宮守の神域   作:銀一色

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今回でサッカー回は終わりです。


第118話 大阪編 ④ ゲームセット

 

 

 

 

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視点:愛宕絹恵

 

(来い……!)

 

 

相手の11番がボールを置き、少し助走をつけるために後ろに下がる。それとほぼ同時に、ウチは腰を落として身構えた。ここはもう止めるしかない。何があっても、必ず。

 

『止めて……絹恵……』

 

だが、そう身構えた刹那、シロさんが私を応援するような声が聞こえてきた。どうやら、無意識中にウチはシロさんの事を考えてしまっているらしい。こんな状況だとしてもシロさんの事を考えるなど、シロさんはやっぱりウチにとってかけがえのない存在なのだろう。

11番がシュートではなく、パスを選択する可能性もある。そういった理由で、相手チームの位置確認を行うために辺りを見回す。だが、ここで問題が生じた。そう、なんと観客席にシロさんが座っていたのだ。シロさんはお姉ちゃんの隣に座っていて、確かにウチの方を見て口を動かしていたのだ。何を言っていたのかは定かではなかったが、口の動きだけで何を言っていたのかは感覚で理解できた。

 

止めて、絹恵。と。そう、さっき聞こえたシロさんの声は自分の想像内の幻聴ではなく、本当にシロさんがそういっていたのだ。

 

(な、なんで……?)

 

ウチが見たのは見回した時の数秒にも満たない時間ではあったが、見間違えるわけがない。あの特異的な髪の色をしているのは白望さん以外の何者でもない。あのシロさんが、ウチの事を応援してくれている。そう考えると、嬉しさが込み上げてくる。だが、何故シロさんがここにいるのだ。どうしてシロさんがこの大阪までやってきて、そしてウチの試合を見に来ているのか、そういった疑問も一気に押し寄せてきたが、相手はそれを待ってはくれない。とりあえず一旦保留だ。止めなくては。

 

(シロさん……応援しててくれや!)

 

11番が助走を始める。11番の目の前には味方が作った壁が存在しているが、多分物ともせずその上を通ってくるだろう。何本ものシュートを止めてきたウチが言うのだから間違いない。

そして11番は助走の勢いをつけたまま、思いっきり足を振り上げた。シュートでくる。そう悟ったウチはいつでも飛びつけることができるよう目でタイミングを取る。そうして、11番はボールを思いっきり蹴り上げた。

 

(なっ……!?)

 

だが、11番が蹴ったボールは想像したよりも高く飛んでいた。このままでは、どう考えてもボールはゴールの真上を通り過ぎていく。だが、ウチはそれでも尚そのボールに向かって手を伸ばすべく、飛び上がった。11番がボールを蹴る時、僅かながら足首にスナップをきかせて蹴っていたのだ。そう、ボールには縦回転がかかっているドライブシュートを放ったのだ。本来、ドライブシュートはボールが地面に接している状態から打つのはほぼ不可能なはずであったが、それでもあの11番はやってのけたのである。そしてウチが飛んだ瞬間、ほぼ同時にボールは鋭く落ち始めた。ウチはめいいっぱい手を伸ばす。届かない、とも思ったがそこは気合いでなんとかした。その結果、ウチのキーパーグローブの指先で僅かにボールに触ることができた。キャッチはできなかったものの、触ることができたことによってボールが僅かに浮いた。そしてボールはゴールネットではなく、バーに直撃する。ウチの咄嗟の判断が、あわやゴールという危機を救った。それと同時に地面に落下し、尻餅をついたが、バーに当たって跳ね返ったボールを取るべくボールに向かって飛びつく。なんとかボールを掴むことに成功する。今度はウチらが攻める番だ。残り五分、ダメ押しにもう一点もぎ取ってやる。

 

「オラッ!!」

 

大声で叫びながら、ボールを前線に向かう味方に向かって思いっきりボールを蹴り上げる。

そしてさっきフリーキックでドライブシュートなどというとんでもないことをしでかした11番はウチが蹴り飛ばしたボールを呆然と見上げてあと、守備に戻る前にウチに向かってこう言った。

 

「ナイスキーパーやったで」

 

そういって11番は守備に戻ろうとする。ウチはその背中を見届けながら、小さくこう呟いた。

 

「・・・お前さんも、ナイスシュートやったで」

 

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

「止めた……」

 

「止めたでシロちゃん!」

 

ボールが急に変な軌道になった、洋榎曰くドライブシュートとやらを絹恵はしっかりと止めた。ボールが高く上がったと思ったら、急に落ちるなどというどうボールを蹴ったらそうなるのかわからないくらい摩訶不思議なシュートも、絹恵は正確に見極めたのだ。

