宮守の神域   作:銀一色

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決勝戦最終回です


第98話 決勝戦 ㊻ 死闘決着

 

 

 

 

 

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南四局 親:小瀬川白望 ドラ{西}

 

小瀬川 30,300

照 45,200

辻垣内 1,500

洋榎 23,000

 

 

 

 

宮永照:手牌

{八} {111横1} {五五五横赤五} {西横西西西} {③③横③③}

 

 

 

「聞こえなかったか……?」

 

 

(え……?)

 

 

 

妨碍……!小瀬川、今まさに栄光の嶺上牌{八}を掴むため、ウイニングランを開始した宮永照のその右手を妨碍……!!その手を遮る……!

当然、宮永照は困惑する。小瀬川がこれ以上何ができるというのか。全く分からなかった。宮永照の今の槓は四回目の槓。しかもそれまでの計三回の槓は宮永照自身が全て行ったもの。四槓流れは有り得ない。いや……そもそも四槓流れだとしても、宮永照が嶺上牌をツモった後捨て牌を捨てて初めて四槓流れが成立する。その嶺上牌で和了る事ができれば、四槓流れは成立しない……!そう、どうあろうとも、宮永照の槓は成立……!後は嶺上牌の{八}をツモって終わり……!

だというのに、何故小瀬川は宮永照を止める……?何故まだ諦めない……!?

誰しもが小瀬川白望の言う事の意味が分からなかった。どうして、宮永照を止めるのか。もう終わったはずではないか。

しかし……宮永照の勝ちが99%決まったこの状況で……未だ、小瀬川白望の目には闘志が灯っている……!!

 

 

(何が……)

 

 

疑問。先ず宮永照の頭の中に湧いた感情は疑問。小瀬川の言う意味が分からない。だが、その疑問の結び目が、どんどん解れていく。

そして疑問は驚愕へと変わっていく。

そう、宮永照の槓が流局するため成立しないのではない。それ以外の道……!

つまり、どういう事か。

 

 

 

宮永照がその答えを考えるよりも先に、小瀬川は前々から伏せていた手牌を元の状態に戻し、宮永照に向かって言い放つ。

 

 

 

「その嶺上……取る必要なし……」

 

 

(・・・まさか……)

 

 

 

槓をした時に、他家のロンが認められる場合は二パターン存在する。

一つ目のパターンは国士無双を他家が聴牌した時に、誰かがその和了牌を槓した時に国士無双のロン和了を認める場合。

そして、もう一つのパターンは誰かが加槓をした時に限り、その加槓した牌が他家の誰かの和了牌であれば、ロン和了を認める場合。

 

 

 

「槍槓。その槓成立せず……!」

 

 

小瀬川:和了形

{①②④④④⑤⑥⑦⑧⑨55赤5}

 

 

 

 

(なっ……!?)

 

 

 

槍槓……!!小瀬川、槍槓地獄待ちの{③}で鮮やかに宮永照を射った……!

いや……違う。鮮やかというのは些か違う。小瀬川のこの待ち、偶然の産物ではない。まず、小瀬川のこの待ち、{③}しかないということ……!しかも、小瀬川がリーチをかけたのは宮永照が{③}を鳴いた後、つまり、地獄待ちだと分かっていてリーチをかけたという事……!

それに加え、小瀬川の捨て牌を見るともっと驚く点がある……!リーチをかける前の小瀬川の捨て牌が

{北5中8①横1}

これ……!そう、リーチ宣言牌の一巡前に{①}が捨ててあるのだ。もしこの{①}を持っていれば、小瀬川の手は

{①①④④④⑤⑥⑦⑧⑨55赤5}

この形。{①、④⑦}の三面待ちになっているはずだった。当然、{③}待ちがないため、ツモっても確実に満貫……!という事は起きない。どうしても一発や裏ドラ期待となってしまう。が、それでもツモればリーチツモ赤1。2,600オール……!!この局で決着はつかずとも、一本場での点差はたった4,500……!3,900ツモでも事足りてしまう点差で、それでも小瀬川の勝ちは九割以上であっただろう。だが、それすらも拒否。九割九分九厘勝てるといった状況でも、小瀬川は流れない。100%。100%……!確実を、現実を追い求める……!99.9%という幻想、空虚を追わない。

そして現に小瀬川が{③}待ちを選ばず、三面待ちを選んでしまったら、宮永照を射す事は叶わなかっただろう。宮永照に四槓子嶺上開花を決められてそれで終わりとなっていた。その0.1%、そのわずかな差が、命運を分けた……!小瀬川と、宮永照の命運を……!!!

しかも、小瀬川自身も分からなかった。宮永照があの連続加槓を行えるような牌を嶺上牌で掴めるのか。もしかしたら宮永照は一回目の嶺上牌で終わり、誰かが振り込んで終わっていたかもしれない。ただ、そんな気がしたから。その一言に尽きる……!その直感を信じて、全てを賭けたのだ。そしてその勘、博打が実っただけ。ただそれだけなのだ。だが、誰がそんな賭けをするだろうか。もしその可能性が見えていたとしても、そんな無謀な事できるわけがない。しかし……小瀬川は選んだ……!その薄い薄い糸のような可能性に身を任せ、その糸を手繰ったのだ……!

そう、決して鮮やかなどではない……泥沼。泥沼の和了。勝利を目指して、地面に這い蹲ってでも小瀬川は進んだのだ。そして刺した……!泥と血にまみれた刃で……!

