宮守の神域   作:銀一色

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長野編です。
我らが部長、久登場。


第242話 長野編 ① 野球

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「おはよう!白望さん。久し振りね……久なだけに!」

 

「おはよ……久」

 

 

 東京での一件から1年ほど過ぎ、中学三年生の冬休みに突入した小瀬川白望は、受験生であるというのにあいも変わらず武者修行へと旅立っていた。今回最初に来たのは長野県。長野県といえば小瀬川白望が三年前に全国大会で一回戦で当たった上埜久がいる県である。そして小瀬川白望が長野県に到着するなり、上埜久は大して面白くもない自虐的な駄洒落を小瀬川白望にぶつけるも、小瀬川白望は呆れたような目線で上埜久の事を見て、冷静に挨拶を返す。

 

「何よ、私が自分の名前を使った渾身の駄洒落をスルーする気?」

 

「別に……それに今のも面白くない」

 

 そう小瀬川白望に言われて、上埜久は「あ、気づいた?」とニヤけながら小瀬川白望に返す。小瀬川白望は朝っぱらから謎のハイテンションな上埜久との温度差を感じ、早速心の中で(どうしたんだろ……久、凄くダルい……)と呟く。

 そして一方の上埜久は、そんな小瀬川白望を見て心の中でこんな事を考えていた。

 

(三年振りとはいえ、ちょっと飛ばし過ぎちゃったかしらね……全く、白望さんに若干引かれちゃったかしら……相変わらず悪待ちの癖は治らないわね……本当に)

 

 そう言って自虐的に自分の事を笑うが、上埜久は気持ちを切り替えて小瀬川白望にこう言った。

 

「まあ……冗談は置いといて、今から何する?白望さん」

 

「冗談に聞こえなかったけど……まあいいや。久が決めてよ」

 

 それを聞いた上埜久が「あら、それでいいの?」と聞き返す。小瀬川白望は一瞬自分の軽率な発言に後悔したが、もう時すでに遅し。上埜久は小瀬川白望の上でを掴むと、小瀬川白望を引っ張りながら走り始める。小瀬川白望は「一体何するの……」と聞くと、上埜久は笑ってこう言った。

 

「それは……もちろんこのいい天気ならやる事は決まってるわ!」

 

「……野球をするわよ!」

 

 それを聞いた小瀬川白望は目を見開いて「野球……?」と思わず聞き返してしまう。上埜久は「そうよ。野球……まあ、2人しかいないからキャッチボールしかできないけどね」と小瀬川白望に向かって言うが、小瀬川白望はまだ信じられないような声色で「冬なのに……野球?」と言うが、上埜久は聞く耳を持たず「子供は風の子、って言うでしょ。大丈夫よ。大丈夫」と小瀬川白望を強引に説得する。

 そうして上埜久の家までついた小瀬川白望は、上埜久が家の中にあるというグローブと野球ボールを見つけてくるまで玄関の中で待機していた。玄関の時点で既に外よりも暖かいため、小瀬川白望は是が非でも家から出たくはなかったのだが、その願望は上埜久によってあっさりと打ち砕かれる。そうして、小瀬川白望は寒い寒い冬の朝から、河川敷のようなところまで連れてこられた。

 

 

「じゃあ、行くわよ」

 

 そう言ってグローブを嵌めた上埜久は、渋々グローブを装着した小瀬川白望に向かって言う。小瀬川白望が「オーケー……」とあまりやる気が感じられない返答をすると、上埜久はとりあえず初級ということで、加減してボールを小瀬川白望に向かって投げる。対する小瀬川白望は一歩横に動いてグローブを上埜久が投げたボールに合わせて取る。

 

(……投げる動作からして加減してるんだろうけど……かなり速いなあ)

 

 野球完全素人の小瀬川白望からしてみれば、さっきのボールでも十分速いと感じるほどの速さであった。小瀬川白望はこれより速くなるのかと心の中で溜息をつき、小瀬川白望も八分くらいの力で上埜久に向かって投げる。

 

(ちょ……速っ!?)

 

 小瀬川白望が投げたボールはさっき上埜久が投げたボールよりも速く、投げた本人でさえも驚いていた。小瀬川白望は自分でも分からないほど強肩であったらしい。上埜久は驚きながらもなんとかボールを取る。そうして上埜久はかなり焦っていた。

 

(まずいわね……野球なら私の凄いところを見せて白望さんの気を引ける、っていう作戦だったのに……肝心の白望さんがまさかあんなにも運動ができるなんて……)

 

 ずいぶん前に小瀬川白望は園城寺怜の要望でバドミントンをした(実際は江口セーラとやった)のだが、そこでも小瀬川白望は驚くべき隠れた才能……運動神経を発揮して江口セーラとほぼ互角の勝負になるほどであった。そしてその運動神経はどうやら、ピッチングでも遺憾なく発揮できるようだ。

 

(ちょっと……嫉妬しちゃうわね)

 

 そうして上埜久はさっきは軽いいかにもキャッチボールのような投げ方だったのに対し、今度は思いっきり振りかぶった。小瀬川白望もそれに気付き、さっきより速いボールが来ると察知して構える。

 

(これが本気……ッ!?)

 

 そうして本気で投げたボールであったが、ボールは小瀬川白望の頭上を大きく超えて弧を描いて飛んで行った。小瀬川白望は思わず後ろに振り向いてしまう。そしてそのボールは遠くへ飛んで行った。

 

「あはは……ごめんなさいね」

 

 そうして上埜久が両手を合わせると、小瀬川白望は一つ息を吐いて「じゃあ……取りに行こっか」と上埜久に向かって言う。上埜久は小瀬川白望の腕を抱き、「じゃあ、行きましょうか。白望さん」と言った。

 そして小瀬川白望は、そんな上埜久を見てこう思ったそう。

 

(やっぱり、今日の久はおかしい……凄くダルい……)




若干久のキャラが崩壊している……かも?
次回も長野編。

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