戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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10話 鬼の脅威、己の刀

 月の光が差し込む宿の一角。藤十郎は一人静かに杯を傾けていた。

 

「……うむ、やはり月見酒はいい」

 

 言葉では満足気なのだが、表情は若干浮かない。

 

「……しかし、あの女は何者だ」

 

 美濃につき、織田の歓迎を受けたときに居た一人の女性。以前に織田を訪れたときには恐らくいなかったその女性を見たとき、藤十郎は今までに感じたことのない感覚に襲われた。

 

「ルイス・エーリカ・フロイス、か」

 

 異国から来た明智の血族……という話だが、剣丞の存在と同じくらい胡散臭いものを感じていた。言葉も完璧であり、葵の歓待役として話をしている場に同席したが典雅にも通じ剣丞から聞く話だと本人の武、部隊を率いての戦いなども目を見張る物があるという。

 

「完璧すぎるからか?いや、あのときに感じた感覚は違うな。……やはり考えるのは俺の肌に合わんな」

 

 ふぅ、とため息をつくと杯に残っていた酒を一息で飲み干す。これから数日のち、上洛。そして公方と合流後に浅井と共に朝倉を叩く。それが流れらしい。

 

「朝倉が鬼に、ねぇ」

 

 隠していたわけではないようだが、朝倉は既に鬼のあふれかえった土地になっているという。武将がどうなったのかは分からないらしいが、鬼が具足をつけていたり朝倉の家紋の入った旗を持っていたという話もある。既に小波たちを派遣しているそうだが、あまり深追いしないように伝えていると悠季からは聞いた。

 

「人が鬼となるか、鬼が人となるか。分からんが作為的なものを感じるな」

 

 鬼が現れた背景に何があるのかは分からないが、恐らくは誰かしら糸を引くものがいる。そんな予感を抱かずには居られない状況だ。

 

「……少し鬼を調べなければいかんか」

 

 美濃や尾張の周辺には理由は分からないが鬼が多い。森一家が狩り回っているとはいえ、すべてに手が届いているとは言い辛いだろう。ならば鬼の巣を回ることで何かを知ることができるかもしれない、藤十郎はそう考えた。

 

「朝駆けついでに探すか」

 

 ちょうど良く徳利の中の酒もなくなったところで、藤十郎は片づけをはじめる。

 

 日が昇る頃には宿から藤十郎の姿は消えていた。

 

 

 鬼は人を喰らう。鬼が人の具足をつけていた。藤十郎の知る鬼はそういった存在だ。だからこそ、その光景を見たときには驚愕した。鬼を殲滅し、巣の奥へと足を踏み入れた藤十郎の前に現れたのは、一人の女性。既に瞳に光はなく、息絶えた後のようだが、周囲の状況を見るに鬼に陵辱された……そう判断するに至る。何ゆえに鬼がこういった行為に及んだのかは分からないが、可能性は一つ思い浮かぶ。

 

「まさか……人と子を為す……?」

 

 そうだとすれば、朝倉の状況は更に危険なものではないかと考える。何処からともなく現れる鬼、人に生ませることのできる鬼。数が膨大なものになるのは間違いないだろう。数とは、それだけで暴力だ。圧倒的な武も無限の兵数で攻め続ければ何時かは敗北するであろう。ただでさえ底の見えない鬼の数が更に不透明になる。

 

「いや、考えすぎか……っ!?」

 

 ゾワリと背筋を走る悪寒。咄嗟に太刀を抜き放ち振り返りながら目の前の影を斬り捨てる。いや、斬り捨てたはずだった。確かにあった感触は、まるで太刀同士がぶつかり合ったような衝撃。そして振りぬくことができずに影の片手で止められる。

 子供と変わらない体格だろうか。今までの鬼と比べると小柄なのだが、藤十郎の勘が危険を告げる。

 

「場所を移さねば槍が振るえんか!」

 

 太刀を強く押し返してくる子鬼の膂力に驚きながら藤十郎も又、力をこめていく。

 

「む!」

 

 ミシリと太刀から音がする。よく見ると皹が入り始めていた。

 

「まだ新しい太刀なのだが……!」

 

