異世界人の金髪シェフ   作:NonG

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なろうにて同時連載中です。


スウェットに裸足の異世界人

気がつけば俺は石畳みの街道の上に立っていた。

 

周りに見えるのは中世ヨーロッパ風の建物に活気のある露店の数々、行き交う人の波、どれも初めて見る景色だ。

 

その中に奇妙な物を見つけた……馬車だ。

 

その馬車は特におかしな点はなく緩やかに街道を進んでいくのだが、その馬車を引いている生き物に問題がある。

 

……なんと、無数の足が生えた巨大芋虫だった。周りの人々はそんな光景を当たり前の様子で各々過ごしている。

 

ーーここはどこだ? 疲れて家で寝てたのは覚えてるんだけど…

 

確かに自分は寝ていたはず、その証拠に今も寝巻き姿に裸足だし、頭もまだ覚醒してない。

 

俺の存在に気づいてか周りの人々の視線が刺さる。側から見てこんな格好した人がいたら浮くのもしょうがないか。

 

周りの目を気にしながら路地裏に逃げ込んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

よし、まずは状況を確認しよう。装備は灰色と黒のスウェットに素手、ポケットには何もなし、おまけに靴も履いていないので足の裏が地味に痛い。

携帯電話くらい持っていたら……て、電波ないから使えないか。

 

 

視線の高さは変わらないし声も同じ、この異世界っぽい周りと比べると少し目立つ黒髪をした18歳の青年だ。

 

顔もお世辞に言えばカッコいいくらいの何処にでもいそうな顔だったし、おそらく今も変わらないだろう。

 

変わった所と言えば、少し身体が軽く感じるのと、僅かに力が漲っているくらいか。

 

ーー状況確認終了 とりあえずの状況はわかったがここが何なのか全然わからない。

 

夢かと思ったが、如何にもリアルすぎるし、裸足なので足の痛みを感じている。

 

よくあるアニメや小説のように神様が「ごめんねー 間違えて殺しちゃったからゲームとか好きな世界に送ってあげるよー」てな感じでチート能力もらって俺サイキョーするような感じでもない。

 

むしろ靴すら貰えないし。

異世界に来てようやく靴の偉大さがわかった気がするな…。

 

とか割と如何でもいいこと考えながら薄暗い裏路地を歩いていると、人影が見えてきた。

 

「よう、変な格好しているが新手の変態貴族か? まあいい、金目のもんさっさとだしな!」

 

うわー……まじかよ、異世界に来て約三十分にしていきなり賊とエンカウントかよ……。

 

しかも右手にはナイフを装備しているし、顔もニヤニヤと気持ち悪いな、見た感じ三十過ぎのおっさんだ。

 

日本では水泳部に属していて運動は得意な俺だが、流石にナイフを持った相手に、素手で挑もうとは思わない。

 

回れ右をして逃げようと走りだす……が、またも同じく気持ち悪いおっさんが現れた。

 

まさか、分身か!? っと思ったが顔は似ているがナイフは持っていないので別人のようだ。

 

三十過ぎのおっさんの双子とか気持ち悪いし誰得だよ……

 

 

とはいえ、状況はかなりまずい、二対一で片方にはナイフ持ち、しかも逃げ道はない

 

不幸中の幸い、この世界の言語は日本語のようで話はできるようだ。

ーーここは平和的に行くしかない。

 

「いやー 金目のもんなんてないですよ、むしろこっちが欲しいくらいで……」

 

まずは敵意のない事と何も持っていないアピールをする。

話し合いに持っていくためにはこの手しかない。

 

「そうか、ならこのナイフを腹にくらわせてやろうか? それが嫌なら服を脱いでとっとと失せな」

 

前言撤回、話なんて通じなかった……。

このスウェットなんてユニ○ロで買った三千円程度の物だぞ。

 

だが俺にとっては唯一の装備、只でさえ靴もないのにスウェットまで取られては生きていける自信がないぞ……。

言語は通じるようだが文字は読み書きできるとは限らないしな。

 

やるしかないか……。まずはナイフを持っているおっさんの方を向く……面倒だからおっさんAとする。

いきなり背後から刺されたらおわりだからな。

 

背後のおっさんBから俺までの距離はおよそ5m やるにしても数秒でやらないと袋叩きか。

 

覚悟を決め 目の前のおっさんAにゆっくりと近ずいていく。

 

おっさんAは警戒しつつ右手を前に出しナイフを構えてきた。

 

「しょうがない…これを出すので勘弁してください!!」

 

腕を伸ばせば届く距離まで近づき、ナイフを持った右腕に対して、右足で蹴り上げる。

 

「ぐおっ!!」

 

攻撃が来るとは予想してなかったのかおっさんAは変な声を上げ、ナイフを落としてしまう。

 

間髪入れず、驚いた顔をした顔面に拳を叩き込む……2m程吹っ飛んだな…そのまま気絶したようだ。

 

「クソが!!」

 

「ぐっっ!」

 

あまりに呆気なさ過ぎて油断していたら、おっさんBに横腹に蹴りを入れられた。

ーーチート性能の身体かと思ったけど普通に痛いな……

 

