そろそろ一度閑話をはさむか悩んでおります……。
「観音寺城。攻めるに難く、守るに易い山城……だったか?」
「はい。恐らく相手方は篭城で来るでしょうから、少々時間がかかってしまうかもしれませんね」
馬を走らせながら、歌夜と藤十郎が言葉を交わす。
「でもでも、きっと剣丞さまが何とかしてくださるです!」
「ふふ、綾那は本当に剣丞さまのことが好きね」
「だって阿弥陀さまのおつかいですよ!きっとこう……ずばーっ!で、だだーん!って感じで終わらせてくれるです!」
「……剣丞は武勇のほうはいまいちだぞ?」
いまいちというのも三河……ひいては藤十郎目線であって、一角の武将として考えれば十分に腕前はあったりするのだが。
「そうですけど、きっと凄い力で殺ってくれるです!」
綾那の中での剣丞が本当に神の技を使える存在になっている気がする。
「そうだといいな。……っと」
前方から一人の兵が藤十郎に向かってくる。
「勝成さま、殿より織田どのの元へ向かうので同行するようにと」
葵と悠季と共に織田の陣中へ入る。
「おや、軍議でもされておりましたか?」
「そうでもない。……で?」
「松平衆一同、久遠さまに御指図を頂きたく……」
葵の言葉に久遠が一瞬考える。
「葵、藤十郎。観音寺城をどう攻める?」
「そうですね……お許しを頂けるなら……藤十郎」
「はっ。……観音寺城の配置からすれば攻め口は北と南の二箇所。南側は平坦な地形故に主攻はそちら側に展開するのが良策かと。……代わりに曲輪よりの総攻撃を一身に受けることになる」
そこで一度言葉を切り周囲を見るとその場に居た剣丞や詩乃、葵も頷いているのを確認できる。
「北側は安土山そのものが自然の土塁となっていることから易々と突破はできない」
「やっぱり正攻法では難しいかぁ。なら裏技しかないなー」
剣丞の言葉に悠季がいち早く反応する。
「流石は天上人であらせられる剣丞さま!その策、是非とも拝聴させて頂きたいものですなぁ!」
「んー……やだ」
「なんですとーっ!?」
キャーキャーと喚いている悠季の言葉を聞きながら剣丞の言っている策を考える。裏技……つまりは通常であれば思い浮かばない、実行しないであろう行動を取るということだろう。墨俣の一夜城然り、美濃攻めの際にも活躍したと聞いているからもしかすると城攻めにおいては一流の腕を持っているのかもしれない。
「ところで、兵は強いの?」
「尾張兵よりは強い。元々、近江は強兵の宝庫であるからな」
「弱点はないの?」
「当主である六角義賢の人望がないこと、後は……火力が少ないこと、でしょうか」
「……あ、なるほど。だから剣丞隊の鉄砲を増強してくれたのか」
頷き会話を続けるのを無視して悠季と視線を交わす。剣丞隊と共に戦うことになるのは初めてだからこそ、そういった情報、練度などは貴重な情報になるのだ。
「……ごめんなさい、藤十郎。勝手にこのようなこと決めてしまって」
「ん、別に構わんさ。それに……情報を仕入れる好機、だろう。なぁ悠季?」
「その通りでございます、葵さま!……草の一人など特に問題はありますまい」
あの後、城へ侵入するといった話の中で鞠……今川氏真がついていくということに葵が猛反対し、もし連れて行くのであれば松平の者を連れて行けと言い藤十郎とも親交の深い小波を剣丞隊に送ることになったのだ。
「小波であれば上手くやれるだろう。……まぁ、一抹の不安がなくもないんだが」
「ふむ、そのあたりはまた伺うとして……葵さま、松平衆、戦の準備は万全に整ってございますぞ」
「えぇ」
三人に加え、こちらに綾那と歌夜も向かっておりそれを見た葵が頷き、すっと息を吸い込む。
「三河の強者どもよ!その実力を天下にとくと知らしめよ!!」
「寄せるですー!!」
綾那を先頭に突撃していく様子を珍しく後方から見ている藤十郎。
「ふむ……あの程度なら御家流で十分か。……姫さん、やるぞ」
「えぇ。……藤十郎、くれぐれも無理はしないで」
「応」
矢や鉄砲の弾が飛び交う戦場を槍を片手に悠々と歩いていく藤十郎。戦場のちょうど中央辺りだろうか、その場所に来ると槍でドンと地面を叩きつける。
「……目、あるものは見よ!!耳あるものは聞けっ!!俺は水野勝成。人呼んで鬼の勝成……三河の鬼とは俺のことよ!!」
鉄砲の音も剣戟も、そのすべてを打ち消すほどの声が周囲に響き渡る。
