戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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11月15日 2回目の更新です。


19話 黒武者

 京へとついた後の徳川の動きは迅速であった。以前より根回しをしていた貴族たちとの最終調停を終え、悠季は葵を従五位下・三河守に叙任させると同時に空位であった日向守に藤十郎も叙任させることに成功する。そして、ことを起こす最終準備へと入ろうとしたそのときに、織田・徳川双方にとって予定外の出来事が起こってしまう。

 織田家、徳川家の血気盛んな若武者たちが先走り、互いに死人の出る刃傷沙汰へと発展する。これに慌てたのは織田、好機と見たのは徳川。すぐさま織田側を非難すると、朝廷へと訴える。だが、朝廷内でも将軍と剣丞を擁する織田派と多大な寄付金や根回しをしてきた徳川派に分かれ朝廷からの声明はあがらなかった。

 これに黙っていなかったのは、将軍である一葉や織田家臣団である。逆に徳川を非難する文を送りつけ互いの関係は悪化。ついに両軍は近江八幡付近で衝突する。最初は優勢にことを運んでいた織田連合軍であったが、戦の最中に小波……服部半蔵が離反。徳川へと帰参したことにより状況は変わり、一進一退の攻防を続けながらも数で勝る織田が押し戦場は少しずつ移動。

 

 そして、後の世に『関ヶ原の戦い』と呼ばれる決戦の地へと舞台は移る。

 

 

「葵さま、少しお休みくださいませ」

 

 陣幕の中へと悠季は入ると、葵へと声をかける。

 

「……いいえ、皆が戦っているときに私だけ休むことなんて出来ないわ」

「お気持ちは分かりますが……葵さま、本当に必要なときにお休みになられるのもお仕事です」

「……分かったわ。じゃあ少しお願いね」

「はっ……。さて、小波」

「はい」

 

 悠季の声に応じて目の前に現れる小波。

 

「全く、貴方は剣丞どのに蕩らされてしまったのかと思いましたが……」

「……」

「……こほん。それで、現状は?」

「は。綾那さま、歌夜さまのお二人を中心に武田、長尾の両軍を。水野さまと井伊さまの軍勢が織田本隊を抑えておりますが……」

「ふむ、流石に従妹どのとは言え、数の暴力には不利、ですか」

 

 早く見積もっても藤十郎たちが合流できるのはまだ先になるだろう。北条での動き次第では更に遅くなることも見越して戦ってはいるが……。

 

「ふむ、最悪の場合は三河まで下がることも見越さねば成らないかもしれない、と」

「……恐れながら、そうなると織田は……」

「えぇ、恐らく補充なども完璧にされてしまい、泥沼化するでしょうけど……」

「今のところ、伊賀、甲賀両部隊で軒猿を抑えておりますので相手の増援は遅くなると思われます」

「出来る限りはこの場所で抑えておかなければ」

 

 戦場の地図を確認しながら悠季は新しい指示を次々と送る。

 

「……私に出来るのはここまでです。藤十郎どの、後は頼みますぞ」

 

 

「せやー!!ですっ!」

 

 気合を入れた一撃によって十人近い兵が一気に吹き飛ばされる。

 

「綾那、一度退くわよ!」

「分かった、です!」

 

 武田の強兵とはいえ、戦場において無双とまで歌われる綾那には敵わない。だが、それでも少しずつ疲弊させることは出来る。

 

「綾那、大丈夫?」

「歌夜は心配性なのです。綾那は平気なのです!……藤十郎と約束したですから」

「そうね。……小波も帰ってきたこと、藤十郎さんにも伝えてあげないとね」

「藤十郎なら大丈夫なのです。小波が帰ってくるって信じてたです」

 

 二人は頷き合うと、撤退を開始する。いつ来るか分からない藤十郎を待つ。この戦いにはそんな意味も含まれていた。

 

 

『申し上げますっ!!』

 

 小波から少し焦った様子で口伝無量の連絡が来る。

 

