いいのかなぁ(今更
安土の地に久遠が築いた城、安土城。これまでには見られなかった多くの建築技術や趣向が施された城で、恐らくはこれから先の城の手本になっていくのではないかといわれている名城の一つに数えられている。白石に揺られながらのんびりとその地を目指す藤十郎一行は、遠目に見える城を見て感嘆の声を上げていた。
「凄いわ……」
「うむ。石垣の高さは噂には聞いていたがあれ程とはな。まぁ御家流で一撃で粉砕してしまえば……」
「藤十郎」
「すまぬ」
すぐさま、城攻めを考えてしまうのは武士故なのか、それともただ単に藤十郎が戦馬鹿なのか。答えは全員が口を揃えて片方を言いそうではあるが。
「聞くところによると居住する天主、と聞く」
「天守閣だとあまり住むのには適していないのだけれど……流石は久遠姉さまといったところかしら」
「だな。剣丞もいることだ、あの珍妙な知識の中にいいものがあったのやも知れんしな」
ゆっくりとだが、確実に近づいてくる城を見ながら他愛も無い話をする二人。
そして、あっという間に城門にたどり着いたわけだが。
「誰だ、名を名乗れ!」
笠を深く被った兵の一人に止められる。葵が口を開こうとするのを制するとひらりと馬から降り、当たり前のように兵の頭を殴る。
「いてっ!?も、問答無用で殴らなくてもいいだろ!?」
「五月蝿い。餓鬼のような悪戯をする貴様が悪い。……久しいな、剣丞」
兵が深く被っていた笠を取ると下から出てきたのは天下御免の大蕩らしと呼ばれている新田剣丞の顔が出てきたのだった。……藤十郎も同じように民草に思われているのは知らないらしいが。
「剣丞どの!?藤十郎、殴ることはないでしょう」
「餓鬼の悪戯には拳骨と相場が決まっている」
「ははは、まぁ悪戯したことは間違いじゃないからいいんだけどさ。いらっしゃい、藤十郎、葵」
「剣丞どのもお元気そうで」
葵を優しく馬から下ろす姿をニヤニヤしながら見ている剣丞。それに気付いた藤十郎が拳を振り上げるより早く。
「さ、じゃあ案内するよ。面白い造りだからエーリカとか凄い喜んでたよ」
「逃げたな」
「城の中に寺院があるのか?……ふむ、変わっているな」
「えぇ。しかも形上、この道を通って城まで行かなくては行けなさそうね」
「正解。百々橋口側から行くなら絶対にここは通ることになるよ」
「こういった普通では思い付かんことが出来るのは久遠どのの強さだな」
「藤十郎は久遠姉さまのこと、結構評価しているわよね」
「あ、それ俺も思ってた」
「む、正しく評価しているだけのつもりだが。俺は言葉を交わし、世の雀たちが囀るようなうつけものには見えんかったからな。遥か未来を見据えた……そう、葵と同じような印象のほうが強かった」
藤十郎の言葉を聞いて笑う剣丞。
「あはは、ないない。久遠が未来を見据えた行動をしていたのは間違いないけど、葵とは違うよ」
「おい、剣丞。俺の嫁を馬鹿にしているのならば相手になるぞ」
「……ふふ、藤十郎ったら」
「ち、違うって!だからその刀しまってー!!」
「おぉ!葵に藤十郎!すまんな、我も出迎えに行きたかったのだが」
「いえ、剣丞どの自らご案内して頂けただけでも光栄です」
「久しいな、久遠どの」
「うむ、どうだ、面白い城だろう?皆の意見を取り入れ造り上げた城だ。道中剣丞が何か失礼をしてなければいいが」
「ちょ、久遠、それひどくない?」
「そうだな、途中で久遠どのの悪口を言っていたくらいか?」
「ほぉ、剣丞。後でそのことは詳しく聞かせてもらうぞ?」
「藤十郎!?」
「ふふ、本当に仲がよろしいですね」
「そういう貴様こそ、夫婦仲については市から聞いておるぞ?」
そういって、文らしきものをぴらぴらと振る。
「……まさか早馬でも出したのか?」
「うむ、二人が到着するよりも先に事前に知らせるためのものだったのだが、市から色々と聞いておるぞ。なにやら二人から兄と慕われたそうだな」
「え、そうなの?藤十郎って本当にすぐ蕩らすよな」
「「「お前が言うな」」」
三人の声が重なった。
その日は歓迎の宴が剣丞隊の面々や、重臣たちも集まって盛大に執り行われた。
「おう、久しいな藤十郎」
「ご無沙汰しております、藤十郎どの」
「壬月に麦穂か。戦場以外で会うのは本当に久しいな」
「……同盟を結んで安心したぞ。貴様が攻めてくると聞いて私と麦穂がどれ程気を揉んだか」
「敵には回したくない相手と心底感じさせられましたからね」
関ヶ原での戦いのときのことを言っているのだろう。全てを食い破るような勢いの藤十郎の無双振りは今となっては語り部の唄のようにもなっているという。
「一部ではいい子にしていなければ鬼日向が出るぞ、とまで言われているそうだ」
「おい、俺は化け物の類か」
「……ふふ、あながち間違いでもない気がしますが」
麦穂が苦笑いで呟く。
「それはそうと……あ奴は元気にしておるのか」
