戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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2話 葵と藤十郎の同居?生活

 葵からの命令は直ぐに実行された。藤十郎は一度帰ろうとしていたのだが、悠季が断固として譲らず綾那に引き摺るように葵の屋形へと連れて行かれることになった。

 

「綾那ちょっと待て!!お前なんで槍構えてやがる!」

「え?久々に帰ってきたから死合うです!」

 

 さも当たり前といった反応で槍を構える綾那。

 

「ちっ……でも俺の『槍』も『太刀』もない以上、綾那と本気の死合いは……」

「藤十郎さん、これですか?」

 

 微笑みながら持ち手の部分が朱色に染まった槍を差し出す歌夜。

 

「……か、歌夜。もしかして怒っていたりするか?」

「何か私が怒るようなことを藤十郎さんはやったのですか?そうじゃなければ勘違いだと思います」

 

 明らかに怒っている。正直原因は分からないが、とりあえずこういうときに逆らってもいいことはない。ため息をつきながら槍を手に取る。

 二度、三度振った後に綾那と向かい合う。

 

「ふぅ……待たせたな。やっぱりコレじゃないとしっくりこないな」

「藤十郎も殺る気になったですね!ふっふっふっ、藤十郎も立派な三河武士なのです!」

 

 嬉しそうに笑いながら自分の身の丈の数倍はある巨大な槍を振り回す綾那。

 その手に持つ槍は天下にその名が轟くことになる『蜻蛉切』。そして小柄な少女でありながら、彼女の名は既に三河だけでなく戦った各大名家に広まっている。

 本多綾那忠勝。後に武田信玄が徳川に過ぎたる物の一つとして挙げるほどの猛将であり、生涯戦場で傷を負うことがなかったと言われているその人である。

 

「三河とか尾張とか……まぁ間くらいなんだがな、俺の生まれって」

「でも殿さんと一緒に育ったですから、三河者です!」

「そんなもんか?……それはそうと、もう始めていいんだよな?」

 

 藤十郎自身と手に持つ朱槍から殺気が迸る。綾那の身体からも同じように闘気が溢れる。

 

「半刻だ。それ以上は抑えが利かなくなる」

「仕方ないですからそれでいいです。歌夜、頼むのです!」

「はいはい。……それでは、はじめっ!」

 

 

「やれやれ、折角葵さまのお屋敷に来たと言うのにあの猪たちときたら!」

「ふふ、そうね。でも綾那も歌夜も藤十郎が居なくて落ち着かない様子だったし……今だけは大目に見てあげましょう」

「寛大なお心に悠季は感激しておりますっ!!」

「はいはい。……それで、田楽狭間の噂はどうなっているの?」

 

 楽しそうに槍を交し合う二人(勿論、本物の武器を使っている以上、命を落とす可能性すらあるのだが)を微笑ましく見ていた葵が悠季に表情を引き締め問いかける。

 

「はっ、その件に関しては草が詳しい情報を収集しているところですが……田楽狭間に降り立ったという天人は、実在している可能性が高いとのことです」

「そう……。なら久遠姉様の元にいるというのは信憑性が高いのね」

 

 顎に手を当て考え込む葵。

 

「もしかすると、藤十郎殿の帰参が遅れた理由の一つがそれにあるのでは、と考えております」

「……藤十郎が?」

 

 考え事を中断して悠季の言葉に驚く。

 

「はい。あの男の足であれば、城まで一月もかかるとは思えませぬ。で、あれば……」

「勘の鋭い藤十郎ならば、天人と何かしらの交流を持った可能性がある、と?」

「そこまでは申しませぬが……ただ、もう一つ不可思議な情報がありまして」

 

 

「ったー!綾那、相変わらずの腕だな」

 

 結局、半刻では互いに勝敗を決することは出来ず、そのまま綺麗に整えられた地面に倒れこむ。

 

「そう簡単にはやられてやらないのです。でも、藤十郎も強くなってるですね。槍だけでそこまで腕を上げるとは思ってもみなかったです」

「はは、そりゃそうさ。何も遊びで色々な場所に行ったわけじゃないさ」

「……そうやって藤十郎さんが勝手にふらりと旅に出ると葵さまの機嫌が悪くなるの、分かっておられますか?」

 

 地面に転がる藤十郎と綾那に手拭いを渡しながら歌夜が問いかける。

 

「む?何で姫さんが機嫌を損ねる?」

「……はぁ。藤十郎さんはそういう方だということを忘れてました」

 

 本気で首を傾げる藤十郎に軽く頭を振りながら諦めたような表情を浮かべる歌夜。

 

「藤十郎、綾那。二人とも腕を上げましたね」

「あっ!葵さま、綾那今日も負けなかったですよ!」

「勝ってもないけどな」

「む~!でもでも、藤十郎は傷だらけで綾那は傷一つついてないです!」

「うぐ……確かに」

「ふっふっふー!藤十郎はまだまだなのです!」

「ふふ、綾那。これからも精進して三河の為に尽くしてね。……藤十郎」

 

 少しふて腐れたような態度をしていた藤十郎に葵が声をかける。

 

「なんだ、姫さん」

「……コホン、夕餉の後で話があります。私の部屋に来るように」

 

 

 葵から指定された時刻、場所。それは本来であれば異性を呼ぶ場所ではない。しかも今日は女中が居ないらしく(悠季がなにやらしていた)、居たところで変わらないだろうが藤十郎は堂々と葵の寝所へと向かっていた。

 

「う~む……何かやらかしたか?そんなの思い当たる節……困った、どれか分からん」

 

