鉄火の銘   作:属物

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第五話【フェイト・リバース・ライク・ザ・ワープ】#1

【フェイト・リバース・ライク・ザ・ワープ】#1

 

ニンジャとは平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在だ。歴史の闇に姿を消した彼らを目の当たりにすれば、真実を前にしたモータルは恐怖に縛り上げられ悉くが正気を失う。ヒョットコもキャンプ住人もそれは同じだ。対峙する五忍の神話存在を前に、誰もが息を潜めて震え上がるばかり。

 

空間を押し潰す静寂を破り、口火を切ったのは赤と白のニンジャだった。「ドーモ、皆さん。トライハームのスクローファです」「同じくガルスです」顔を半分に割る大口を歪めて赤影ニンジャのスクローファがまずアイサツ。続いてトサカモヒカンを揺らし軽薄なオジギをするのは白影ことガルスだ。

 

即座にキャンプ側の三忍も滑らかなアイサツで応える。「初めまして、ヨージンボーのインターラプターです」「同じくブラックスミスです」「お久しぶりです、ニンジャスレイヤーです……性懲りもなく現れたか、食肉ニンジャ共め」ただ一人、紅白ニンジャに異なる反応を示すニンジャスレイヤー。

 

「偉大なる方の望みを果たすまで、何度でも現れるとも! 貴様こそバイオドブネズミの食肉となるがいい、ニンジャスレイヤー=サン!」「神気取りのカルト本尊をそれ程までに敬うなら、オヌシ等を屠殺して供物の代わりとしてやろう」横で遣り取りを聞くブラックスミスは驚愕と疑問の目で二人を見る。

 

互いにぶつけ合う言葉はこの出会いが初めてでないことを示している。これは『原作』で語られなかった外伝か? 自分由来のバタフライエフェクト? それとも……「コココーッ! 汚らわしい不純物め! イヤーッ!」「なんだと!?」一方的で不可解な罵声と共にガルスが跳び後ろ回し蹴りで襲いかかる! 

 

「イヤーッ!」カラテを刻んだ肉体は思考よりも速く動いた。空を引き裂く蹴爪を最小限の動きで避け、更に裏拳めいたパリィで崩しをかける。「イヤーッ!」「イヤーッ!」だが、ガルスはそれを読んだかのような裏拳を軸としたアルマーダ・マテーロを放つ! 即座に肘鉄で迎撃するも二人の距離は離れる。

 

「コォォォ!」「フーッ」ガルスは両腕と片足を上げて威嚇めいた奇怪なカラテを構える。対するブラックスミスは深呼吸と共にデント・カラテ防御の構えをとる。不動なるデント・カラテ防御の構えは正にカラテ要塞そのものだ。先のカラテ応酬でもブラックスミスはその場から一歩たりとも動いてはいない。

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」次なる一撃を繰り出そうとガルスは膝を撓める。それを狙い澄ましてカノン砲めいた低空弾道跳びカラテパンチを叩き込む! 防御を要塞に例えるならば、デント・カラテの攻撃は要塞砲に等しい。瞬動たるデント・カラテは破城砲めいて咄嗟の防御ごとガルスを吹き飛ばす。

 

「ケコーッ! 慈愛の眼差しを拒むのみならず、偉大なる計画の邪魔をするか、背信者!」「何を言って……ッ!?」カラテパンチで吹き飛ばされたガルスは回転ジャンプで体勢を整える。まき散らす雑言は理解不能の妄言かと思われたが、不意にブラックスミスの脳裏で思考が閃いた。

 

『原作知識』『観察者』『コンタミネーション』、そして『偉大なる計画』! 「そうか、お前らはクレーシャの!」かつてシンヤの脳髄に巣くっていた『原作知識』を知る論理ニンジャ「クレーシャ」。『計画』の駒とすべくクレーシャはシンヤを誘惑し「コルブレイン」と名付けて支配下に置こうとした。

 

シンヤがニンジャ「ブラックスミス」となり、クレーシャを打ち倒したことでそれは失敗に終わった。だが、クレーシャは論理ニンジャ、すなわち情報存在である。その複製がシンヤ以外のニューロンにも居たとしたら? そしてクレーシャは最期に「『他の私』が計画を果たす」と口にした。つまり……

 

「余計なことを言うな、ガルス=サン!」野太い声と共に重量級スリケンが投げつけられる。ブリッジ動作でスリケンを避ければ赤影の巨漢が仇敵を見る目で睨みつけている。その眼差しが答え合わせとなった。そう、二人はシンヤ同様にクレーシャの手で現実からネオサイタマへと墜とされた者だったのだ! 