耐えられない程の痛みではなく、直ぐさまおっさんBの方に向き殴り倒す。

 

「ぐおっ!!」

 

またも2m程吹っ飛んで目を回して動かなくなった。……断末魔まで同じとは腐っても双子か。

 

どうやらチート性能ではないがある程度は身体能力は上がっているらしい、魔術士や冒険者を相手にしたら勝負にならないだろうけど。

 

さてこいつらの所有物を頂くとするかな…… 、あまり良い行いではないが襲われたのはこっちだし、それ相応の報酬をもらっても罰は当たるまい。

 

「そこの者たち! 何をしている!?」

 

拝借するものを探していたら路地の方から赤髪の女がやって来る。

 

「私の名は、ラムフリード王国騎士団 副団長 エルナ・ルーテミスというものだ」

 

赤髪ロングの女がそう名乗る。

格好は騎士には見えないが非番なのだろう、騎士の象徴っぽい剣を掲げているので本物のようだ。

 

この世界には女でも副団長になれるのか、見た感じ20台後半で美人でもなく普通な容姿をしているが、ドヤ顔をしていてなんか腹立つ……。

 

とはいえ、漸く話の出来そうな人が来たのでこのチャンスを潰す訳にはいかない。

 

「助かりました! この2人組みに襲われていた所なんです!」

 

そう言いつつ、気絶して意識のないおっさんに指をさす。

 

「……にしては一方的にやられているようだし、お前は無傷ではないか? それに怪しい格好をしている……」

 

「未成年が大人二人相手を襲う訳ないですよ、それに向こうはナイフを持っていたし……格好は文句ないです。」

 

正論には正論で返す、相手の事を理解しようとしない者なら逆ギレするかもしれないが話がわかる人だと信じよう。

 

「未成年?……どう見てもお前は十五歳未満には見えないのだが? それに、ナイフはそこの落ちているものだろう? どちらの所有物かは判断できないな」

 

しまった……ここは異世界だから十八歳は大人扱いか…… それに俺もナイフをくらっていないから相手の物だと証明するのは難しいか。

 

「まあいい、とりあえず近くの詰め所に連れて行く……異論はないな?」

 

「……はい」

 

これは素直についていくしかないだろう、物も取っていないし人殺しもしていないので、それ程重い罪にはならないだろうし。

 

おっさんAとBを引きづりながら俺は女騎士のエルナさんについて行く……60kgの人間を片手で引きづる筋力が以前の俺にある訳がない。

 

異世界の神のおかげか? そこら辺は悩んでいても仕方ない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

周りを見渡しながらエルナさんについて行く中でわかった事がいくつかあった。

 

まずこの世界の文字は俺でも読める。

別に翻訳の能力でなんとなくわかるとかではない、そもそもそんな能力持ってないしな。

 

看板や掲示板をチラ見してわかったのだが、どうやら漢字とカタカナで文章が書かれているようだ。

 

読むのに違和感はあるが読めない程ではなかった。

 

ーー意外とこの世界、イージーじゃないか? いきなり殺し合いになったり連行されてる最中だが……

 

それともう一つこの世界にも漫画やアニメのような生き物の亜人、もしくは獣人を発見した。

 

犬のような耳を生やした少年に鉄か何かでできた枷に、光が当たり禍々しく輝いている。

……おそらく奴隷というやつだろう。

どうやらこのラムフリード王国は奴隷制度があるらしい、といっても人の奴隷は見かけないので亜人限定かもしれないな。

 

 

あと、馬車を引いているチョ○ボらしき生き物も見つけた、でも鳴き声が『クェー』ではなく、『クォー』だった。

 

残念ながらファイ○ルファ○タジーの世界ではないようだ。

 

いろんな事を考えながら歩いていたら、どうやら詰め所に着いたようだ。

 

案内されついて行くが周りの兵士から変な目で見られる。

 

変な格好したやつが気絶したおっさん二人を引きづってれば当たり前か。

 

先におっさん二人が取り調べを受けるようで終わるまで待つように言われた。

 

暇だったので俺を見張っている兵士の鎧に目を向ける。

 

鎧に、盾とドラゴンを用いたエンブレムが掘られていた、おそらく国のシンボルなのだろう。

 

にしても兜は被っていないようだが、それなりに重そうだな、異世界によくある質量軽減の魔法でも付加されているのだろうか……?。

 

「なにを見ている?」

 

ジロジロと見ているとこちらの視線に気づいたのか声をかけられた。

ここは一つ道化を演じて情報を得るか。

 

「いやー、そんな金属でできた鎧を着ていて、重くないんですか?」

 

「鉄の鎧だぞ?重くないわけないだろ、命にはかえられんからな」

 

呆れたようなバカにしたような顔でそう言われた。

 

どうやら鉄製の普通の鎧のようだ、普通の兵士の鎧に魔法がかかっているわけないか。

 

 

暫く待っていたらおっさん二人と兵士が個室から出てきた、顔がびしょ濡れになっている……おそらく目を覚まさせるために水を掛けられたのだろう。

 

