宮守の神域   作:銀一色

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麻雀回です。


第182話 鹿児島編 ⑧ 裏鬼門

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視点:神の視点

東一局 親:小瀬川白望 ドラ{①}

 

小瀬川白望 25000

石戸霞   25000

神代小薪  25000

薄墨初美  25000

 

 

 自動卓から牌の山が迫り出されて始まった東一局、親は小瀬川白望で、石戸霞が忠告した問題の薄墨初美は北家である。

 対局が始まる前に石戸霞が小瀬川白望に忠告した薄墨初美の『裏鬼門』だが、元々陰陽道では南西の(ひつじさる)の方位とされ、裏鬼門とは反対の方位の(うしとら)……つまり鬼門と同じようにして鬼が出る方向として忌み嫌われていた。そして肝心の薄墨初美の『裏鬼門』もそれに通ずるものがあり、ざっくばらんに言えば自動卓の場合サイコロの部分を中心として鬼門の位置に鬼門の牌……つまり東と北を晒すと、薄墨初美の手牌には裏鬼門である牌、南と西を手牌に次々と呼び寄せることができるというものだ。要は、東と北を晒せば四喜和を聴牌できるという事だ。役満の中でも四喜和、特に大四喜は国士無双や大三元、四暗刻のいわゆる役満御三家と比べればかなり難しい部類に入るが、彼女は東と北を鳴いて揃える事ができれば、四喜和を聴牌できるのだ。そう考えれば、いかに薄墨初美の『裏鬼門』が強力な能力だという事が分かるだろう。

 また前述した通り、東と北を鳴けばいつでも発動できるというわけではなく、ちゃんと鳴いた後の晒す場所が鬼門でなければいけない。そして薄墨初美が牌を鳴いた時晒す場所が鬼門である場合は薄墨初美が北家の時で、つまり薄墨初美が『裏鬼門』を発動させることができるのは薄墨初美が北家の時のみである。という事は今がまさにその『裏鬼門』を発動させるチャンスということなのだ。

 その他にも、当然ながら仮に東と北を暗刻にするだけでは意味がなく、しっかりと鳴かなければいけないし、何より誰かがその牌を切らなければ『裏鬼門』が発動できないなど、色々な制約があるが、暗槓を利用すれば誰かが切らずとも発動できるし、何より『裏鬼門』の能力を知らない初見が相手ならばほぼほぼ東と北を切ってくる、究極の初見殺しだという事には変わりない。

 

(さあ……初っ端から飛ばしていきますよー)

 

 そしてその薄墨初美も、自身の『裏鬼門』には絶対の自信を抱いていた。それはそうだ。何せ『裏鬼門』は彼女の麻雀の代名詞と言っても過言ではない、薄墨初美にとっての必殺技であるからだ。

 

(霞ちゃんはともかく……まだ初心者の姫様と、初見さんの白望ちゃんなら多分切ってきてくれますねー……でも、大人気ないとは言わせませんよー?)

 

 薄墨初美は頭の中でそんな事を考えながら、配牌をどんどん取っていく。そして薄墨初美の東一局の配牌はこのような牌姿となった。

 

薄墨初美:配牌

{二五六九①③⑧33東東北発}

 

 見掛け上は、場風牌の{東}が対子となっている四向聴。{東}が対子となっているからまだ救いがあるが、それでもこの手は凡手といわざるを得ない。

 しかし、それはあくまでも"見掛け上は"というだけの話。薄墨初美にとっては最初から{東}が対子となっているのは実に好都合。{東と北}を鳴けると仮定すれば、{北}を一枚持って来れば{南と西}を引けるため、実質薄墨初美が運のみでツモってこなければいけない牌は{北}のみという事になる。またその{北}も場の流れが『裏鬼門』を発動させる事の後押しをするのか、大抵早い段階で{東と北}は対子となる。