 独り言を言いながら既に寝所の前についてしまった藤十郎の気配を感じた葵は。

 

「藤十郎、入りなさい」

 

 襖を開けて入った寝所は既に布団も敷いてあるが、机に向かい何かしらを書き記しているところだった。

 

「悪い、待たせたか?」

「いえ、私が呼んだのですから気にしないでいいわ」

 

 そっと筆を置く葵を眺める藤十郎。既に湯浴みは済ませているのだろう、仄かに肌は薄紅に染まっており真白な襦袢に肩から羽織のような物をかけているだけで正直男性の目の前に出ていい姿ではないだろう。

 

「?どうしたの、藤十郎?」

「っと、いやなんでもない」

 

 まさか一瞬見蕩れていたというわけにもいかず、言葉を濁す藤十郎。

 

「ならいいのだけれど。それで藤十郎、正直に答えて欲しいの。貴方が姿を消していた一月について」

 

 やはり来たか、と藤十郎は思う。何れは直接聞きに来るだろうと。恐らくは事実確認に近い何かなのだろうが、正直に言ってしまえば眉唾だと思われてしまうような内容だ。

 

「……まぁ、後ろめたいことがあるわけじゃない。いや、少しなくもない気がしなくもないが、それはいいとして。……田楽狭間に降り立った天人、新田……某とかいう奴が現れたのとほぼ同時期になるのか。ちょうど俺がここに向かっていた最中のことだ」

 

 

 初めは、獣か何かかと思った。だが近づくにつれ、それの異常な姿に気がつく。まるで人のような形をしていながら、巨大な牙を持ち見るからに人を圧倒するであろう膂力を感じさせる身体つき。

 

「何だ、アレ」

 

 藤十郎の勘は危険を伝えてくる。咄嗟に気配を絶ち、木の陰に隠れる。

 

「一、二、三……何匹いやがんだよ」

 

 統率のとれた動きではないが、既に十数匹に上るだろうか。ここから数里も行けば小さな山村もある。そこに紛れ込めば……待っているのはただの殺戮だろう。

 

「ってことはアレを潰さないとやばいってことだな。何か分からん以上……先手必勝か!」

 

 木陰から飛び出し、腰の得物を抜こうとする。……が、掴もうとした手にいつもの感触はない。

 

「……あ、俺の得物。森の奴に盗られたんだった」

 

 厳密に言えば自分で手放して逃げたのだが、現状ではそれどころではないだろう。既に謎の獣はその全てが藤十郎を視界に収めていたのだから。

 

「何か武器になるもんは……っと!」

「グルルルルッ……!」

 

 恐ろしいまでの瞬発力でこちらへ駆け寄ってきた一匹のナニかを咄嗟に殴り飛ばす。

 

「こいつら……古来から伝わる鬼、って奴か?まさかとは思うが……」

 

 吹っ飛んだ鬼は身体を霧のようにして消滅する。

 

「しかも形を残さないって……調べることもできねぇってか」

 

 残りの鬼はジリジリと藤十郎の包囲網を狭めている。数匹なら殴り殺すのも難しくないだろうが、素手で全部と戦っていては不測の事態に陥る可能性もある。

 

「と、なれば」

 

 チラッと自分が走ってきた方向を見る。あちらにずっと向かえば何れ着くのは織田の治める地。三河の地よりはマシと思ったのか藤十郎がとった行動は。

 

「逃げの一手、ってな!」

 

 包囲網の一角を力ずくで突破し、つかず離れずで人里から遠ざけることだった。

 

 

「……」

 

 あまりの内容に唖然とした葵の表情に笑いそうになるが、笑ってしまっては何を言われるか分からない。藤十郎は軽口を叩こうとしたのをぐっと抑える。

 

「それで、藤十郎。まさかとは思うけれど、そのまま放置してきた……ということは」

「ないない。適当な村で太刀貰って全部根切りにしておいた。で、その代金として畑仕事とか手伝ったら帰ってくるのが遅れたんだよ」

「はぁ……全く。それで怪我は大丈夫なの?」

「かすり傷だけさ。むしろ綾那と一戦交えるほうが圧倒的に危ない。間違いなく」

 

 笑いながら言う藤十郎の腕をちらっと見ると、そこには真新しい傷も少なくない。

 

「藤十郎、腕を出しなさい」

「え?」

 

 言葉の意味を理解する前に小さな箱を取り出した葵に腕をとられる。そのまま箱に入った薬を取り出し、傷口に塗る。

 

「っ、ひ、姫さん、痛い痛い」

「少し我慢しなさい。鬼といった存在と戦うときや、綾那と仕合をしてるときにもそんなことを言わないでしょう」

「そりゃ戦いは……だから痛いって!」

 

 薬が染みるのが嫌なのか顔を顰める藤十郎を軽く諌めながら葵は手際よく処置を進める。葵の表情が少し嬉しそうに、楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。

 

 

 葵と藤十郎の夜はこうして更けていく。

 

 

 次の日に、何故か悠季や歌夜から冷たい目で見られ本気で首を傾げる藤十郎の姿があったという。




藤十郎くんは鈍感(主役級)。

剣丞アンチではないですが、若干剣丞ハーレムが崩される恐れがあります。
とりあえずは三河勢は……。


ちなみにですが、藤十郎の朱槍は元は明智光秀が使っていた槍であるといわれています。
源平の時代に三条宗近が作ったとされ、その頃から多くの者の返り血を浴びている……
その伝説から血吸いの槍と言われていたのですが、源平の時代には槍は存在しません(ぉぃ

とはいえ、この作品ではその設定を使いますのであしからず。


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