戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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少し遅くなりましたが閑話3です。


閑話3 徳川家の蕩らしの君

「おや、鬼の調伏は終わりましたかな?」

 

 口元を隠しながら、しかし確実にニヤニヤしながら悠季が藤十郎にたずねる。

 

「……う、うむ。真面目な話、鬼の反応はなくなった。後で悠季も確認してくれ」

「分かり申した。それで、葵さまはいかがでしたかな?」

「っ!し、失礼する」

 

 逃げるように立ち去る藤十郎を、呆れたように、だが微笑ましいものを見るように悠季は見送る。

 

「戦場では鬼神の如く立ち回る藤十郎どのも睦言には慣れておらぬということですか。まぁ、そういうところも良いところなのでしょうが」

 

 ふふ、と笑いながら葵の部屋へと足を運ぶ。しっかりと『片付け』ているようだが、すぅすぅと寝息を立てる葵は若干肌が火照っているようになっているのは気のせいではないだろう。

 

「……ふむ、確かに魂の穢れはなくなっておりますなぁ。それにしても……」

 

 少し微笑んでいるようにも見える葵の寝顔を優しい笑顔を浮かべ撫でる悠季。

 

「幸せそうなお顔で。……今はごゆっくりとお休みくださいませ。京へと向かえば……」

 

 

「ん……」

 

 朝日が部屋に差し込み、その光で葵は目を覚ます。いつもとは違う半分まどろんだ状態で、周囲を見渡す。

 

「……っ!!」

 

 それと同時に、昨晩のことを思い出し顔を真っ赤に染める。

 

「葵さま、お目覚めですか?」

「ゆ、悠季っ!?ちょ、ちょっと待って!」

 

 慌てて自分の服を確認する。問題がないと分かるとこほんと一つ咳をして。

 

「いいわ」

「失礼いたします。……おはようございます、葵さま」

「おはよう、悠季」

「昨晩はお楽しみだったようで」

「っ!?」

 

 悠季の言葉に、何とか一度は立て直した表情は真っ赤に戻る。

 

「ゆ、悠季?ま、まさか」

「えぇ。全て悠季は聞いておりました」

「っ~~~~~!!」

 

 恥ずかしさのあまり何もいえなくなってしまう葵。そんな葵に優しい視線を向ける悠季。

 

「……葵さま、よかったですね」

「悠季……。えぇ」

 

 自分のことをずっと見ていてくれた悠季のことだ。きっと葵の気持ちを知っており、それを陰から応援していたのだろう。そう思い素直に頷く。

 

「とはいえ、御機嫌はいかがです?葵さまは鬼に魂を侵されておりましたのを、藤十郎どのが調伏したばかりです。身体に違和感などは?」

「特にはないわ。むしろ少し身体の調子がいいくらい」

「それはそれは。……嬉しそうですな」

「そ、そんなことは……もう!悠季!」

「ははは、申し訳ございません」

 

 そんな話の中、葵は側に藤十郎がいないことに気付く。

 

「藤十郎は?」

「藤十郎どのは昨晩私が問いかけたら逃げていきました。……今頃、剣丞どのに刀を返しに行っている頃でしょう」

 

 

「藤十郎!葵はどうだった?」

「あぁ。おかげで無事に鬼は祓えた。感謝しても感謝しきれないな」

「困ったときはお互い様だよ。……うん、確かに刀は受け取ったよ。ひよ、ころ、お願い」

「はい、お頭!」

 

 剣丞の声に、二人の少女が藤十郎の刀と槍を持ってくる。

 

「俺も確かに受け取った。……剣丞、何か俺に出来る限りで礼がしたい」

「いいって。……でも、う~ん、そうだなぁ」

 

 うむむ、と悩み始める剣丞。ひよところの二人は苦笑いだ。

 

「……そうだ。藤十郎ひとつだけ」

「何だ」

「葵を大事にしてあげて。それが俺からのお願い」

「……ふっ、お前に言われるまでもないさ。剣丞も嫁たちを大事にな」

「当たり前だよ。……ふふ」

「ははは!」

 

 

「主様、アレが言っておった水野の荒武者か?」

「一葉、興味ある?」

「うむ。かなりの腕前だと聞いておるからな。一度戦ってみたいものじゃ」

 