 そう考えれば、実質薄墨初美が北家の時に配牌の良さはあまり関係ないと言っても過言ではない。最低一つ搭子があればそれで小四喜を決められるのだから。

 とはいっても、その肝心の{東と北}を鳴けなければ話は進まないのだが。自分の『裏鬼門』をよく理解している石戸霞、狩宿巴、滝見春の三人と一緒に卓を囲むと大概の場合は{東と北}は例えオリる事になったとしても切ってこないので薄墨初美自身で{東と北}を暗槓しないといけなくなる。しかし、今は違う。初心者の神代小薪と、『裏鬼門』について知らない小瀬川白望がいる。この二人からなら、恐らく溢れる。そう予想して薄墨初美は機をうかがっていた。

 

 

 

(……『裏鬼門』。鬼門の反対みたいな感じなのかな……そうだとすれば運が良くなる……得意分野……そんな感じだけど、どうなんだろ……)

 

 そして肝心の小瀬川白望は、『裏鬼門』の事を考察しながら取り敢えず手牌に浮いている{中}を切る。確かに小瀬川白望の考察は一部的を得ている。鬼門が関係しているのは確かだ。しかし、そこから後が出なかった。まあそれは知識の問題であるため仕方ない部分ではあるが。

 しかし、小瀬川白望にとってその中学二年生の女の子にしてはマニアックな部類の知識がなくとも、『裏鬼門』の正体を突き止める事自体はそんなに難しい話ではなかった。

 小瀬川白望がある事に気付いたのは二巡目、神代小薪がうっかり{東}を切ってしまった時であった。

 

「カンですよー!」

 

 

薄墨初美:手牌

{二五六九①③⑧33北} {東東東横東}

 

 

(まだ二巡目の、しかも点差の無い東一局で場風を大明槓……)

 

 薄墨初美にとっては{東}を晒すための当然の明槓であったが、その行為に小瀬川白望は怪訝な表情をする。確かに、場風を明槓する状況は無いわけでは無い。しかし、それはあくまでも既に他の役牌を鳴いていたり、槓ドラ目的の一か八かの賭け……そんな時のみ考慮される。だからこそ、小瀬川白望はこの点差もなく、ただ無意味に面前を捨てて警戒されるだけの{東}の明槓が怪しいと踏んだ。その上で、小瀬川白望は考察を改める。

 

(東を明槓する……もしくは晒す必要があった……そう考える方が自然……それに)

 

 そして小瀬川白望は対面にいる神代小薪の方を見る。神代小薪はいかにもやってしまったといった後悔と焦燥が混じったような表情を浮かべていた。やはりこの{東}の大明槓は必要な動作であったのだろう。そう小瀬川白望は考察する。そして同時に、薄墨初美が次に何を欲しているのかも看破していた。

 

(東を鳴いた瞬間……いや、今も尚初美は手牌の右側に目線を下ろしてる。それも、東を晒した時右側に一枚だけ残ってた牌を……)

 

 数牌の並べ方は人それぞれではあるが、字牌の並びはほぼほぼ左側に{東→南→西→北→白→発→中}の並びで理牌される。そして{東}が晒された時右側に一枚残っていたという事は、{南から中}の字牌という事になる。

 

(聴牌はしてない……だけどどちらにせよ字牌は切れない)

 

 つまり、薄墨初美にとって{東}以外の字牌のどれかがキー牌になっている。そう小瀬川白望は確信する。そしてここからは小瀬川白望の想像だが、{東}の無必要な明槓から鑑みてそのキー牌を晒す事が必要であると想像する。確かに想像ではあるが、小瀬川白望のこの想像は的を得ていた。まだ確信にまであと一歩といったところだが、それでもたった二巡で小瀬川白望は『裏鬼門』を実質的に看破する事ができた。

 

(流石に姫様からの北切りは無いと思いますけど……白望ちゃんからの北切りは十分狙えますよー!)

 

(自分の手牌に集中しすぎてしまい、思わず東を切ってしまいました……)

 

(あらあら……小薪ちゃんったら……)

 

 

 薄墨初美の『裏鬼門』を発生させるためには、あと{北}を鳴く必要がある。薄墨初美はこの現状を楽観的に考えているが、実際は小瀬川白望にも九割看破されているため、副露はほぼほぼ絶望的な状況となってしまっていた。

 

 




次回も麻雀回。
裏鬼門を九割看破したシロ……初美ちゃん大ピンチ!

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