戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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今回から閑話をはさみます。
楽しんでいただければ幸いです!


閑話4 地黄八幡と桐琴と藤十郎

 北条家当主である朔夜との駆け引きによって北条を仲間に引き込んだ藤十郎たちは京へと歩を進めていた。とはいえ、多くの兵を連れている為速度は決して速くはない。その時間を利用して北条家の面々と信頼を深めていた。

 

「はっ!」

 

 鋭い呼気とともに放たれる一撃を刀で滑らせるように受け流す藤十郎。返す刃で朧を袈裟切りする素振りを見せると、朧は身体をわずかにずらしそれを避ける。互いに距離をとり、一合二合と刀を交わす。打ち合いが十を数えた頃だろうか、朧の体勢がわずかに崩れる。その隙を藤十郎が見逃すわけもなく、首元に刀が突きつけられていた。

 

「……参りました」

「ありがとう。いい仕合だった」

 

 そういって地面に膝をついていた朧に藤十郎は手を差し出す。

 

「いえ、ですが流石ですね。藤十郎どのと一対一では勝てそうにありません」

「そんなことはない。朧どのの太刀筋は綺麗だから戦っていて分かりやすいところがあるからかも知れん。野生的な剣には弱いかもしれないな」

「……勉強になります。やはり三河武士は強いのですね」

「綾那……忠勝はもっと強いぞ。あれはもう武の化身といっても過言ではないだろうな」

「藤十郎どのにそこまで言わせるとは……ふふ、私も是非手合わせ願いたいものです」

 

 綾那の単純な武は別格だ。それを補佐する歌夜の力があってこそではあるが、戦場において圧倒的な戦果をあげ続けているのは綾那自身だ。

 

「忠勝どのの強さの秘訣などはあるのでしょうか?」

「そうだな……俺もそうだが、綾那は『ただ勝つ』ことを宿命付けられている」

「ただ勝つ、ですか。では藤十郎どのも?」

「あぁ。俺は『常に勝つなり』と母上に言われた」

「つまりは、徳川が誇る二本槍は常勝の槍だったのですね」

 

 納得したように頷く朧。

 

「そうなるべく、俺も綾那も修練を繰り返してきた。だから俺たちは鬼なぞには負けんし、言ったとおり織田にも勝つ」

「……微力ながら、私も協力します藤十郎どの」

「ありがとう、朧どの。心強い」

 

 藤十郎が笑顔を浮かべ、朧が少し顔を見つめてくる。

 

「……どうした?」

「い、いえっ!」

 

 

 時は前日にさかのぼる。

 

「う~ん。朧、藤十郎ちゃんのこと、嫌いじゃないわよね?」

「は?はい。先ほども言いましたが、好ましい武者振りだと思いますが……」

「そう。なら、京に着くまでの間で取り入りなさいな」

 

 朔夜の言葉が理解できず、朧が固まる。

 

「あ、姉上、今なんと?」

「だ・か・ら。朧が藤十郎ちゃんと夫婦になれるように頑張ってね、ってことよ」

「え、え~っ!?」

「これから、徳川が天下を取ったとき。そのときに私たち北条が優位に立っていくためには徳川と強い繋がりが必要よ。だから、そこで重要になってくるのが藤十郎ちゃんよ」

 

 朔夜が言うことは分かる。だが、まさか自分にそのようなことを言ってくるとは思いもよらなかった朧は動揺を隠せない。

 

「松平……徳川家康との婚姻がほぼ確定している藤十郎ちゃんは、何れは日の本を治めることになるかもしれないわ。そうなったらいつかは北条との同盟を破棄して攻め込んでくる可能性がある。もしくは北条の領を減らされるとかね。なら、はじめから内部で発言権のある立場に人を送り込んでおくのは普通じゃない?」

「で、ですが、私のような無骨者では……」

「あら、朧は魅力的だと思うけどな~?私の言葉が信じられないのなら、藤十郎ちゃんに直接聞いて見なさいな」

 

