鉄火の銘   作:属物

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第二話【リヴェンジ・ザ・アイアンクロス3~エイリアン・オブ・ニンジャ~】#3

【リヴェンジ・ザ・アイアンクロス3~エイリアン・オブ・ニンジャ~】#3

 

「「「ザッケンナコラー劣等人種!」」」身も竦むナチスヤクザスラングと共にキャトル光線からアーリア改善クローンヤクザが次々に地上に降り立つ。「ナンデここが!?」「いいから防衛だ!」慌てつつも『戦う村人』はカービン銃とタケヤリを組み合わせた恐るべき農民武装を抱えベトン陣地に駆け込む。

 

BLATATATA! 「「「スッゾコラー劣等人種!」」」クローンヤクザ親衛隊はその背中に向けてクローン特有の一糸乱れぬ完全同期動作で、構えたナチスライフルの引き金を一斉に引いた! 「グワーッ!」「アバーッ!」陣地に駆け込み損ねた村人が7.92mm穴のスイスチーズになって踊り狂う! 

 

BLAM! BLAM! BLAM! 「「「自由なくして村人なし! ウォーッ!」」」「「「グワーッ!」」」スローガンを雄叫びながら『戦う村人』たちは陣地の銃眼より突き出したタケヤリカービンを連射! 緑の血をまき散らしクローンヤクザSS兵は次々に倒れる! 

 

BLATATATA! 「「「テメッコラー劣等人種!」」」「ブッダ! 多すぎる!」「弾を! 誰か!」「グワーッ!」しかしクローンヤクザ親衛隊の数は余りに多い! 人数も弾数も多勢に無勢。『戦う村人』がクワを捨て銃を取ろうとこのままでは負けて死ぬ。村長が死んでドグウ村も死んでしまうのか!? 

 

否、そうはならない! 「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」黒錆色の鉄雨が降り注ぎ、一面が緑血に染まる! 驚異なる一忍当千のニンジャがここにいるのだ! 「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」奇襲に乱れるクローンヤクザ親衛大隊にブラックスミスは躊躇無く弾道跳びカラテパンチで飛び込んだ! 

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」「「「グワーッ! グワーッ! グワーッ!」」」金髪の群衆を引き裂いて黒錆色の風は驚異のカラテを存分に振るう! 「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」異形のスリケンが次々に頭蓋に生える! 「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」クナイ双刀が次々に頸を刎ね飛ばす! 

 

フヨヨヨ! KABOOM! 「「「グワーッ!」」」それを止めんとナチス円盤機から誤爆覚悟の爆弾投下だ! だが飛び散るのはクローンヤクザの死体だけ! 駆けるニンジャに傷一つ無い! WW2仕立てとはいえ完全武装の軍団を五体と武器のみで容易く押し返す。これが平安日本を支配したニンジャのカラテだ! 

 

例え欧州における恐怖の代名詞たるナチス軍団であろうとニンジャがいる限り日本侵略は不可能か? 「ヌゥーッ!?」否、そうとは限らぬ! ブレーサーに突き立つ鉤十字スリケンが否定を告げた! 円盤機に仁王立つ茶色の影を見よ! 「ドーモ、初めまして。ユージェニックです」あれはナチスのニンジャだ! 

 

「ドーモ、ユージェニック=サン、お初にお目にかかります。ブラックスミスです」山と積まれたクローン親衛隊の死骸を踏みしだき、両手を合わせて黒錆色のニンジャが応える。「知性の足らぬ劣等種が折角与えてやった恐怖を忘れたとばかり考えていたが、なるほど。貴様の存在が連中を調子に乗らせたか」

 

「ここに来たのはついさっきだ。アンタの無能を押しつけられても、困る」「アニマル擬きの劣等ニンジャが、支配の定め持つ優性アーリアニンジャに増上慢も甚だしい!」油断無くデント・カラテを構えるブラックスミスの台詞に、妄想を現実の上に置くユージェニックはこめかみに青筋を浮かび上がらせる。

 

「大口は程々にしておけよ。散々な結果が際だつぞ」「イヤーッ!」毒舌への返答は空を裂く鉤十字スリケンだ! 「イヤーッ!」CRASH! 即応のスリケンが真っ正面からぶつかり合う! 「イヤーッ!」「イヤーッ!」スリケンの対消滅を引き金に地対空スリケンラリーが始まった! 