「桐琴か?あぁ、元気にしているぞ。最近は母上と昼間から酒を呑んでいるか、二人で鬼探しにぶらりと数日居なくなったりしている」
「……全く変わっていませんね」
「あ奴らしいといえばらしいか。たまには織田にも顔を出せと言っておいてくれ。……小夜叉も表には出さんが少しは寂しがっているようだからな」
「伝えておこう」
二人が去った後も挨拶に来る重臣たちと言葉を交わす藤十郎。離れたところでは葵も同じように対応しているようだった。
「楽しんでる?」
「まぁ、な。……お前はこんなところにいていいのか?田楽狭間の天人どの?」
「うわ、めっちゃ懐かしい上に凄い他人行儀な言い方!」
そんなことを言いながら酒を酌み交わす。
「で、だ。剣丞」
「ん?」
「子はまだか?」
「ぶっ!!」
ちょうど飲んでいた酒を噴出す剣丞。
「何を驚く」
「いや、突然言われたら驚くだろっ!?……ま、まだだけど」
「お前、嫁何人だ」
「えっと……」
「いや、まぁそれはいいんだが。そろそろ跡継ぎを作っておけ。北は北条、武田、上杉中心に恐らく抑えも攻めもいけるだろう。だが、これからお前たちは南下だろう」
「だね。剣丞隊は近々毛利攻めだね」
「西国には綾那と並び称される西国無双も居ると聞く。詳しくは知らんがお前もいつ死ぬか分からん」
「……」
黙りこむ剣丞。確かにこれまでのようにはいかない大国、強国揃いだ。
「だからこそ、早く久遠どのに種を仕込んでやれ」
「ぶっ!!」
再び噴出す剣丞。
「ひょ、表現が生生しいって!」
「だが、やってないわけではあるまい?」
「……ま、まぁそうだけど」
「一緒に居られる時間は限られている。ならばその時間を大切にしろ。俺が言うまでもないがな」
「藤十郎……」
「まぁ、何が言いたいかというと」
がっと肩組むと。
「我が子は可愛いぞ」
にやりと笑って藤十郎はそういった。
「久遠姉さまと二人で、というのも久々ですね」
「だな。基本的には誰か供が居るか評定などが多いからな」
宴の席を辞して二人で個室に入りゆったりと酒を交わしていた。
「……」
「ふふ、昔の葵からは考えられないような顔をするようになったな」
「そ、そうですか?」
「あぁ。今、藤十郎のことを考えておっただろう?」
そういわれて顔が朱に染まるのが分かる。それは酒が回ったからではないだろう。
「私は……変わったんですね」
「うむ。間違いなくいい方向に、な」
笑うとくいっと杯を傾ける。
「久遠姉さまはお子はまだなのですか?」
「っ!」
噴出しそうになるのを寸でのところでとどまる。
「あ、葵、貴様……」
「ふふ、してやりました」
「我を挑発するとは成長したな」
「鍛えられましたから。……ですが、今後のことを考えると……」
「……」
南征は波乱に満ち溢れているだろう。剣丞と藤十郎を中心とした同盟は確かに強大であり、圧倒的な軍事力も持っている。
「四国の覇者は藤十郎が抑えると言っています。ですが、南征への合流はかなりの遅れが出ると悠季は予想しています」
「……うむ。詩乃や雫も同じ意見のようであったな」
「出られるのでしょう?剣丞さまは」
「あぁ。恐らく止めても無駄だろう」
「そういう意味では藤十郎と同じですね。……お互いに厄介な殿方に惚れてしまいましたね」
「だな。……だが、いい男だ」
久遠の言葉に葵は目を丸くする。
「久遠姉さまの口からそんな言葉が聞けるとは葵は思っても見ませんでした」
「ぬかせ。……しかし、子、か」
「はい。藤千代が生まれ、次の世代というものを本当に身近に感じることが出来るようになりました。……同盟の長として、徳川の頭領として、そして母として。天下泰平を早く見たい、そう思えるのです」
「……デアルカ。藤千代は息災か?」
「えぇ。次に久遠姉さまにお会いするのはいつになるかは分かりませんが、何れは挨拶にも参ります」
「楽しみにしておるぞ。……しかし、子か」
「嫁の方々は……」
「まだ誰も孕んでおらぬな」
「向後のことを考えれば久遠姉さまが一番に子を為していただきたいというのが個人的な意見です」
「それは、政治的な意味でか?」
「いえ、同じ女として、です。私も一足先に子を為しましたが、綾那や歌夜に先を越されていたら……」
「……むぅ、確かになにやらもやっとするな」
「ふふ、でしたら久遠姉さまのほうから剣丞どのにお願いしてみては?」
「願い?」
「子を、と」
次は久遠が顔を真っ赤にする番であった。
剣丞種無し説(ぉぃ
少し生々しい話になってたかな?
ちなみにですが
西国無双は立花宗茂。
四国の覇者は長宗我部元親。
個人的に宗茂よりも道雪のほうが有名な気が雷切持ってるし。
はっ!九州まで書いてしまうと立花誾千代まで書きたくなってしまう!
大変だー!(ぉぃ
あ、この作品はフィクションです。実在の人物、団体などとは違いますので時代は入り乱れております(今更