

 ヒサトは自らの相棒に改めて感謝の言葉で以って労った。

 ショウあたりも、メシアに詳しい説明を聞きたがるとヒサトは思っていたのだが、実際の彼は『少し休む』と言って、ヒサトに詳細を聞くのを一任するかのようにしてそのまま去っていった。

ハルトとシュテルの二人も休むのか、あるいは八神はやての様子でも見に行くのかは分からないが、ヒサトとは分かれて、どこかへと行った。

 

「恐縮です。……それで、闇の書にアクセスした際の詳細について報告しますと――」

 

 メシアはヒサトの労いにニコリと嬉しそうに微笑みつつも謙遜をし、彼が求めているであろう、詳しい報告へと移った。

 

「防衛プログラムの消去までは特に語るべき事はありません。とても容易に終わりました」

 

 メシアはそう言うと、灰色の瞳をさも得意げに輝かせた。

 ……言うほど楽とは思わないのだが、まあ、言うべき事が無いのであればそれで問題無かろうと思い、ヒサトは相槌をうつに留めると、続きを促した。

 

「次に八神はやてを介して、管制融合騎たるリインフォースに接触を図った訳ですが――」

「ちょっと待て、それはつまり書を起動させた訳だろ。それなら……いや、そういえば何やら小細工をしたんだったよな」

「はい、マスターの思われた通りです。守護騎士プログラムは現在、簡易ではありますがブロックを掛けてあります。一応、防衛プログラムを弄る際にバグが移ったり、誤って消したりしないようにする為の処置ではありましたが、今いっぺんに起動すると色々と面倒でもありますしね。そんな訳で先に管制融合騎だけ起こさせてもらいました」

 

 いきなり話を遮ったかと思うと、すぐに一人で納得してしまったヒサトに対し、メシアは彼の考えを肯定するようにして、丁寧に説明を続けた。

 

「君の優秀さには本当に目を見開くばかりだな。ああそうだ、忘れないうちに先に聞いておきたいんだが、……確かマテリアルだったか、それ云々に関しての現状はどうなっているんだ?」

「その件に関しましては、申し訳ありませんがサルベージ等は出来ておりません。何分、検索に引っ掛かりにくい代物ですから……」

 

 そう言ってメシアは申し訳無さそうな表情になった。

 

「いや、問題無いよ。そもそも件の代物はリインフォースが生存した際に発生する諸問題だろ? 現状、気にしたってしょうが無いさ」

 

 ヒサトはそう言って手をヒラヒラと振り、彼女に対し気にしていないとの意思表示をした。

 実際、ヒサトとしては夜天の書が正常になればそれで万々歳であり、別に闇の書の断片やらマテリアルに関しては、情報提供をしてくれたショウには悪いのだがあくまでオマケみたいなものであって、あまり執着心は持っていない。尤も、シュテル以外の面々のキャラクターの濃さをヒサトが実際に見て知れば、その考え方は間違いなく覆るであろう。

 だが、百聞は一見に如かずとはまさにこの事であり、ショウから概要を聞いたに過ぎないヒサトには、それらは只のややこしいイレギュラー要素といった認識しか無いのであった。

 

「それよりもさ、八神はやてやリインとどんな話をしたのか是非聞かせて貰いたいな―」

 

 ヒサトは興味津々という気持ちを隠すことなく、メシアへとズイッと顔を寄せて話をせがんだ。

 対するメシアも、先の友達が出来た事を嬉しそうに語った時のようにはにかんだ表情になりながらその時の事を饒舌に語るのであった。

 

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