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」RIP! 標的から外れた鉤十字スリケンがクローン兵士を頭上から引き裂く! 「イヤーッ!」BOOM! 投げ上げられたクナイジャベリンがUFOに深々と突き立つ! 「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」音速のスリケンが対消滅を繰り返す! 

 

CRASH! CRASH! CRASH! 「ヌゥーッ!」「ハーハッハッ! オーディンの稲妻に等しきスリケンを受け、劣等種らしくブザマに死ぬがいい!」異形と鉤十字のスリケン衝突点は地上に徐々に近づく! 位置エネルギー加速分、地の利を得たユージェニックが有利か? ならばその利を叩き落とすまで! 

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」「ヌゥーッ!?」BOOM! BOOM! BOOM! 鋭角で抉り込むスリケンブーメラン! 装甲を叩き割るスリケントマホーク! 吸気口に絡みつくスリケンボーラ! 数え切れぬスリケン嵐に晒された髑髏紋(トーテンコップ)円盤機は、小爆発を繰り返し煙を噴きだしてバランスを崩す! 

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」BOOM! BOOM! BOOM! 迎撃鉤十字スリケン連射をすり抜け、平衡を失ったナチスUFOへさらなる追加のスリケンが次々に突き刺ささる! 『操作不能な。脱出お急ぎ』エマージェンシーが響き、コントロールを喪失した円盤機が垂直落下! 

 

KARA-TOOM! 「「「グワーッ!」」」生き残りクローンヤクザ親衛隊を巻き込んで墜落UFOはニューク爆発! これに巻き込まれては一溜まりもない! やったか!? 「イヤーッ!」否、相手はナチスでニンジャだ! ユージェニックは落下中に脱出している! 

 

地上へ降り立ったユージェニックと、スリケンを投げ終えたブラックスミスがキノコ雲を背景に相対する。「劣等種を支配すべき優良種を地べたに立たせるとは! よくも!」「じゃあそのままお空の上で死んでろよ」先の焼き直しめいた罵声を投げつけ合いながらも、互いは各々が信じる必殺のカラテを構えた。

 

【鉄火の銘】

 

【鉄火の銘】

 

空間に張りつめる圧倒的カラテに全てが声を失ったかのように、異常な静寂が場を満たしていく。「この屈辱……貴様の命一つでは到底購えんぞ! 覚悟するがいい!」「ならお前の命一つでどうだ。随分とお高いようだからそれで十分だろ?」耳に響くのは互いの痛罵のみ。そして目に入るのは互いの姿のみ。

 

ブラックスミスは腰を深く落として両掌を前に向ける。これは要塞めいて不動なるデント・カラテ防御の構えだ! 一方、ユージェニックは片手を後ろに回すと、靴から抜きはなった長いナイフを頭上に構え、切っ先をブラックスミスに突きつけた。この構えは一体!? 

 

……中欧戦国史の専門家ならばこの構えからドイツ剣術との相似形を見いだすだろう。それもその筈、これこそドイツ剣術の源流『古式ゲルマン・イアイド』に他ならない! その一端に触れたリヒテナウアーがモータルの身ながらも再現を試みて編み出されたのが、中欧で一時代を築くドイツ剣術なのだ! 

 

ユージェニックは『支配こそ我が名誉』と刻まれた刀身を、雲間から覗く陽光めいて揺らめかせる。「我がイアイドで非ニンジャが如何に苦しんで死んだか知りたいか? 今から貴様の精神にケジメと共に刻んでやろう」「弱いものイジメが趣味とはお国が知れる……いや、ドイツだったな。ドイツに謝れ」

 

「貴様が謝れ! 死んで詫びろ! イヤーッ!」怒れるユージェニックから凶悪なる『怒りの斬撃』が繰り出される! 『日の構え』から振るわれる必殺の一撃だ! 「イヤーッ!」袈裟懸けに迫る刀身を、ブラックスミスはブレーサーに沿わせてサークルガードで防御した! 飛び散る火花が刃と腕の残像を描く! 

 

相手の要塞めいた防御に大降りの切りつけは無効と見たか、即座に基本の攻撃である突きを連続で打ち込む! 「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」眼球! 股間! 心臓! 鳩尾! 喉笛! 眉間! 「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」精密ピストンめいた高速前後運動を、クランクシャフトめいて回転運動が受けとめる! 