 

「藤十郎どの……わ、私に、女性として魅力は……ありますか?」

 

 恐る恐るたずねて来る朧に首を傾げながらも。

 

「あぁ。朧どのは魅力的な女性だと思うぞ?武士としても勿論立派だと思うが」

 

 即答する藤十郎に驚いた様子の朧。

 

「人としても自らを律し、家族を大切に思う心を持っている。そういったところは我ら三河武士の多くが大事にしている。当たり前かもしれないが、その当たり前をしっかりと出来ることはすばらしいことなんだ」

「藤十郎どの……」

 

 感動したかのように藤十郎を見る朧。そこへ桐琴がニヤニヤしながら現れる。

 

「ほう、また蕩らしておるのか藤十郎」

「……人聞きの悪い」

「はっはっはっ!事実であろうて。それで、北条の。藤十郎の槍であるワシともやらんか?」

 

 桐琴の言葉にピクリと反応する朧。

 

「……私ではまだまだ太刀打ち出来ないかもしれませんが、同盟として藤十郎どのと馬を並べる身。背を任せてもらえるだけの腕前は持ちたく思っていますので、胸を借りるつもりで行きます」

「おう、こい!」

 

 

 結果としては、桐琴の圧勝であった。森家の槍は野生の槍。型のないその自由な戦いに翻弄され、終始桐琴が優勢で終わった。

 

「はぁはぁ……」

「北条の。その程度の腕では藤十郎の黒備二十八騎(くろぞなえにじゅうはっき)には入れぬぞ」

「待て桐琴。何だその黒備って言うのは」

「ん?出立前に狐の女が言っておったぞ。全員が黒に染めたものを身に着けているから黒備ですなぁ、と」

「……悠季か」

 

 特に名前に対して異論があるわけではないが、自分が知らなかったのが腑に落ちない。

 

「……それほどまでに徳川の黒備とは強いのですか」

「あぁ。ワシや鹿のガキや優等生が中核だ。そう簡単に藤十郎までは到達できぬほどにはな」

「……そうですか。それならば私たち北条としても良い目標が出来ました。我らもまた、色備えを任されている身です。武田の赤備えにも負けぬ自信はありましたが、まだまだ私の知る世界は狭かったということですね」

 

 素直に言う朧に桐琴は少し驚いた様子だったが、突然笑い出す。

 

「気に入った!朧といったな。改めてワシは桐琴だ!気軽に呼べぃ!」

「はい、桐琴どの。京に着くまでの間、よろしければご教授願えますか?」

「うむ!といいたいところだが、ワシは人に教えるのは苦手でな。藤十郎に教えてもらい、腕をあげたらワシと死合え!」

「はい!」

「……桐琴、同盟相手だからな?」

 

 桐琴のしあえ、という言葉に危険な意味合いを感じて釘を刺す藤十郎。分かっておるわ!という桐琴の言葉に一抹の不安が拭えないのだった。

 

 

 その日の夜。

 

「ん、朧どの?」

「あぁ、藤十郎どのですか」

 

 宿の庭で一人酒を傾けていた藤十郎の前に現れたのは風呂あがりだろうか、頬や見えている首筋などがほのかに紅に染まっている。

 

「ふふ、お一人で月見酒ですか?」

「あぁ。……良かったら朧どのもどうだ?」

「それでは、頂きます」

 

 ふわりと藤十郎の隣に腰を下ろして藤十郎が差し出す杯を受け取る。

 

「ふぅ……おいしいですね」

「あぁ。この辺りの地酒らしいが、なかなかにうまい」

「本当ですね。普段あまりお酒は飲まないのですが……いつもよりおいしく感じるのは、やはり……」

「どうした?」

「い、いえっ!」

 

 慌ててなんでもないと言いながらぐいっと一息に酒を飲み干す。

 

