そんなに上手くないのにシリアスっぽさを出そうとして頑張った感が半端ない。
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視点:小瀬川白望
「あっつ……」
哩と姫子に別れを告げてから数日が経ち、私は今日沖縄を除いた九州地方最後の県、鹿児島県へとやってきた。流石に夏の九州地方となってくると途轍もなく暑く、東北民の私にとっては夏の九州は天然サウナのような地獄であった。私は岩手の夏も相当暑いと思っていたし、夏が来るたびに暑い暑いと言っていたが、この暑さに比べるとやはり岩手はまだ涼しい方であるという事に気づかされる。
こういう暑い日に一番気をつけなければいけないのは熱中症であろう。水分補給はこまめに取らなければいけない。最悪の場合死に至る可能性だってありえる。命を賭けた勝負とかなら別に覚悟はできているしそれで死ねるなら本望だが、こんな熱中症如きで行き倒れなんて真っ平御免だ。
そう思い、私が鹿児島に来て真っ先にとった行動は自動販売機を探すことであった。
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視点:石戸霞
「宿題、終わる気配が全く無いですよー……」
シャープペンシルを持ちながら、机に積まれたテキストの山を前にして突っ伏している初美ちゃんがそう言う。恐らく宿題を後回しにしたいという意味なのだろうが、私は初美ちゃんに向かって「あらあら。でもちゃんと宿題を終わらせないと駄目よ?」と言って切り捨てる。
その言葉に初美ちゃんは若干渋い顔をしたが、深くため息をついてシャープペンシルを動かしていく。私はそんな初美ちゃんを微笑ましく見ながら、たった今終わった課題を自分のバッグの中へと入れる。今自分が終わったのは別に特別自分が早かったというわけでもなく、ただ単に初美ちゃんと小蒔ちゃんが遅すぎるだけだ。巴ちゃんも見た感じもうすぐ終わりそうだし、確実に二人が遅いということが分かる。
「それにしても、まだ小学生のはるるが羨ましいですよー……ああ、小学生に戻りたい……」
せっかく集中し始めたと思っていたう矢先、結局そんなに集中は持続しなかったらしく、初美ちゃんがペンを動かしながら近くで黒糖を食べている春ちゃんに向かってそう言った。すると春ちゃんは初美ちゃんに向かって「私の宿題も結構あるけど……?」と言って春ちゃんは自分のバッグからプリントの束を見せる。小学生といえども、春ちゃんはもう小学六年生。それ相応の量はあるのは分かりきっていた事だった。しかしそれを見た初美ちゃんは全く予想していなかったように絶句して「ぐぬぬ……じゃあもう園児でいいですよー」と言って頭を抱えていた。いくら二年前の話とはいえ、過去に自分がやってきているはずの宿題の量に驚愕するなんて……と半ば呆れたような目で私と巴ちゃんは初美ちゃんの事を見る。
「すー……すー……」
そんな初美ちゃんを見ていると、私の隣にいる小蒔ちゃんが眠りについていることに気がついた。私が小蒔ちゃんを起こそうと声をかける前に初美ちゃんが「姫様!寝てはいけませんよー!」と言って強引に起こす。恐らく小薪ちゃんにもこの地獄を味わってほしいという初美ちゃんの死なば諸共精神だろう。小蒔ちゃんががっつり寝てしまえば起こすのは困難になるのは分かっているため、まだ眠りに浅い今起こすしかなかった。それもあってか、小蒔ちゃんを起こす初美ちゃんの姿は雪山で寝ようとしている人を起こすかのように切羽詰まったものであった。
「ふぁ……あれ、すみません……寝てました」
そうして初美ちゃんに起こされた小蒔ちゃんは重い瞼を開けていかにも眠たそうにそう言う。そういえば神様に勉強をやらせたら一体どうなるのだろうかと一瞬私の脳裏をよぎったが、まあそうそううまくいかないであろうとすぐに自分の考えを否定する。
話を戻して、小蒔ちゃんはもういつ眠ってもおかしくないような表情をしながら、ペンを走らせていく。私は既に終わった身という事で小蒔ちゃんが分からない箇所を教えながらやっているのだが、眠そうな小蒔ちゃんに果たして伝わっているのかどうかは私には分からないことであった。とは言っても、小蒔ちゃんの期末試験での点数は中々に高いと聞くので、これでもしっかりやる時はやっているのだなと思う。
「巴ちゃん、まだ終わりませんかー?」
