鉄火の銘   作:属物

30 / 110
第五話【フェイト・リバース・ライク・ザ・ワープ】#2

【フェイト・リバース・ライク・ザ・ワープ】#2

 

「では、プランBを進めるとしましょう」義務めいた謝罪と共にウォーロックは次なる作戦実施を宣言した。その道化めいた声からは残虐なる好奇心が滲み出ている。『原作』を知るブラックスミスでなくとも、ろくでもないプランであることは容易く想像できた。

 

「さて、インターラプター=サン。貴方は常々周囲に『別れた妻子が後輩と再婚してロッポンギにいる』と話されている」ウォーロックが話し始めると同時にブラックスミスは声の出所へと走り出した。余計なことをさせてはならない。その目的はワタナベの『真実』の雷管に火を点けることなのだ。

 

「イヤーッ!」演説中止とすべく煙幕向こうのウォーロックめがけて次々にスリケンを投げつける。それを数え切れない羽スリケンが横から逸らし、逸らしきれないスリケンは赤い巨漢が身を盾に受け止める。「ケーッ! 話し中だ!」「静かにして貰おうか!」『真実』の威力をこの二人も知っているのだ! 

 

「除け! イヤーッ!」「断る! イヤーッ!」疾走カラテパンチ突撃で強引な突破を試みるブラックスミスに、ガルスは回避を兼ねた跳躍ネリチャギと膝蹴りで妨害を加える。「イヤーッ!」「イヤーッ!」顔面を縦に割る蹴爪の挟み蹴りに、ブラックスミスはあえて低空弾道跳びカラテパンチで挑んだ! 

 

メンポが弾け飛び空気が引き裂かれる! 勝負の結果は!? 「「グワーッ!」」相打ちだ! 弾道跳躍加速でネリチャギは外したが、ガード越しの膝蹴りは強かにブラックスミスを打った。一方、急加速カラテパンチに鳩尾を打ち抜かれ、ガルスはメンポの無い口をマグロめいて開閉し喘ぐ。

 

(((焦るな! まず早急に連中を殺す。口上を止めるのはその後だ)))肋は痛むが折れてはいない。ブラックスミスは膝蹴りを受けた腕を振るって痺れを飛ばす。拍子に砕けたブレーサーが甲高い音を立てて床に散る。再生成ブレーサーを締め直すと、呼吸困難から回復したガルスがメンポを付けて立ち上がった。

 

二人は互いに本気のカラテを構える。ブラックスミスはデント・カラテ基本の、つまり攻撃の構え。ガルスはソウルが教える低空エアロカラテ跳躍の構え。空気を歪める程の敵意が手出し無用のドヒョーリングを形作る。その中にモータルが居たならばカラテで死ぬより先に恐怖で自ら心臓を止めただろう。

 

「アィェーッ!」重装備ヒョットコの恐怖の叫びが、ハッケ・プーリストのグンバイとなった。「「イヤーッ!」」回転ジャンプを組み合わせた斬撃回し蹴りに、重砲めいたカラテパンチが合わさる。重合金の蹴爪とジツ生成のナックルガードが轟音と共にかち合い、衝撃波が辺りに飛び散った。

 

エアロカラテとデント・カラテが火花散らす最中でもウォーロックの演説は続く。「貴方のことは色々と調べさせていただきました。ええ確かに彼女らはロッポンギにいました。父と母と娘の三人家族で暮らしていました」馬鹿丁寧な口調の奥に『真実』のもたらす破滅への期待が透かし見える。

 

ウォーロックの独唱をBGMに、スクローファとニンジャスレイヤーもまた激しくイクサを交わしていた。「イヤーッ!」「グワーッ!」絶え間なく振るわれる豪腕剛脚のビッグカラテを掻い潜り、ニンジャスレイヤーはカタナめいて鋭いチョップを打ち込む! 即死級の一閃がスクローファの胸に刻まれた! 

 

「ヌゥーッ!」だが全身に残る傷は余りに重い。本気の一撃を叩き込む反動だけで目の前が明滅し意識は体から離れかける。健常ならカラテの暴風で瞬く間にスクローファを解体しただろうが、重傷の今では長期戦は必至。その上、相手はビックニンジャ・クランのニンジャ耐久力とグラトン・ジツの持ち主だ。

 

時が経つほどに状況は悪化する。時間は連中の味方でしかない。「夫婦は学生時代からの恋人だったそうで、デッカー就任を切っ掛けに結婚されたそうです」着実に『真実』へと近づいていく声がそれを示している。ニンジャスレイヤーの焦りを見透かしたのか、嘲りの混じったスクローファの笑いが響く。

 