 これ以上は危険と太刀を手放し背後に飛びのく。入り口との道を子鬼に塞がれる形となってしまい、軽く舌打ちをする。

 

「……ん?」

 

 周囲を確認していた藤十郎の目に入ってきたのは、鬼が集めていたのだろうか多くの武具が散らばっている場所。その中にある一振りの刀に状況を忘れて意識を奪われていた。まるで藤十郎を呼んでいるかのような気配を放つその刀に鬼の存在を忘れて手を伸ばす。かちゃりと音を立て、刀の柄を握る。愛用の槍を初めて手にしたときを思い出すこの感覚。まるで己の為にこの刀は生まれてきたのではないかと思わせるその感覚に身を任せて抜き放つ。

 普通の鞘であればそのまま切ってしまいそうなその刃は反りがなく、棟は真の棟だろうか。特徴だけ見ればまるで短刀のようだが、その長さは間違いなく刀。

 

「グゥゥゥゥ……!」

 

 見惚れるように刀を見ていた藤十郎の耳に唸り声が聞こえる。そういえば、と状況を思い出し振り返れば子鬼は明らかにこちらを警戒して攻めあぐねているようであった。

 

「まさか……この刀を恐れている?」

「ガアアアア!!!」

 

 子鬼が飛び掛り、藤十郎がそれを受けるはずだったが鬼と藤十郎の双方が予想していなかった事態が起こる。刃に触れた鬼の爪がすぱっと綺麗に切り落とされる。

 

「ほぅ!これは……!」

 

 好機と見て、すぐさま攻勢に移る藤十郎。子鬼は逃げようと踵を返すが。

 

「させん!!」

 

 藤十郎の刀が振るわれるほうが早かった。背後から胴を真っ二つに切り捨てる。

 

「鬼を斬るために生まれた刀……といわれても納得がいくな、これは」

 

 目の前で消えていく子鬼の死体を眺めながらそう呟く。今この場所でこの刀に出会ったのは運命か、それとも必然か。鬼の存在と同じく一抹の違和感を感じながら外を見る。既に日は高いところまできているようだった。

 

 

「ふふふ、やはりあの武者にも舞台に上がってもらうのは正解のようだな」

 

 越前の地。かつてはそう呼ばれていた大地には既に普通の人はいない。鬼が闊歩し、多くの物資を一箇所に集めているようであった。

 

「しかし……あの刀には神器としての役目はない筈。荒加賀が裔とは違う役所かと思ったのだが」

 

 頤に手を当て、一瞬考える素振りを見せるがすぐに眼下に広がる鬼の群れを見る。

 

「ふふふ、朕の力が漲っていくのが分かるぞ!もうすぐ、もうすぐ朕の宿願を果たす時。真なる時代の幕開けが来る……!」

 

 男が嗤い、合わせて鬼達が咆哮をあげる。鬼達の中の幾匹かは、まるで敬うかのように礼をしていた。

 

 

「それでは、その刀が?」

「あぁ。造りからして、相州伝……だな」

 

 宿に帰ってくるなり、悠季の小言を貰い綾那からは置いていったことで文句を言われ、歌夜からは「気にしてません」とニコニコしながら言われ……。葵にはじっと見つめられて謝罪をした後、国産の鬼……あの子鬼とそこで手に入れた刀について話していた。勿論、この場には葵の知である悠季も居る。

 

「ほうほう、ということは……」

「「正宗」」

 

 藤十郎と悠季の声が重なる。互いに確認程度のことだったのだろうが、軽く頷きあう。

 

「……となると、どうして鬼の巣にそのような刀があったのか……」

「しかも、藤十郎どのの話を聞く限り愛用している熊手の朱槍と同じくらい手に馴染む、と。いやはや、運命の出会いのようですなぁ」

 

 考え込む葵と、茶化すように言う悠季であるが藤十郎自身にも答えは出せない。

 

「どちらにしても、この刀は今後のことを考えると姫さんに持ってもらうのがいいと思うんだが」

「……いえ、それは藤十郎が持っていて」

 

 藤十郎の提案を即座に葵は断る。

 

