あるいは語られたかもしれない、彼と彼女の青春ラブコメ。   作:きよきば

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皆さまお久しぶりです。
一年近く空いてもう忘れたよ!って方がほとんどだと思いますが、暇つぶし程度にどうぞ。


ちゃっかり由比ヶ浜結衣は画策している。

カレンダーがひとつ次のページへ移る10分ほど前のこと。

人は過ぎ去った過去を美化し、これから先の未来へ思いを馳せつつも名残惜しく感じてしまう生き物だ。

大きなもので言えば卒業。小さなところで言えば長期休暇の終わり。

それなりの時間をかけたものが本人の意思など関係なく終わりを迎えるというのは、やはり切ないものなのだろう。

何が言いたいかというと。

夏休みが終わってしまうのである。

少し早いがリビングのカレンダーをめくっておこうかと思いたったまでは良かったのだが、なんとなく1日から順に目を追っていくと柄にもなく感傷的になり、楽しかったなぁとか恥ずかしかったなぁとか、学校行くの面倒くさいなぁとか、そんな感情が湧いてきた。

とはいえ、ページをめくらないと9月の予定も書き込めないし終わらない夏休みを延々と繰り返すエンドレスエイトに突入したくはないので、諦めてため息をつきつつ9月のページを開き、俺はソファに体を投げだした。

 

 

 

 

 

8月31日が終わり、9月1日の朝。

たった1日で急に秋が来るわけもなく、夏休み気分が抜けるわけもなく、汗を拭いながら俺は自転車を漕いでいた。

見上げた空は雲ひとつない快晴で、まだまだ気温を下げる気はないらしい。

どうにも空模様ほど晴れやかな気分にはなれないまま、自転車を駐輪場へ走らせた。

 

 

 

下駄箱へ靴を入れていると、肩を軽く叩かれた。

振り向いてみるとそこにはおなじみの黒髪お団子が満面の笑みを浮かべている。

 

「やっほーヒッキー!」

 

「なんだよやっほーって…」

 

朝から元気ですね、君…。少し分けてほしい。いや、やっぱりいい…やっほーとか言いたくない。

 

「いやー、学校来るの久しぶりだしテンション上がらない?」

 

「上がらない」

 

「即答だ!?」

 

俺の返しに由比ヶ浜は不満そうに頬を膨らませる。ついでにむー…とか唸ってる。

それだけなら良かったのだが、明らかに何か思いついた顔を浮かべた。やめて!何か恥ずかしいことさせられる気がして仕方ないから!

 

「ほら、ヒッキーも元気に何か言ってみたらいいよ!こう…ハロー!とか!」

 

だからやめて!そんないい笑顔で無茶振りしないで!

 

「いや、やっほーとかハローとか朝っぱらから叫ぶのはアレがアレだから…」

 

どうにか拒否してちらと由比ヶ浜の顔を窺う。

しかし、由比ヶ浜はまるで俺の返答など聞いておらず、うんうん唸りながら何やらひとりごちていた。えぇ…やっほーとか言ってたら超恥ずかしいことになってたじゃん…

 

「うーん…やっほー…ハロー…やっほー…」

 

もはや会話にもなっていない。言葉のキャッチボールどころかジャグリングみたいになっている。せめてこっちに投げてくれませんかねぇ…

 

「そうだ、やっはろー!やっはろーとか良くない!?」

 

「いや、何がだよ…」

 

突然生み出された斬新な挨拶の意味は当然、一体その言葉の何がそんなに由比ヶ浜を魅了したのかもさっぱりわからない。

ちょっと可愛いけど。

 

「やっほーもハローも言えてお得、みたいな?」

 

「いや、どっちもそんな使わないだろ…まぁ由比ヶ浜が勝手に言うのはいいけど…」

 

先手は打ったものの、十中八九この子は俺にも言わせるだろう。目が爛々と輝いていて断りにくいのがタチが悪い。

ちょっと可愛いけど。

まあまあ、と俺の意見を全く意に介さず由比ヶ浜は案の定な提案をしてきた。

 

「ヒッキーも言ってみたら?」

 

「断る」

 

「だからなんで即答!?」

 

いや、どう考えても無理でしょ…由比ヶ浜みたいに容姿に恵まれた女子が言えばまだ可愛げがあるが、俺だよ?……俺だよ?

 

「むー……じゃ、じゃあ、やっはろーって言うか名前で呼ぶかどっちかって言ったら?」

 

この子ちょっとズルくないですかね…

大体あなただってヒッキーって言ってるじゃない…

 

「ほ、ほらどっちかでいいから!ヒッ……八幡」

 

「…お前それは卑怯だろ」

 

「わかってるけど…」

 

言い出しっぺが両方やってしまえば俺も片方くらいはやらないと…あれ?まさか計画通り?

仕方ない、どちらかは諦めよう…そしてさっさと教室に行こう…

というかガハマさん、明らかに後者を期待して視線を送るのやめなさい。

朝から何してんだろうというため息を全力で吐ききり、俺は死地へ足を踏み入れた。

 

「ゆ…ゆ………あー…その……や、やっはろー…」

 

「そっちなんだ!?あたしが言うのも変だけどそっちなんだ!?」

 

ヘタレですいません。

 

「うー……ま、いっか。やっはろー!」

 

諦めたのか切り替えたのか、由比ヶ浜は元気にやっはろーを返してきた。

いやほら、名前はもう少し別の機会でというか、それなりの場所でというか、前は状況が特殊だったせいもあったわけで…

 

「そろそろ教室行こっか?」

 

「…ああ」

 

どうせクラスが違うのだからものの数十秒の道のりだ。けれど、登校中よりは多少気分も晴れやかな気がする。

窓からさす太陽までも俺に隣の子の名前を呼べと圧力をかけているかのようにじりじりと照り、単に暑いからというだけでない別の汗をかいた。

うん、まあ…とりあえず放課後くらいまで待ってもらってもいいかしら…

 

「じゃあヒッキー、また後でね!」

 

さすがに別れ際にはやっはろーは言わないらしい。

小さく手を振って由比ヶ浜は自分の教室へ歩いていく。が、途中でくるりとこちらを振り向いた。

 

「あ、そだ。さいちゃんにも言ってみたら?」

 

「言わねえよ…」

 

くすくすと悪戯っぽく笑うと由比ヶ浜はそのまま教室へ入っていった。

俺が戸塚にやっはろーなどと言うことは無いだろうが恐らく由比ヶ浜は雪ノ下に言うだろう。

雪ノ下のきょとんとした顔と由比ヶ浜の嬉しそうな顔が浮かび、まあいいか…とも思ったが雪ノ下によるしつけ(勉強)が激化して飛び火しそうだ。早く何とかしないと…

 

自分の教室に入ると、俺を見つけた戸塚がこちらへ歩いてきた。

やっはろーと言ってみようかなどと考え、すぐにやめた。何かアホっぽいし。

……ちょっと可愛いけど。




もう本当に誰も覚えていないかと思いますが…
12巻も出るので何か書きたいなと思い書いてみました。
特にここに書くこともないのでドロンさせていただきますが、またお会いする機会があることを祈っております。

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