宮守の神域   作:銀一色

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佐賀編です。
なんとか間に合いました。


第164話 佐賀編 ⑤ 絆が生んだウイニングラン

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視点:神の視点

 

 

(とにかく、白望の親ば蹴らんばいと……)

 

 小瀬川白望のWリーチ一発ツモというどうする事も出来ない理不尽な和了こそなかったものの、今度はWリーチドラ4という新たな脅威が白水哩と鶴田姫子の前に立ちはだかった。しかも、最低でも親っ跳が保障されていて、裏ドラ次第では倍満、或いは三倍満以上にもなり兼ねない爆薬。白水哩と鶴田姫子は、その爆弾を解体せねばならない。一度手順を間違えればその時点でゲームセット。爆発四散してしまう。

 

白水哩:手牌

{一一②④④⑥⑧1335東西}

ツモ{東}

 

(また重なった……これが対子場ってやつか)

 

 白水哩の二巡目のツモは{東}。これで白水哩の手には対子が四つ。このツモによって白水哩は、通常の役作りにも、七対子にも移行できるようになった。

 しかし、これだけではまだ白水哩は安心しない。今この場が対子場であるなら、小瀬川白望の手牌にも対子が多いと十分に考えられる。となれば、裏ドラが乗るとしたら一つだけなどという事はなく、三つや四つ乗るという事も可能性としては無きにしも非ず、だ。

 

(まずいな……姫子どころか、私まで振り込めば一発で終わるって事も有り得るわけだ)

 

 今の鶴田姫子の点棒は17000。親の跳満は18000であるため、もともと鶴田姫子は振り込めない。これが前提であったのだが倍満はともかく三倍満となってくると白水哩が振り込んでもトンでしまう可能性がある。ツモならばとりあえず何方かがトブという事はないが、振り込めばトブ可能性は大いにある。

 

(ん……?)

 

 そういった状況整理をしていたところで、白水哩は自身に向けられる視線を感じる。白水哩が手牌から顔を上げると、鶴田姫子が白水哩に視線を送っていた。

 

『部長、援護するばい!』

 

 そうして鶴田姫子は視線で白水哩に意思を送る。まだまだ鶴田姫子と出会って日は浅いものの、鶴田姫子とは固い絆で結ばれている白水哩がその意思を受け取れない事などなかった。

 そうして鶴田姫子の意思を汲み取った白水哩は鶴田姫子に向かって微笑み返すと、手牌から{西}を切り出した。

 

(二人がかりが卑怯じゃなかとは言い難いけど……こっちも白望、お前ば止めるので必死なんだ)

 

 確かにこの状況、白水哩と鶴田姫子が結託して小瀬川白望と闘う構図になるであろう。だが、それも仕方のないことなのかもしれない。一人はおろか、三人がかりになっても勝てるかどうか分からない。それが小瀬川白望なのだから。

 しかし、白水哩と鶴田姫子の友情が自然と牌を引き寄せるのか、はたまた鶴田姫子が白水哩の願いに呼応して牌を操作しているのか、それは定かではなかったが、鶴田姫子は次々と白水哩が鳴ける、つまり白水哩が対子としている牌を引いてくる。

 白水哩もその事は感覚でなんとなく察知している。鶴田姫子もまた、自分がツモった牌は白水哩が鳴ける牌であるという事を承知している。これも二人の心が通じ合っているからこそ出来る芸当であろう。

 

鶴田姫子

打{⑧}

 

「……」

 

 そして運が良いことに、未だ白水哩、鶴田姫子が小瀬川白望のロン牌を放たずに手を進める事ができており、小瀬川白望も肝心の和了牌をツモれないでいる。

 そうして七巡目、白水哩の機が熟す時。

 

白水哩:手牌

{一一九①④④⑥1335東東}

ツモ{7}

 

 

(来た……!)

 

 白水哩が{7}をツモってくる。一見、未だバラバラのようにも思える。事実白水哩の手牌は三向聴であり、七巡目にしてはまだまとまっていない手牌。しかし、それはあくまでも見かけ上の話だ。先ほど言った通り、鶴田姫子は白水哩が鳴ける牌を持っている。詳しく言うと{一、④、東}。つまり三回鳴ける事ができるのだ。三向聴とはいっても、実質聴牌しているようなものなのだ。しかも、白水哩が関係なさそうな{7}を望んでいたのは、聴牌時に鶴田姫子が持っている{6}で和了れる、{57}の待ちを作るため……!

 これまでこの七巡という、小瀬川白望がWリーチをかけてると考えると決して短くはない、むしろ長い時間を費やしてチャンスを作る下準備をしてきた白水哩と鶴田姫子が今、ようやく小瀬川白望へと仕掛け出る。小瀬川白望のWリードラ4という闇を取り払うべく、今動き出す。

 白水哩が手牌にある{1}を切り、鶴田姫子に視線を送る。鶴田姫子もそれに頷き、ツモった牌を手中に収めて{1}を切る。白水哩は深呼吸してから目を見開き、発声する。

 

 

「……ポンッ!」

 

白水哩:手牌

{九①④④⑥3357東東} {一一横一}

 

打{九}

 

 

 これで一副露目。この鳴きが白水哩と鶴田姫子による意図的なものと気付いているのかどうかは定かではないが、この時点で小瀬川白望の表情に変化は見られない。白水哩と鶴田姫子は知ったことかと言わんばかりに二回目の副露へと移行しようとしていた。

 

(部長、受け取ってくんしゃい……!)

 

 そして鶴田姫子は{④}を切る。これも当然の如く白水哩が鳴く。まだ小瀬川白望の表情は変わらない。

 

「ポン!」

 

白水哩:手牌

{①⑥3357東東} {④④横④} {一一横一}

 

打{⑥}

 

 

 二副露目。此の期に及んでまだ小瀬川白望は表情を変えない。しかし、まだこれで終わりではない。白水哩はそんな小瀬川白望の事を見て少しばかり嗤う。その無表情がいつまで貫けるのかを楽しみにしているぞ、そういった事を考えながら、ツモ番を鶴田姫子へと回す。

 

鶴田姫子

打{東}

 

 もちろん、鶴田姫子はツモった牌を放つわけもなく、手牌にある{東}を切る。三副露目の{東}。小瀬川白望のWリードラ4を封殺する{東}を。白水哩は手中にある{東}を倒し、宣言する。

 

「ポン!!」

 

白水哩:手牌

{①3357} {東東横東} {④④横④} {一一横一}

 

 この間わずか十数秒間。しかし、その十数秒間で白水哩は勝利への階段を駆け上がった。そして小瀬川白望に追いついた。いや、追い越した。そしてあとは勝利のウイニングランを終えるだけ、そう思っていた白水哩であったが。

 

「……」

 

 対面に座る小瀬川白望は小さく笑っていた。まるで白水哩が罠にかかっていると言わんばかりに。




次回も佐賀編。
さて、シロが笑っていた理由とは!?((

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