戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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北条家三人娘との関わり中心のお話になります。


閑話5 北条の担い手

 今回の戦は徳川にとっての命運を賭けた戦いとなる。だが、それは北条にとっても同じことで、これからの時代を担っていくに相応しい後継者を育てるという目的もあって北条は同盟を決めた。

 

「うぅ、お姉ちゃん頑張れるかなぁ?」

「大丈夫だ!何かあったら三日月がぶっ飛ばしてやる!」

「暁月もついています」

 

 三人が宿で話しているのを見て、ふむ、と藤十郎が何かを考える。

 

「藤十郎、どうした?」

「あぁ、あの三人なんだが……今のままで大丈夫かと思ってな」

 

 北条家の兵の質は決して悪くはない。だが、朧が率いるときと十六夜が率いるときとでは、その力の差が歴然と現れる。訓練で数人の部隊での模擬であっても差が現れてしまうのだ。

 

「大戦の経験がないのであれば、仕方がないのかもしれんが……このままでは朧の足を引っ張ることになりかねん」

「それは困るな。ワシの獲物は増えるが、それで戦に負けては元も子もない」

「あぁ。戦が始まれば、俺も桐琴も本気で暴れることになるだろうから、恐らくはあの子たちを見ている余裕はない。三日月は年齢の割にはやるが……まぁ、尾張の弱兵なら複数相手でもいけるかもしれんが」

 

 予想通りの展開になれば、相手方には武田や長尾、浅井の強兵たちとやり合うことになる。そして何よりも恐ろしいのは。

 

「……両兵衛が厄介だと言うところか」

「ふむ……孺子に付き従っておるから間違いなく強敵になるな」

 

 基本的に何も考えずに吶喊していくことが多い桐琴ではあるが、策の優位性などは認めている。それを打ち砕くほどの武力で無視していただけだ。

 

「危険なのはそれだけではないぞ。武田には武藤に山本、長尾には宇佐美もいる。こちらの智は悠季一人だからなかなかに大変だろう」

「ん、藤十郎は策は巡らさんのか?」

「……そういうのは面倒だ。突撃して殲滅するほうが楽だろう」

「ははは!違いない!」

 

 そんな会話をしていた二人をじーっと見つめている北条の三人娘。

 

「ん、どうした。何か用があるならこっちに来ないか?」

「い、いいんですか?」

 

 十六夜が恐る恐るたずねて来る。

 

「そんなに緊張するな。同盟である以上、俺たちと十六夜たちは同等だ。聞かれて困る話でもないし、むしろ北条の兵を率いるのであれば知っておかねばならん話だろう」

「兄ちゃんは姉ちゃんが北条の跡取りだって思ってるのか?」

「そうだな。まだまだ成長中だろうが、立派な跡取りになると思うぞ?」

 

 たずねてきた三日月の頭をポンと撫でる。

 

「……十六夜姉さまを会ってそこまで経っていないのに正確に評価した人は貴方がはじめてです」

「そうか?今は立派な母の背中を追っているからそういう風に見えるのかも知れんな」

「母様の背中を追っては駄目なんですか?」

 

 不思議そうにたずねて来る十六夜に少し困った笑顔を向ける。

 

「そうだな。追うのはかまわないと思うが……いい返るなら十六夜。お前が『何になりたいか』が大切なんじゃないか?」

「何になりたいか?」

「あぁ。たとえばだが、徳川には最強と言われている本多忠勝がいる。彼女に憧れ、目指し、修行を繰り返し強くなったとしよう」

 

 藤十郎の例にうなずく三人。

 

「それじゃ、強くなったそいつは何になる?」

「何?」

「あぁ。そいつは『本多忠勝』になるのか?」

「……違います」

 

 十六夜の言葉に頷く。

 

「そうだ。そいつは本多忠勝を目指して強くなった別人だ。だから、強くなるための目標として本多忠勝を目指すのはいいだろう。だが、本質は違う。それを理解して行動していけば、きっと自ずと結果はついてくるだろう」

「私では、母様にはなれない、ってことですか?」

「冷たい言い方になるかもしれんが、そうだ。朔夜どのは確かに素晴らしい為政者だろう。だが、十六夜とは違う。違っていいんだ」

 

 三日月と同じように傍に座った十六夜の頭を撫でる。

 

「自分なりの当主になればいい。きっとしっかりとした想いがあれば、民も兵もついてくる。少なくとも、二人の妹たちはしっかりと姉を守ろうと自分に合った知識や技術を磨いている。俺に出来ることなら少しの間だが手伝ってやるから言って来い」

 

 

