宮守の神域   作:銀一色

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長野編です。
ちょっと今回あまり笑えない感じの部分があるので、そういうのが苦手でしたらブラウザバックでお願いします……


第244話 長野編 ③ 竹井

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視点:神の視点

 

 

 

「……よし」

 

 小瀬川白望が須賀京太郎の替えの服を買い終えると、小瀬川白望は上埜久に一度電話をかけてから須賀京太郎と上埜久の元へと向かった。

 

(……本当にこんなんでいいのかな。まあ私から言わせて貰えば一時的にずぶ濡れの状態をしのげればいいんだろうけど、須賀君……だったっけ、あの子がそう思ってるとは限らなけど……他人の拘りとかは分からないからなあ……)

 

 そう小瀬川白望は言っていたが、なんだかんだ言って先ほどまで悩みに悩んでいたという事をここで伝えておきたい。流石小瀬川白望といったところではあるが、小瀬川白望は買った服が入ってある袋を見ながら少し恥ずかしそうに心の中で呟いた。

 

(それに、男物の下着まで買っちゃったし……余計な事に気付かなきゃ良かった……そうじゃなきゃこんなダルい思いしなくて良かったのになあ……私のバカ……)

 

 しかし気付いてしまったのだから仕方のないことであろう。ズボンが濡れていて、その下の衣服が濡れていないわけがないのだ。気付いてしまうのも無理はないことだ。

 そして何より小瀬川白望が気になったのは他人からの目線であった。女子中学生が、男物の服や下着を取り扱うスペースで買い物をするなど、どう考えていてもおかしい話であった。店員からも変な目で見られてしまったため、今後は本気で思いつきでは行動してはいけないと肝に命じた小瀬川白望であった。

 

「ただいま……いや……お邪魔します、か」

 

 そうして小瀬川白望が歩くこと数分、ようやく見覚えのある家を見つけた小瀬川白望はインターホンを鳴らす前に玄関の扉を開けて入る。小瀬川白望は記憶力でも常軌を逸した才能があるようで、上埜久の家までの経路をさっきので全て覚えてしまっていた。そして確認もせずに堂々と入る様は、自分の記憶力に対しての自信の表れという事なのであろう。

 

「おー、お疲れ様。白望さん」

 

「思ったよりもダルかった……」

 

「はは、白望さんらしいセリフだわ」

 

「ああ、それと……はい、須賀君」

 

 小瀬川白望がそう言って須賀京太郎の目の前に買ってきた服が入っている袋を置く。すると須賀京太郎は「ありがとうございます……!大切にします!」と思い切って言ったところでふとさっきの上埜久を思い出してしまい、恐る恐る上埜久の方を見るが、上埜久はニコニコしながら須賀京太郎の事を見ていた。そこで須賀京太郎は後で絶対殺されるという事を悟り、血の気が引くがそれを誤魔化すようにして「じゃ、じゃあ着替えてきます!」と言って須賀京太郎はある一室へと駆けていった。小瀬川白望はそんな須賀京太郎の事を不思議そうに思いながらも、上埜久にリビングへ連れて行かれる。そうして小瀬川白望が椅子へ腰掛けると、ふと小瀬川白望はこんな事を上埜久に聞いた。

 

「そういえば……受験、大丈夫なの?久」

 

 そう、高校受験という人生の節目を迎える受験生にとってはある意味禁句の言葉である。小瀬川白望は、こうして自分が来ても良いと言ったり、さっきもキャッチボールをするほどの余裕はどこから来ているのかと気になっていたのだ。上埜久は目線を逸らしながらも、小瀬川白望の問いかけに対してこう答える。

 

「うっ……痛いところついてくるわね……っていうか、そう言う白望さんはどうなのよ!」

 

「流石に大丈夫じゃなかったら普通長野まで来ないよ……まあ、大丈夫じゃなくても来てたかもしれないけどね……」

 

「これだから天才は……」

 