「我が槍、我が武。恐れぬもののみ前へ出よ!弓引く者も砲撃つ者も、死を覚悟せよ!!覚悟なき者は……失せよ!!」
その声に、六角側の兵が動揺しているのが分かる。
「失せぬのならば敵とみなす!行くぞ……水野家御家流……!!」
「三河衆、一旦引くですよー!」
「直線上から下がってください!」
綾那と歌夜の声で人が波のように分かれる。
「
藤十郎の身体から気が爆発的に放たれる。それは藤十郎と槍を二周りほど大きくしたような形で身に纏われる。まるで槍を手にした鬼のような気を纏った藤十郎はそのまま地面を蹴ると、槍を突き出した状態で恐ろしい速度を保ち駆ける。
「あ、あ奴を射殺せっ!!」
敵の将だろうか、足軽たちに命じて矢や鉄砲の嵐が藤十郎一人に目掛けて放たれる。
「あんなへっぴり腰の連中に藤十郎はやられないです」
「ふふ、そうね。……綾那もうずうずしてるでしょ?」
「勿論です!綾那と死合うとき絶対にアレ使ってくれないですから、一回でいいから殺り合いたいです!」
飛来する矢や弾がまるで藤十郎を避けるように周囲に散らばる。
「す、凄いな、藤十郎」
「うむ。我も初めて見たが……あれが三河の鬼、か」
「とんでもないですね。敵方でなくて安心しました」
「敵、か」
剣丞が少し考え込む様子を詩乃は不思議そうに眺める。
「……うん、今は味方なんだ。折角できた友人を疑うのはやめよう。……詩乃、俺たちもいってくる。藤十郎たちが作ってくれたこの時間を無駄にはできないからね」
「はっ、御武運を」
「いやはや、水野の御家流は相変わらずですなぁ」
「そうね。……とはいえ、あまり多用できないのでしょう?」
「日に一回、と言っていたと記憶しておりますが。時間としても四半刻の更に半分程度……十分に強力ですな」
戦況を一瞬で返すだけの力はあるが、それだけに反動として使用後に身体中を激痛が走るらしい。
「確か、藤十郎の母上も使われていたわよね」
「えぇ。水野の家の者は全員が使ったはずかと。あそこまで強力なのは藤十郎どのと忠重どのくらいですな。……まぁ、藤十郎どのが水野家で最も武勇に優れている、といわれるのは『もうひとつ』の力のほうでしょうが」
「……ダメよ。あの力は使わせられない。悠季も知っているでしょう?」
葵の真剣な目に悠季は静かに頷く。
「アレを使うような状況にはならないよう、私たちは手を尽くしましょう。悠季、京へ送った間者の情報を纏めておいて」
「御意に」
「……いてぇな、相変わらず」
戦場から少し下がり、藤十郎は激痛を耐えていた。
「藤十郎さん、お疲れ様です。気休めかもしれませんが、塗れた手拭いを持ってきました」
歌夜が藤十郎に手拭を差し出す。受け取ろうと手を伸ばすが、つった様な形で表情をゆがめる。
「ありがたいが、すまん。ちょっと動けん」
「それでは、私が代わりに拭かせて貰いますね」
藤十郎の具足を慣れた手つきで取り外し、背中に手拭を当てる。
「いつもすまんな」
「いえいえ。綾那よりは手がかかりませんから」
綾那が聞けば頬を膨らませるであろう軽口を叩きながら歌夜は優しく藤十郎の身体を拭いていく。身体全体が燃えるように熱くなっているため、定期的に側にある水桶の水で手拭を冷やしなおしていく。
「しかし、懐かしいな。戦場の中でこのようにしてもらうのは」
「ふふ、普段であれば相手は既にいなくなっていますからね。……綾那やほかの松平衆、織田どのの手前少し加減したので?」
「最後が正解だな。あまりやりすぎて変な警戒心を生んでも堪らんからな」
十分、警戒されるだけの戦果ですよ、といいながら歌夜が前面に回る。
「……綾那もそうですけど、藤十郎さんもあまり怪我をなさらないですよね」
「ん、綾那は異常だろう。あいつはきっと怪我したら死んでしまうんじゃないかと思えるほどだからな」
「藤十郎さん、あまり無茶はしないでくださいね」
「どうした、突然」
「……藤十郎さんがいるから、私や綾那は殿の側に居られると……そう思っているんです。葵さまの目指す未来に、私たち武者の居場所は……」
歌夜が言葉を止める。
「俺が居なくとも、新しい時代は来る。……まぁ、俺も簡単に死んでやるつもりはないさ。悠季と杯を交わす約束もあるしな」
「悠季と……?ふふ、流石は藤十郎さんですね。……私や綾那のことを忘れては嫌ですよ?」
