チョロインが多すぎる事案発生
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視点:小瀬川白望
「憧、これからどうする?」
赤土さんとの麻雀が終わり、『阿知賀子供麻雀クラブ』を後にした私と高鴨さんと新子さんと松実さんは校門を出てそんな話をしていた。
そしてやはりさっき降っていた雨は通り雨のようだったらしく、私たちが外に出る頃には既に日差しが濡れている地面を照らしていた。まあとは言っても冬であるが故に寒いのには変わりないのだが。
「何しようね……ち、因みに、小瀬川さんは予定ありますか?」
すると新子さんがそう言って私に問いかけてくる。一応私もメンバーに入れてもらって嬉しいのだが、あいにく私には予定がある。まだまだ時間はあるのだが、そう言っても結構微妙な時間帯。昼食をどこでとるのかもまだ決まってないし、一緒に行きたいのは山々だが仕方ないであろう。
「……ごめん。私、ちょっとこの後用事あるから……」
「そ、そっか……それは残念ですね……ってうわっ!?」
新子さんがそう言った直後ツルリ、と新子さんの足が思いっきり滑って前に出る。どうやら濡れた地面が冷えて凍っていたようだ。それも、運が悪いことにどうやら新子さんが踏んだ部分だけ。
それを視認した私は、とっさに新子さんの腕を掴んだ。腕を掴まれた新子さんは、足を思いっきり滑らしたものの、それ以上……つまり、転ぶことはなかった。
「……大丈夫?」
「あ、ありがとう……ございます」
新子さんは顔を赤くして私に礼を言う。まあ、人の目の前で転びそうになったら恥ずかしくなるのは致し方ない事だ。それよりもケガとかされたらもっとダルい事になるし、無事で何よりだ。
「じゃあ、私そろそろ行くから……」
そう言って私は3人に少し頭を下げ、反対方向へと歩き出そうとする。そして数歩ほど歩くと、ふいに私は自分の腕を掴まれた。
いきなり掴まれてびっくりしながら後方を振り返ると、そこにはさっきと同じように顔を赤らめていた新子さんが私の腕を掴んでいた。
私は頭の中に?を浮かべて新子さんの事を見ていると、新子さんは私にこう言った。
「メ、メルアド……」
「教えてもらっても……いいでしょうか……」
私は携帯電話を取り出すと、何故か私から目を逸らしている新子さんに向かってこう言う。
「いいよ」
「……あ、ありがとうございます」
そう言うと、新子さんも携帯電話を取り出して、メールアドレスを交換する。そして交換し終わると、新子さんに向かってこう言った。
「メール、後で送るね……"憧"」
「えっ……名前……」
「憧も別にタメ口でいいよ……なんか憧らしくなくて見ててダルいし」
「……分かった」
そんな感じで私と憧が話していると、後ろにいた"穏乃"と"玄"がやってきて私と憧の間に割って入ってきた。
「憧、小瀬川さんとメルアド交換してるの?いいなー!」
「わ、私も交換してください……!」
そうして、結局玄ともメールアドレスを交換する事となった。穏乃は携帯電話を所持していなかったため、その代わりに穏乃の家の固定電話の番号を教えてもらって、私は三人と別れた。
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視点:新子憧
(……"憧"か)
私は歩いている小瀬川さんを見送りながら、携帯電話をギュッと握り締めながら先ほど小瀬川さんに言われた事を思い返す。
初めてだ。自分の名前を人に言われてここまでドキッとしたのは。さっきまで、私は小瀬川さんの事を恐ろしいという目でしか見ていなかったはずなのに、何故あそこまで心臓の鼓動が早くなったのがわからなかった。
(……やっぱり変な人)
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視点:小瀬川白望
「……どう思う、赤木さん」
【……あの赤土ってやつか?】
私は人通りが全くない道を歩いている最中に、赤木さんに向かって話しかける。私が気にしているのは赤土さんの事だ。私は赤土さんに「過去を捨てろ」とは言ったものの、あの思いつめた表情を見た限り、相当の事があったように見える。それを簡単に捨てる事が赤土さんにできるのかが不安であった。
「うん……結局、赤土さんが過去に何があったのかは分からず終いだったけど……大丈夫かな」
【ククク……安心しな。人間、そう白痴ばかりではない……ああいう人間は、過去は捨てられなくとも……乗り越える事で解決するはずさ……】
「あと、赤土さんの事だけじゃなくて……私も」
【ん?】
「私も、いつも勝たなきゃって思ってるから……もしかしたら"成功"に捉われているのかな……って」
それを聞いた赤木さんは【ハハハ……】と笑って、私の問いに答える。
【確かに、勝つという事と成功する事は似ている。しかし、それはあくまで似て非なるもの……お前の勝ちへの執着は俺を越えるという目標から来るもの。成功からくる執着とはまた違うものなのさ……】
【ま、要は考え方次第ってやつだな……それで迷いが生じるようなら、お前もまだまだ……という事】と続け、赤木さんはまた笑う。成る程……勝ちと成功の違い……ねえ。
「ありがとう、赤木さん」と私は赤木さんに言い、私は昼食を食べるべくどこか店を探した。
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視点:小走やえ
(……少し早かったか)
私は小瀬川との待ち合わせ場所にやってきて、辺りを見回す。しかしながら小瀬川はまだいない。だがそれも当然の事で、私と小瀬川がこの場所に集合するのは午後一時。しかし、今は十二時半前。そりゃあいるわけがないだろう。
(まあ……行っていきなり会うというより、心を落ち着かせてから会った方が普通に接しられるし、良いとするか)
「あ、やえ」
「ッ!?」
そう思っていた矢先、私の名前を後ろから呼ぶ声。後ろを振り向くと、そこにはあの小瀬川が突っ立っていた。そして小瀬川はいつの間にか私の事を名前呼びとなっており、それも私の緊張を高める一つの要因となった。
「よ、よう……し……」
「……し?」
「し……白望……」
きっと今の私の顔は相当赤く染まっているだろう。本当に自分が情けない。
「じゃあ……行こうか。やえ」
そう言って小瀬川は私の目の前まできてそういう。私は一度目線を逸らし、私の家へと向かった。
次回は王者編。
あんまり麻雀要素は無い予定ですが、ご容赦下さい。