戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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今回の主役は斉藤飛騨です!
原作では序盤に出てきてすぐに居なくなるので記憶にない方は是非原作を再度プレイしてみてください!


閑話2 飛騨、己を知り人を知る

 時は遡り、藤十郎と桐琴が三河へと帰る前の話である。

 

「だいぶ身体が動くようになったみたいだな」

「応よ。ワシは腕以外は完治したわ」

 

 笑いながら言う桐琴に苦笑いを返す藤十郎。

 

「今日は少し遠くまでいって鬼の巣探すか」

「ふむ、それもいいかも知れんな。追われてばかりでは面白くないからな」

 

 そんな理由で決めていいのだろうか、と感じなくもないが藤十郎にも異論はない為、鬼の巣探しをすることになった。

 

 

「……ん?」

 

 森を分け入っている時に藤十郎の目に何やら布切れのようなものが目に入る。

 

「桐琴、少し待ってくれ。何か人がいるみたいだ、生きているかは分からんが」

「ほう、こんなものよう見つけたな」

 

 槍で容赦なく周囲の茂みを払いながら桐琴が言う。払われた茂みから出てきたのは、ボロボロになった服に身を包んだ少女であった。

 

「ふむ、息は……あるようだな。かなり危険な状態のようだが」

「鬼の巣ではなく小娘を拾うとは。まるで孺子のようだな」

「いや、剣丞とは違うだろ」

 

 そんなことを言いながら外傷なども確認していく。大きな目立つ傷はないが、少し痩せこけているか。

 

「服からするといいところの人間かと思ったんだが……」

「そうか?ワシには頭の悪そうなガキにしか見えんが」

 

 そういいながら少女が握り締めている小太刀を見る。そこには家紋が記されていた。

 

「この家紋……下り藤、ってことは」

「ほぅ、斉藤の関係者か?」

 

 織田と戦となり、敗北した斉藤の将かはたまた娘か。その関係者であることはほぼ間違いないだろう。

 

「……厄介事になるか?」

「どうだろうな。邪魔であれば山の中で放置すればいい」

「鬼か、お前は」

 

 とはいえ、見つけてしまった以上放置するわけにはいかないだろう。一旦、鬼の巣探しをあきらめ、少女を抱え洞窟へと戻っていった。

 

 

「……うっ……?」

 

 少女……斉藤飛騨が目を覚ましたとき、目の前にいたのは見るからに歴戦の武者であろう男であった。静かに目を閉じていることから、恐らくは寝ているのだろうと判断できた。

 

「(ここは……)」

 

 今の状況が分からない以上、下手に声を上げて男を起こしてしまうのは不味い、と飛騨は判断し周囲を見渡す。ゴツゴツとした岩肌の洞窟の中、ということ以外には何も分からない。男の後ろに何かの動物の干し肉のようなものがあり、近くには澄んだ水の入った桶があった。ゴクリと唾を飲み込む。

 

「ん……」

 

 男が動く気配を感じ、慌てて目を閉じて寝た振りをする。

 

「まだ目覚まさないか。桐琴もまだ帰らず、か」

 

 鬼を狩りにいけなかったことで欲求不満気味だった桐琴は、鬼から奪った武具を持って山を散歩してくると出て行った。

 

「……ふむ、寝たふりはやめて起きないか?」

「!?」

 

 藤十郎の言葉に身を固くする飛騨。相手が山賊か何かであれば、この先に待っている未来は最悪のものだろう。

 

「腹は減ってないか?あまり食ってなかったなら一気に食うと危険だから先にこっちだけどな」

 

 藤十郎がことり、と木を彫ってつくった椀におかゆを入れて飛騨の前に置く。今までにこのようなものをおいしそうだと思ったことがない飛騨も、我慢できずに飛び起きおかゆを口に入れる。

 

「っ!っ!」

「落ち着いて食え。一気に食うと身体に悪いぞ」

 

 桐琴は当たり前のように起きて即肉を食ったが、普通はそんなことをすると身体を壊す。藤十郎はおかゆを必死に食べる飛騨をじっと見ていた。

 

 

「さて、ある程度腹も膨れたか?」

「う、うん」

 

 かつての飛騨を知っている者が見れば驚くほどにおとなしい姿。勿論藤十郎がそんなことを知るわけもないから自然に受け止める。

 