 

(((俺以外にも転生者がいたのか……)))シンヤはクレーシャの誘惑を拒み、自らをブラックスミスと名付けた。彼らは誘惑に答えてクレーシャにそれぞれが名付けられた。そしてその手先として、『偉大なる計画』とやらを果たすべく『原作知識』を武器に暗躍している。この襲撃もその一環だろう。

 

「余所見をする暇はあるのか!? イヤーッ!」「グワーッ!」だが、そんなことはニンジャスレイヤーの知ったことではない! ジュージツを構えたニンジャスレイヤーが音速の断頭チョップを繰り出す。スクローファは反射的に太い右腕で受け止めるも、恐るべき威力のチョップは肉を引き裂き骨まで達した! 

 

「ヌゥーッ! 薄汚いモブ浮浪者の巣が貴様のカタコンベよ、死ね! イヤーッ!」「ヌゥーッ!」スクローファは骨に食い込むチョップをつかみ取り、苦痛を堪えて左の豪脚を振るう! ニンジャスレイヤーは避けきれず重い一撃を受ける。ダークニンジャ戦の深手は未だ癒えず、本調子にはほど遠い。

 

それを『知っている』スクローファは大口を嘲りの笑いに歪ませる。「カタナ傷が痛むのか? 二度と痛まぬように慈悲深く殺してやろう! イヤーッ!」「させんぞ! フンハー!」もう一撃を食らわせようとビックカラテの巨腕を振りかぶる。だがそれを受け止めたのは、割り入ったワタナベのカラダチだった。

 

「ナニィーッ!?」超自然の吸引力にからめ取られ、左腕の自由が奪われる。逆の右手はニンジャスレイヤーのチョップで既に使用不可能。スクローファの巨大な口腔が焦燥に歪む。その目は忙しなく脱出の手を探るが、見つかったのは苦痛を堪えて力強く引き絞られたニンジャスレイヤーの腕だけだった。

 

弓めいて引かれた拳に爆発寸前のカラテを込めたその構えは、チャドー奥義が一つ『ジキ・ツキ』である! 放たれたが最後、いや最期、その一撃はスクローファの顔面を射抜き頭蓋を貫いて即死させるであろう。赤黒の死神が構えるヒサツ・ワザはデス・オムカエのカマに他ならない。

 

「ヌゥゥゥッ!」しかし確定した死を叩きつけられたスクローファの行動は常軌を逸していた。アルビノワニめいて鈍角まで顎骨を広げ、カラダチに捕らえられた腕を噛み千切ったのだ! それだけではない。スクローファは食いちぎった腕の部品を咀嚼し飲み下す! コワイ! 

 

その行動が狂気なのか正気なのかは不明だが、カラダチの拘束から逃れたのは事実だ。これ以上、余計なことをさせる訳にはいかぬ! 「イヤーッ!」超音速の衝撃波を纏ったジキ・ツキが放たれる。それをバック転で回避するスクローファだが、ジキ・ツキを完全には避け切れない! ハヤイ過ぎるのだ! 

