宮守の神域   作:銀一色

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南三局です。
アンケートは今日の23:59まで!今のところ赤木が有力です。
まだの人は是非活動報告から!


第88話 決勝戦 ㊱ 狂気の沙汰ほど面白い

 

 

 

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南三局 親:愛宕洋榎 ドラ{二}

 

小瀬川 18,300

照 57,200

辻垣内 1,500

洋榎 23,000

 

 

宮永照:配牌

{二七①②②赤⑤⑥89白中中中}

 

 

粉砕……ッ!宮永照の『加算麻雀』、それによる役満が死の淵から黄泉がえり、生還を果たし、己が闇を新たなものに進化させた小瀬川にあっさり粉砕……!役満を封殺されてしまった。配牌の最初の四牌こそ{中}を暗刻、{白}一枚と大三元ルートだと思われていたが、結果はこのように大三元とは大きく異なる配牌であった。

確かに打点は目も当てられないほど落ちた。が、スピードはそこまで落ちてはいない。確かに配牌聴牌に比べればスピードも確実に落ちたようにも見えるが、宮永照には{中}の暗刻がある。宮永照にとって打点がいらないこの状況、役牌暗刻はまさに天啓。完全に破壊されたが、牌の意志は宮永照を選んでいたのだ。流石は『牌に愛された子』。自分の能力を封殺されても尚宮永照は流れを失っていなかった。

 

この{中}暗刻。宮永照にとってこれを活かさないわけがない。鳴いて局を流すべき。それが当然であり、一番理にかなっている。だが、それをさせないのが小瀬川の、『神域の麻雀』なのだ。

 

一巡目

愛宕洋榎

打{九}

 

 

「ポン……!」

 

 

 

小瀬川:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {九九横九}

 

打{7}

 

 

幺九牌の{九}を一巡目から鳴いていく。その動作は今までの小瀬川とは比べ物にならないほど遅いが、確かにその鳴きには小瀬川の意志があった。これで早々に門前を崩し、手牌から弱々しく{7}を捨てる。しかし、この鳴きは常識的に考えて理解できない。今小瀬川と宮永照の点差は38,900点。いくらこの次の局のオーラス、小瀬川が親だとしても、できることならこの局、高打点を和了りたいところだ。門前を崩せば、大方の手は鳴けば打点が下がってしまう。

 

そう、だからこそ小瀬川の手は不気味なのだ。いくらあの小瀬川といえど、腕に力が入らず、牌すら満足に戻せないほど消耗している状態で二局はともかく、三局や四局打つのは厳しいという事は知っている。この場で一番理解できているはずだ。ならば、この局で逆転は無理だとしても、少ない局数で勝負を決めることができるように、高打点で和了るべき。これが理。

故に、ありえない。ありえぬ事なのだ。この巡目から早々に打点を落とす事になる門前崩しなど。通常ならあってはならない。ご法度と言っていいほどの愚行……!

・・・しかし、一つある。ただ一つだけの方法がある。鳴いていたとしても高打点を狙える役を。

 

(・・・萬子の清一色……ッ!)

 

そう萬子の染め手。清一色ならば、ドラの{二}を抱えていれば倍満にも成り得る勝負手を作れる。例え混一色だとしても、ドラと役牌さえ抱えていれば役牌混一色ドラ3の跳満に届く可能性もある。仮に小瀬川の手が染め手に向かっていると決めつけて考えてみれば、一巡目の鳴きも分からなくはない。鳴いても跳満倍満に成り得るなら、宮永照の役牌抱えに門前でスピード対決という分の悪い賭けをするよりは、鳴いて対等な勝負にするのは至って当然だろう。

 

そして小瀬川が切ったこの{7}、宮永照はこの{7}を鳴いていく事だって可能だ。これを鳴いて、小瀬川に食らいつく事も可能である。しかも厄介な辺張を処理できる絶好の機会。だが、宮永照はこれを拒否する。

 

(・・・"避"……ここは"避"を徹するしかない……)

 

そう、この局宮永照にとって一番重要なのは点棒を失わない事。確かに和了る事も重要だ。宮永照自身も和了れるのなら和了っておきたいところだ。事実、配牌が配られてから宮永照は鳴いて速攻で流すと考えていた。だが、今は状況が違う。小瀬川が迫ってきているのだ。当然、正面からぶつかり合う道もある。だが、明らかに分が悪い。悪すぎる。いくら宮永照が『牌に愛された子』とはいえ、小瀬川とまともに対等に闘えば小瀬川が一枚、いや二枚も三枚も上手である。それはこの決勝戦、そして宮永照が見た小瀬川と清水谷の準決勝を考えれば明々白々。明らかだ。明らかに段違いなのだ。他の者と、小瀬川白望という雀士との力量差は。練度、と言えばいいのだろうか。小瀬川が持つ刃と他者が持つ刃の圧倒的練度の違い。小瀬川の持つ刃には刃毀れ一つない。洗練され、磨き上げられた刃だ。