「藤十郎はガキが好きなのか?」

「何だ急に。まぁ、嫌いではないな。本人は怒るだろうが、綾那と遊んでいるときを思い出す」

「くくっ!鹿のガキか」

「まぁ、歌夜と一緒に小さな頃から遊んでいたからな」

「ほう、徳川の殿だけでなく二人とも幼馴染であったのか」

「あぁ。……二人とも息災だといいが」

 

 

「う~……驚いちゃった」

「あはは、姉ちゃん顔真っ赤だ!」

「藤十郎どのは新田どのと親交があると聞きました。もしかすると、蕩らしの技は移るのかも……」

 

 藤十郎たちと少し情報共有をして、分かれた後。

 

「でもでも、藤十郎さんってかっこいいよね?確か徳川の殿様と婚約してるんだっけ?」

「姉ちゃん残念だったな!」

「……まぁ、現実的に考えると優良株ではあるでしょうけど」

「あれ、暁月ちゃんは嫌い?」

「いえ、あんな兄であれば欲しいと思いますが……異性としての好きは分かりません」

 

 きゃっきゃと話し合う三人を微笑ましく見ている朧。

 

「……藤十郎どのには感謝しなくてはいけませんね。十六夜たちが少しではあるけれど成長の兆しを見せている。……やはり姉上の判断は間違えてはいなかった、というわけね」

 

 そう呟いて気がつく。

 

「……ということは、姉上が仰っていた藤十郎どのを……」

 

 一人で慌てだす朧に首を傾げながら近づく影。

 

「……朧さま?何やってるんです?」

「っ!!ひ、姫野か。どうした?」

「どうした、って。指示通り京に向けて何人か送りましたよ~って報告です。……で、あの藤十郎って奴とホントに同盟組むんですか~?」

「勿論だ。姫野は反対か?」

「反対っていうか何ていうか……あいつらって伊賀の服部の仲間だし。意趣返しとかないのかな~って」

 

 姫野の言葉にため息をつきながら首を振る。

 

「駄目だ。姉上も私もそんなことは願っていない。それに、あの方が本気になると恐らく……」

「恐らく?」

「北条の兵もろとも一人で葬られる可能性がある」

 

 朧の言葉に固まる姫野。

 

「ま、まっさか~……朧さま、冗談きついですって」

「……」

「……マジですか」

「あぁ。姉上が言っていたから間違いないだろう。もしかすると恐ろしい御留流なのかも知れんな」

「普通に戦っても化け物なのに御留流とか持ってるんですか。うわ、メンド……」

 

 敵に回したときのことを思い出したのだろうか、苦虫を噛み潰したような顔をした姫野を一瞥して。

 

「……だから、決して敵対するような行動はとらないように。これは御本城様からの命でもある」

「はぁい。仕方ないですね。それじゃ、姫はまたお三方の護衛に戻りま~す」

 

 一瞬で姿を消した姫野。朧はまだ楽しそうに話を続ける三人を見る。

 

「……この戦、徳川が勝つ可能性は大いにある。いえ、私たちが徳川につくことで確率としては跳ね上がったといって良いでしょう。後は……決戦の場所が何処になるのか」

 

 天の利、地の利、人の利。全てを併せ持たねば戦に勝利はない。

 

「藤十郎どのや桐琴どのは本能的に戦を察知している節がある。となれば、予想を聞いてみるのも手かもしれない」

 

 朧は次に会った時に聞いてみようと思いながら、三人を見守っていた。

 

 

「兄ちゃん、手合わせしてくれ!」

「あぁ、構わないが武器はどうする?」

「無手だ!」

 

 拳を握り構える三日月と、自然な姿勢で立っている藤十郎。

 

「?兄ちゃん、構えないのか?」

「あぁ。いつでもいいぞ」

 

 小柄な体格を生かしたすばやい動きで藤十郎へと接近し、三日月は拳を突き出す。その拳は藤十郎の身体に綺麗に当たったように三日月は感じたが、次の瞬間世界が反転し地面に背中から落ちていた。

 

「!?」

「どうした、三日月?」

 

 背中から落ちたにも関わらず全く痛みがなかったのは藤十郎が手加減をしたからだろうか。

 

「に、兄ちゃん今何やったんだ!?」

「今のは相手の力を利用して投げる……合気といったか、その技だ。今の三日月の技のように力を使うものを剛術、逆に相手の力も利用するものを柔術と言う」

「兄ちゃんがよくやる刀とか槍で相手の突きとかを流す奴か!」

 

 三日月の言葉に藤十郎は頷く。

 

