宮守の神域   作:銀一色

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鹿児島編です。
久々のお嬢。


第190話 鹿児島編 ⑯ 電話

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視点:小瀬川白望

 

「ここが姫様の寝室ですよー」

 

 初美に連れられて、私は小薪の寝室らしき部屋へとやってきた。まだ部屋の中には入っておらず襖しか見ていないが、横に並ぶ襖の数を見るだけでもその部屋がどれだけ広く、大きいものなのかを推測するにはそれほど難しいものではなかった。

 

「部屋に入ったら布団があると思うので、そこで寝かせてくださいねー?」

 

 そう言って初美は襖を開けて、私に入るように促す。初美が異様に部屋に入ろうとしなかった事に対し私は少し疑問に思ったが、恐らくそれも分家やら本家やらの関係があるのかなとか思い初美に聞いたところ、「いやあ……布団の中でぐっすりと寝る姫様を見ると多分眠気が襲ってくると思うんですよねー……そういえば宿題も残ってますし……」と私に言った。ああ成る程、そういう事かと私は思ったが、ここで自分の宿題もまだ残っている事を思い出す。まあ夏休み始まって直ぐに九州入りしたから終わっているわけがないのだが。

 

「宿題は"そういえば"で片付けてほしくないわね……?」

 

「か、霞ちゃん!?」

 

 すると後ろには霞が立っていた。いつの間に後ろにいたのかと一瞬驚きそうになるが、驚いて小薪を落とすわけにもいかないので、心の中で驚く事にした。

 そしていつまでも私に抱えられている状態で小薪を寝させ続けるのも悪いと思ったので、初美と霞がじゃれあっている内に私は寝室へ入り、そっと小薪を布団の中へ入れる。そうして改めて部屋の中を見ると、やはりと言っていいほど部屋は広く、寝室にするには些か勿体無いような気もしたが、まあこの建物自体馬鹿みたいに広いのでそういうのはあまり関係ないのかもしれないが。

 私は部屋の中を一通り見終わると、私は直ぐ様霞と初美がいるところまで戻る。

 

「もう今日は勘弁ですよー……」

 

「そうね……まあ今日は白望ちゃんがいるから仕方ないわね……」

 

 すると二人はそんな話をしていた。恐らく初美の宿題の事を言っているのだろうが、手さえつけてない私にとって初美は馬鹿にできるような存在ではない。むしろ、この短期間の内に手をつけている初美が凄いとしか思えなかった。私の場合この九州での旅が無くとも、どちらにせよ夏休み終盤にならないとやらないであろう。そう言った意味では、初美が優等生にしか見えなかった。

 そんな優等生こと初美は、霞から許しをもらえたため「やったですよー!」と言って喜んでいた。……こうして見ると、子供に許可を与える親のような構図に見えてくるのだが、それを言ったら少しダルいことになりそうな予感がしたため、何も言わずに黙っておいた。

 

「ただし、白望ちゃんが明日帰ったらちゃんとやること。分かったわね?」

 

(……うん?)

 

 ここで私は引っかかった。私が明日帰る?いや、私は智葉に事前に予約されてもらっているホテルがある。それなのに明日帰るという事は、また智葉にキャンセルしてくれるように頼まなくてはいけないということだ。北海道での一件がある以上、また智葉を怒らせるような事はしたくないのだが……

 そう思い私は霞に事情を説明したが、霞は「でも……霧島神境から出ようとするのも相当な時間がかかるし……困ったわね……」とわざとらしそうな声でいかにも困ってる感を出しているが、どう見てもそう思っていないということが見てとれるようにして分かる。そして白々しそうにしていた霞は、私に向かって「じゃあ……白望ちゃんの携帯を貸してくれるかしら?その智葉さんっていう人に私が頼んでみるわ」と言った。私は「仕方ないなあ……」と言って霞に智葉に電話をかけてから、霞へと渡す。この霧島神境で電話が繋がるのかなって一瞬思ったが、霞さんの「もしもし?」という声でその考えは杞憂であると知った。

 

「……ちょっと失礼するわね」

 

 そして少しほど恐らく智葉の話を聞いていた霞は、急にマイク部分に手を置き、私と初美に向かってそう言った。

 

「え、まあ……いいけど」

 

 そう言うと、霞は「直ぐに戻ってくるわ」と言って少しほど廊下の向こう側まで行き、電話の会話を再開した。私の隣にいる初美も、霞が何を考えているのか分からないようで、「一体何を考えているんだか……」と若干呆れ気味に霞を見て言う。

 

(……大丈夫かな)

 

 私は霞に対しても、智葉に対しても向けてそんな事を心の中で呟いた。

 

 

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視点:神の視点

 

 

『おい!お前!何者だ!?』

 

 

 小瀬川白望と薄墨初美と少し距離を置いて電話の会話を再開した石戸霞が最初に聞いた言葉はそれだった。辻垣内智葉はかなり取り乱している様子だが、石戸霞はあくまでも平常心で辻垣内智葉と話を続ける。

 

「あらあら、取り乱して……」

 

『うるさい!シロをどこへやった!?』

 

「別に……ちゃんと無事よ?」

 

 石戸霞はわざと何か裏があるような言い方をして、辻垣内智葉を弄ぶ。辻垣内智葉は石戸霞にドスを効かせた声で脅すようにしてこう言った。

 

『お前、シロに何かしてみろ。二度と日の目は拝めないと思え……』

 

 しかし石戸霞は動じずに、あくまで冷静に、弄ぶようにして辻垣内智葉にこう返す。

 

「大丈夫よ。安心して……ああそれと、白望ちゃんの予約しているホテル、キャンセルしてくれないかしら?」

 

『……は?』

 

「白望ちゃんを無理にホテルに行かせるのも悪いし……どこかで誰かに襲われちゃうかもしれないしね?」

 

『な、何言って……』

 

「まあ、よろしくお願いね。別に何かしようって訳じゃないから、安心して大丈夫よ?」

 

『ちょっと……ま』

 

 辻垣内智葉の返答を最後まで聞かずに、石戸霞は電話を切る。そうして半ば強制的に決めたというのにさも二人でしっかり話し合って決めてきたかのように小瀬川白望と薄墨初美に「キャンセル、やってくれるらしいわよ」と言って小瀬川白望に携帯電話を返す。

 

(まあ……少しくらい白望ちゃんと一緒にいても罰は当たらないわよね?)

 

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視点:辻垣内智葉

 

 

「クソッ!なんなんだあいつは!」

 

 私は珍しく(?)声を荒げて携帯電話をベッドに投げつける。投げられた携帯電話はベッドで跳ねる。それを聞いた黒服は部屋へと入り、私に向かって「お嬢、大丈夫ですか?」と言う。

 

「一体……鹿児島にいる黒服は何をやってる!?」

 

「それが……白望様が巫女姿の女五人組と出会って、そこから白望様が一緒に山に入ってから見失ったようで……」

 

 それを聞いた私は、「ハア……なんなんだ一体……」と言って少し私は巫女姿のシロを想像する。なかなか良いとは思ったが、直ぐにあの電話の野郎の事を思い出して、思わず壁を殴りつける。

 

(クソ……九州には白水がいるから大丈夫だと思ったのに……どうしてこんな……)

 

 やはりシロの誑し性は計り知れない。まるでシロの麻雀ように見当もつかないほどのものであった。




次回も鹿児島編。
智葉ちゃん可愛いよ智葉ちゃん。

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