決して涙で濡れている訳ではないだろう……たぶん。

 

見張りの兵士と共に個室に入るとエルナさんが疲れた様子で椅子に座っていた。

 

「なんか、お疲れ様です…」

 

「誰の所為だと思っている?」

 

とりあえず労ってみたが、逆効果だったようだ。

 

「さて、単刀直入に聞く……お前は何者だ?」

 

やはりそうきたか……とりあえず記憶喪失という事で通そう。

 

自分に起きた出来事を噛み砕きながらエルナさんに教えた。

 

「ライト・ローゼンバーグ 十八歳 で記憶喪失か……。

ローゼンバーグなんて聞いた事がないな、少なくとも貴族ではないな」

 

どうやら貴族でないと分かって安心したようだ。

 

確かに貴族が記憶喪失で事件を起こしたら問題が山積みになるだろうな。

 

ちなみにライト・ローゼンバーグは今考えた名前だが、引用は俺の名前 天野あまの 晃ひかるのひかるをライトにした。

 

性はとあるゲームのキャラクター、バッシュ・フォン・ローゼンバーグからもらった。

さすがに貴族ではないので フォン はつけられない。

ネーミングセンスには目を瞑ってほしい。

 

「こいつが記憶喪失ってのは本当だと思うぞ、さっきこいつに 鉄の鎧を着ていて重くないのか?なんて変な質問されたからな」

 

ナイスフォローだ見張り兵士!これで信用してくれたかと思い、エルナさんに目を向けるが……なんか可哀想な人を見る目をしているぞ?

 

「そうか……その話が本当ならば、重症のようだな」

 

なんか嫌な気分だが、一応信じてくれたようだ。

 

「その話は置いといて、やっぱり罪に問われるんですか?」

 

一番不安だった事を聴いてみる、せめて罰金ならなんとかなりそうだが……一文無しだけど。

 

「ああ、その事なんだが私の勘違いだったようだ……誠に申し訳ない」

 

意外にもあっさりと正当防衛が成立していたようだ。

 

危なかったな、異世界に来ていきなり犯罪者になるところだった。

 

「あの者たちは前科があってな、嘘の供述を述べるものだから、多少強引に聞き出した」

 

なるほど、そういうことか……ならやはりあの濡れた顔は号泣したせいか? どうでもいいか。

 

「そうでしたか、こちらこそ非番中にご迷惑をお掛けしました」

 

騎士として当然かは分からないが、非番中に仕事を増やしてしまったのは事実、一応謝っておく。

 

この言葉を聞いて今思い出したかのように疲れた顔をされた。

 

「そうだ。だいたい、騎士という者はーーーー……」

 

いきなりこの人ブツブツと愚痴り始めた……そうとうお疲れのようだな。

 

内容は、女だからと甘く見られるとか、休みが少ないとか、etc…色々不満があるようだ。

 

「ーーー。まったく! ……おっと、すまない、初対面の相手に失礼だったな」

 

適当に相槌を挟みながら聞き流す事約三十分、ようやく我に返ったようだ。

 

「ははは……大丈夫ですよ」

 

正直疲れたが別に怒るほどではない、見張り兵士も慣れているのか苦笑いをしている。

 

「そうか。 そうだ、ライト殿は住む宛はあるのか?」

 

いきなり現実を突きつけられる質問をしてきたな。

 

職にもありつけてないのに無一文で宿を借りられるなんて、異世界でも流石に無理があるだろう、素直に答えてみるか。

 

「いえ、全くありません。住む宛どころか、今日の晩飯すらないまである」

 

とりあえず何もない事だけは伝えておく。

 

「そうか…。私の友人があるレストランで住み込みで働いていてな、最近人手が足りないようで困っているらしい。そこで働いてみてはどうだ?」

 

今の俺には願っても無い提案だな!だが、こんな素性のわからないようなやつを雇ってもらえるのか?

 

「侘びと言ってはなんだが、私が紹介状を書こう。店長とは昔、色々あってな……なんとかなるだろう」

 

「本当ですか? ありがとうございます!!」

 

なんだ、女騎士かと思ったらただの女神だった。

 

女神の愚痴だったら何時間でも聞いていられるかもしれない。

 

 

よし、これが紹介状と簡単な地図だ、決して失くすなよ?」

 

「ありがとうございます、またいつかお詫びに来ますね」

 

「ああ、楽しみにしている」

 

紹介状と地図を貰い見張り兵士と共に詰め所を出る。

 

「良かったな青年、もし道に迷ったら街の人に聞くといい、それなりに有名な店だから、きっと教えてくれるだろうよ」

 

「そうですか、色々ありがとうございました。」

 

「おう、幸運を祈ってるぜ」

 

見張り兵士と別れ、夕暮れに染まった空を眺めながら街道を進む。

 

いきなり異世界に飛ばされたが、おっさんを除けば良い人ばかりだったな。

なんとかこの世界で過ごしていけそうだ。

 

地図を見ながら店へと向かう、もちろん靴を履いていないので裸足で歩く……なんか足の裏の皮が前より分厚くなった気がした。

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