 

「イヤーッ!」突く! 「イヤーッ!」弾く! 「イヤーッ!」突く! 「イヤーッ!」逸らす! 「イヤーッ!」突く! 「イヤーッ!」防ぐ! おお、見よ! 精妙なる飛行機械エンジンめいて互いのカラテとカラテがガッチリとかみ合い、高速運動と停止状態が両立した奇妙なる膠着が生まれた! チョーチョー・ハッシ! 

 

これはアドバンスドショーギで言うところのサウザンド・ウォーの形となったのか? その原因であるブラックスミスの消極的カラテにユージェニックは嘲笑の声を上げる。「口先だけの劣等種! 家畜らしく屠殺を待つか!?」「待ってるのは別物だよ。ほら、随分と人数が減ったぞ?」「何を……!?」

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」残り少ない生き残りクローン親衛隊員の内蔵をタケヤリが貫く! BLAM! 「グワーッ!」数少ない生き残りクローンSS兵士の脳髄を鉛玉が貫く! 「ナニィーッ!?」ブラックスミスの受動的対応は『戦う村人』がヤクザ親衛隊を排除する迄の時間稼ぎでもあったのだ! 

 

クローン軍団を率いて支配者を気取っていたユージェニックだが、虚飾の軍勢が無ければナチス妄想にしがみついた裸の王様に過ぎない! 「ヌゥゥゥッ!! クローンを潰していい気になるな! アレを降ろせ!」故にユージェニックはIRC端末の髑髏紋(トーテンコップ)ボタンを押し込み最大最後の戦力を起動する! 

 

【鉄火の銘】

 

【鉄火の銘】

 

フヨヨヨヨ! 生き残りナチス円盤機から放射される青白いキャトル光線の中、漆黒の影が膨らみながらゆっくりと地面に滴る。それは縮尺比が狂ったと錯覚するほどに大きい。「どう見ても放っといて良いものじゃないな!」ブラックスミスは両手を広げ瞬く間にヒュージ・スリケンを重金属粒子で形作った。

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」UFOめがけ飛ぶ巨大スリケン! それをユージェニックは全力のドイツ短剣で迎撃! ならばとブラックスミスは即座に次弾を構える! 「イヤーッ!」投げる! 「イヤーッ!」弾く! 「イヤーッ!」投げる! 「イヤーッ!」逸らす! 「イヤーッ!」投げる! 「イヤーッ!」受ける! 

 

ズウン! カラテ交わす合間にも墨汁めいた滴はサイズを増して、遂に地上にしたたり落ちた。大地に触れるだけで地を揺すぶるその大きさは最早建築物と比較すべき代物だ。そして闇めいた巨体はゆっくりと身を持ち上げた。ALAS! 動いた!? これは、生きているのだ! 

 

……予算確保のために作り上げた架空の脅威を、現実化してコントロールするという、子供並の発想に基づくヨロシサン製薬のプロジェクト「カイジュウ計画」。計画はその果てにおぞましき悪夢的巨大化バイオ生物を生み出した! それこそ目の前で蠢く巨大クマ・モンスター、略して「クマモン」なのだ! 

 

「AAARRRGHHH!!!」「「「アィーッ!?」」」クマモンは傷口めいた赤い口を開き、原子爆発に等しい轟音で吠え猛る! 衝撃波という言葉が相応しい咆哮に、『戦う村人』は皆、腰を抜かしてしめやかに股間を濡らした。彼らは強大なナチズムと戦うレジスタンスだが、モンスターハンターではないのだ。

 

「イヤーッ!」ならば抗するに相応しいのはクマモンに匹敵する危険な生物……ニンジャに他ならない! ユージェニックの防御をすり抜けブラックスミスのスリケンがクマモンに次々と突き立つ! 「GHAR!?」見上げる巨体が激痛に震える! だが、止まらない!? 巨大すぎてダメージが分散しているのだ! 

 

「ハーッハッハッハッ! 優勢種の科学は世界一ーィ! 貴様等劣等種如きがV4号を止められる筈がない!」ヨロシサンが計画し、ヨロシサンが設計し、ヨロシサンが実験し、ヨロシサンが製作したクマモンを、ヨロシサンから奪ったユージェニックが我が物とふんぞり返るなんたる文化詐称的光景か! ヒドイ! 

