宮守の神域   作:銀一色

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奈良編です。


第141話 奈良編 ④ 欠点

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視点:小瀬川白望

 

 

 私が松実さんから直撃を取ると、案の定赤土さんがやってきて驚愕する。確かに、松実さんの能力……『ドラが集まる能力』は強力だ。何もわからない状態でやればかなりの強敵だし、事実ある程度推測していたからこの東一局に松実さんから直撃を取れた。多分、予備知識なしでいけばこの局かもう一局は様子見していただろう。

 一見、超強力な能力に見えるかもしれないが実は少し違う。いや、能力自体は超強力と言っても過言ではない。私が見る限り、『自分にドラが集まる』のだから、『相手にドラが行かなくなる』のだろう。その時点で相手からドラという武器を取り上げ、自分はドラ爆……一回点差をつけられれば、逆転は容易ではない。しかし、松実さんの能力には明確な欠点がある。能力自体ではなく、それ以外に。

 まず、一つ目の欠点はドラというわかりやすいモノが松実さんに集中してしまうが故、その能力がすぐにバレてしまうという点だ。先程言った通り、松実さんの能力を全く知らない状態で闘えばかなりの脅威だ。相手が気づかぬ限り松実さんは絶対的優位の状況で闘うことができる。しかし、その松実さんの優位ももって二局。疑心暗鬼に相手がうまく陥ればもっと長くなるが、実際そんな上手く疑心暗鬼に陥ることなど殆どないと言っても過言ではない。松実さんの能力の利点を潰してしまうこの欠点は結構致命的な欠点だ。

 そしてもう一つの欠点だが、こっちはもっと深刻だ。松実さんの能力はドラが集まる能力なのだが、その集まったドラを決して松実さんは放たないということだ。松実さんは意図的でドラを放たないでいるのか、それとも何か縛りがあってドラを放てないのかは分からないが、これはもっと致命的な欠点。簡単な話、松実さんは相手に高確率で振るかもしれないし、そして尚且つ愚形であろうと、それがドラを打たないとなればそれを選んでしまうということだ。さっきはたまたま聴牌するのに{③}打ちが必要であり、それしか方法が無かったが故に、しかたない振り込みであったかもしれない。幾つかの偶然が重なった悲劇であろう。

 しかし、もしそういった偶然の悲劇でなくとも、対処は簡単だ。松実さんはドラを手放せないが故に、

 

 (ドラを優先させるという前提のもと整理される牌を殺すだけ……)

 

 そう。そんな簡単なことで済む話なのだ。無論、相手によってはこれらの欠点が相手に知られても十分に闘える場合はある。しかし、少なくともそれでは私には遠く及ばないし、私が今まで闘ってきた強者にも勝てないだろう。松実さんには酷かもしれないが、それは事実である。

 まあ、その欠点が必ずしもガンになるとは限らない。なんとかしてその欠点を逆手にとって行動することは不可能ではないし、もしドラを捨てられないという制約があるのなら、それを打ち破れるようにすることもできるかもしれない。まあ、それは松実さんが自分で気付かなくてはいけないことだ。教えるのは簡単だが、松実さんが自分で乗り越えてこその壁だと思う。

 

 (それよりも……)

 

 私は視線を自分の後方へとずらす。私の左斜め後ろに立っているのは、赤土さんだ。私が一番気になっていたのは、松実さんよりもむしろ赤土さん。

 

 (何に怯えているんだろう……?)

 

 そう、私が赤土さんの気になっていた部分は、その異常な驚愕のしかた。確かに、これまで色々と人に驚愕されたことはある。しかし、今回の赤土さんの驚きかたは少し違った。どっちかというと、私に怯えているというよりかは、何かを思い出して怯えているような感じだ。

 何が赤土さんをここまで追い詰めているのだろうか。一瞬赤木さんが過去に赤土さんに何かしたのかなとか思ったが、どう考えても年齢的にそれはないだろう。

 まあなんにせよ、その何かによって赤土さんが縛られているのは確かだ。あのオーラを見る限り、赤土さんは相当の実力者のはずだ。そんな赤土さんをここまで追い詰めた誰かがいる。私はそれに少し興味を示しながら、配牌を取る。

 

 

 

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視点:新子憧

 

 

 「ロン」、という声が聞こえてくる。これで、小瀬川さんが「ロン」と言ったのは4回目。対する玄は、何も出来ぬまま点棒を搾り取られている。あの玄でさえも小瀬川さんの親を止めることはできずに東一局も四本場になろうとしていた。言いかたは悪いが、小瀬川さんの一方的な虐殺であった。ドラがないというハンディキャップを物ともせずに……いや、寧ろそれを利用しながら小瀬川さんはどんどん玄から直撃を取っている。確かに玄はドラを優先する制約があるが、かつてそれを利用して、ここまで一方的に玄を叩きのめした人はいただろうか。

 

 「リーチ」

 

 そしてこの四本場、ついに小瀬川さんはリーチを放ってくる。これで玄をトバして終わらせるつもりだ。それは分かっているのだが、玄にはどうすることもできない。ドラを手放すことはできないし、かといってドラを優先させてしまえば、小瀬川さんに狙い撃たれるのは目に見えている。

 

 「……ロン」

 

 結局、玄が小瀬川さんに振り込んで玄のトビ終了。この『阿知賀子供麻雀クラブ』最強の玄が為す術もなくやられてしまった。

 

 「強い……」

 

 隣に座っているシズがそんなことを呟く。語彙力のない自分が情けなくなったが、確かにその言葉しか出てこなかった。玄の能力に気づき、逆手にとった事はもちろん、それ以外にも、まるで牌がすけて見えているかのような打ちまわしであった。というか、そういう能力なのかと思えてしまうほど理解できない打ち筋であった。

 

 「……ありがとうございました」

 

 そう言って、小瀬川さんは席を立って礼をする。対する玄は若干涙目であったが、直ぐに立ち上がって礼をした。私とシズは、その礼が終わってもしばし呆然としていたままであった。

 

 「……松実さん。お疲れ」

 

 小瀬川さんが玄にそう言う。玄は涙目になりながらも小瀬川さんに一目散に向かって抱きついた。玄は「小瀬川さんー!」と言って小瀬川の胸に頭をこすりつけていた。泣いているのか喜んでいるのかは分からないが、多分どっちもあるだろう。

 

 「……赤土さん」

 

 そんな玄を半ば微笑ましそうに見ていたまさにその最中、小瀬川さんが口を開く。一気に室内全員の緊張が高まるのが分かる。呼ばれたハルエも、思わず身構えてしまっていた。よく見るとハルエの額には汗が噴き出していた。

 

 「……打ちましょうか」

 

 

 

 




次回はレジェンゴ戦。

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