故に、"避"。避けなければならない……小瀬川という刃、妖刀を。あの小瀬川がどんなに鋭利な刃を持っていたとしても、それを避けてしまえば如何なる切れ味を持っていたとしても宮永照には傷一つつかない。そう、現物、安牌を切り続ける事で避け続ければ、小瀬川の跳満倍満には当たる事がない。小瀬川は萬子の染め手のはず、当然萬子や字牌が危険牌

の筆頭となるが、裏を返せば索子と筒子は確実に通るという事だ。しかし、これを鳴いてしまえば安牌の索子を二枚も失い、尚且つ手牌が狭まってしまう。そうやって何も考えず鳴いていけば、気付いた時には最悪全ての牌が萬子若しくは字牌で一向聴というような状況にもなりかねない。これでは百害あって一利なしだ。

だからこその、見逃し……宮永照、戦略的見逃し……!小瀬川の甘い誘惑、しかも良く考えれば直ぐに分かるようで、なかなかそれに気付けない厄介な誘惑を避けた……!少なくとも、宮永照はそう確信していた。

 

 

 

 

 

が……!駄目……!

 

(・・・気付いたね、照。()()()()()()()()……残念だけど、それは既に織り込み済み……想定内……!)

 

小瀬川の域は超えられない……!小瀬川の二重トラップにまんまとはまる宮永照。そう、宮永照は避けた、と解釈しているようだが、視点を変えて見ればこう捉える事も可能だ。

 

『真正面から闘うのを恐れ、小瀬川から逃げた』と。

無論、宮永照の判断は何方かと言えば正しい。普通の感覚ならばそれが正解だ。

だがしかし、この場では通用しない。……するはずがないのだ。牌の意志によって{中}が暗刻ならば、ここは攻め……!避けよりも攻めるべきだ。だが、宮永照はそうはしなかった。いや、それだと語弊がある。()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

あの一巡目から{九}を鳴くという愚行、あれに意味を持たせる事によって……!無論、小瀬川には宮永照の手牌が見えていないから宮永照が役牌を暗刻っているのを予測したのも、小瀬川が宮永照の鳴ける牌を打ったのも、全て偶然……直感に委ねた結果なのだ。

不合理、不条理、不可解。いくらでも小瀬川の麻雀を罵倒する言葉はある。だがしかし、現に宮永照がそう動いたのだ。鳴けるのにも関わらずそれを見逃し、避けの姿勢にする事ができたのだ。結果論でなく、これが小瀬川の強み……!偶然や直感……そういった不合理で、不条理で、不可解なものに身を委ねての麻雀……いや、ギャンブル……!!

 

 

(・・・退いたのならば、進もう。照が退いた分……私が前へ……)

 

小瀬川の最初の一手が鮮やかに炸裂した。宮永照を勝負から下ろさせる、これだけでも十分価値はあるのだが、あくまでもこれは前座。次に続く為の最初の一手にしか過ぎない……

 

最終目標、宮永照からの直撃を狙う為の僅かな、そして重要な一手なのだ。

 

それと同時に、小瀬川はある懸念を抱いていた。それは、この時点での逆転はできない。つまり当初の計画からは大きく逸れる事となった。別に、小瀬川にとってそこはさほど重要ではない。瑣末、どうでもいいことなのだ。問題なのは、それによる弊害だ。当然、この局での逆転が不可能ならば、次局も本気で行かなければならない。そこで自分の体がもってくれるかという事だ。確かに小瀬川を蝕んでいた闇は消え去り、小瀬川は知る由も無いが全く新しい闇へと生まれ変わり、小瀬川に牙を剥く事は無い。だが、それを差し置いても小瀬川の体の疲労、ダメージは大き過ぎた。肉体的にも、精神的にも。本気で行くとなれば当然休む事もできないし、何より二局やれるだけの体力が残っているのかも怪しい話だ。

そう、先ほどまでの目立つ危機では無いにしろ、小瀬川にとって致命的に成り得る問題がまだ残っていたのだ。

が、しかし、

 

(・・・面白い)

 

小瀬川は楽しんでいた。この危機的状況を。このピンチを。何故楽しいのかどうかは小瀬川本人もよくわかってはいない。本当は辛いはずなのに、苦しいはずなのに。何故か小瀬川は心の底から楽しんでいたのだ。

その楽しむ様は、かつて赤木しげるが、市川に銃を口に入れられてロシアンルーレットをしている時のような、狂気と純粋さが混じった、まさに赤木しげるそのものだった。

そして小瀬川は心の中でつぶやく。合理的な麻雀を目指しながらも、当時の赤木を限界まで追い詰めた市川から赤木へ。そして赤木から今度は小瀬川から受け継がれようとしている、あの言葉を……

 

(【狂気の沙汰ほど面白い……!】)

 

その時の小瀬川は体は弱々しく、いつ倒れてもおかしくないほどの状態だったが、彼女の目にははっきりとした闘志。そして狂気を宿していた。

 




今回、なんとツモ巡が一巡すらしてません。
なんてこったい!
明日はクリスマス回!シロが一緒にクリスマスを過ごすのは誰か……?それはあなたが決めるのです!

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