「そのとおり。それによって生じた隙っていうのはかなりでかい。俺や桐琴であっても少なくとも一瞬の隙は達人や猛者が相手であれば手傷を負わされる可能性もある」

「う~ん、難しそうだ」

「まぁ、簡単ではないな。だが、三日月は目や勘がいい。それを生かして練習すればいつかは出来るようになるかもしれん」

「おお!なら頑張ってみる!兄ちゃん教えて教えて!」

「あまり無理をするなよ?じゃあゆっくり俺が拳を突き出すから……」

 

 二人の組み手は食事で朧が呼びにくるまで続いた。

 

 

「……それでは、こういう場合にはどうするのですか?」

「ふむ……。俺ならば此処を攻めるな。この地形であればこの二箇所……そしてこの川を含めると三箇所が戦略上での要所になるだろう」

 

 過去の戦の記録を藤十郎と暁月は二人で見ながら討論する。

 

「凄い。母様と同じです。ですが、それに加えて母様はこの場所を」

「……なるほど。流石は朔夜どのだ、知恵比べで勝てるとは思っていないが」

「ふふ、負け惜しみですか?」

「武ならば負けんというのが負け惜しみならばな。とはいえ、暁月もその年齢でよくそれだけの知略を身に着けたな」

「私は大人です。子供扱いされるのは心外です」

「あぁ、すまないな。……この間も話をしたが、織田、武田、長尾にいる知将たちを抑えねばこちらの被害は大きくなる。徳川にはこういったことに精通したものが少なくてな。恐らく暁月の力を借りることになる」

 

 藤十郎の言葉に少しだけ暁月は表情を変える。

 

「……はい、望むところです。ですが、暁月には大戦の経験はありません」

「そうだな。俺からひとつだけ教えておけることがある」

「何ですか?」

「きっと暁月の姉さん……十六夜が出来ないであろう選択を、お前が迫られるときが来るかも知れん」

「十六夜姉さまが出来ない選択……?」

 

 藤十郎が無言で頷く。

 

「人に、死ねということだ」

「……」

「戦場において、何よりも大切なのは大将が生き残ることだ。そして、それを支える参謀は場合によっては多くの犠牲を払ってでも撤退しなくてはならなくなる」

 

 藤十郎の言葉にコクリと頷く暁月。

 

「そのとき、十六夜が選択できないようであれば、お前が変わりに命じてやれ。十六夜が自ら選択し、苦しんでいるのならば助けてやれ。それが臣下として、そして家族として暁月に出来ることだ」

「……はい。覚悟は出来ています」

 

 暁月の言葉に満足そうに頷く藤十郎は頭に手を伸ばしそうになって止まる。

 

「……?どうしました?」

「あー、子供扱いするなといわれた矢先に頭を撫でようとしてしまった。すまん」

「……構いません。藤十郎……さまに撫でられるなら嫌ではありません」

「そうか?」

 

 やさしく頭を撫でる藤十郎と無言で撫でられる暁月。知らない人が見れば不思議な光景だろう。

 

「……藤十郎さま、お願いを聞いてもらえますか?」

「ん、何だ?」

「兄さまと……呼んでもいいですか?」

 

 

「くくくっ……!順調に北条を篭絡しておるな、藤十郎!!」

 

 笑いが我慢できないといった表情で桐琴が藤十郎に語りかける。

 

「……そんなつもりはないんだが。まさか暁月が兄と呼ばせてくれと言ってくるとは思わなかった」

「ははは!本当に孺子を見ているようだな!とはいえ、藤十郎よ。あの草の女は徳川につくか、織田につくか。どちらか分かったのか?」

「……いや。だが、俺は小波は小波のやりたいようにするのが正しいと思う。もし徳川についても、直接剣丞たちと戦う場所には配置しないだろう」

「ふむ、寝首をかかれるかもしれんからな」

 

 桐琴の言葉を否定はしない。藤十郎は小波のことを信じているが、家中の者がどう考えているかは分からない。

 

「……もうすぐ、か」

 

 武田や長尾、浅井であれば躊躇うこともなく戦うことも出来るだろう。戦国の世とはいえ、織田と戦うには深くかかわりすぎた。

 

「おい、藤十郎」

「ん?」

「安心せい。もし藤十郎が殺れんのなら、ワシが殺ってやるわ」

「……ふ、自分で決めた道だ。しっかりと自分でやる」

 

 そう言った藤十郎の目には、確かな覚悟が見えた。




合気道は大正以降に出来たのものなので、実際にはこの時代にはありません!ご注意を!

後一話は閑話を挟みます。本編お待ちの方はすみません!

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ここまで頑張れたのは皆様の感想や評価のおかげです!
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