宮守の神域   作:銀一色

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鹿児島編です。


第185話 鹿児島編 ⑪ 失策

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視点:神の視点

東一局二本場 親:小瀬川白望 ドラ{西西}

 

小瀬川白望 47200

石戸霞   25000

神代小薪  20800

薄墨初美  7000

 

 

小瀬川白望:手牌

{一七八②⑥⑥⑦⑧24799}

 

 

(……ドラ8か)

 

 

 

 小瀬川白望は{南}が二枚揃って晒されている王牌にあるドラ表示牌を見る。流石神様といったところか、たったの一回の槓でドラ8という異常事態を作り出した。それだけでも神様の驚異的な火力が窺える。

 しかし、小瀬川白望が目をつけたのはそのドラ表示牌ではなかった。小瀬川白望が注目したのはドラ表示牌の近くにある、嶺上牌であった。

 

(あくまでドラは飾り……本命はまた別に存在する……)

 

 そう小瀬川白望は睨んだ。今の神代小薪は……神様はドラを必要としていないと。ドラなどそんな瑣末なものなど、どうでもいいと。そして真に必要としていたのは、ドラではなく嶺上牌である、と。根拠のない話ではあるが、この小瀬川白望の予想は見事に的中していた。

 

 

神代小薪:手牌

{二二二②⑧22666} {裏南南裏}

ツモ{2}

 

 神代小薪の手牌は、まさにドラ8などどうでもよく、ドラ8を有しているという事を忘れてしまいそうな大物手、W役満が認められていればW役満の四暗刻単騎待ちであった。神代小薪が暗槓をした理由は、ドラを乗せるわけではなく、小瀬川白望が一枚持っているため既に最後の一枚であり、嶺上牌に埋まっていた{2}をツモってくることであった。

 

「リーチ」

 

 そして神代小薪……いや、神は{⑧}を切って聴牌する。しかも、リーチをかけて。本来四暗刻単騎待ちと役満が確定しているのにリーチをかける必要はなさそうなものだが、恐らくそれほどの自信があるということなのだろう。

 それにしても、一巡で四暗刻単騎待ちを聴牌するという随分とぶっ飛んだ麻雀だが、小瀬川白望から言わせてみればこれは完璧な聴牌とは呼べぬものであった。

 

(暗槓をせずとも、その手はいずれ聴牌できる手……初美の『裏鬼門』を発動させるよりも前に……いや、それどころか誰よりも早く聴牌できていたはず……)

 

 そう、言うなれば神代小薪は、神は急ぎすぎたのである。そのままの流れに沿っていけばいずれ聴牌できていたはずなのに、いち早くの聴牌を取るために流れを無視して強引に聴牌にもっていった。確かに、流れを捻じ曲げてでも嶺上牌で有効牌を手にし、裏目を引かなかったのは評価できるが、わざわざするほどの必要性は無かった。

 

(折角好調の流れがあったのだから……例え神レベルの超運であろうとも、あの場面は素直に流れに沿うべき……)

 

(むしろ……今の強引な聴牌は流れを逸する愚形……いくら超運だとしても、一度流れを失えば失速……足止めを食らう……)

 

 むしろ小瀬川白望から言わせてみれば、逆に流れを失う愚形であった。如何に自身の能力が強大だとしても、流れに見放されてしまえばそれまでである。最速の聴牌で尚且つ大物手のような、完璧な打ち回しをしたとしても、流れを手にする打ち回しでなければ負ける事も大いにあるのが麻雀。神様であろうと人間であろうと、その根底は変わらないのだ。

 しかし、いくら流れが超重要なものであっても、決して流れ=絶対という事ではないのだ。小瀬川白望や赤木しげるのように流れが無くとも互角……いや、それ以上に戦える者は存在するのだ。

 

(流れを逸したのなら、いくら超運であろうとも和了牌は中々ツモってはこれない……まあ、神様の運もバカにできないだろうし、もって五巡……)

 

(だけど……それで十分。神様が止まった分だけ、私は加速する。五巡で止まった神様をぶっちぎる……)

 

 そう、神代小薪に降りている神にはその力は無い。今まで神の超運、ただそれだけに縋ってきた神にそんな力は存在しない。もし今の相手が赤木のように流れが無くともどうにかしてくるほどの打ち手であれば、小瀬川白望は勝てなかったであろう。

 ものを言ってしまえば、要はただ一つが突出していたとしても、それだけでは強者には成り得ないという事だ。常人にはない運、流れを掴み操作できる卓越した技、そして己自身を突き動かす狂気。これら全てを極めた者こそが、真の強者であるのだ。

 話を戻して、リーチをかけたのも自信の表れであろうが、実はそれが一番の失策であった。今神代小薪は、牌をただ切るだけの木偶の坊であった。待ちを変えることも、敵の和了牌を掴まされても切ることしかできない、凡夫。そこを大きく見誤っていた。そしてその反面、小瀬川白望は前へと進む。先に飛び出していった神へ、大きく差を詰めるべく。

 無論、小瀬川白望は流れへと乗って手を進めていく。神代小薪の和了牌の{②}が溢れそうであったが、小瀬川白望はそれを見切っているかの如く{②}を切らずに握りつぶす。そしてその直後に{②}に{③}が重なるなど、小瀬川白望は完全に流れを掴んでいた。

 そして一方、流れに逆らって聴牌した神代小薪は聴牌してリーチもかけたというのに未だ和了牌をツモってこれずにいた。神代小薪の表情からは分からないが、威圧感が高まっているところを見ると、中々和了牌をツモってこれないのに少々神は苛立ちを覚えているようだ。

 そうして四巡目、神代小薪が足止めを食らっている内に小瀬川白望がついに追いつく。小瀬川白望は1000点棒を投げるようにして置き、牌を横に曲げる。

 

「リーチッ……!」

 

小瀬川白望:捨て牌

{発一7横⑥}

 

小瀬川白望:手牌

{七八九②③⑥⑦⑧23499}

 

 結局、小瀬川白望は一度も無駄ツモをする事無く一直線に聴牌する事ができた。これで両者聴牌と、立場が対等になる。

 しかし、立場は対等と言ったものの、実際は天と地の差が両者の間にはあった。片や流れを掴み、無駄ツモ無しで聴牌した小瀬川白望の手。片や流れを逆らって無理矢理聴牌し、流れを逸して和了牌を中々掴めない神代小薪の手。どちらが先に和了牌をツモってくるかなど、わざわざ考えるまでもなかった。

 

「ツモ」

 

 六巡目、小瀬川白望は{①}を卓に叩きつけて手牌を倒す。石戸霞と薄墨初美は、まだ聴牌すらしていないというのに、だ。それに加えてまだ捨て牌が二段目に到達する前にツモ和了られた両者の表情は驚きに満ちている。

 

「リーヅモ平和……裏1。2800オール」

 

 

小瀬川白望:手牌

{七八九②③⑥⑦⑧23499}

ツモ{①}

 

裏ドラ表示牌

{赤⑤発}

 

 

 神と小瀬川白望の闘い、その初戦は小瀬川白望に軍配が上がる形で終了した。そして小瀬川白望は小さな声で宣言するようにしてこう言った。

 

「三本場……」

 

 




次回も鹿児島編。
ちょっと霞さん空気っぽいなあと思いました(小並感)

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