宮守の神域   作:銀一色

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王者編です。
何気に本編150話目。


第150話 奈良編 ⑬ 偶然か罠か

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視点:小走やえ

 

 

 

「リーチ一発三暗刻ドラ3……」

 

 

小瀬川白望:和了形

{三三三①②③444777北}

 

 

 白望が手牌を倒す。確かにその手は{北}単騎待ちであった。しかし、よくそんな単騎待ちなどをしようと考えたものだ。私の捨て牌候補の中には{北}が暗刻で存在していたから良かったものの、もし私の捨て牌候補の中になければ絶対に和了る事が出来なくなる。無論字牌だけでなく、待ちが一種しかない状態でその和了牌が相手の捨て牌候補になければそれで終わりだ。

 故にこの"十七歩"では両面待ち、もしくは多面待ちが普通であろう。そう私は考えていたものだが、白望は私がそう考えるのを読んでいたかのようにその裏をかいて単騎待ちを取ってきた。恐らく、私が考えている戦略は間違ってはいないのだろう。それを白望は狙ってきただけで、私がズレている故に振り込んでしまったということではないはずだ。

 

(だけど……それではまだまだニワカ、白望の上を行くことはできない……か)

 

 そう、しかしそんな普通の考え、戦略ではダメなのだ。ただの普通止まりでは白望に勝つどころか、まともに勝負になるかすらも危ういこの技量差で、正攻法で闘っていても勝ち目はない。もっと違う視点から闘わねば、白望には及ばない。

 そもそも、先程言ったような「私の捨て牌候補に{北}が無ければ」というあくまで仮定、可能性だけの話に対する懸念は白望にとっては無用なのだろう。恐らく、白望は私の捨て牌候補に{北}がある事を察知していたはずだ。だからこそ字牌単騎などという愚行を起こす事ができた。言うなれば天性の勘。「◯◯だったら〜」や「もし◯◯ならば〜」などという言葉は白望にとって必要はない。何故なら白望はその天性の勘を、完全に信じる事ができるから。いくら他の人間が天性の勘を持っていたとしても、白望のように信じる事はできないだろう。天性の勘とそれを信じる心があってこそ、白望のような悪魔染みた麻雀ができるのであろう。

 

「裏ドラ……」

 

 そう言って白望が裏ドラ表示牌を捲ろうとする。今の時点でも既に指が七本折れている。この状況で裏ドラが一枚でも乗れば、それだけで倍満となる。

 今回の"十七歩"で私と白望が所有している点棒は三万点。点数計算は全て子の点数を使うため、跳満ならば12000、倍満なら16000となる。いくら満貫縛りとしても、白望が相手だという事を考えればこの4000の差は大きい。できることならここは裏が乗らずに跳満で済んでほしいものだが、

 

裏ドラ表示牌

{⑨}

 

 まあ、白望がこの状況で乗せることができないということはないだろうが。ここまで完璧な形で白望の思う通りに事が進んでいる以上、場の流れが白望に傾かないわけがなかった。

 

「裏……1。倍満だね」

 

 そう言って白望は両端の山を崩した。それを受けて私は倍満の点数の16000点分の点棒を白望に渡してから、私も山を崩して牌をかき混ぜる。相変わらず尋常でない速度で山を作る白望の手つきを見ながら、私もできるだけ早く山を作る。

 そして山を作り終えると、今度は私が両端の山から一牌を選んで指一本でひっくり返す。その牌は{白}。白望は「やえのことだからもう理解できていると思うから今回から三分にするけど……大丈夫?」と私に向かって言う。未だ白望に対抗するための術を見つけていないものの、だいたいの流れは分かった。故に私は「いいぞ」と言う。

 そうして白望がタイマーをセットし、テーブルに置く。それと同時に私は目の前に積まれている山を開き、手牌を考える。そして手牌を考えること二分半、私は迷いに迷った挙句字牌単騎の{東}単騎待ちにすることにした。本来であれば愚行と評される字牌単騎。しかも白望のように、相手が{東}を抱えていることなんて察知することができない。だが、普通から外れるためには多少のリスクを背負ってでもしなければならない。普通ではダメだ。そこから一歩出なければ、白望の裏をつくことはできない。

 そして私は手牌を倒して、白望の方を見る。すると白望はもう既に手牌が完成し終わっていたようで、私が白望のことを見たのを確認すると直様タイマーを切った。

 

「じゃあ……やえからどうぞ」

 

 白望が私に向かってそう言う。あれだけ普通から外れなければ白望には勝てないとは言ったものの、白望がどんな手で待っているかなど皆目見当もつかない。結局、運任せの地雷ゲームとして牌を切るしかなかった。

 しかし、意外にも第一打目で白望に当たることはなかった。その後も奇跡的に回避しているのか、将又自分の手牌に白望の和了牌があって、偶然ではあるが白望の和了牌を潰したのかは分からないが、当たることはなかった。だが、白望はこちらの思惑を見抜いているのか、一向に{東}が溢れる気配はない。{西}や{白}などの字牌は切る癖に、{東}だけは切られなかった。

 そしてラスト一巡、ここさえ凌げば最低流局でこの局は終了する。しかし、この最後の一巡というところで私は悩んでいた。

 この時点で、私の捨て牌候補に残っているのは{34679}の五牌。白望の捨て牌には索子が出てこなかったため、切ろうにも切り難い索子が残ってしまった。

 しかし、ここで私はある事に気付く。いや、それは決してこの状況を打破する気付きではない。その気付きとは、この残った五牌全てが白望の和了牌ではないかということだ。もし、白望の手牌が仮に{1114567888発発発}といった形であれば、待ちは{369、47}待ちの五面待ち。ちょうど私の残っている捨て牌候補全てが和了牌となってしまうのだ。

 あくまでこれは仮定の話。実際はどうなっているかは分からない。白望ならこれがどうなっているかまで見抜きそうだが、私にはそこまで鋭い読みはできない。

 しかし気付いてしまった以上、私にはこの五牌全てが待ちにしか見えなくなってしまった。ちょうどよくこの五牌が残るのも、罠にしか思えなくなった。

 ダメだ、これ以上考えても仕方ない。当たって砕けろのヤケクソ精神で私は{4}を切り飛ばした。

 

 

(……振ったか?振ってしまったか?)

 

 私は思わず目を閉じてしまう。しかし、いつまで経っても白望の発声も、手牌を倒す音も聞こえなかった。恐る恐る私は目を開いて白望の方を見ると、そこには捨て牌候補の中から一牌を選んで捨てようとしていた白望の姿があった。

 白望はさらっと{五}を捨てる。無論これは私の和了牌ではなく、これで流局となってしまう。

 

(あの五牌が残ったのは、ただの偶然という事だったのか……?)

 

 私は未だ現状の整理が追い付いておらず、不思議そうに捨て牌候補の{4}が抜けた四牌を見る。私が考えていた事は全て杞憂だったというのか。

 

(……どういう事だ)

 

 半ば混乱しながら白望のことを見ると、白望は私に向かって少し微笑んだ。可愛い……とさっきまでの私であればそう思っただろう。しかし今の私には、その微笑みを素直に受け取る事はできなかった。




次回で十七歩は終わりです。
もしかしたらナインも次回で終わらせるかもしれません。もしかしたらですけど。

……思いましたけど、相手が北を抱えているなってシロは普通に見抜いていますが、よくよく考えたら恐ろしいですよね。流石赤木の意志を継ぐもの、チート級ですね。

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