戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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4話 身分を越えて貴方と【きよ】

「それで、藤十郎と町の散策を楽しんだ……と。ふむ、きよ」

「……お願いだから何も言わないで……」

 

 剣丞隊の面々……口をはじめに口を開いたのは詩乃であったが、話をしながらきよが机に突っ伏す。

 

「あはは……まぁ、でも気持ちは分からなくもない……かな?」

「だね。お頭はあぁだから私とひよもすぐに話が出来たけど……藤十郎さんの雰囲気を考えると……」

 

 ひよ子と転子が苦笑いできよの気持ちを分かるという。

 

「ですが、それでは意味がないのではありませんか?藤十郎さんのことを好きなら好きと……もしくはハニーとお呼びしなくては!」

「いえ、それは梅さんだけでは……」

 

 梅が力強く言い、それに雫が突っ込みを入れる。剣丞隊のいつもの雰囲気に落ち込んでいたきよも少し元気が出たようだ。

 

「ふぅ、でもこれじゃ駄目なんだよね。……折角京まで出てきたのに」

「きよちゃん、藤十郎のことが好きなの?」

「鞠ちゃん……うん、そうなんだ」

 

 鞠の問いに、自分の気持ちを確認するようにきよは頷きながら答える。

 

「う~!なんかこういうのいいよね、ころちゃん!」

「ひよ、気持ちは分かるけど……こうなったら剣丞隊をあげて……」

「……ということは、恋敵……まぁ敵ではないでしょうが、相手は家康……葵さまということですね」

 

 葵と藤十郎の大恋愛と言ってもいい関係を知っている面々はあー……と考え込む。

 

「それと、綾那と歌夜もですか。強敵ですね」

 

 軽く頭を抑えて言う詩乃。

 

「ちょ、ちょっと詩乃。何でそんなに追い込むようなことばかり……」

「雫、まずは敵を知り己を知ることが兵法の基本ではありませんか。この中で藤十郎どのに詳しいのは私……であれば策を考えるのが軍師の使命です」

 

 キリッと音が聞こえてきそうな詩乃の様子に鞠が目を輝かせる。

 

「詩乃、凄いの!」

「雫、藤十郎どのの性格から策を立てます。手伝ってくれますね?」

「は、はい詩乃!」

 

 

「……無念です」

「すみません……」

 

 詩乃の知る藤十郎では、きよを受け入れる想像が出来なかった。剣丞隊の中では関わりがあった方とは言え、なかなか会っていないのも事実。

 

「……あ、それなら小波ちゃんとか詳しいんじゃないかな!」

「ひよ、それはまずいって!小波ちゃんも……」

「お呼びですか?」

 

 ひよ子の言葉に反応したのか、どこからともなく現れる小波。

 

「ひゃあ!小波ちゃん、えっと、あのね……藤十郎さんのことを聞きたいんだけど……」

「は、はい」

 

 理由が分からずに少し首を傾げながらも小波が口を開く。

 

「えっと、何が知りたいのか分からないので私の知る限りのことを……見た目についてはお分かりと思いますのが身長は六尺ほどと。食べ物に嫌いなものはないと聞いてます。あ、梅干などの漬物や味噌汁などを好まれてますね。それと……」

 

 口を開けば次々と出てくる言葉に剣丞隊ときよはポカンとする。それを語る小波はどこか楽しそうにも見える。

 

「……といったところでしょうか。……あ、あれ、皆さん?」

「小波、ありがとうございます。……きよ」

「うん、とりあえず強敵が増えたことはわかった」

 

 

「それで、俺のところに来たの?」

「お願い、剣丞しか頼る相手がいないの!!」

 

 手を合わせて頭を下げるきよに苦笑いの剣丞。

 

「あはは、頭を上げなよ。……きよちゃんが本気で藤十郎のことが好きなんだっていうのは分かったから」

「!じゃ、じゃあ!」

「うん、俺に出来る協力はさせてもらうよ。……とはいえ、まさか綾那や歌夜に続いて藤十郎関係で人が来るとは思っても見なかったよ」

「え……じゃあ、あの二人が藤十郎とその、夫婦になったのは……」

「いやいや、俺は結果何もしてないよ。頑張ったのは二人だからね。でも、きよちゃんが藤十郎を……う~ん……」

 

 剣丞が考えながら唸る。

 

「……将を射るならまずは馬から、か。よし、きよちゃん行こう」

「行こうって……どこに?」

「それは、未来の嫁さん仲間に会いにだよ」

 

 

「そうですか。貴女も藤十郎のことが好きなのね」

「は、はいっ!!」

 

 連れて行かれたのは綾那や歌夜と同じく葵の面前であった。……とはいえ、御目見得身分である綾那たちとは違い、本来であれば傍に寄ることすら許されないほどの身分の差がある相手だけに流石のきよもガチガチになっている。

 

「ふふ、そんなに緊張しないでもいいわ。藤十郎の嫁となれば同じ立場なんだから」

「い、いえっ!そんな……」

「きよ、だったわね。一つ私から出来る助言があるとすれば……素直になることね。藤十郎は、きっと貴女の好意には気付いていないわ」

「……だよなぁ。藤十郎って自分に対する好意に鈍感すぎるからなぁ」

「……そこも藤十郎のいいところです」

 

 葵が珍しく自信有り気に言う。

 

「こほん、きよ。藤十郎は嫌いな相手は徹底して近づけないので、貴女を抱えて京まで連れてきたということは少なくとも好意的に見ているということです。安心してください」

 

 

「おぉ、きよか。まさか葵と会ったのか?」

「う、うん。それで、今日は帰れそうにないから代わりにご飯でも作ってあげてってお願いされて……」

「ふむ、そうか。一発屋は父上だったか?あの味は忘れられないほどにいいものだからな。きよの食事にも興味があるぞ」

「う、そんな作る前から緊張させないでくれる?」

 

