宮守の神域   作:銀一色

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やっと書き終わりました。
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第131話 大阪編 ⑰ 膝枕と雀荘

 

 

 

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

 

「疲れた……」

 

 

セーラとのバドミントン対決が終わった後、私は怜がいるベンチにまるで砂漠で水を追い求める遭難者のような歩き方で行った。あの後も何度かセーラにリベンジしに行ったが、全戦全敗。私の普段の運動のしなさによる体力不足が完全に決め手となった。いや、それだけではない。そもそものバドミントン力の時点でセーラに圧倒されていたと思う。思えば、私はただセーラの打球に追いついてそれを一生懸命に返しているだけだ。それに対して、セーラは私のことを上下左右に揺さぶって攻撃をしてきていたような感じだった。

いくら遊びのバドミントンとはいえ、あそこまで完膚なきまでに叩きのめされると悔しいものがある。だが、バドミントンではどうしようもないためバドミントンをやっている最中は実に歯がゆかった。

 

 

「お疲れ様やでー」

 

私とセーラの一戦目以降からバドミントンをやり始めていたはずの怜が竜華の膝枕を堪能しながら私とセーラに向かってそう言う。どうやら私よりも先に体力の限界が来てしまったらしい。怜にはあまり無理して欲しくないので、何か怜に異常が起こる前に中断してくれて良かった。

だが、そんな怜を私は非常に羨ましそうな目で見ていた。いや、少し違うか。私が見ていたのは竜華の膝枕。私も一度怜に膝枕をやってあげた事がある。あの時は膝枕の何が良いのか分からなかったが、疲れてクタクタの今では膝枕というものがとても羨ましく感じている。

するとそんな私の憧れの表情をセーラが横から見ていた。見られている事に気がついて視線をセーラの方に向ける。すると当然のことだがセーラと目が合う。だが、セーラは咄嗟に目線を外した。一瞬機嫌が悪いのかなとか思ったが、セーラはベンチへと座って私に向かってこう言った。

 

「おいでや」

 

「・・・?」

 

「膝枕、してやる……で?」

 

 

怜を羨んだ私を気遣ってくれたのか、私に膝枕をしてくれると言ってくれた。ということで私は怜と同じ姿勢、ベンチに寝っ転がるような姿勢にして、セーラの太腿を枕代わりにする。

セーラの太腿が私の後頭部に触れた瞬間、柔らかい感触が頭に伝わってきた。

 

「気持ち良い……」

 

思わず言葉に出してしまうほどセーラの太腿は気持ち良かった。なるほど、これは病みつきになりそうだ。怜が好きになる理由も、今となっては十分に分かる。そして私が一番驚いたのは、セーラの太腿があまりにも心地よい柔らかさであるということだ。セーラには豪快、というイメージがあったのでこの柔らかさは予想していなかった。

 

「そ、そうか?そうならええんやけど……」

 

セーラがそう言う。もはや気持ち良いどころの騒ぎではないのだが、私の語彙力では言い表すことができない。なんだろうか?ふかふかの綿……とも違うし、ちょうど良いムッチリ感、と言えば良いのだろうか。ただとにかく心地よくて、なんだったらこのまま寝れるくらいのものだった。多分、胡桃の「充電」もこれと同じようなものなのだろう。今までさせる側の私は何が気持ち良いのかと思っていたが、いざする側に回ると、確かにこれは気持ちがよすぎる。

 

(・・・もう、いいかな……)

 

そう心の中で呟き、私は瞳を閉じようとする。もう限界だ。この膝枕の気持ち良さによって急激に眠気が私を襲った。公園で、しかもセーラの膝枕の上で寝てはいけないということは理解しているのだが、それでもこの心地よさには勝てなかった……

だが、そんな私を我に戻す声が聞こえた。その音源は、私と共にそれぞれの膝枕を堪能していたはずの怜からであった。

 

「イケメンさん、起きや」

 

その声によって私の目はパチリ、と開いた。いつの間にか怜は膝枕を止めていて、ベンチから立ち上がっていた。私はセーラの膝枕から起き上がり、怜の方を見る。怜はムスッとした表情で私の方を見ていた。しまった。そりゃあそうだ、友達と一緒にいるというのに、私だけ一人寝てしまってはいけないだろう。私はベンチからも立ち上がり、セーラに「ありがとう」と告げてから、怜に「ごめん」と謝った。