「?忘れんよ。毎日のように顔を合わせているだろう」
「ふふ、今はそれで我慢します」
少し楽しそうに歌夜が笑うのを藤十郎は不思議そうに眺めていた。
戦は織田、松平の連合の圧勝。決まり手は森家の寄せと剣丞隊の本丸急襲だった。
「しかし……二条城に剣丞たちが先に行くとは……それほど緊迫した状況なのか?」
「えぇ。松永の言葉を信じるなら、三好も鬼に堕ちた可能性が高いわ」
「ということは、以前から言っていた鬼が人となるか……は、人が鬼となるが正しかったか」
そうなるとやはり恐れるべきなのは。
「猛将と呼ばれる者が鬼となった場合にどうなるか、だな」
……人が鬼となる。その事実以上に衝撃的な出来事が起こった。二条の解放は少々大変ではあった(剣丞的には)のだろうが、その後、久遠と公方……足利義輝からの言葉であった。
「我が夫、新田剣丞を久遠どのと公方の夫だけでなく、鬼との戦いを決意した者たちすべての良人とする、か」
その言葉を聞いた瞬間、何故か分からないが刀を抜き剣丞を斬り捨ててしまいそうな衝動に駆られた。
「……蕩し御免状ね。面白いことを考えたことだ」
剣丞を旗印として、日の本を一つにする……そういう策なのだろう。
「今後も見据えた面白い策だな。剣丞と婚姻を結んだ者たちが日の本を治めていくことになる、か」
「あ、藤十郎」
そこへ剣丞が通りがかり、藤十郎へと声をかける。
「……剣丞か」
「どうしたの、何か考え事?」
「まぁな」
「……」
一時の沈黙。その後、藤十郎は突然立ち上がり近くにあった木刀を剣丞に投げ渡す。
「え?」
「立ち合え、剣丞」
「はぁはぁ……と、藤十郎、どうしたんだよ」
「……分からん。分からんがお前を打ちのめしたくて堪らんのだ。殺しはせんから安心しろ」
「安心できないよ!?何度か本気で来てるだろ!?」
「だが生きてる。大丈夫だ!」
どれほどの時間が経っただろうか。剣丞は息を切らしながら藤十郎の攻撃を文字通り必死で受けていた。
「……分からん。何でこんなに胸がざわめく?」
「……藤十郎……。元康さんのこと、かな?」
その言葉に木刀を振るおうとしていた手が止まる。
「……何のことだ」
「分かる、って俺が言っちゃダメなんだろうけど、きっと藤十郎がどうしてそんなことになっているのかは分かるよ」
藤十郎の目をしっかりと見ながら剣丞が言う。
「元康さんが俺と結婚するかもしれない、って思って……」
「今後を見据えるなら、姫さんはお前と結婚するだろうな。するならば早くせねば意味はなくなる」
葵の血筋であれば、恐らくは本妻として……今であれば三番目の本妻として結婚することになるだろう。剣丞本人はどう考えているか分からないが、この順番は今後の世界においてとても大きな意味を持つことになるだろう。
「……俺は家臣として、これからの時代において姫さんが少しでもいい立場にあることを望む。それはおかしいことか?」
「どうだろ。俺は誰かの家臣じゃないし、俺のいた世界ではそんな考え方なかったから。……でも、本当に大切なのは藤十郎の気持ち、それと元康さんの気持ちじゃないかな?」
「俺の気持ちは」
「違う。それは家臣としての、水野勝成としての気持ち。俺が言っているのは松平の家臣じゃなく、藤十郎としての本心だよ。きっと、今のイライラは二つの気持ちに相反するものがあるからだと思う。……これ以上は俺の口から伝えるべきことじゃないかな」
剣丞と別れた後、藤十郎は再び考えていた。
「……意味が分からん。俺の気持ちが相反するものがある……?」
見上げた空に浮かぶ満月を見ながら、藤十郎は呟く。
「……気持ち、か」
本来、三河の鬼は井伊直政だと思いますが、藤十郎にいただきました。
というのも、鬼日向になるにはもう少し進まないといけなかったので……。
水野家御家流、鬼哭槍攘(きこくそうじょう)。
自らの肉体と武器を莫大な気で纏い、矢などをものともせず突撃していく技です。
一定時間スーパーアーマー+攻撃力アップみたいな感じです(ぉぃ
今回は歌夜と少しだけイチャイチャ?しましたがいかがでしたか?
もうすぐ金ヶ崎。原作でも盛り上がる場所が近づいております。
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