 少しお洒落な服からいつもの一発屋の服へと着替えたきよが笑いながら言う。

 

「ふふ、しかしその格好……一発屋を思い出すな。また行きたいものだ」

「そ、それなら……私が作ってあげよっか?」

「それもいいかも知れんな。だがきよの父上に怒られてしまうな。看板娘をとるな!って」

 

 藤十郎はきよがどことなく緊張しているのを感じ取ったのか、冗談を言って和ませる。そんな気遣いにきよは内心で感謝しつつ、ご飯の準備をする。

 

 

「これは……」

「ど、どうかな?お父さんに習ってるからマシじゃないかなぁって思うだけど」

「マシどころか、一発屋の味だ!ふふ、懐かしい」

「……よかった……」

 

 ほっと胸を撫で下ろしているきよをよそ目に藤十郎はもくもくと料理を食べ続ける。

 

 

 食後、茶を飲みながら歓談していた二人であったが、きよが覚悟を決めて言葉をつむぐ。

 

「ねぇ、藤十郎」

「ん?」

「二回も助けられちゃったね」

「二回?……あぁ、鬼のときと昨日か」

 

 きよは頷く。それと思い出すのは恐怖と守ってくれた藤十郎に対する感謝と初めて感じた感情。

 

「……本当にありがとう、藤十郎。藤十郎がいなかったら私は……」

「気にするな。……というのも無理な話だろうな。代わりにこんなにうまい飯を食わせてくれたんだ。十分だよ」

「……藤十郎、私……藤十郎のこと好きになったみたい」

 

 激しく鳴り響いて聞こえる鼓動。このまま死んでしまうのではないかと思うほどの緊張と、言ってしまったという恥ずかしさから藤十郎の顔を見ることが出来ない。向かい側に座っている藤十郎が口を開く。

 

「そうか。ありがとう、でいいのかは分からんが……」

「い、いいよ!私が勝手に好きになっただけだから」

「だが、きよがしっかりと伝えてくれたのに俺がそれに対して返事をしないのは失礼だろう。……正直に言って、俺はお前のことが嫌いではない。いや、むしろ好きの部類には入るだろう。だが、俺には葵がいて綾那や歌夜も俺のことを愛してくれるといっている。……そんな優しさに甘えているような俺でも、お前は好きだと言ってくれるのか?」

 

 藤十郎の問いに即座に頷くきよ。

 

「実は、ね。京にきたのは藤十郎に会いたくて、なんだ。和奏たち……三若が、藤十郎が蕩らし御免状を貰ったって、しかも身分に関係なく藤十郎と結婚できる可能性がある、って聞いて……お父さんも餞別としてお金と藤十郎に頼む、って言伝だけ頼んで見送ってくれてさ」

「……いい父を持ったな。……葵とも会ったってことは、これも」

「……うん、ちょっとだけ背中を押してあげる、って言ってくれて。藤十郎は私だけが独占していい男じゃないわ、って」

「葵……」

 

 少し苦笑いで藤十郎が笑う。

 

「そうか。そういうことなら、俺は答えなくてはいけないな。……きよ、これからどういった立場になるかも分からないが……俺と一緒に居てくれるか?」

「は、はいっ!……って、私なんかに出来ることがあるかどうか……」

「あるさ。俺や綾那、歌夜なんかは戦場にも出る。その間、家を守ったりする存在っていうのも必要だ。……まぁ、まずは第一に一発屋を考えてくれて構わないが」

「藤十郎……」

 

 そっときよが藤十郎に近づくと唇を重ねる。

 

「きよ、いいんだな?」

「……うん」

 

 部屋に灯った火が映す二人の影が重なっていき……。

 

 

「あ、きよなの!」

 

 次の日、鞠がきよを見つけパタパタと駆け寄ってくる。

 

「きよ、何かご機嫌なの?」

「うふふ、そう見える?」

「うん!すっごく楽しそう!鞠もなんだか楽しくなってくるの」

 

 花が咲いたような笑顔を浮かべる鞠の頭を撫でるきよ。その顔は緩みっぱなしである。

 

「きよちゃ~ん……って、結果聞かなくても分かっちゃった」

「あはは……意外と分かりやすいんだね」

 

 ひよ子や転子も気になっていたのだろう、会ってたずねようと思っていた二人であったが今のきよを見れば結果は一目瞭然だった。

 

「やれやれ……これで藤十郎どのが蕩らした相手は……四人、ですか」

「小波さんもですから、五人が正しいかもしれませんね」

 

 詩乃と雫が話し合う。

 

「うんうん、よかった」

 

 剣丞も、藤十郎なら大丈夫とは言っていながらも心配だったのだろう。満足そうに頷いている。

 

「そういえば詩乃ちゃん、藤十郎さんの結婚ってどういう形になってるの?お頭と同じ?」

「同じ形をとると聞いていますが。今は正室は葵さまお一人で、側室として綾那と歌夜。きよは……愛妾でしょうか」

「本来なら伽役でもおかしくないですが……藤十郎どのがそんな選択をするとは思えませんからね」

 

 

 きよは、一発屋の看板娘を続けながらも藤十郎の嫁となる。

 

 

 一発屋が、藤十郎が移動するたびに店舗数を増やしていき後の世に大きく名を残していくことになるのは、必然だったのかもしれない。




再来年くらいにまた戦国恋姫の続編?みたいなのが出るかもしれないとかなんとか。
そこできよちゃんヒロイン格上げないかなぁ?と思って書いてました。

さぁ、次は誰かな?
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