そうして竜華がバドミントンのラケットと羽をしまうと、私たち四人は話し合った。もちろん、話し合いの内容は次に何をするのかという事についてだ。しかし、怜は既に考えていたらしく、胸を張って私たちに言った。

 

「次はな……麻雀や!」

 

麻雀。まあ、私たちが集まって何をするかといったらまあそれくらいしか思いつかないのだが。だが、セーラも麻雀を打てるのか、という疑問も浮かんできたのも事実だ。バドミントンをやっているところを見てきた直後なら尚更のこと。というわけでその事をセーラに聞いてみた。

 

「セーラって麻雀打つんだ……」

 

「おお、せやで。シロって強いんやろ?怜や竜華から聞いとるで?」

 

「まあ一応……バドミントンでは負けたけど、麻雀では負けないよ」

 

「望むところや」

 

そう言ってセーラと見つめ合う。彼女から発せられているオーラは常人のソレとは一線を超えていた。感じたのはオーラだけであったが、それだけでもセーラが強いということがわかる。成る程、これは面白くなりそうだ。

 

「ほな、雀荘行くで?」

 

そう言って怜が私の手を握って歩き出そうとする。だが、それを竜華が遮った。

 

「ちょ、怜、部室でええんちゃう?」

 

部室……彼女たちが行っている中学校には麻雀部が存在しているのだろうか?私の学校には麻雀部という部そのものが存在していない。まあ、あったとしても大会に出る気はないので入るつもりはないのだが。そして麻雀部が存在していないため、当然麻雀卓もあるわけがない。竜華の言葉を聞いていると、おそらく麻雀卓もあるのだろう。

だが、そんな竜華の発言もセーラがバッサリと切る。

 

「そもそも部室閉まっとるんやろ?」

 

「あっ……せやったな。ははは……」

 

というわけで、私たちは近くにある雀荘へと向かった。

 

 

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

 

たまたま近くの雀荘に入ってきた私たち四人。扉を開けると、そこは普通の雀荘では感じることもできなさそうなくらい殺気がプンプンと漂っていた。座っている人たちは皆何かを賭けているかのように必死な表情をしており、その中には今にも崩れ落ちそうな絶望している人もいた。

 

「な、なあ……怜?ヤバいんちゃう……?」

 

竜華が怜に向かってそう言う。ああそうか、私は別にこういうのはどうってことはないが、彼女からしてみればこの場はとても恐ろしいものだろう。竜華たちの顔はひどく恐怖したような表情をしている。

だが、そんな中私はあるものが目にとまった。雀荘の入り口のドアから一番遠い場所にある卓。四人打ちをしていて、その中の一人だけが晴れない顔をしていた。そして他の三人はというと、明らかに通しやイカサマをして打っていた。恐らく、この三人は裏で結託していて晴れない顔の人を集中して搾り取っているのだろう。まあその人は通しやサマはおろか、自分だけが狙われている事に気付いていないようだけど。

 

「ちょ、シロ!?」

 

セーラが何かを言っているが、私にはもう聞こえなかった。自然と足がその卓の方に向かって動き、カモられているそのおじさんの肩を叩いて、こう言った。

 

「・・・代わりましょうか?」

 

私が何故、こういう事に首を突っ込んだのかと言われると、自分でも分からない。そのカモられているおじさんを哀れに思ったわけでも、そういうサマや通しが許せないというわけでもない。ただ、面白そうだったから。この一言に尽きる話だった。俗に言う博徒の性というものだろう。カモられているおじさんは驚いた表情で私の事を見た。まあ、中学生の女子にそんなことを言われたら当然驚くだろう。結託している三人はというと、私の事を睨みつけていた。周りで打っている人たちも視線は向けてはいないが、確実に私の存在に感づいている。そうして、入り口の近くにいる怜たちはオロオロしていた。私のワガママで無理矢理巻き込んだ形になってしまったが、後でちゃんと謝っておこう。そうして私は驚いた表情をしているおじさんに向かってこう続けた。

 

「大丈夫です。この勝負……必ず勝ちます」

 




ということで次回は麻雀回です。
因みに、カモられていたおじさんは完全なモブです。

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