 

 

「リーチ槍槓一通赤1。……満貫」

 

 

小瀬川が点数を申告する。そう、この瞬間終わったのだ。この長い長い四つ巴の死闘、決勝戦が遂に決着。終了したのだ。ここまで色々な事が起こった。一つ一つ振り返っては埒があかないほど。そして拮抗していた。最後の南四局こそ小瀬川か宮永照のどちらかといった感じだったが、それはあくまでも点差のみの場合。・・・だが実際は少し違った。

 

 

(・・・少し及ばず……か)

 

 

辻垣内:手牌

{二三四九九⑦⑨白白発発発中}

 

 

この南四局、逆転は役満直撃が必須で辻垣内本人も半ば諦めていたが、配牌を開いてみれば大三元を狙える好配牌だったではないか。聴牌には至らなかったものの、あのまま続けていればいずれ聴牌していただろう。そう、あれだけ不可能、無理だとされていた辻垣内でさえ、この南四局では対等に戦っていたのだ。それは無論愛宕洋榎も。

 

 

愛宕洋榎:手牌

{六七2267999北南南南}

 

こちらは三倍満には程遠い手ではあるが、宮永照の槓によって生まれた新ドラ{9南}を暗刻にして、直撃に必要な跳満には至っていたのだ。

つまり、この南四局……いや、この決勝戦は常に拮抗していたのだ。最後の最後まで誰が勝つか分からない、緊迫していた勝負であった。

 

 

 

「・・・負けちゃった」

 

勝負の終わりを告げるブザーが鳴って、まず最初に口を開いたのは宮永照だった。だが不思議と、宮永照は悔しいとは思わなかった。ただ、小瀬川の賭けが、自分の予想を上回った。それ以上も無ければ、それ以下もない。そこには負け、という結果しか残っていない。だから宮永照に今できる事は、その負けを悔やむのではなく、負けを受け入れるという事だ。だからこそ、宮永照からその言葉は呟かれたのだ。

 

 

「ありがとう。白望さん……いい勝負だった」

 

そして宮永照はそう言ってお辞儀をする。そのお辞儀はまるでぺっこりんといういうな擬音語が付けられそうな行儀正しいお辞儀だった。そして宮永照は対局室を後にしようとするが、それを愛宕洋榎が宮永照の腕を掴んで止める。

 

「水くさいなぁ……折角なんやから四人一緒に帰ろうや。なあ?」

 

愛宕洋榎がそう言って辻垣内と小瀬川の方を向いて賛同を得ようとする。小瀬川と辻垣内は互いに顔を見合わせて微笑した後、小瀬川は辻垣内に向かって、

 

「行こうか。智葉」

 

と言い、立ち上がって手を未だ椅子に座る辻垣内に向かって差し伸べた。辻垣内は恥ずかしながらも、その手を握って

 

「そうだな……シロ」

 

そう言って立ち上がり、四人一斉に対局室を出た。

 

 

 

 

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「小瀬川選手、今のお気持ちはどうですか!?」

 

「ダ……嬉しいです」

 

「この気持ちを最初に誰に伝えたいですか!?」

 

「・・・取り敢えず親に伝えたいです」

 

 

 

死闘を演じた四人を最初に迎えたのは無数のカメラとマイクであった。例年いつも決勝戦は小学生の大会とはいえ、注目を浴びてきた。そんな注目されてきた勝負であんな高度な対局が繰り広げられれば、廊下を埋め尽くすほどの記者に囲まれるのは当然といえば当然であろう。

完全に逃げ場が無いので、仕方なく四人は取材に応えることにした。

 

 

「なんやシロちゃん、もっと愛想良くせんといかんやろ!」

 

「え……」

 

「ほら、笑って笑って!」

 

 

 

 

(はあ……思ってた以上に取材はダルいなあ)

 

 

 

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「何をあんなふざけた真似を……!あ〜??」

 

 

所変わって一面闇の世界。小瀬川が一度は堕ちたあの禍々しい闇。その世界一際目立って輝く光の前で佇む老人は小瀬川の勝利に対して激怒していた。

 

「おい、ヒゲ!!」

 

老人がそう闇に向かって叫ぶと、その闇の中から俗に言う閻魔大王らしき人物がやってくる。だが、その人物には閻魔大王の威厳が全く感じられない。閻魔大王らしき人物は呼んだ老人に完全に服従しており、閻魔大王とはとても思えない情けない者だった。だが、見た目だけは完全な閻魔大王だ。だが老人は閻魔大王に向かって叱咤し、蹴りを食らわす。

 

「くだらん!なんだあの有様はッ!!茶番……茶番劇……!!何故天は紛い物の奴に……!!」

 

閻魔大王はそんな老人の理不尽な怒りを受け止め、老人を一生懸命に宥める。

 

「わ、鷲巣様……どうか冷静に……!どうか冷静に……!」

 

 

「カッ!!」

 

 

そんな悲痛な訴えを聞いたのか、それとも老人の怒りが収まったのか、ともかく老人は閻魔大王を蹴る足を止め、光とは逆の方向へ歩を進める。

 

(しかし……奴の見せたあの鬼博打……あれはまさしくアカギの博打……いや、そうかそうか……!成る程成る程、そこにいるのだな……奴の近くに……アカギの存在が……!!だとすれば奴がなかなか地獄に来ないのも合点が行く……!)

 

閻魔大王はそんな老人をただじっと見ていただけだったが、老人がそれに気づくと閻魔大王に向かってこう言った。

 

「・・・あ?……ほれ!何をしておる、引き返すぞヒゲ!!」

 

 

「は、ははー!」

 

 

 

このように地獄の門番とも言われる存在の閻魔大王は、突如現れた老人によって屈服させられてその後老人は一度帰ったと思われたが、直ぐに戻ってきて今のような状態になり、完全に閻魔大王は老人の下僕となってしまい今まで色々な老人の我儘に付き合わされてきたが、それは別の話。

 




決勝戦はこれで終わりですが、小学生編はあと1、2話続きます。
まあ小学生編での対局はこれで終わりです。応援ありがとうございました。

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