 

「ヌゥーッ!」だが被弾寸前で盾とした『無傷』の右腕が間に合った。回避を混ぜた不十分な当たりですら、肉が吹き飛び骨にヒビが走る。直撃していれば即死は免れなかっただろう。傷の深さもあり、スクローファは肉団子めいて転がって間合いを離す。それをワタナベもニンジャスレイヤーも追わない。

 

「スゥーッ! ハァーッ!」ニンジャスレイヤーは技の反動のためだった。再び開きかけた傷口をチャドー呼吸で押さえ込む。巨砲には相応の強度が要るように、チャドー奥義には頑強な肉体を要する。万全ならば兎も角、重傷を負ったままで放ったカラテ反作用は全身に大きな負担をかけた。

 

一方、ワタナベは傷を癒した未知のジツを警戒し、カラダチを構え直す。かつてのインターラプターが振るうザムラ・カラテならば大抵のジツは押し切れただろう。だが長いブランクと周囲の存在がワタナベの行動にブレーキをかけた。万に一つでも住民を巻き込むような事は避けたい。

 

「ヒョットコを貰うぞ!」二人から距離を取ったスクローファは、手近な重装備ヒョットコを掴み上げる。盾にするのか? だが、スクローファの行動は想像を超えていた。オメーンの奥から理解不能の表情で見つめるヒョットコが最期に見たのは、自分の顔より大きく広げられたスクローファの歯列だった。

 

GUZZLE! 「え……アバーッ!?」作業用の安全装甲ヘルムではスクローファのニンジャ噛筋力には何の抵抗にもならなかった。バターたっぷりのクッキーめいてさっくりとヒョットコの頭部が抉られる。無理矢理良かった探しをするなら、恐怖や苦痛より早く、彼の脳味噌が咀嚼されたことくらいだ。

 

いや、ヒョットコにとってではないが「良かった」はもう一つある。スクローファの引き千切られた左と抉れた右から新しい赤が膨れ上がったではないか! それは瞬く間に巨腕の形を取り戻して網状のニンジャ装束に包まれる。これがスクローファが持つおぞましきユニーク・ジツ「グラトン・ジツ」の効果だ! 

 

「今のは」「スクローファ=サンのジツだ。人肉を食らい傷を癒す」問う先のないワタナベの疑問に、チャドー呼吸を終えたニンジャスレイヤーが答える。クラウドバスターとのイクサで深手を負った後、『偉大なる計画』を唱う紅白ニンジャに襲われて、この汚らわしいジツを目にしたのだ。

 

「アィーッ!?」「食べちゃったぁ!?」「こんなの塾で習ってないよぉ!」薬物の快感やカルトの法悦すら吹き飛ぶ圧倒的光景に恐れおののくヒョットコ達。顔も知らない同胞が生きながらスクローファの胃袋に収まる光景は、邪悪なカルティスト・ヨタモノですら怯えさせるに十分であった。

 

「下がれ、ガルス=サン!」悲鳴を上げて列を乱すヒョットコ達を侮蔑の目で一瞥すると、スクローファは声を張り上げる。「ケーッ!」ブラックスミスとカラテを交わしていたガルスは、声を合図に飛び上がってフェザースリケンを雨霰とばらまく。ブラックスミスのニンジャ判断力はその弾道に気づく。

 

「「「アイェーッ!?」」」相対していたブラックスミスのみならず、堡塁に籠もる住民達をも標的にしている! 卑劣な無差別攻撃による時間稼ぎ戦術だ。「イヤーッ!」無論、それを許すブラックスミスではない! 精製した黒錆色タンモノ・シートで片端から受け止める。

 

数を打ち過ぎた羽スリケンでは貫通するに威力が足りない。しかし最低限の目的は果たされた。その隙にガルスは回転ジャンプで最初の立ち位置へと舞い戻る。「ホホホ、三人ともお強い! お二方では少々アクターが足りないですかね!?」ウォーロックの慇懃無礼な声が辺りに響きわたる。

 

同じニンジャで同じ仕事に従事するビジネスパートナーではあるが、お互いに信頼はないようだ。「選民を虚仮にするのも大概にしろ!」「ソーダソーダ!」当然だが紅白ニンジャは反発の声を上げた。プライドの高いニンジャならば尚の事だろう。

 

「ドーモスミマセン、ではプランBを進めるとしましょう」一切気持ちの籠もっていないモージョーめいた詫びを入れ、ウォーロックは次なる仕事に取りかかった。

 

【フェイト・リバース・ライク・ザ・ワープ】#1おわり。#2へ続く。


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