そんな私と小蒔ちゃんを見てか、初美ちゃんは巴ちゃんに向かってSOSの合図を送る。さっきから見ていたが殆ど初美ちゃんのペンは動いていなかった。そんなに難しい箇所があったかなと頭の中でさっきやっていた課題の内容を思い返していると、巴ちゃんがふう、と一息ついて初美ちゃんに「今終わったよ」と言った。それを聞いた初美ちゃんは目を輝かせて教えてくれと巴ちゃんに懇願する。
そういった感じで課題を終わらようとしていた私たちだったが、突然、私は何者かの気配を察知した。それも、今まで感じた事のない強大な気配を。
「……!」
私は真剣な目つきで辺りを見渡すが、どうやらこの近くにはいないらしい。となれば可能性があるとすればその何者かがこの鹿児島に入ってきたという線であろう。しかし、強大といっても度が過ぎる。ここから鹿児島県と他の県の県境はかなりの距離がある。だが、そんな遠い距離からでもこれほどまでに強い気配を感じるという事は、少なくとも只者ではないという事だ。何の理由があって、何の目的でこの鹿児島に来たのかは分からないが、警戒した方が良いであろうという事は言える。過去にも何度か神様や恐ろしいものの類の気配は感じたりする事は多々あったが、今回のソレは全くの別物、いや、もしかするとそれ以上かもしれない程であった。そして何と言っても前例がないため、どれほどの脅威か分からないという点も、私を焦らせる要因となった。
そんな私を小蒔ちゃんと初美ちゃんと驚いた表情で見ていた。本来、この二人もこの強大な気配は感じてもおかしくはない筈なのだが、多分宿題に集中していた……いや、集中はしていないか。どっちかと言えば宿題に気を取られていたため気付かなかったのであろう。私が感じたのもたった一瞬のみであったから、二人がたまたま気づくかなかったのも頷ける。
「……霞さん、これ」
私以外にあの気配に気付いていた巴ちゃんが私の方を見てそう言う。どうやら春ちゃんも気付いていたようで、周囲を警戒していた。
「な、何があったんですかー?」
「……強い気配を感じた」
何が起こっているか未だ見当も付いていない初美ちゃんの質問に春ちゃんが答える。いや、しかし私も何が起こっているかは皆目見当もつかない。そんな緊張の糸を張る私たちだが、ここで小蒔ちゃんが立ち上がって「それは気になりますね……調べに行きましょう!」と言った。
少々……いや、かなり危険が伴うもののこのまま放っておくわけにもいかない。もしかしたら危害を与えるものかもしれないと考えると、ここは私たちがどうにかするしかなかった。今までとは違い、相手は神様の類であるかすらも分からないものの、とりあえず私たちはその強大な気配の原因を探る事にした。
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視点:神の視点
【……】
岩戸霞らが出発したのとほぼ同時刻、小瀬川白望は赤木しげるが何かを感じ取った事に気付いた。
「……どうかした?赤木さん」
【いや、何でもねえよ】
赤木しげるはそう返すが、小瀬川白望が鹿児島に入った瞬間、小瀬川白望が宿す闇から鷲巣巌の気配を赤木しげるは感じ取っていた。小瀬川白望の身体から発せられたため彼女自身は気付いていなかったが、鷲巣巌は小瀬川白望に何か危害を加えるわけでもなかったため、赤木しげるはあえて何も言わなかった。
(【鷲巣のやつ……何を考えてるんだ】)
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「わ、鷲巣様?どうか致しましたか?」
何も見えない暗闇の中に輝く光を見つめている鷲巣巌に、完全に鷲巣巌の側近と化した閻魔大王が尋ねる。鷲巣巌が小瀬川白望の闇に干渉しなくなった今も、鷲巣巌はまだ小瀬川白望の闇の中に留まり続けているのは、やはり鷲巣巌もなんだかんだ言って小瀬川白望の事が気にかかるのであろう。
「いや……ちと何かを感じたのでな。少し威嚇してやっただけじゃ」
鷲巣巌はそう言ってまた暗い闇の中へと戻ろうとする。鷲巣巌が感じたのは圧倒的違和感。神をも超えた鷲巣巌が感じた違和感。もしや神やら霊やらの類に干渉する力がここまで届いてきたのかと鷲巣巌は自分なりに考察するが、その最中、鷲巣巌は鹿児島には何やら神を手なづけている連中がいるというのを聞いたことがあったなと思い出す。今感じたのは恐らくそれらの気配であろう。
(ま……わしの敵ではないわ)
しかし、鷲巣巌はご存知の通り神をも超えた男。彼が恐怖したのは今までで赤木しげるただ一人。たかが神を手なづける連中に恐れをなすような存在ではなかった。
鷲巣様はツンデレ(確信)
言うまでもなく、霞さんが感じ取ったのは鷲巣様の威嚇です。