「まだ一度しか使っていないがこれほどの名刀はそう出会えん。もし本当に鬼に対して強い力を持っていたとしたら、姫さんの安全を確保できるという意味でも重要だと思うんだが」

「刀は振るってこそ意味のあるもの。だから、私よりも藤十郎が持っているほうが意味のあるものだと思うわ。それに……私のことは藤十郎が守ってくれる。そうでしょう?」

 

 葵の言葉に藤十郎は少し驚きながらも力強く頷く。

 

「おやおや、まるで夫婦のような掛け合いで……見ているこちらが恥ずかしくなりますなぁ」

「ゆ、悠季!そう言うことではないから!」

 

 頬を朱に染めながら慌てて否定する葵。悠季はなにやら嬉しそうにチラと藤十郎を見る。

 

「こほん、藤十郎。そういうことだから、その刀は貴方のものよ」

 

 葵の言葉に頷き刀を佩く。

 

「……うん、やっぱり藤十郎にぴったりね」

 

 そういってニコリと微笑む葵に目を奪われる藤十郎であった。

 

 

「……藤十郎どの、帰ってきた草の情報によると既に朝倉……越前の地に人が住める場所は存在しない。それほどの状況とのこと」

 

 葵の部屋を辞してから少し。まるで偶然追いついたかのように横に並んだ悠季が呟くように話しかける。

 

「……となると。やはり主戦場になるのは越前か?」

「恐らく。京がどうなっているのかは知りませぬが、数の暴力で何とかなるかと。公方さまと合流予定ということは」

「三好、松永あたりと一悶着あるか」

「……藤十郎どの。何かあればまず葵さまのことを第一にお願いしたく」

 

 真剣な表情で悠季が言う。

 

「現状、葵さまが本当の意味で信頼されているのは悔しいですが藤十郎どのです故、もし藤十郎どのがいなくなってしまうと……」

「似合わんぞ、悠季」

 

 そういってコツンと額を軽く小突く。

 

「前にも言ったが、俺は姫さんを守る。それに悠季、お前も姫さんにとって大切な友でもあると俺は思っているぞ。だからお前も簡単には死なせてやらん」

 

 一瞬、きょとんとした顔をした悠季は。

 

「な、なかなかに大胆な告白ですが残念ながら某の心は既に葵さまのモノ。藤十郎どのの入る場所はありませぬぞ」

 

 少し頬を染めてそのようなことを言う。

 

「はは、それは残念だ。……むしろ悠季、姫さんを頼むぞ。恐らくだが俺や綾那は先陣をきる。場合によっては剣丞たちと合流せねばならん状況も考えられる。久遠どのがどのように京までの道の露払いを命じるか分からんからなんとも言えんが、最悪の場合」

「我々と藤十郎どのたちが別れる可能性がある、と?」

「あぁ。俺や綾那、後は血気盛んな若い衆を前に回せ。何があろうと姫さんに鬼が迫る状況を回避できるように後方にも常に気を配るよう忍衆にも伝えておくんだ」

「御意に。……あとどれほどのんびり出来るかわかりませぬが、いつか落ち着いたときには杯でも交わしたいものですな」

 

 悠季からの酒の誘いに驚いた表情を浮かべた藤十郎だったが、笑顔を浮かべ。

 

「そうだな。それは姫さんの天下が叶った後か……いや、この戦から無事に三河へ戻ったときにでも、な」

「えぇ。楽しみにしておりますぞ」

 

 

 その次の日、久遠から出陣の命が下る。

 

 

 織田久遠信長率いる本隊と、森、明智、松平、そして剣丞隊の連合で観音寺……六角を攻める。

 大戦の始まりだった。




史実ではずーっと先に藤十郎が手に入れるはずの刀です。
日向正宗と呼ばれる刀で実在するものは短刀ですが、本作では刀として扱ってます。

ちなみにですが、太刀と刀は微妙に使い分けておりますので脱字ではありません!
間違えて書いてる部分があったらごめんなさい!

戦いが始まる始まる詐欺になってますが、もうすぐです。
御家流も今か今かと待ち構えているはずです(ぉぃ
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