 明らかにうずうずしている一葉に剣丞は首を振る。

 

「駄目だよ、一葉。……俺が知っている中で綾那と同じくらい強いから」

「ほう、余よりも強いと?」

「どうだろう?藤十郎も本気を見たことないからなぁ。でも何かそんな感じがするんだ」

「ふむ、主様がそういうのであればそうなのだろうな。だが、そうなるとさらに戦ってみたいぞ」

「あはは」

 

 

「葵……」

 

 剣丞に刀を返して藤十郎は葵が逗留している屋敷へと足を運んでいた。ちょうどそのとき、葵と悠季が外へと出てきたところだった。

 

「藤十郎……」

 

 葵が頬を染め、少しうつむく。二人の間を気まずい空気が流れかけるが。

 

「おやおや、藤十郎どのではありませぬか。昨晩は藤十郎どののおかげで無事、葵さまは元気になられましたぞ」

「悠季。……葵、身体は大丈夫か?」

「えぇ。藤十郎のおかげよ、本当にありがとう」

 

 ニコッと微笑む葵に一瞬見とれる。

 

「それはそうと。藤十郎どの、出発は我々が出立するのと同時でよろしいですな?」

「ん、葵の無事が分かったからすぐにでも行くかと思ったんだが……」

 

 はぁ、と明らかに聞こえるように悠季がため息をつく。

 

「やれやれ。藤十郎どの、老婆心で少しばかり小言を言わせていただきますが」

 

 

「……と、いうことです。分かりましたな?」

「う、うむ。すまない」

 

 悠季からの説教を受け、藤十郎が珍しく素直に謝罪する。そして、葵と向き合い。

 

「あ~、葵。今日、俺に時間を空けてくれないか?」

「……勿論よ」

 

 初々しい空気を流す二人を見て、悠季は満足気にうなずく。

 

「さて、ではお邪魔な某は従妹どのを止めにいくとしますかな。葵さま、ごゆるりと」

 

 

 二人で馬を駆り、駿府の近くにあった丘の上へと登る。日は既に昇っており、鬼の支配から開放され少しずつ人が集まってきているようだった。

 

「……ふふ、藤十郎と二人で朝駆けは久々ね」

「そうだな。いつ以来だ?」

 

 記憶をたどるが、かなり昔まで戻らなければいけないだろう。葵は松平の当主となる以前は人質として離れていた時期もあった。

 

「本当に。一緒に行ったときのことは覚えているけれど」

 

 まだ夏に入る前の丘に吹く風は心地よく、靡く髪を葵が軽く押さえる。

 

「藤十郎、あの、ね。昨晩のこと……」

「葵、俺は何も後悔していない。正直、少し驚いたところはあったが……でも、俺が選んだことだ。むしろ葵は……」

「私だって、後悔してないわ!……少し、そういう雰囲気とかに憧れたりしたことはあったけれど」

 

 昨晩のことを思い出し、二人とも苦笑いで顔を見合わせる。

 

「そうだな。……葵、北条に行った後はおそらく織田との決戦が待っている。そうなると……もしかすると、俺たちが共に過ごせるのは最後になるかもしれない」

 

 戦国の世だ。藤十郎も葵も、常にそういった覚悟はしている。だが、命がけか、もしくは生き残ってもその後どのような形になるかも分からない。

 

「……えぇ。負けるつもりはないわ。久遠姉さまが……織田信長が天下を平定するための障害になるのであれば、私が倒すわ」

「あぁ。そのときは、葵」

 

 言葉を切り、真正面から真剣な顔で見つめる。

 

「俺や綾那、歌夜に死ねと。そう命じろ」

……えぇ、分かっているわ。……でも、藤十郎。貴方たちに死ねと命じるときは、私も一緒よ」

「ならば、なおのこと負けるわけにはいかんな」

 

 二人で笑いあう。

 

「……織田の柴田、丹羽、小夜叉。足利の公方に藤孝。長尾に武田は猛将揃い。普通であれば気がおかしくなったのかと問われるな」

「そうね。相手が強大なのは間違いないわ。それでも……」

「徳川には天下無双であろう綾那がいる。俺もいる。それに桐琴だって。俺たちは負けんよ」

 

 藤十郎の言葉に視線を丘から見える景色に向ける。

 