 

これを知ったヨロシサン製薬がヨロシ・ジツの特許を取得して著作権侵害に備えたのも当然のことであろう! だが、そんなパテント背景事情など『戦う村人』には知る由もない。恐怖に濁った表情の彼らは、ナチスとヨロシサン製薬の双方を口汚くノロイながら、震える手で引き金を引き続けるのみ! 

 

BLALALAM! KABOOOM! 「ナチス・カイジュウ! ゴートゥー・アノヨ!」「死ね! ヨロシサンのオバケ! 死ね!」「GHAR!」タケヤリカービンが火を噴き、希少な漆塗りRPGが炸裂する! だが、見よ! 緑のバイオ血液が傷口から鉛玉を押し出す! 抉れた爆発痕を蠢く筋繊維が埋める! 

 

「AAARRRGHHH!!!」生物学上不可能であろうこの巨体を可能にしたのはバイオニンジャを彷彿とさせるこの異常再生能力なのだ! クマモンは一歩ごとに自重で崩壊しながらも同時に急速再生して『戦う村人』へと這い寄る! 鉛玉でも爆弾でもスリケンでも前進が止まらない! ならばカラテあるのみ! 

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」スリケンの暴風でクマモンの歩みを妨害し、黒錆色の風となってブラックスミスが駆ける! この巨大なカイジュウを己のカラテで殺せるのか!? そんなことは知らぬ! 他人様の台詞だが『後悔は死んでからすればいい』! まず殺す! 目前に立ちはだかるユージェニックもだ! 

 

「除け!」「貴様の冗漫なカラテで増上慢をほざ「イヤーッ!」グワーッ!」自身を弾丸とする弾道跳びカラテパンチが口上ごとユージェニックの顔面を叩き潰す! 反射的に突き出された短剣が肩口に深々と突き刺さるがブラックスミスは気にも留めぬ! マウントからカワラ割りパンチを慈悲無く叩き込む! 

 

「劣等「イヤーッ!」グワーッ!」「支配「イヤーッ!」グワーッ!」「ごんな「イヤーッ!」グワーッ!」「ナンデ「イヤーッ!」グワーッ!」古式ゲルマン・イアイドはドイツ剣術の祖である驚異のカラテ。だがデント・カラテも江戸戦争の甲冑組討術(アーマード・ジュー・ジツ)を祖とする、負けず劣らぬ凶悪なるカラテだ! 

 

増してや、幾多の鍛錬を重ねイクサを超えたブラックスミスと、モータルをいたぶり妄想に酔うユージェニックには、カラテ密度に大いなる格差が有った! 「イヤーッ!」「イヤーッ!」カジバフォースで無理矢理脱出したユージェニックと、回転ジャンプで距離をとるブラックスミスの姿にそれは現れている! 

 

「ぎ、ぎざま……」片方の眼球と砕けたメンポが挽き肉と化した表情筋と共にこぼれる。ヘルムごと頭蓋を叩き潰すカワラ割りパンチ連打にユージェニックの顔面は煮オモチめいて崩れている! 一方、眼光鋭く睨みつけるブラックスミスには傷一つ無し! 生成したブレーサーを打ち合わせトドメのカラテを構える! 

 

その瞬間! ニンジャ第六感が警鐘を鳴らす! 「ブァイエルッ!」「イヤーッ!」ポワワワ! インセクト・オーメンめいた直感刺激に従い、ブラックスミスは連続側転で全力回避! 移動前の地点をリング状の光が通り抜けた。その跡は……何もない!? 光線は接触した物体全てを分子レベルで分解消滅させたのだ! 

 

「ごれがガラデだっ!! (わだぢ)の力だっ!」涎と血と妄言のカクテルをまき散らし、発掘収奪品を己のカラテと胸を張るなんたる恥知らずの姿か!? 世間一般日本人的感性を持ち合わせているなら即座にセプクを選ぶだろうタイヘン・シツレイそのものだ! しかしユージェニックは日本人ではない! 

 

ポワワ! ポワワ! ポワワ! 「()ね! ブラッグズミズ=ザン! ()ね!」「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」ユージェニックの構えるパルプフィクションめいた火星人銃から回避を繰り返すブラックスミス! ALAS! 背後のタマチャンジャングルが次々にクッキーめいて型抜かれ、風景に消しゴムがかけられる! 