「そんなに急がずともヨロシイ! ゆっくりイクサを楽しもうじゃないか!」「オヌシと遊ぶ暇はない」嘲笑を決断的に切り捨て、ニンジャスレイヤーはジュージツを構え直す。損傷に耐えて傷を癒すならば、耐久と回復を越えるカラテを叩き込むのみ。百発のチョップで足りぬなら千発のチョップを打つのだ。

 

二人と二人のイクサを後目にウォーロックの独り舞台は続く。「おや、ご存じない? そんな筈はない。貴方と部下御一家とは、家族ぐるみの長いツキアイがあったんですから」語りかける相手は当然ワタナベだ。しかし彼は何をしてるのか? 常ならば真っ先にザムラ・カラテで仕留めにはいるだろうに。

 

「ウウッ……グワーッ!」そう、それは平常ならばの話だ。先ほど同様にワタナベは断続的に襲いかかる不可解なニューロン攻撃にのたうち回る一方だった。下手人は間違いなくウォーロックだ。だが、如何なるジツか防ぐも堪えるもできない。自分の独演会を聞かせるために攻撃が不連続なのが僅かな救いか。

 

「随分と御一家とは仲が宜しかったようで、特に娘さんにはとても慕われていましたね」いや、それは救いではない。ウォーロックの目的は『インターラプター』をソウカイヤへと戻すこと。そのために『ワタナベ』の居場所であるキャンプを奪い取らんとしている。ならばこの独壇場もその一つに他ならない。

 

「オジチャンと呼ばれて、とっても懐かれて、まるで娘のような間柄!」「やめろ、そんなのは嘘だ」耳に目蓋はなく、ジツを防ぐこともできず、猛毒の言葉は容赦なくワタナベの耳に注ぎ入れられる。震えながら弱々しく立ち上がろうとするワタナベにできることは掠れた声で拒むことだけ。

 

(((違う、全部間違いだ)))娘のようじゃない、愛おしい娘だ。今は遠く離れてしまったが、変わらずに想い続けている。それに後輩と元妻は再婚だ。奴の言葉は嘘っぱちだらけ。そうだ、そうでなければならない。ふらつく足と折れかかる心に無理矢理力を込めて崩れる体を必死に支える。

 

「嘘? ああ、確かに貴方の記憶は自分に嘘をついている!」だが、自分を納得させようと言葉を幾つ並べても、ウォーロックの語りは容易くそれを打ち砕く。「貴方はデッカー時代からずっと独り身の男ヤモメだ。貴方には妻も子供も家族もいない」なぜなら、それは『真実』だからだ。

 

「そんな貴方を心配し、部下のデッカーは自宅に招待するようになった」「やめろ、やめてくれ」そして当事者であるワタナベは全てを知っている。知った上で忘れている。そうしなければならなかった。それは絶対に思い出してはならない。思い出せば全てが終わり。築いた全てがご破算となる。

 

「幸せな御一家に参加できて、さぞかし嬉しかったのでしょうねぇ。自分が父親で夫だと勘違いしたくなるほどに!」記憶に塗り重ねた嘘が片端からはぎ取られていく。正しい記憶が蘇り、本当の過去が姿を現す。裾を引っ張り肩車をせがむ声。空高く突き上げた手の中の笑顔。抱き上げた柔らかな感触。

 

愛しい娘の筈のオハナとの記憶の全て、自分を呼ぶ名はウォーロックの言葉通り「オジチャン」だった。そして、その隣にはオハナの母親と……部下で後輩のデッカーである父親の姿がある。自分ではない。自分は独りで、家族は後輩のもの。それが事実だった。

 

「そんなに愛おしく思っていたのに、貴方はやってしまった! ホホホ! やはり貴方は生来の殺人マシーンに間違いない!」「違う……違う……」パチンと指を鳴らす音がした。巨大ヒョットコ・オメーンは消え、一枚の写真がスクリーンに映し出される。過去が今、ワタナベの全てを収穫にやってきた。

 

「違う? そんな筈はないでしょう。だって背中を預けた部下も、淡い思いを抱いていた奥さんも、愛しい娘同然のオハナちゃんも……」正気の者なら誰でも目を背けるだろう残酷な一家惨殺死体が全員の眼前に晒された。粉砕ネギトロミンチと化した父親と、踏みにじられた人形めいて歪に曲がった母親。

 

「み ん な あ な た が 殺 し た ん で す よ ?」

 

そして、絶望と恐怖を満面に焼き付けた幼い幼いデスマスク。毎日毎日写真越しに見つめた愛おしいオハナがそこにあった。糸を切られたジョルリ人形めいて、ワタナベは力なく床に膝を突く。止めどなく絶望と敗北の涙が溢れ出した。全てを忘れてでも逃げ続けた罪は、ついにワタナベの背に手をかけたのだ。

 

【フェイト・リバース・ライク・ザ・ワープ】#2おわり。#3へ続く。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。