凄い。素直にただただそう思った。試合が始まってから、ボールを蹴る時、ボールを止めた時、そんな些細で僅かな動作でさえも私は凄いと感じた。

そしてそんな絹恵が、どことなくカッコよく思えた。

 

「ん?どうしたシロちゃん」

 

洋榎が私に向かって話しかけてくる。思わず表情に出してしまったかと一瞬焦ったが、すぐに平静を取り戻し、洋榎にこう言った。

 

「サッカーって凄いんだね……」

 

 

 

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視点:愛宕絹恵

 

 

絶体絶命のピンチをなんとか守りきり、試合もあと一、二分。いや、もう既にアディショナルタイムに突入しているだろうか、ともかく最終局面を迎えようとしていた。

そう思った矢先、味方の放ったシュートが相手に当たってラインを割った。これでウチのチームにコーナーキックというチャンスが生まれた。そしてウチが審判の方を見ると、審判はチラチラ腕時計を見ていた。試合中に審判が時間を気にするときは、大概一つだ。

それはもう試合終了まで時間がないということ。そう、コーナーキックとなった瞬間審判が時計を見たということは、つまりこのコーナーキックが最後のワンプレーということ。

 

(・・・よしっ!)

 

それを見たウチは、迷わず思いっきり相手のゴールに向かって駆け上がる。ゴールキーパーだというのにゴールの守りを放棄するが、どうせ相手にボールが渡ったとしてもそれで試合終了だ。ならここはダメ押しの一点を取りに行くしかない。

 

そうしてウチがゴール前まで移動したのを確認したコーナーキックを蹴る味方は、ゴール前に向かって思いっきり蹴り上げた。そのボールはウチより手前側の味方に向かって落ち、その味方は頭でボールに合わせ、ヘッドシュートを放つが、ボールはキーパーによって弾かれる。

 

(今や……!)

 

そう、ここだ。キーパーがボールを弾いた直後のこの瞬間、相手は少なからず油断する。ここでウチは半ばスライディング気味に体を滑らせ、ボールに向かって突っ込む。ゴールを守る壁はもういない。ウチはゴールに向かってボールごと滑り込んだ。

 

「よっしゃあ!!」

 

 

ボールをねじ込んだウチはすぐさま立ち上がり、ガッツポーズをとった。その瞬間、審判が笛を鳴らす。

 

 

ピーッ、ピーッ、ピーーーッ!

 

 

そう、それが指し示すのは、ウチらのチームの勝利。強豪相手にして、2-0。最高の形で試合を終えることができた。ウチは観戦席に座っているお姉ちゃんとシロさんに向かって、ピースサインを送った。

 

 

 

 

 

 

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視点:愛宕絹恵

 

 

「シロさーん!」

 

試合が終わって、そのあと最初に向かった先は試合に来ていたシロさんのところだった。シロさんに飛びつき、そのまま体を思いっきり抱きしめた。

 

「お疲れ……カッコ良かったよ。絹恵」

 

シロさんはそういってウチの頭を優しく撫でる。温かい。試合が終わって急激に冷えたウチの体はシロさんの温もり以上に温かみを感じた。

 

「そういえば、なんでシロさんはここに……?」

 

そしてウチの今の1番の疑問をシロさんにぶつける。どうしてここにいるのk、ということだ。だが、意外にもシロさんは「え?」と驚いていた。どういうことか、と思ったがそんな私とシロさんの元にお姉ちゃんがやってきて、頭を下げた。

 

「すまん、絹!サプライズと思って内緒にしてたんや!」

 

なんだそういうことか。推測だが、お姉ちゃんはウチにシロさんが来ると伝えたらウチが緊張していつも通りできないと配慮して黙っていたのだろう。そういったところも考えてくれるなど、やはりお姉ちゃんは優しい人だ。

 

「お疲れさん、絹恵」

 

そういってオカンがウチの方に向かってやってきた。後ろにはオトンもいる。二人に返事をしようとしたが、ここで今の自分の状態を思い出す。

 

(シロさんに……抱きついたまま……///)

 

 

そんな自分の痴態を、両親に向かって見せつけていることとなる。オカンもオトンも、微笑ましそうにこっちを見ていた。

その瞬間、ウチの頬が髪の毛とは正反対の色、赤色に染まったのであった。

 

 

 

 

 




あと数話愛宕姉妹編をやったあと、次の人に移ります。
大阪編は少しばかり長引きそうです。

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