 

しかし回避を繰り返すブラックスミスは全弾回避! それどころか弾道を誘導し、クマモンにリップル光線を直撃させる! ワザマエ! 「GHHHAAARRR!!!」巨体の半身が瞬く間に塵に変わり、ジャガンナートめいた前進が停止する! 「(わだぢ)のゲヅを舐めろ!」しかしユージェニックの悪意は止まらぬ! 

 

「劣等種同士、仲良ぐ()ねぇ!」その銃口を守るべき『戦う村人』に向けたのだ! ニンジャアドレナリンで遅延する時間の中、ブラックスミスは全力で打開策を思考する! (((スリケンで迎撃……消滅する、不可! 村人を脱出させる……時間無し、不可! ジツで防御……時間は稼げる、実行!)))

 

「イィィィヤァァァッ!!!」ポワワワ! 襲い来る青白い輪を黒錆色の断崖が受け止める、が即座に消滅! しかし黒錆色の長城が一瞬でせり上がる、が即座に消滅! しかし黒錆色の巨壁が即座に立ち上がる、が即座に消滅! しかし黒錆色のスクリーンが一瞬で伸び上がる、が即座に消滅! 全ては無意味か!? 

 

否、青白い輪はそのサイズを大きく減じ、遂には消滅した! 「ハァーッ、ハァーッ」ニューロンを燃やし尽くすが如きタタラ・ジツの過剰使用に、血涙と鼻血を流してブラックスミスは膝を突いた。その姿に崩れた顔でも判るほどの嘲笑を浮かべ、ユージェニックはゆっくりと見せつけるように火星銃を構える。

 

「もうダメだ……」「おお、ブッダ!」最早、村人たちは掌を合わせブッダに祈る事しかできない。ブラックスミスはこれで死ぬのか? ナチスの侵略は止められないのか? ブッダよ、貴方はまだ寝ているのですか!? それをダイコク・テンプルの住職が聞けば嗤うだろう。『ブッダは死んで永遠に寝とる』と。

 

そして彼は真剣な目でこう続ける筈だ。『だから自ら目を開き、自分自身を救わんとする者にしか、救いは訪れんのだ』と。

 

「イ”ヤ”ーッ!」ユージェニックは銃口を向けトリガーを引……けない!? 「イヤーッ!」「グワーッ!?」フヨヨヨヨ! スリケンに肘から先が切り飛ばされたからだ! だがアンブッシュの下手人は誰だ!? ブラックスミスは動けない! 他にニンジャはいない筈、否! テルミンめいた駆動音の元を見よ! 

 

それはキャトル光線に乗りオジギと共に降臨する赤黒の影! 「……なんとか、間に合った、な」避難したナンシーが無線IRCで送り続けた救援要請に応え、彼はドグウ村へと急ぎやって来たのだ! 「ドーモ、ブラックスミス=サン。ゴブサタしてます。そして、皆さん初めまして。ニンジャスレイヤーです」

 

【鉄火の銘】

 

【鉄火の銘】

 

「ドーモ”、ニ”ンジャズレイヤ”ー=ザン。ユージェニッグでず。人類の支配者だる優生ニンジャに傷を付げるどばよぐもぉっ!」挽き肉めいた顔面を歪ませ叫ぶ姿は、怒れるモータルを一瞬で凍り付かせる狂気と凶気に満ちていた。だがそれは赤黒の殺戮者にとって業火に注がれるガソリンに等しい! 

 

「人類の支配者? 優生ニンジャ? 実際安いワゴンセール品がよく吠える。所詮オヌシはそこらのヨタモノとなにも変わらぬ」KABOOM! 地に降り立つ彼の背後で爆発音が響き、幾筋も煙と炎が立ち上る。それは彼が破壊してきた収容所であり、ガス室であり、理不尽なる圧制者の搾取機構の末路だ。

 

「カビの生えた妄想で幾ら飾りたてようとオヌシは単なる邪悪なニンジャにすぎん」ニンジャスレイヤーの憤怒が、ナチスとユージェニックの狂気を踏み砕いたのだ。それは暴虐なるニンジャへの怒りであり、ナチスを筆頭とする抑圧者への憎悪であり、他者の命を踏みにじり省みぬ傲慢への敵意であった。

 

「そして俺はニンジャ殺す者(ニンジャスレイヤー)だ。ニンジャ殺すべし。 慈 悲 は な い 」「アイッ!?」そして、それが、それこそが……ニンジャスレイヤーなのだ! ニンジャスレイヤーの圧倒的な怒りに気圧されたユージェニックが思わず後ずさる。恐怖に呑まれた体は思うように動いてくれない。

 

「イヤーッ!」「GHAR!」数呼吸分体力を回復したブラックスミスが再生中のクマモンに弾道跳びカラテパンチを打ち込む音が響いた。ほんの僅かな刹那、殺戮者の気が逸れる。「イ”ヤ”ーッ!」硬直から逃れたユージェニックはパルクールめいた片手側転でSF光線銃を確保! 