「まずは自己紹介といくか。俺は松平家中、水野勝成。通称は藤十郎だ」

「松平……!?ということは織田の……っ!」

 

 飛騨は藤十郎の言葉を聞き、小太刀を構えようとするが何処にも見当たらない。

 

「これか?」

 

 藤十郎が手に取った小太刀をぶらぶらと振る。

 

「か、返せっ!」

「まずは自己紹介だといっただろう。お前は誰だ」

「わ、私は……斉藤、飛騨」

「飛騨、ね。ほら」

 

 小太刀を投げて返す。

 

「さて、それでは飛騨。斉藤の家臣かと思うが、何故お前はこんな場所に居る?あぁ、それとお前が小太刀で俺に襲い掛かるとしても、自害しようとするにしても、俺の刀で斬るほうが早い。安心しろ」

「な、何を安心しろと……!?」

「今、お前の生殺与奪の権利は俺にあるってことだ。……もう一度聞く。どうしてお前はここに居た?」

 

 

 ぽつぽつと話始める飛騨。織田との戦の中で少しの手勢と共に逃げ出したこと。一時は複数で潜伏や逃走を繰り返していたが、ある日、鬼と出会い手勢のほとんどが死に残った者も逃げてしまい一人になってしまったこと。それから文字通り必死で鬼から逃げ、隠れ……。

 

「……そこで倒れた、ということか」

「あぁ」

「しかし……愚かだな、お前」

 

 藤十郎からの言葉に身体を震わせる。

 

「戦の場から逃げ、部下からも逃げられ……お前の人となり、知らんが少なくともどのようなことをやっていたのか想像はできるな」

「だ、黙って聞いていればっ!」

「事実だろう。主君を守るでもなく、ただ遁走する。そんな者に人はついていかん。少なくとも人の上に立つ存在ではない」

 

 断言する藤十郎に返す言葉が浮かばず飛騨は瞳に涙を浮かべながらも口を閉ざす。

 

「……が、今のお前がどうなのかは分からん。俺も一時期飯も食えない生活をしたことがあってな」

 

 

 藤十郎が今よりもまだ若い頃(今でも若いのだが)。諸国放浪をしているときに、一人の武士が町娘に手を出しているところを結果として斬り捨てたことがあった。だが、相手がなかなかに立場が高かったようで、藤十郎に対して刺客を放ったのだ。ことを大きくし過ぎると葵に迷惑がかかる。そう思った藤十郎の取った策が。

 

「虚無僧に扮して、その国に数ヶ月滞在したんだ」

「こ、虚無僧?」

 

 

 しかし、路銀がつき食もままならない状況。そんなときに近くにあった旅籠の女将が一杯の飯を施してくれた。

 

「……俺も、正直それまで部下だなんだという奴らの言葉の意味なんてまったく理解できなかった。する気もなかったし、俺の主が言っている民を守るという言葉も、人事のように感じていた。でも、旅籠の女将から貰った飯を食べたときに気付くことが出来た。あぁ、姫さん……俺の主が言っている平和な世界っていうのは、民を大切にするということはこういうことなのかと思ったよ」

「……」

「だから、飛騨。人は変わるんだよ。どのような切欠なのかは分からんし、今の話を聞いてお前が変わるかどうかも分からん。お前がどう思おうと、なんと言おうと美濃は既に織田のもので、斉藤家は滅びた。結果は変わらんかもしれないが、お前が逃げたことで滅びたんだ」

 

 藤十郎の言葉に、飛騨自身も気付かないうちにぽろぽろと涙をこぼす。無意識に嗚咽をあげていることも気付かないほどに飛騨は動揺していた。

 

「わ、私が、私がもっと……」

「……色々な国がある。色々な主がいる。色々な家臣がいる。……いいか、飛騨。俺たち松平……三河の武士は、主を決して裏切らないし戦から逃げることもしない。それが、俺たちの誇りだからだ」

「ほ、誇り……」

「お前も、しっかりと誇りを持て。仮に織田につかまり処刑されるとしても最期の瞬間まで武士であれ。室町に名を連ねる武士であるならば、なおのことだ」

 

 