「許します」

『長尾軍が消え、代わるように武田軍が総攻撃を開始したと綾那さまから!私はすぐに長尾の消息を追います!』

「分かったわ。……悠季」

「はっ」

「すぐに陣を払い本陣を移動します」

「……なるほど、奇襲の可能性ありと」

「えぇ。恐らくは戦の天才と呼ばれる長尾であればそういう手に出る可能性があるわ。すぐに……」

 

 葵の言葉が終わる前に陣の外が騒がしくなる。

 

「……遅かったわね」

「くっ、馬廻り衆は葵さまの傍に!今こそ命を捨てる場所と知りなさい!」

「はっ!!」

「一番乗りっすー!!」

 

 陣幕を破り突撃してきたのは柘榴。馬廻りと共に葵の前に悠季が立ちはだかる。

 

「あり?撤退準備してたっす?御大将の手を読んだのは凄いっすけど少し遅かったっすねぇ」

「そうね。柘榴、殺さずに生け捕りなさい」

「了解っす!そのほかはどうするっす?」

「……好きにしていいんじゃない?まぁ殺りすぎないように……!?」

 

 何かに反応するように美空と柘榴が外を見る。そこに見えたのは。

 

「地黄八幡の旗に加え钁湯無冷所の旗……!?嘘でしょ、あの女狐が徳川に味方するの!?」

「御大将!やるなら早くやらないとっす!」

「分かってるわよ!柘榴、一気に蹴散らしなさい!」

「了解っす!御家流!昇竜槍天撃!!」

 

 地面から巨大な槍が飛び出し、馬廻り衆を一掃する。

 

「くっ、葵さま、お早くお逃げを」

「無駄」

 

 背後から現れたのは松葉。手に持つ傘を葵に向け静かに佇んでいる。

 

「大人しく投降しなさい、徳川家康。そうすれば命まではとらないわ。……全く、旦那様は難しいことばかり頼んでくるんだから」

「でも、御大将そういうところも好きっすよね?」

「……惚れた弱み」

「うるさいわね!って遊んでる場合じゃなかったわ。早く捕らえなさい、そうすれば地黄八幡も撤退を……」

「投降はしません」

 

 葵が刀を抜き、美空へとむける。

 

「……へぇ、この後に及んで勝算があるとでも?」

「約束したわ。藤十郎は私の元へ現れて貴方たちを倒します。だから……!」

「あんたも好いた男がいるのね。まぁ、同情してあげなくもないけれど今は……」

 

 

 地黄八幡の接近に気付いたときとは全く違う気配。戦に明け暮れてきた美空たちだからこそ気付けた天空から降り注ぐ一本の朱槍。地面に刺さったそれは、大量の土埃を上げ一瞬葵たちを隠す。

 

「ぐっ!?」

 

 土煙の向こうから聞こえるくぐもった声、そして駆け込んでくる漆黒の風。

 

「……遅くなった。葵、悠季」

 

 晴れた土埃の中、槍を地面から抜きながら現れたのは藤十郎。

 

「お、御大将、こいつが、スケベの言っていた」

「ちっ!厄介な奴ってことね。松葉、動けるなら撤退、無理なら柘榴が手伝って!」

「了解っす!」

「了解……この借りは返す」

 

 迅速に撤退をした長尾勢に軽くため息をつく。

 

「葵……っと」

 

 胸に飛び込んできた葵をやさしく抱きとめる。

 

「藤十郎……っ!」

「葵、頑張ったな」

「……こほん。感動の再会はよろしいのですが、現状を報告して欲しいのですが?」

 

 

「勝った!勝った!この戦、勝ちました!」

 

 掛け声と共に突撃するのは地黄八幡の旗。本陣を囲んでいた長尾勢の背後を突く形で一気に囲みを食い破る。

 

「もう一度行きますよ!」

「「応!!」」

 

 朧の言葉に応え、再度突撃をかける。

 

「落ち着きなさい!すぐに陣形を整え、御大将の元へはいかせないように!」

「「はっ!」」

 

 朧の突撃に対して秋子がすぐさま対応してくる。

 