「藤十郎どのは、女性に慣れているのですね……」

「そんなことはないと思うのだが。いまいち女心という奴は分からんしな。……とはいえ、葵と婚約して以来不思議と色々な女性と関わりが出来ている気はするが……」

「……藤十郎どの。もし、もし私が藤十郎どのの側室でも構わないから娶って欲しいといったらどうします……?」

 

 酒が回ったのだろうか、普通であればするつもりのなかった質問を朧の口からこぼれる。

 

「……そうだな。政治的な面で見れば徳川としても、北条としても互いに利益のある繋がりにはなるだろうな。……まぁ、個人的にも拒否する理由は思い浮かばないが、もう少し互いを知り合ってからでも遅くないのではないかと思うがな。俺もいつかは跡取りを作らねばならんだろうから、その相手が魅力的でなおかつ家格もあれば文句はないだろう」

 

 冗談を交えた感じで藤十郎が言う。

 

「……藤十郎どのは噂の新田どのと同じ蕩らしの才能をお持ちなのですね」

「な!?ちょっと待て。何で俺が剣丞と同じなんだ!?」

「桐琴どのが仰っていることがよーく分かりました。家康どのも気が気でないでしょうね」

「待て待て。何で葵まで出てくる!?」

「ふふ、教えてあげません。ただ……」

 

 手を伸ばした藤十郎から逃げるようにとん、と立ち上がりくるりと振り返る。

 

「女は、やはり自分のことを好意を持つ相手に見て欲しい、出来ることならば自分ひとりを、と思ってしまう生き物なんですよ。……まぁ、自分が好きになる人が他の人にとっても魅力的に映ってしまうのは仕方ないとも思うんですけど」

「……朧どの?」

「藤十郎どの。戦が終わって、もし藤十郎どののお側にまだ空きがあるのなら……」

 

 

 一人になった藤十郎は杯に注がれた酒に映る月を見ていた。

 

「……酒が回っていたのだろうが……朧どのの言葉は……」

 

 北条側の、朔夜の策か?と疑ってしまうが、現段階で手を打つには早すぎる気もする。出会って数日も経っていない相手にあそこまで好意を向けるだろうか?

 

「……まさかな。剣丞じゃあるまいし」

 

 頭に過ぎる自分にとっての数少ない……いや、唯一の同性の友人の顔を思い浮かべる。特に秀でた何かを持っているわけでもなく、かといって何も出来ないわけでもない。一番の才能は蕩らすことだろうが。

 

「よく分からんな。どちらにせよ、北条とは友誼を結ばねばならんのだし朧どのと親しくしておくのは悪くはないだろう。後のことは後で考えるに限るな」

 

 一気に酒を飲み干すと立ち上がる。

 

「さて、明日も早いことだ。今日は寝るとするか」

 

 

 次の日。

 

「……わ、私はなんと言うことを……!!」

 

 朧は目を覚まして頭を抱えていた。酒を飲んでの二日酔いというわけではなく、酒を飲んだ勢いで言ってしまった言葉のせいだ。

 

「~~っ!絶対に藤十郎どのに変な女と思われた……」

「お、朧姉さま?どうかなさいましたか?」

「暁月……!い、いや、大丈夫です」

 

 こほんとひとつ咳払いをして、暁月と向き合う。

 

「どうしました?」

「はい、藤十郎どのが一緒に朝食をどうかと誘ってくださったので、朧姉さまもご一緒にいかがかなと思いまして」

「……藤十郎どのが?」

 

 昨日のことが頭を過ぎる。

 

「?朧姉さまは藤十郎どののこと嫌いですか?」

「そんなことは!……い、行きます」

 

 その日の朝食は、ずっと下を向いたままで皆に首を傾げられた朧なのであった。




実は、もうひとつ新しい作品を書き始めました!
次回作として準備していたものですが、興味がありましたら読んでもらえると嬉しいです!

感想や評価などお待ちしております♪

あと、戦国恋姫の小説が少しでも活性化してくれればと更新頻度を上げています!
いっぱい書いてもらえたら嬉しいなぁ……。
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