 

家畜(がぢぐ)め! 断罪じでやる!」「イヤーッ!」ポワワワ! そのまま赤黒の影めがけ引き金を引く! 分子分解光線が輪形に広がる……前にニンジャスレイヤーがワン・インチ距離に! 「イヤーッ!」「え”っ?」更にユージェニックの腕を流れるようにへし折る! 当然、光線銃の引き金は引かれたままだ! 

 

「え”?」ユージェニックは頭上から振り下ろされる断罪の鞭を呆然と見上げた。「え”」それが最期の言葉になった。ユージェニックの上半身が消えた。それを理解できない下半身がよろめき、続いて塵に帰った。同時に高射砲塔要塞の中で黒曜石の大鏡が、誰も知る事なく独りでに砕けて消えた。

 

ハイクもなく、サヨナラすら言えず、ユージェニックは蒸発した。「らしい死に様だな。イヤーッ!」「GHAR!」それを確認したブラックスミスは一言吐き捨てると、更なるカワラ割りパンチをクマモンに叩き込む! カラテシャウトと苦痛の雄叫びが繰り返し響く! 

 

「イヤーッ!」「GHAR!」「イヤーッ!」「GHAR!」「イヤーッ!」「GHAR!」だがニンジャの連打を喰らいながらもクマモンの肉体は徐々に再生しつつある! なんたる非自然的ミュータント生命力と反自然的バイオ改造の悪魔的相乗効果か! 物理破壊では殺し切れぬ! ならば細胞全てを打ち砕くまで! 

 

「イィィィ……」足指、足首、膝、股関節、腰椎、脊椎、肩間接、肘、手首、指先、その全て完全に同期連動させる! それはセイケン・ツキの原理をカワラ割りパンチで応用再現する、デント・カラテの新たなる一ページ! 「……ヤァァァーーーッ!!!」「AAABAAAHHHRRR!!!」ドォォォンッ! 

 

全細胞に響きわたる轟音を味わいながらクマモンは断末魔の絶叫と共に緑の泡と化して崩れ落ちた。「死んだ、のか?」「多分……終わったんだ」現実感も無く呆然と周囲を見渡す村人たち。ブラックスミスは皆の姿に大きく息を吐き腰を落とした。不人気B級映画めいて跡形も残さず狂気の象徴は消え失せたのだ。

 

だが操縦していたUFOから降り立たったナンシーは深刻な顔で否定する。「いいえ、全て終わりとは限らないわ。未だ発掘されないオーパーツの中には第二第三のナチス遺産が「無いです」カンベンしてくれ。続編を臭わせるナンシーの台詞をブラックスミスが疲れ切った表情で遮った。

 

兎に角これでエンディングだと、カーテンコールを望むブラックスミスに応えたように、重金属酸性雲の雲間から濁ったオレンジの光が射し込んだ。日が落ちる。長い長い一日が終わろうとしていた。

 

【鉄火の銘】

 

【鉄火の銘】

 

「シン兄ちゃん、これ!」「どうした?」自堕落に寝坊してフートンから叩き出されたシンヤが大欠伸していると、興奮したウキチがチラシを振り回してきた。「今度続編やるんだって! 見に行こうよ!」手渡されたポスターには大津波に乗るクジラ戦艦と大気圏突入するサメ隕石。そしてローマ式敬礼で鉤十字マグロに忠誠を捧げる二足歩行イルカ軍団!

 

『全米が震撼! アイアンボトム・オーシャン2~マグロ帝国の悪夢~』「絶対面白いよ!」獲れ立て新鮮マグロの煌めく眼をしたウキチを、シンヤはツキジダンジョン放置冷凍マグロの目で見返した。「ナチスはもうカンニン……」「ナンデ? ナチスなんてもういないじゃん」「だからカンニン……」「ナンデ?」「カンニン……」

 

【リヴェンジ・ザ・アイアンクロス3~エイリアン・オブ・ニンジャ~】#3おわり。


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