宮守の神域   作:銀一色

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鹿児島編です。
月曜日の辛さ


第187話 鹿児島編 ⑬ 神殺し

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視点:神の視点

東二局 親:石戸霞 ドラ{8}

 

小瀬川白望 39300

石戸霞   13900

神代小薪  9700

薄墨初美  37100

 

 

神代小薪

打{⑥}

 

 魔の東一局がようやく終わり、東二局が始まったと思われたが、小瀬川白望の猛攻は留まることを知らなかった。五巡目に神代小薪……に取り憑いている神から切られた{⑥}を確認すると、小瀬川白望は相変わらずの冷めたような無表情のまま手牌を倒して宣言する。

 

 

「ロン……ッ!」

 

 

小瀬川白望:和了形

{二二二四五六④赤⑤⑨⑨456}

 

 

「三色ドラ1……5200」

 

 

(まだ五巡しか経ってないのに三色ですかー!?メチャクチャですよー!)

 

 薄墨初美は小瀬川白望の恐るべき速度に音を上げる。いや、先ほどまでも小瀬川白望の速度は尋常でないものだったのだが、小瀬川白望の親が流れてもこの速度を保てていることに驚きを隠せなかった。

 

(バ、バケモノですよー……)

 

 

(……まさか白望ちゃん。神様の運さえも奪っていってる……?)

 

 バケモノと称する薄墨初美に対して、石戸霞は小瀬川白望の事よりも神代小薪に取り憑いている神様の事の方が気になっていた。そう、今神代小薪に取り憑いている神様が切った牌の{⑥}は手出しである。つまり、まだ聴牌していなかったのだ。先ほどまで小瀬川白望は一度流れに沿わなかった神様に狙いをつけ、神様の流れを奪っていくような打ちまわし、又はそれを利用した打ちまわしであった。しかし、どんなに流れを失っていても今までは神様が必ず先制をとっていた。それはただ単純の運の力だけで先制をとっていたものであったはずだったのだが、ここにきて神様が後手となってしまっていたのだ。恐らく、あまりの流れの不調故に、素の運だけではどうにもできないほどになってしまっていたのだろう。

 という事は、小瀬川白望はただ単純な場の流れを操るだけでなく、直接的ではないにしろ、相手の運すらも操作しているという事になる。正直、石戸霞はそう考察するしかないのだが、未だに信じられないでいる。相手の運に干渉するなど、信じろという方が難しいだろう。

 しかし実際起きている事は事実でしかない。いくら否定しようとも、事実をねじ曲げることなど不可能だ。

 そして石戸霞がもう一つ気になった事がある。それは神様が小瀬川白望の和了牌をやすやすと切ってしまったことだ。捨て牌だけ見れば、数牌の真ん中……つまり456辺りの数牌が切られていない、端の牌か字牌だけで構成されている。ここから456辺りが怪しいと考察できるのはそんなに難しいことではないだろう。それこそ普通の状態の神代小薪でも気付けそうなものだ。

 それなのに、神様は安易に{⑥}を切ってしまった。これはどういう事なのか。そう石戸霞が疑問に思っていると、ある一つの可能性が頭をよぎった。

 

(神様は……焦っていた……いや、焦らせられていた……?)

 

 そう、先ほどの神様の超運が掻き消されるほどまでに流れを不調にさせられて神様が焦っていたという点。しかし、神様とあろうものが焦る事などあり得るのだろうか。

 

 

(それがあり得る話……神様であろうと、人間だろうと関係は無い……)

 

 しかし、小瀬川白望はそうであると確信している。どんなに格差があろうとも、博打となれば当然同列。そう考えればなんら不思議な事ではなかった。

 

(神様のあの大物然としたオーラ、威圧感はあくまで神様の超運が前提……ならばその前提を取り払ってしまえば、そこに残るのは神様の面影も無い……普通の人間と同じ)

 

(普通の人間と同じまで下げてしまえば……今まで自分の超運に縋り付いていた神様は何もする事ができない……土台を崩してしまえば後は崩壊、崩落の一途を辿るのみ……)

 

 いかなる存在、それこそ神であったとしても、小瀬川白望にとってしてみれば、人間が相手である時と根本的な戦略は何も変わらない。土台を崩し、後はフラつく本体を壊すのみ。神が相手だとしても、関係なかった。

 

(……まるで、神殺しね)

 

 そしてそんな小瀬川白望を、石戸霞はそう表現する。神の象徴とも言える圧倒的超運、それを奪って尚追撃して人間の位まで叩き落としていき、最終的には神の感情さえもコントロールしていく様は、まさに神殺しと言っても過言ではなかった。

 

「んっ……?あれっ……?」

 

(……消えた)

 

 

 そんな事を石戸霞が考えていると、神代小薪が声を発する。どうやら二度寝から覚めたらしく、小瀬川白望に弄ばれていたため最早虚仮威しにしかなっていなかったオーラも神代小薪からは消え失せ、当の本人は点棒が大きく減っている現状を見て驚いている。

 

(どうやら、恐れをなして逃げてしまったようね……)

 

 石戸霞はそんな神代小薪を見てそう考える。まあ神様と讃え祀られてきた神様が祀る側のはずである人間にあそこまで叩きのめされれば、プライドを守るため逃げたくなるのも仕方の無いことだが。……まあ、そもそも小瀬川白望をただの人間だと思って闘った事自体、神様の傲慢、驕りであるのだが。

 

(……消えちゃったか)

 

 小瀬川白望は神代小薪の事を見ながら、率直な意見を心の中で述べる。確かにこの勝負は小瀬川白望の勝利と言わざるを得ない結果だったが、どうせなら最後までやりたかったな。そんな事を思っていると、

 

(……この感じ)

 

 小瀬川白望はさっきの神代小薪の力とはまた違った新たなる力。威圧感を感じた。小瀬川白望はその力の発生源、石戸霞の方を見る。

 

(やっときたね……霞)

 

 

 

(行くわよ……白望ちゃん)

 

 神代小薪に降りている神ももういなくなり、薄墨初美の『裏鬼門』の心配もいらない。小瀬川白望と真っ向から闘うにはちょうどいい条件だ。

 

(どう攻略してくるか……見せてもらうわ)

 

 そして石戸霞は、時折神代小薪が降ろしてくる『恐ろしいもの』を自分へと降ろす。確かにこの『恐ろしいもの』も、相当な力を有している。しかし、ただ単純な力ではダメだ。それでは小瀬川白望に全てを無に帰されてしまう。故に自分にただ降ろして主導権を任せるだけでは対抗できない。

 

(ならば……場を支配するまで……)

 

 そうして石戸霞は場全体を『恐ろしいもの』で支配する。他家の手牌、ツモ牌からある一色だけをこないように……つまり『絶一門(ツェーイーメン)』状態にさせ、相手に行かなくさせた一色を自分のツモ牌へと取り込む支配。それを行った。

 無論、その状態であれば相手に行かなくさせた色の牌は全て安全牌となるため、攻撃状態といえども、守備も圧倒的なものであった。そしてその上石戸霞の手は毎回混一色清一色の高火力。これを小瀬川白望はどう打ち崩そうとするのか。それが自分でも気になるほど興味深いものであった。




次回も鹿児島編です。
もう東風戦って事でいいような気もしてきました……だってまだ例の恒例回もやってないですし……

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