宮守の神域   作:銀一色

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今日少し拙いし短いです。
なんもかんも週末のせい(意味不明)


第133話 大阪編 ⑲ 水を失った魚

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視点:小瀬川白望

 

 

前局の私の倍満の責任払いによって、さっきまであった三万ちょっとの点差は一気に無くなり、現在の点差は1,700。ノミ手の直撃で逆転できる点差となった。この事態にヤクザのお三方の額には汗が流れている。まあ、あんなにあっさり実質倍満に振り込んだとなれば焦りたい気持ちも分からないでもない。

そんな彼ら達とは正反対に、後ろにいる怜と竜華とセーラはホッとしている。彼女らからしてみれば自分が賭けているわけではないものの、負ければ腕を失うという一生体験できることのない緊張と恐怖。一安心したいのもしょうがない、と言ったところか。

 

(だけど……まだ終わってない。終わってないし、終わらせない……)

 

そう。安心するのはまだ早い。早すぎるのだ。私は幾度となく絶体絶命の状況に相対しても決して諦めずここまで勝ち続けてきた。勝負というのは何が起こるか最後までまだ分からないのだ。だからこそ、油断すれば逆も然りということだ。最後の最後までどう転ぶかは分からない。だがそんな未確定なものであったとしても、油断しなければそういう事は起こらない。地力で圧倒的差がある私と彼らが油断や驕りなしで打ったとしたら話にすらならない。一見そんなことは至って当然の事だろうと思うかもしれない。だが、その「油断しない」という事が至難の技。人間である以上、油断という感情を捨て去るのは不可能なのだ。

しかし、『神域』を目指す私にとってはこれくらいは出来なければ話にもならない。たとえどんな状況だとしても、私が気を緩める事はない。もし仮に今赤木さんが打っていたとしても、あの人は油断する以前の話だ。こんなことをいちいち思ったり確認することなどしない。何故ならそれが赤木さんにとっての普通、自然体なのだから。

 

(思えば……竜華にも前に一回してやられたなあ)

 

そう考えているうちに、ふと1年前の事を思い出す。全国大会で竜華と打った準決勝で、竜華に一度だけ虚をつかれて和了牌を全部潰された事がある。それもいわばもう一枚和了牌が残るであろうという油断からくるものだ。ただでさえ一度苦い思いをしているというのに、それを二度も繰り返すほど私は愚か者ではない。

 

「・・・ツモ」

 

南二局、そろそろ相手が仕掛けてきそうなところで私がそれを遮るようにして和了る。通しはだいたい理解することができた。まあ通しといっても、それは実に呆気ない簡素なものだが。相手が打牌するとき、上から叩きつけるようにして置いた場合は萬子が鳴きたい場合であり、一度手前に置いてから前に向かって押すように置く場合は索子、横から置く場合は筒子といった風に、イカサマや通しに慣れない私から見ても分かってしまうほどお粗末なサインであった。というかそもそも相手の自分の手牌を見る目線でだいたい分かり、サインがなくとも何が欲しいかが分かってしまい、サインの意味は殆どないのだが。

 

 

小瀬川白望:和了形

{一二三①②③⑦⑧⑨1239}

ツモ{9}

 

「ツモ純チャン三色……跳満」

 

 

話変わって、私がこの局和了ったのは門前ツモに純チャンに三色もついて跳満の3,000-6,000。私の和了形を見て、お三方の顔が真っ青になっていくのが分かる。そろそろ余裕がなくなってきた頃か。

 

(一度折れればあとは下り坂……)

 

だが、余裕がなくなってしまったらもう彼らには勝ち目は微塵も残っていない。一度崩れて仕舞えば転げ落ちるかのように負けの道を突き進むものだ。三人での連携も考えられなくなり、ここは自分が何とかしなければという思考が働いてしまう。だが、そんな思考こそ墓穴。三人の通しによる協力の利点が無くなり、個人個人で私と闘うという事になってしまう。そして誰か一人でもそういった思考に陥れば完全に三人の連携は絶たれる。

 

(こんなのはどうかな……?)

 

 

打{7}

 

 

「「「!」」」

 

 

そうして始まった南三局、既に逆転されあとがもうない彼らを追い詰めるのはとても容易いものだった。

気付かない方が幸せなのに、三巡目であっさり私の罠に気付いてしまう。負けかけているときに妙に警戒心を抱く人間の性というものだが、私からしてみればこれほど操りやすい思考回路はない。

 

小瀬川:捨て牌

{⑧⑤7}

 

 

まあ言うまでもなくありきたりな国士無双のブラフ。怪しすぎて見破られそうにも見えるが、こういう時人間は妙に警戒心が高いものの、思考力は全くもってない。彼らがそれに気付けていたら、そもそも私にここまで追い詰められないであろう。

そして危機に相対すれば連携力は一気に失われる。意思疎通できない連携などかえって足を引っ張り合うだけ。

 

小瀬川

打{八}

 

 

「ロ「ロン!」……!?」

 

 

そうして七巡目、私が切った牌に二人が反応する。対面の男と上家の男。対面の男……つまり差し馬を握った男は跳満手を張っていたが、頭ハネルールによって上家のノミ手に潰されてしまった。恐らく私の国士無双をいち早く止めたくてノミ手を作ったのだろうが、それこそが私の狙いだ。あのままいけば恐らく対面の男が跳満手をツモっていただろう。全て私の誘導通りだ。彼らは今や水を失った魚。泳ぐことができなくなった魚はまさに木偶の坊。生きることすらままならない。

 

 

(まだまだ……もっとやろう)

 

 

後一局、この勝負は私が親のオーラスのみであるが、最後まで麻雀を打とうではないか。

 

 




次回で麻雀回は終わりです
アンケートは後4日ありますがこのままいけば豊音ですかねー

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