「……ねぇ、藤十郎。もし私が、一緒に二人だけで逃げようって言ったらどうする?」

 

 

 

「逃げるさ。それが葵の心からの願いなら」

 

 

 

 即答する藤十郎。

 

「……まぁ、後から悠季や綾那たちが追いかけてくるだろうけどな。それに、葵が逃げないのは俺が知っている」

「……そうね。藤十郎……」

 

 見詰め合う二人は、自然と近づき唇が重なる。

 

「……葵、すべてが終わったら俺と祝言を挙げてくれ」

「えぇ、喜んで。藤十郎であれば、家中から反対もきっと上がらないわ」

 

 

「藤十郎ーっ!!葵さまと婚約したって本当です!?」

「あぁ、本当だ。家中の賛同が得られるかは分からないが」

「大丈夫です!藤十郎なら安心して葵さまを任せられるです!……でもでも、なら綾那も立候補していいです?」

「……は?」

 

 綾那の言葉を理解できず、藤十郎は首をかしげる。

 

「葵さまが正室なら、綾那は側室でもいいから藤十郎と一緒にいたいです!」

「あ、綾那……」

 

 勿論、藤十郎は綾那のことを嫌いなわけではない。むしろ好きな部類の相手ではある。だが、突然の告白に躊躇うのはまだ葵と結ばれたばかりだからか。

 

「葵さまが天下をとったら、藤十郎も天下人になるですよね?」

「……そうなる、のか?」

「おそらくは」

 

 藤十郎の疑問に歌夜が答える。いつものようにニコニコしているが、少し頬を染めているようだ。

 

「そうなれば、私も貰ってくださいね?」

「……え?」

 

 歌夜の言葉に再度固まる藤十郎。

 

「うふふ、綾那だけじゃないんですよ、藤十郎さんに好意を持っているのは。藤十郎さんは私のこと、お嫌いですか?」

「そんなことはない。だが、急に言われて少し戸惑っているだけだ」

「藤十郎、たくさん娶るのは英傑の務めだってお母さんいってたです」

 

 藤十郎の記憶にある綾那の母なら確かにそんなことをいいそうな気がする。

 

「藤十郎さんが、葵さまのことをずっと想っていたことは私も綾那も知ってました。だから、藤十郎さんが想いを遂げるまでは……と私も綾那も我慢してたんですよ?」

「あ、ありがとう……でいいのか?」

「勿論です。……藤十郎さんはこれから小田原に行くんですよね?」

「綾那も一緒に行きたいですけど……行きたいですけど……」

「綾那、葵を頼むぞ」

 

 綾那の葛藤する姿を見て、藤十郎が伝える。

 

「京で待っているのは鬼の首魁だ。……俺が小田原から京に向かうまでにどうなるか全く分からん。その間、葵を守れるのはお前たちだ。頼むぞ」

「……任せるですっ!絶対に葵さまは綾那が守るです!」

「はい、我が旗に誓って」

 

 二人の言葉に藤十郎はうなずく。

 

「……俺もなんとか早めにいけるようにするが……間に合わない可能性が高いだろう。だからこそ、頼むぞ」

 

 

「はっはっはっ!!孺子も孺子だが、藤十郎も藤十郎ではないか!徳川の小娘に鹿のガキ、その連れまで蕩らしおったか!」

「笑い事じゃない。どうすればいいか分からんのだ」

「ほぅ、それはお前が思ったとおりに行動すればいいと思うぞ。ふふふ、ならばワシも混ぜて貰わねばな」

「……は?」

 

 桐琴の言葉に耳を疑う。

 

「ワシも藤十郎のことを気に入っておる。ならば子がほしいというのはおかしなことではあるまい?」

「……いや、さすがにおかしいだろ」

「クソガキにまた弟か妹を作ってやるのも一興だろう」

「一興というより一驚だな」

「ふふふ、藤十郎は徳川家の蕩らしの君だな」

「……簡便してくれ」

 

 藤十郎のため息交じりの言葉に笑い声を上げる桐琴なのであった。

 

 

「それで、今晩はどうするのだ?」

「……葵のところに行ってくる」

 

 藤十郎は藤十郎で、この状況を嫌がってはいないようだが。




綾那や歌夜との物語も閑話で書く予定です。

ですが、次回は本編を進めると思います。
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