 上埜久は若干の不満を漏らすが、小瀬川白望はそれに「まあ……そんなに頭良いところじゃないし……」と付け足す。しかし、小瀬川白望の余裕そうな感じはそれだけではないようにも思える。しかもそれは事実で、定期考査の時も勉強は殆どしてこなかった。したと言ってもそれはただ家に帰って教科書を眺めるだけ。それで高得点を叩き出しているのだからやはり天才には変わらないのだろう。

 

「なに……久はトップ校とかでも狙ってるの?」

 

 そう小瀬川白望が言うと、上埜久は「そういうわけじゃないけど……心配なのよね。ちゃんと理解できてるのか、当日ヘマしないか……とかさ。だから今回のも単なる息抜きよ」と返す。そうしてこの話は終わりとなり、小瀬川白望が他の話題へと移行させる。

 

「そういえば、麻雀とかは久は続けてるの?」

 

「……ええ、まあ、ね」

 

 小瀬川白望の問いかけに、上埜久が口を濁らせて答える。小瀬川白望はそれを聞いて瞬時に何かあったのだろうという事を推測し、即座に「……言いたくなければ、何も言わなくていいよ」と言う。しかし上埜久は「いや、いいわ。いつかは言わなくちゃならないと思ってたしね……」と返した。

 

「実はね……今年、麻雀の大会に出たのよ」

 

「……うん」

 

「そこで、まあ普通に勝ち進んでたんだけど……その途中で父親の方がね……事故に遭って……」

 

「……」

 

 悲しそうな表情で話し続ける上埜久。しかし、さっきは言わなくてはならないとは言っていたが、その肩は震えている。やはりあまり言いたくはないという事がひしひしと小瀬川白望に伝わってきた。しかし、小瀬川白望は止めようとはしない。上埜久が自分を信頼して話している。そしてそれと同時に乗り越えようとしている。震えてはいるが、その覚悟はしっかりとできているのだ。だから小瀬川白望にできることは、その覚悟を見届けることであった。

 

「それで、私は途中棄権して病院に行ったけど……間に合わなくて……」

 

「……だから、私の名字は『上埜』じゃなくて『竹井』なのよね、今は……だって、前の名字じゃあ……忘れたくても忘れられないもの……はは……」

 

「……おいで、久」

 

 そう苦し紛れに笑う上埜……いや、竹井久は小瀬川白望に言われて小瀬川白望の元へと向かうと、小瀬川白望に抱きつくようにして涙を流した。

 

「……頑張った。久は頑張ったよ……」

 

「うう……ごめんね……カッコ悪いところ見せちゃって……」

 

「そんな事ない。久は強いよ……人は忘れる事で強くなれる。……確かにそうかもしれない。でも……乗り越える事の方は私は強い人間だと思う……逃げずに、立ち向かったんだから……久もそうでしょ?さっき忘れたくても忘れられないって言ってたけど……大丈夫。ちゃんと乗り越えられてる」

 

「……ありがとう。白望さん……」

 

 

 そう言って竹井久は小瀬川白望に長い間抱きついていた。そうして、そんな会話をリビングの扉の前で聞いていた須賀京太郎は、申し訳ないような感情になりながらこんな事を考えいていた。

 

(竹井さんにそんな過去があったなんて……)

 

(……今はまだ出るべきじゃないな)

 

 そうして須賀京太郎がリビングに入ったのは、竹井久の様子が落ち着いてからであった。須賀京太郎なりに気を遣ったのだろうか、決してこのまま入ろうとは思えなかった。




次回も長野編です。
しかしこうなってくるとキャプテンの『上埜さん』呼びが結構畜生みたいな感じになってしまうかも……
まあ、久がそこのところは乗り越えたという事で……(震え声)
実際のところ、久に(というか上埜家に)何があったんでしょうかね……途中棄権も含めて……私の陳腐な考えではこれくらいしか思いつきませんでしたが。

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