宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。



第212話 東京編 ⑮ 垣間見た狂気

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視点:神の視点

東三局一本場 親:小瀬川白望 ドラ{二}

 

小瀬川白望 41300

黒服1   24000

戒能良子  10700

黒服2   24000

 

 

小瀬川白望:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {二横二二}

 

 

(……ここで来ますか)

 

 

 戒能良子がツモ切りで切ったドラの{二}を鳴き、小瀬川白望は{二}を晒して手牌から{北}を切る。戒能良子はそんな小瀬川白望の事を見て、小瀬川白望が早くも此方の状況を察知していると悟る。そして戒能良子は緊張感からか、額に汗を流しながら手牌へと目を倒す。

 

戒能良子:手牌

{①①東東南南南西北白白発発}

 

 

(……流石にここから役満まで持っていくには、かなりデフィカルトですかね……?)

 

 圧倒的配牌、とは言ったもののそれはあくまでも七対子として見たときに一向聴であり、役満も狙えるといったものだ。間違っても役満手が一向聴という意味ではない。戒能良子がここから役満まで持っていくには一度{西か北}をツモって七対子で聴牌し、それを蹴って{①}の対子を落としていくか、{西と北}以外の牌をツモって暗刻にしていくかの二択であり、かなり時間がかかるがわかる。時間がかかるとは言ってもこの配牌からであるため言うほど時間はかからないのだが、小瀬川白望が迫ってきている戒能良子からしてみれば一巡一巡が命取りなのである。よって、役満に持っていくことは相当のリスクを背負わなければ行けないのだ。ましてや、あの小瀬川白望が相手なのだ。寸分の差も小瀬川白望からしてみれば一発逆転のチャンスとする値千金に成り得るのだ。油断することはできない。

 そもそも、まず戒能良子が仮に七対子で妥協したとしても小瀬川白望が先に和了るという可能性もあるかもしれない。どんなに配牌が良くなろうが、結局は大ピンチには変わりなかった。

 

「……ポン!」

 

 

小瀬川白望:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏} {一一横一} {二横二二}

 

(な……ッ!?)

 

 

 そうして戒能良子が緊張の第二ツモをツモろうとした瞬間、小瀬川白望が再び牌を二枚晒す。小瀬川白望がまるで戒能良子がツモろうとする瞬間を狙ってきているかのような鳴き。一瞬の出来事であったが、戒能良子の心を揺れ動かすには十分すぎたものであった。

 

小瀬川白望

打{④}

 

 

 そして小瀬川白望は手牌から{④}を河へ放つ。そしてまた黒服のツモ番となり、黒服がツモ切りをする。またもや鳴いてくるんじゃないのかと少し警戒しながら戒能良子はツモを行おうとするが、戒能良子がツモ牌を掴んでも小瀬川白望は動こうとはしなかったため、流石に三連続で鳴きはなかったようだ。

 

(……!!)

 

戒能良子:手牌

{①①東東南南南西北白白発発}

ツモ{西}

 

 小瀬川白望に調子を狂わされた戒能良子であったが、ツモってきた牌はまさかの{西}。これで戒能良子は七対子を聴牌することができ、それと同時に役満を狙うルートでも一歩前進することができた。そしてここからが戒能良子を迷わせる問題であった。

 

(……ここは行くべきか、否か)

 

 無論、ここで役満を狙いに行くのも全然良いだろう。しかし、それはあくまでも通常の場合であり、目の前にいる敵を見ればその通常の場合が適用されないのは一目瞭然である。ここは小瀬川白望の親を蹴るのを優先させれば、ここは七対子で手堅く和了っていくのが常道であろう。

 が、しかし。それでも戒能良子はこの手を跳満倍満程度の小火で済ましたくないと思った。当然ながら、確実に和了れるという保証はない。しかし、それでも尚……戒能良子には{南}を切ることはできなかった。この手を捨ててしまえば、もう一生小瀬川白望を追い詰めることはできない。そんな気がしてならなかった。

 

(……これが勝負師としての"二流"、ですか)

 

 ここで戒能良子は、小瀬川白望が自分に言った言葉を思い出す。初めて言われた、二流という評価。それを最初に言われた時は流石に腹が立ったし、すぐに見返してやろうとも思ったが、今思うと二流と評価されても仕方のないことである。ここ一番というところで、決断する事ができず、自分と理に揺れ動かされている。確かに勝負師としてじゃ二流以下であった。

 

(……勝負に行かせてもらいます)

 

 二流と言われた戒能良子が、ここで決断を下そうとする。{①}を持ち、河へと置こうとする。そして{①}が河へと接触しかけたその時、ふと戒能良子は小瀬川白望の事を見た。

 

 

(……!?)

 

 小瀬川白望と目があった瞬間、悪寒が走る。戒能良子の本能が、河へと置こうとする{①}を止め、自分の手元へと戻した。戒能良子は恐る恐る{①}へ目を落とし、謎の悪寒に鳥肌を立たせていた。

 

(いったい何が……?)

 

 威嚇、とでもいうのだろうか。しかし、どう足掻いてもその言葉では表しきれないほどの恐ろしいものを戒能良子は垣間見たような気がした。

 まるで、この世の狂気、悪鬼を一遍に見させられたかのような悪寒。何が何だかわからないが、戒能良子はこの{①}を切れば死ぬ。そんな感じがした。

 

(ホワイ……?例えこれを切っても、彼女は萬子の染め手では……ッ!)

 

 そこまで考えて、戒能良子は気付く。絶対に当たらないと思われていたはずの{①}。これはよくよく考えれば当たる可能性は十分にあった。

 

(対々和や三色同刻、果てには役牌の中……そしてどれのパターンでも、私が振り込んでしまえばそれで終わり……ゲームセット……!)

 

 言わば、これは戒能良子が見た幻覚。小瀬川白望は何もしていないし、ただ戒能良子の事を見ていただけだ。しかし、その何も感じていない不気味さ、そして戒能良子の中で肥大化し続けた小瀬川白望が呼んだもの。どう考えても無謀な作戦ではあるが、小瀬川白望はそれを狙っていたのであった。これで戒能良子の心は揺れ動き、怯んだように{南}を切り捨てる。本来なら、これだけでも十分すぎる結果であったが、小瀬川白望はそれだけに留まらない。ここからが本当の追撃であった。

 

 




次回も東京編です。

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