「ほう、この采配……景綱どのか。ならば、私たちが家康どのの元へと向かうと読むはず……二度、三度と突撃を繰り返します。北条の勇者たちよ、私と共に来なさい!!」

 

 

「……春日」

「はっ!」

「……嫌な予感がする。すぐに兵を徳川の本陣に向けて」

「某は構いませぬが、徳川の兵たちはどう致しますか?」

「兎々に任せる。適度なところで合流するように」

「かしこまりました。では本隊の殿は某が務めさせて頂きます」

「……頼む」

 

 頭を下げて立ち去る春日。

 

「姉上、何かあったんでやがりますか?」

「……私の勘。ただ、鬼が戦場に二人、降り立った」

「鬼、でやがりますか?」

「……そう。戦況を裏返してしまう、そんな存在」

 

 遠方を感情の読めない瞳で見つめる光璃。夕霧はそんな光璃を見ながら。

 

「姉上の仰ることで間違いはないでやがります。すぐに夕霧も陣を払う指示を出してくるでやがります」

「夕霧」

「?」

「気をつけて」

 

 

「失礼致します!」

「許す」

 

 織田本陣。水野、井伊両軍と交戦中であるが、戦況は五分……いや、若干織田が優勢である。織田は最高戦力でもある小夜叉を前面に押し出し戦闘を優位に進めていた。

 

「突如現れた黒い鎧の武者たちが側面から突撃、我が陣営に大打撃を与えております!既に竹中さまの策により拮抗状態へと持ち込んではいますが、一人突出した強さの武者がおりまして……至急援護をとのこと!」

「そうか……誰かある!」

「はっ!」

「柴田、丹羽の両名を黒武者たちへと向かわせるように指示を出せ」

「すぐに!」

 

「剣丞、どう見る」

「……間違いなく藤十郎だね。黒っていえば確か藤十郎の鎧だったはずだ。……ってことは」

「うむ、もしかすると北条が合流している可能性がある」

「……ごめん、小波を引き止められなくて」

「何故貴様が謝る。小波は主家に仕えることを選んだだけだろう。誰も悪くはない」

 

 小波は、剣丞隊から離れるとき最後に全員に対して挨拶に来ていた。本来、後のことを考えるのであれば、その時点で捕らえるか……殺してしまうのが正しいのだろうが、剣丞隊の誰もがそれをしなかった。戦場で会えば互いに敵同士。それでも、共にすごした時間が偽りだったとは思えなかったからだ。

 

「今は黒武者たちを抑えるのが先決。壬月と麦穂であれば大丈夫であろうが……」

 

 

「落ち着け!まずは陣形を整えよ!」

「は、はっ!」

「壬月さま、陣形は私が。壬月さまはあの黒い武者を!」

 

 明らかに突出した強さの黒武者は体型からすると女性か。はじめは藤十郎と思っていた壬月と麦穂にとっては少し驚きでもあった。

 

「藤十郎以外にもあんな奴がいたとは、なっ!」

 

 壬月の特攻に他の黒武者たちも気付くが、女武者からの指示なのか道をあける様に動く。

 

「?まぁ良い。いくぞ、黒武者っ!!」

「ほぅ……」

 

 一言だけ少し聞こえた声に違和感を感じながらも、鬼の面をした女武者の槍と壬月の斧がぶつかり合う。

 

「むっ!?」

 

 押し負けたのは壬月。これには驚きを隠せない。

 

「はははっ!壬月よ、鈍ったか?」

「っ!?その声、それにこの力……!何故貴様がそこにいる!?」

 

 面をはずしたその姿を見た壬月、少し離れたところから見ていた麦穂は絶句する。

 

「桐琴!!」

 

 

 各地の戦いは更に激しさを増していく。




ついに最終章へと突入です。

キャラの紹介などはほとんど省いておりますので、あまりいらっしゃらないと思いますが、知らない方はオフィシャルサイトなどで確認していただければ幸いです。

ちなみにですが、鬼との決着もまだついていない状況ですので、そちらもしっかりと補完します。

次回から各地の戦いがピックアップされていきますのでお楽しみに!

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