今回で麻雀編は終わりです。最近雑っぽくなってしまい申し訳ありません……
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視点:神の視点
(あ……?)
白水哩が手牌から{①}を切り出そうとした時、ふと小瀬川白望が笑っている事に気付いた。思わず{①}を持つ手が止まる。何故、此の期に及んで小瀬川白望は突然笑ったのだろうか。切ればそれで白水哩がやるべき事は終了し、後は鶴田姫子が{6}を切って終わりだ。
それで終わり。そのはずなのに、白水哩の右手は動かなかった。白水哩の体に異様に絡み付くこの悪寒。いったいどうしたものか、白水哩は視線を小瀬川白望から右手に持つ{①}へと移す。見掛け上は何ら変哲もないただの{①}。しかし、白水哩にはその{①}が悪魔の象徴に見えて仕方がなかった。白水哩の次のツモ番である鶴田姫子は、もう既に{6}を切ろうと心の準備をしていたというのに、白水哩がなかなか動かないのでただただ不思議そうに鶴田姫子は白水哩の事を見ている。
当然の事ながら、白水哩にはこの{①}を切る他に道がない。ただでさえ三副露をしているため、融通の利かないこの手牌で流局まで逃げ切るのはほぼ不可能だ。そして何よりここでオリるという事は小瀬川白望に和了を譲る事と同義である。オリるにオリれないこの状況。しかしこの{①}は危険な香りがする。そういった決断を白水哩は強いられていた。
確かに、この{①}。何度も言うように何の変哲もないただの{①}だ。小瀬川白望が最初にリーチをかけている以上、何かトラップを仕掛ける猶予は無い。これは断言できる。それにこの{①}は対局が始まってからずっと持っていたものではなく、途中でツモってきたもの。普通に考えれば、最初から持っていた牌よりも後からツモってきた牌が狙われないというのは当然の考え。しかし、今白水哩の目の前にいる小瀬川白望に、そんな当たり前、当然のことは通じない。通じるわけが無い。だから小瀬川白望が白水哩が後からツモってきた{①}を狙っている可能性も、無い話では無いという事。そう考えれば、この{①}は危険だ。むしろ、最有力候補と言っても過言では無い。故に、オリたほうが賢明であろう。
しかし、白水哩は自分の右手で掴んでいる{①}を振り上げる。
(確かに、この一筒は何やら危険な気配がする……)
(……ばってん、オリはなか!)
そして、白水哩は{①}を河へと叩きつけた。確かにこの場面は聴牌を崩すのが正しいようにも見える。しかし白水哩にはWリードラ4が見えていた。悠長にしていれば、小瀬川白望にツモられる可能性だってある。ならば白水哩は進むしかなかった。
この決断、どちらが正しかったのかは誰にも分からない。小瀬川白望の手牌が見えない以上、どれだけ考察を加えても答えは出ない。出るわけが無い。ならば、ここは自分の勢いに身を任せる。それしか方法は無いであろう。
「ロン……」
小瀬川白望:手牌
{九九九①⑥⑦⑧222} {裏中中裏}
裏ドラ表示牌{発}
「Wリードラ4……裏4。三倍満……トビだね」
しかし、それでも小瀬川白望を越えることはできなかったわけだが。白水哩は驚愕して小瀬川白望の手牌を見る。いや、確かに白水哩はさっきそんな気がしていたのだが、それでも本当にそうなるとは思っていなかった。もしかしたらあるであろうという机上の空論程度と思っていた事が、現実になってしまったのだ。
そして鶴田姫子も、山まで伸ばしていた手を止めて小瀬川白望の事を見る。鶴田姫子はてっきり自分がツモって{6}を切って終わりだと思っていたので、突然の和了に困惑している。
小瀬川白望はそんな白水哩と鶴田姫子の方を見て、説明するような口調で話し始める。
「……焦りすぎたね、哩」
「本来ならば、あそこは手牌が制限されても構わないからまだ我慢しておくべき……{①}に何かがくっつくか{①}単騎になるかを待つべきだった。確かに私にツモられる可能性も無くはないけど、さっきの時点で迷いが生じるならもう一巡か二巡回すべき……それが妥当。事実哩も一度はそう考えていた」
「……だけど、それでも哩が一筒を切ったのは、私のドラ4が見えていたからでしょ?」
そう言われた白水哩はびっくりしながらも「あ、ああ」と返事をする。小瀬川白望はそれを聞くと「やっぱりね」と言って話を続け始めた。
「実はそこが分岐点……このドラ4が見えていなければ、多分哩は聴牌を取らずに回していた……言うなればこのドラ4は毒」
「それ故哩は焦った……目の前のWリードラ4をどうにかする事しか考えられなかった。……わずかに覚悟に欠けているあの状態。意識、精神、感性。それらが目覚めていなかった……だからこそ、だからこそ哩は振り込んだ」
「それに、私の一筒単騎は全然トラップなんかじゃなくて、むしろ偶然に近い」
「えっ?」
「流石に私といえども、未来は見えない。……まあ、自分の直感を信じてそれに近いことはできるだけって話。今のもそう。簡単に言ってしまえばただ一筒の方が和了れる。そんな勘に身を任せて、後は哩が迷うように誘導した。そしてその結果哩が振り込んだ……ただそれだけの話」
言うなれば、小瀬川白望の{①}単騎は{①}を待っていたというよりも、白水哩から{①}が溢れる偶然。偶然の機会を待っていたのだ。
一見すると、ただの運任せかと思うかもしれない。だが、事実当たってしまうのだから仕方ない。たかが勘、されど勘。そもそも、常人との勘の精度、純度が違いすぎるのだ。故に、常人と小瀬川白望の勘を一緒にしてはいけない。
「……そうか」
白水哩はふっと笑うと、脱力したのか椅子の背凭れに身を任せる。小瀬川白望も同じようにダラけるような姿勢になろうとしたその刹那、鶴田姫子が小瀬川白望に向かってこう言う。
「も、もう一回ばい!!」
小瀬川白望は驚いて目を見開いて鶴田姫子の方を見る。鶴田姫子は白水哩と共闘したのにもかかわらず憎き小瀬川白望に完膚なきまでに叩きのめされて悔しかった。
「別にいいけど……手加減しないよ?」
そう言ったことを小瀬川白望は鶴田姫子に向かって言うが、鶴田姫子は胸を張って小瀬川白望に宣言する。
「次は勝つ!」
そうして宣言した数十分後、卓には散々小瀬川白望に直撃を取られた鶴田姫子が突っ伏している姿となったそう。
次回も佐賀編。
とうとうシロの誑し能力が姫子を襲います。