 勝成の言葉で泣き疲れたのだろうか、再び飛騨が眠ってしまった。

 

「藤十郎、青臭い説教をしたものだな」

「やっぱり聞いてたのか。……で、実際に斉藤落とした桐琴はこの子知ってるのか?」

「いや、これっぽっちも記憶にないな。孺子が詩乃を攫いに行ったときに襲ってきたと言っていた記憶がある程度だな」

「詩乃どのと因縁があるのか。……こいつはどうするべきだ?」

「知らん。前にも言ったがワシは藤十郎の槍となり動くだけだからな。お前が決めたのならば、ワシは従うだけだ」

 

 

 次の日。

 

「勝成どの、此度は助けて頂きどれ程感謝しても足りませぬ」

 

 丁寧な礼をする飛騨に少し驚く藤十郎。桐琴は何やらニヤニヤしているが。

 

「面をあげていい。そこまでかしこまってもらうことを俺はやった記憶はないぞ」

「いえ!勝成どの……いえ、勝成さまのおかげで私自身がどれ程までに己の力ではなく、他人の力に驕っていたかを知りました。……今ならば、半兵衛が言っていたこと、少しは理解できます。……最早、後の祭り、ですが」

 

 少し寂しそうに見えるのは、やはり主家には思い入れがあったのだろうか。

 

「……飛騨」

「はっ!」

「藤十郎だ」

「は?」

「俺の通称だ。俺は水野勝成。通称は藤十郎。通称で構わん」

 

 次は飛騨が驚き嬉しそうな笑顔で頷く。

 

「はっ!!藤十郎さまっ!!」

「さ、さま付けは必要ない……」

「そんなことは御座いませぬ!……藤十郎さま、命を救っていただき、これまでの私を諌めてくださった上にこのような願いを申し上げるのは真に心苦しいのですが……」

「……聞こう」

「わ、私を藤十郎さまの部下の、末席でも構いませぬ!是非とも私を部下に加えてくださいませっ!雑用でも何でもやります!ですから……!」

「……っ!はっはっはっ!!孺子といい藤十郎といい、最近の若い奴は蕩しが多いのぉ!」

 

 我慢できないといった具合に桐琴が笑う……いや爆笑する。

 

「桐琴、笑い事じゃない。……いいのか、お前は名家の出なんだろう?」

「構いません!今までの私は捨て、新たな私として出発したいのです!」

「……だが、駄目だな」

 

 藤十郎の言葉に飛騨が愕然とする。

 

「ですよね。いえ、分かっておりました。私如きが藤十郎さまと馬を並べるなど……」

「あぁ。俺の家臣は全員が猛将だ。飛騨程度では下手をすれば初陣で討ち死だ。……これを持って松平を訪ねろ」

 

 差し出したのは、藤十郎が持っていた懐刀。それには水野家の家紋が入っていた。

 

「これを持って松平へ行き、悠季……本多正信を頼れ。うちではまだ(・・)使ってやれんが、正信なら上手くお前を使ってくれるだろう」

「藤十郎さま……っ!」

 

 昨日とは違う涙を浮かべた飛騨。

 

「ここから松平への道はそう簡単ではない。まずはお前を近くの村まで送ろう。そこから松平までは自分の足と自分の力で行くんだ。それまでに野たれ死ぬ可能性もあるが、それも……」

「はいっ!!私の覚悟と行動、ということですな!」

「あぁ。……飛騨、いつか俺の元で働いても構わぬと正信が認めたときにそれは返してもらう。そのときまで預けるぞ」

「っ!!はっ、斉藤飛騨の身命に賭けて必ずっ!」

 

 

「……変わったな、あいつ」

「ふむ、藤十郎の言葉が響いたのか、それとも既に心が壊れかけておったのか。どちらにせよ、よい暇潰しが出来そうだな」

「あまりいじめてやるなよ?」

 

 近くの村に飛騨を預け、藤十郎たちは再び洞窟へ戻る。

 

 

 本多正信の懐刀として学をつけ、三河の武士たちに徹底的に武を叩き込まれ。

 

 

 水野勝成の御側衆に一人の少女が加わるのは、そう遠くない話だったという。




白くなりすぎた(反省

飛騨は名わき役?だと思います!
見た目かわいいんですけどねw
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