宮守の神域   作:銀一色

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お久しぶりです。
一応復帰しました。まだ病み上がりですが。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。


第144話 奈良編 ⑦ あの時と酷似

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視点:神の視点

 

 

ツモ{四}

 

 

 (な……)

 

 赤土晴絵が引いたのは{四}。和了牌ではあるが、和了ることができない{四}。これでこの{四}を捨てればフリテンとなってしまう。

 一度聴牌を崩すのも一つの手ではある。しかし、いつ小瀬川白望が聴牌してもおかしくはない。確かにさっきの鳴きは潰したが、それでも最後の一牌の{2}をツモったりなど、小瀬川白望が聴牌できないという保証はどこにもない。

 それに、これでフリテンになってもまだ完全に和了り目が潰えたわけではない。まだ{中}は残っている……()()()()()()()()()()()()()()

 

 

小瀬川白望:手牌

{③③134北北北中中} {横八七九}

 

 しかし、実際には小瀬川白望が既に赤土晴絵の最後の希望は潰してあるのだが。つまり赤土晴絵が{中}の在り処に気付くのは皮肉にも小瀬川白望が和了る時しかないということだ。

 無論赤土晴絵が和了ることもなく、高鴨穏乃と新子憧も小瀬川白望に追いつくこともできずに六巡後、

 

 「ツモっ……」

 

小瀬川白望:和了形

{③③③44北北北中中} {横八七九}

ツモ{4}

 

 「700、1300……」

 

 

 (馬鹿な……!?)

 

 そしてこの時、初めて赤土晴絵は全てが小瀬川白望の掌の上で踊らされていることに気付いた。唯一の和了牌である{中}が既に全て潰されていたことも、あの鳴きも自分の手に融通をきかせなくするためのフェイク、ブラフであることも。あの一巡目から、全てを見越していたという事実に赤土晴絵は驚きを隠せない。

 牌に対する嗅覚、とでも言うのだろうか。驚くべき瞬時の判断速度が、常人とは桁外れに速いのだ。あの時の小鍛冶健夜も、常人とはかけ離れたものを持っていたが、ベクトルは全く違うので全てを比較するのは難しいが、小瀬川白望の方が恐ろしさという観点から言えば確実に恐ろしい。小鍛冶健夜はただ単純な火力でねじ伏せられたが、この小瀬川白望は違う。思考回路を全て読みきられた上で、完璧な形でこちらの息の根を止めてくる。まるでこちらの体を直接糸やら何やらで操っているかのように、的確に思考を誘導してくる。

 

 

 (……まだまだこれからだよ、赤土さん……)

 

 小瀬川白望は、自分に対してひどく驚愕している赤土晴絵を見ながら嗤う。しかし、まだまだこれもほんの小手調べにしかすぎない。そして小瀬川白望が睨んでいたように、赤土晴絵にはまだ拭いきれないトラウマがあることがこの一局で完全に証明された。

 

 

 そしてそんな二人の横に座っている高鴨穏乃と新子憧は、この局に何が起こっていたのかを未だ分からずにいた。小瀬川白望のやっていた事に対しても、それを瞬時に理解する事のできた赤土晴絵に対しても二人は驚愕する。やはり、何故あの一巡目で小瀬川白望が鳴いたのか理解できなかったのだ。まあ、赤土晴絵にチャンタ手を鳴いて進めているということを敢えて知らせて危機感を持たせるという事を瞬時に理解できる事の方がおかしいのだが。だが、そんなおかしい事でも、勝負の場になればそんな事は関係ない。寧ろ逆、理解できない事の方がおかしいとされるのだ。

 

 (すごい……赤土先生もだけど、やっぱり小瀬川さんの方がそれ以上に凄い……)

 

 しかし、小瀬川白望の背後で見ていた松実玄は何とか現状を理解できていた。いや、正確には完全に理解できてはいないのだが、高鴨穏乃と新子憧よりかは理解できている。先ほど実際に小瀬川白望と打ったからであろう。だからこそいざ第三者の視点で見ればその異常さが際立つ。

 

 (……やはり、恐ろしいな)

 

 そして小瀬川白望の真正面にいる赤土晴絵は、小瀬川白望をまっすぐ見据えながら苦笑する。己が生涯をこれまで通して、小鍛冶健夜の右に出る相手に出会う事はもうないであろうと思っていた。しかし、今目の前にいる小瀬川白望は、右に出るどころか、それ以上を行く者かもしれない。確かにそんな気はしていたが、今実際に打って再度確信した。この雀士は俗に言う化け物、牌に愛された子、それらを殺す事のできる全くもって規格外の存在。小鍛冶健夜には跳満を直撃させたことがあったが、小瀬川白望にはどうやっても跳満どころか、直撃さえ不可能な気がしてならなかった。

 

 (って……何を考えているんだ。私は……)

 

 だが、赤土晴絵は折れない。そもそも、もう折れないという気持ちで挑んだこの勝負。一度小鍛冶健夜に叩き折られてはいる。しかし、もうそう易々と折れるほど赤土晴絵の心は脆くはない。あれから赤土晴絵は少なからずは成長したのだ。そう再確認して、赤土晴絵は点棒を取り出して小瀬川白望に手渡す。

 

 

 

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視点:神の視点

東二局 親:新子憧 ドラ{西}

 

小瀬川白望 27700

高鴨穏乃  24300

赤土晴絵  23700

新子憧   24300

 

 

 (何だこれは……まるであの時のようだ)

 

 

 東二局、赤土晴絵は自身の配牌を開くと、少し自虐的に笑った。今赤土晴絵が開いた配牌が、あの時……そう、小鍛冶健夜から跳満を直撃させた時の配牌と酷似していたからだった。

 

赤土晴絵:配牌

{二二四七八⑦49白白発中中}

 

 配牌は大三元が狙える勝負手。赤土晴絵は、こんな配牌から小鍛冶健夜から()()()()()()を直撃させたのであった。その時の配牌が、多少差異はあるものの殆ど同じ感じであった。無論、だからと言ってあの小瀬川白望に小鍛冶健夜と同じ手法を使って跳満を直撃させることができるとは到底思えない。そもそも、配牌が似ているだけで展開まで同じようになるとは限らない。しかし、その点だけは赤土晴絵の中で確信していた。確実に、あの時と同じ展開になる。そんな気がした。

 

 「ポン!」

 

 そうして赤土晴絵は、親の新子憧が捨てた{中}を鳴いた。

 

 




言うまでもありませんが、レジェンドさんがすこやんに跳満を直撃させたのが小三元混一色であるというのはオリジナルです。
思いつくのが大三元と見せかけて小三元くらいしか思いつきませんでした。

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